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第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第20記
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――――――『お前らは只の巨大なシミュレーター訓練場だと思っているんだろうが、ここの特徴は『発現現象』をシミュレータに対応させたこと。
我々が普段、訓練で使うシミュレータが・・一般的、とは決して言えないが、『EAU』のアレを凌ぐほどの高性能なモノだ。
このシミュレータでは現実のように発現ができる拡張がなされている。
あの窓からも景色が見えるだろう?
まだ再成中のようだが。
今回の仮想戦場は公平を期すために人工知能によって適当候補の中から無作為生成している。
私たちはこのロビースペースで観戦できる。
さっきあの窓から見えると言ったが、勧めはしないな。
複数個モニタでなけりゃ、よく見えないだろうから。
実を言えばこの壁面全体にも同調投映できるんだが。
そうだな。
楽しそうだ。
やってみようか?
これらもAIでコントロールされている。
迫力あるカメラがけっこう面白いんだ』―――――――
――――――頭の上から聞こえてくる、そのスピーカーの声を耳に入れながら、ミリアは備え付けのベンチの上で。
その膝を折り曲げて抱え込むようにその『疑似銃』の確認をしていた。
とりあえず、さっきまで自分たちがいたロビースペースが観覧席になるらしく。
しかも、あっちはあっちで楽しんでいるような雰囲気が伝わってきてる。
えっと、それよりも。
この『疑似銃』は、外見が『本物《ジェス・オ・ウィル》』と全く同じ機構のそれで、実弾を用いないRAS用の機具だ。
周りのスタッフの彼らがその辺りのストックの棚を開いて、いくつかの荷物を運んできたのはついさっきで。
この装備一式を、他のチームも受け取っているようだ。
彼らも、同じようにこの部屋へ案内されてきているらしい。
この部屋はかなり広い。
一度見まわすだけで機械的なものだらけとわかる。
よく見れば、いくつかの大がかりな機材ごとに区切られていて、合理的にいろいろ配置されているようだ。
ちなみに、さっき着替えをしていたロッカールームからは、すぐ隣のドアでつながっていた。
ここでは同じような機械の設備がいくつも並んでいたり、工場のような雰囲気がある。
それは、ミリアもなんとなく知っている空気だ。
機械油の臭いも残る、ガレージ倉庫のような、武器庫のような空間。
けれど、まだ綺麗な新しい機械が多くて、それらが何に使われる物なのか、初めて通りがかるたびにキョロキョロと金属の物体を、ちょっと好奇心に、不思議に覗いていたけれど。
そうやって歩いているうちに、予め決められていたらしいそのコーナーのベンチに案内されて座らされた。
今も、ミリアがまた見回すと、周りのスタッフの人たちは機械の支度を始めている。
本当に大掛かりで、1つのチームに数人のメカニックチームが担当するようで、いくつかの機械を持ち出す周りでも別の人たちたくさん動いている。
「何が始まるんだろうな?」
ガイがそこで立っていて、ちょっと、わくわくしているようだ。
ふむ。
ただシミュレータ訓練をやるだけじゃなさそうなのは、みんな既に感じ取っていると思う。
見ているだけだと、何かの機械、人型、装甲のようなものも・・・。
「・・・」
そんな視界の端に入る、ケイジも腕組みしながら立っていて、辺りをちょっと怪訝そうに見まわしている。
知らない場所に来て落ち着かない、まるで小動物、というわけじゃないだろうけど。
対照的に、リースはケイジの傍のベンチに座っていて。
相変わらず、周囲《しゅうい》には特に興味なさそうにまだ眠そうに目をしぱしぱさせていた。
リースは緊張したりしないのか、やっぱり、いつも通りだ。
「パっとやって終わりじゃねぇのか?これ、・・・」
そんな事を一人愚痴ってるケイジは、まあ、いつもの、ただの『めんどくさがり』が発動しているだけだろう。
さっきも私が手を上げた時、参加するって言った後も一番ブーブー言ってたし。
って、ふと、こっちを見たケイジと目が合った。
ケイジが片眉を上げて、難しい顔をわざとしてきたみたい、なので。
「まだ言ってる、」
ミリアは肩をすくめて、やれやれと言わんばかりに、というか、はっきり言ったけど。
ケイジは、口をひきつらせたように笑って、というか、余計に眉を捻らせたので、まあまあイラっとしたみたいだ。
そんな・・・、・・ふと、顔を向けたミリアは。
横顔はその向こうで、なにか違和感を・・・。
・・なにかを話し合うような、向こうがちょっとばかり、メカニックの音とかじゃなく、別の声が聞こえるような気がして。
スタッフの彼らがちらほら、向こうを気にしているようなのも。
ガイがこっちを少し振り返って、目が合った。
そしたら、小さく肩をすくめるような仕草をしてきたのは、ガイは既に気づいていたのかもしれない。
なので、とりあえず。
ミリアは立ち上がった。
気になったので。
歩き出すミリアは。
向こうを見ていたケイジも、こっちに気が付いてるようで。
「やるからにはやろうぜ、」
って、ガイが笑いながら、ちょっと遅れてケイジにさっきのフォローの声を掛けてたけれど。
ケイジは、・・歩き出す私とガイを見てたみたいだけど。
リースとちょっと目を合わせたら。
そしたら、軽い溜息を吐いて、めんどくさそうに後ろをついてきた。
―――――向こうの様子が見えるところまで、ミリアが足を止めたその場所からの景色は、メカニックが作業をする各自のスペースが存分にある。
そして、その中央、この大部屋の中央の辺りに、少し大きめのテーブルが置いてある。
周りでは、『誰か』が少しばかり声を荒げた会話をしているのか、何を言っているのかは聞こえないけれど。
ただ、『誰か?』というか、それは参加する同じチームのメンバーのようだった。
スタッフの人たちの目も集め始めている中で、少しヒートアップしてきているのか。
「・・・あいつらなにやってんだ・・?」
ふと耳に入って気が付いた、ミリアは、通りかかったそこで作業していたメカニックらしい彼かが、遠巻きにそう、つぶやいたようなのを見つけた。
そしたら、たぶん、こっちに気が付いた彼が、ちょっと顔を逸らしたけれど・・――――――
―――――な~にやってんだあいつら・・?」
急に、今度は傍で、自分の後ろを追い越す誰かがいて。
ミリアが振り返った、その横顔、『Class - C』の彼が。
ニヤついているような、眉を顰めているような、一瞬だったからか微妙な表情が近くに見えた。
「なんだあいつら、意外とやる気じゃんかー」
『C』の仲間の彼らも、声を掛けられ歩き向かっている――――――自分を次々と追い越していく――――その次の、黒い鋭い目と一瞬、目が合った――――――すれ違いざまに、・・・ディーと名乗っていた彼と・・・その目が、不機嫌そうな・・・どこかで見た事があるような――――――
―――――その彼の目が、私と確実に合ったけれど―――――彼は、通り過ぎていった。
――――同じように、眼鏡をかけた彼、たしか、オルビ・マイヤーも。
―――俯き気味な、目の下にクマがある彼の眼の光も。
「ミモ、勝手に行くな・・・」
―――――ミモと呼ばれてた彼、ミリュモ・ル・サラマンも。
彼らが、先頭のミモと呼ばれた彼を追いかけるように傍を通って行った。
瞬間に見れた彼らの横顔と、すれ違う目と。
さっきは遠くてよく見えはしなかったから。
こちらを見る目とが合っても、彼らがなにか反応する感じでは無かった。
彼らは、アイフェリアさんたちと最初に・・、ケンカ腰というか、やりあっていた人たちで。
さっき、私たちの参加にも、文句をアイフェリアさんたちへ少し言っていたようだった。
でも、今はこちらに言うことが無いようだ。
その一瞥する目が、こちらを少し注意するような感じもあった気がするけれど。
「お、よろしくなー」
って、前のガイが遅れて気が付いて、彼らの横顔へ挨拶してた、けど。
「・・・・、」
再度こちらを一瞥した彼らは、特に何も言わず。
むしろ、ちょっと舌打ちが聞こえた気がしないでもない。
それはでも、気のせいかもしれなくもない、たぶん。
わからないけど。
まあ、どちらにせよ、やっぱり、快くは思われてないのかもしれない。
「なんだあいつら、」
こっちへ来ていたケイジが、ちょっとイラっとした様だったけれど。
「気が立ってるんだろ、」
ガイは、簡単に受け流してる。
そして、隣のリースは、眠そうなのはさっきからだ。
まあ、何も言わないよりは、挨拶でもして、打ち解けられた方が良いとは思う。
普通ならば。
そんなことを考えつつ、ミリアもみんなが先へ行く後ろを追って歩き出した。
向かう場所はきっと同じだ。
前にいる味方チームの彼らの所へ、それは部屋の中央だから、スタッフや作業をしている人たちは、ちらりとこっちを見たりで。
さっきからちょっとばかり強い話し合いをしている彼らの様子へ、手を止めて気になっているみたいだ。
そこの中央は情報共有のためのスペースなのか、テーブルや一体型のディスプレイらしき設計がされている。
それらをミリアは――――――
―――――なにが言いたいんだ?」
ちょっと苛立ちの感じる声と。
「俺?ちゃんと言ってんだけどなぁ?」
とぼけている様な声と。
「まじめにちゃんと言ってほしい」
「俺だって、まじめだぜ?やー、誤解されやすいんだよなぁ、俺って。なんでだろな?」
それらに目を戻したミリアで、雰囲気的に、やっぱり、既に彼らは揉めているようだった。
「元々そんな顔してるもんな、」
「イケメンすぎるってか?」
「それっ、そういうとこぉ、」
「んっはっは、」
「・・・」
「あれ?これもダメ?」
自分とみんな、同じようなスポーツウェアのようなものに着替えてある彼らの中で、悪ふざけ、ってわけでもないかもしれないけど。
おどけてるような、まじめなような、つかみどころがないような、彼らの中心となって話しているのは、たしか、『デンジャラ・アズミック』と名乗っていた彼だ。
「ロアジュ、あいつらもわざとじゃないってバよ」
「・・・」
ちょっと呆れてるのか、口を閉じて彼を見ているのは、ロアジュで。
「大丈夫だって、俺もチームリーダー任されてっからさ、それなりにやれる方だってさ、」
そう『デンジャラ・アズミック』は言っていた。
「じゃあわかるだろ?チームとチームを誰かがまとめて・・・」
周りにも彼らの仲間が集まってきているようだけど、話しているのはチーム全体の方向性みたいだ。
「つうか勝ちたいんだろ?じゃあ、そりゃ、ムリ。」
「・・・」
はっきり言う彼、『デンジャラ・アズミック』に、ロアジュは口を閉じて黙って見ていて、ちょっとまたイラっとしたみたいだ。
「さっきからそれだけどよ、勝てねぇってーの?」
その横から言った彼は、たしか、ラッドだ。
「いや?別にバラバラでいいじゃんか、どうせ、」
気楽そうに答える『デンジャラ・アズミック』は。
「ほんとかなあ?」
怪しんでるのは、ニール。
「リーダーを決めろなんて言われてないだろ?」
「言われたことしかできないヤツにこんな仕事は務まらないんだよ、」
「おー、いいこと言うな。俺もそう思うよ。コーチから言われたん?」
「・・・時間が無いんだよ、クイズ出し合ってる場合じゃないんだ、」
「だからはっきり言ってるじゃんか、無理なものはムリって」
「お、よく見たらカワいい」
「名前なんてーの?」
「む・・・」
ロアジュの後ろでラッドたちと少し話していた女の人が、そう見られてちょっと警戒したようで、フィジーだっけ、ロアジュたちのチームの1人だ。
「おい、やめろよ、」
「えー、なんでだよ?」
「ナンパじゃないぜ?」
「え、マジ?心外だなっ」
「な?わかるだろ?お互いの名前も知らないのにな?」
デンジャラ・アズミックは、愛嬌のあるちょっとの笑みに当然だろ?と言わんばかりに言ってた。
まあ、彼の言いたいことはなんだかわかる気はする。
そして、こちらにふと気が付いたようだ。
「お?お前らも来たんか、」
こっちは、少し距離を取って様子を見ていたから。
「・・『C』の、と・・・」
彼らが気が付く、こちらへ向ける目と一緒に、私たちも見られた。
「『A』の・・」
少し、異なるような視線、というのは考え過ぎかもしれないけれど。
「よー、ケイジ。来てたのか、」
「あぁ・・?」
「なんだよ、ひでぇな、」
って、不機嫌そうなケイジは、ラッドたちとも友達みたいだ。
「で、君らは何を揉めてるんだ?いま、」
オルビ・マイヤーが、そう。
「ちょうどいいや、お前らもどう思う?こいつが、リーダーを決めた方が良いってさ。」
デンジャラ・アズミックは大きな声を出して、その場にいるみんなへ。
「意見をとりまとめた方がいいだろ?全員呼んだ方がいいか?手が空いてそうなら向こうのやつも呼んできてくれよ、」
「なにかするのは勝手だが、こっちに迷惑かけんなよ、」
「迷惑ってなんだ?」
「あぁ・・?」
「待てって、何しに来たんだよ?」
「別に。俺たちの邪魔をしないでくれ、とだけ言っておく」
って。
「ぁあん?」
「はぁ、それだけ言いに来たのか?」
「感じわりーな~、」
「あぁ?」
ちょっとお互いに、睨み合うような彼らは、まあ。
「ミモ。」
「ぁあん?」
「必要以上に構わないでくれ、」
仲良くする気は、そんなに無いみたいだ。
「・・めんどくさ・・」
その小さな声も『C』の彼らの方から聞こえたが。
「話す必要は無い。俺らに指図しなければそれでいい」
もしかしなくても、仲良し、でもないみたいだし。
「待てって。」
って、デンジャラ・アズミックが、そう。
「いや言いたいことはわかんぜ?でもな、付け焼き刃になったらいいことなんか無いんぜ?そういうのめんどくせぇから、好きにやりゃあいいんぜ?っていう俺の提案。なぁ?」
「俺はどっちでもいいよ、」
「俺も。」
「マジかよ、」
仲間の彼らが味方でもないことに、ちょっと驚いたみたいだけど。
――――――ふと、ロアジュがこっちを見ていて、目が合った。
「・・・」
「・・・?」
ロアジュと、ミリアの目が合って。
彼は、少しこっちをじっと見てきていたけれど・・・。
「・・ん・・・?」
――――――「マテまて、こう言ったら誰にでも伝わるって言い方があるんだよな。
理由は4つ、くらい。
1つ目。
『即席』、で集められたって連携ができない。
『EAU』の戦術が頭に入ってなさそうなやつらもいるかもしんない。
マニュアルの確認なんか今更できないだろ?即席チームってそんなもん。
下手な連携がもっとヤバい。
自由にやってみてから考えても悪くはない。
2つ目。
こんな短い時間でチームをまとめるって?
ムリムリむり、お前ら、俺の言うこと聞く?
俺はお前らの言うこと聞けないぜ?
信用ねぇもん。
あ、誤解があるかもしんないな?
お前らが悪い人間とかってわけじゃないぜ??
協力して結果が良くなるってのかがまだわからんって。
だからさ、まぐれでも勝ちたいってんなら、慣れてるチームでバラバラにやった方が勝率高いだろ、ってことよ。
それも立派な戦術だろ?
どう思うよ?」
デンジャラ・アズミックは、そう。
「『3つ目』は?」
「『4つ』って言ったのは言い過ぎた、」
てへっ、と笑うような彼はまあ、正直者みたいだ。
「それでも全体のまとめ役がいた方が・・、」
「マジかよ、いるか?なぁ?セイガ?」
「・・・・」
「セイガは俺の味方だな、」
「なんも言ってないってよ、」
「まじめにやれってよ、」
「うそぉん、」
チームの方向性は、決まらないみたいだ。
―――――「・・勝ちたくないってわけじゃないんだな?」
「そういうこと。チームをまとめるのが、必ずしも勝つとか負けるの話じゃあないんだよなぁ。」
彼らの話が、また熱くなり始めているようだ。
「もう話し合いしてんのか?」
そう、横からの声も、また。
「よおー、お前らのチームは上手くやれそうか?」
「大丈夫だ。俺がリーダーをやることになった。」
そう言ってこちらを一瞥する彼は、少し貫録を感じると言うか、周りの人たちよりも少し年上なのかもしれない。
いま来た彼らは最後に作られたチームで、即席に、余った人たちで組んで、『C』の女の子2人も入ったチームだ。
これで、今ここにいる全員が26人のはず、同じチームの人たちだ。
ちなみに、ガーニィたちのチームは視界の端で、ちょっと離れているところでこっちの話をのぞき見しているみたい、なのがたまに目に入る。
「で、全体の話はどうなってるんだ?」
「それがさ、俺ら名前も知らんし、趣味も知らんしどうしよう?ってなってて、」
「ん?趣味?」
「さっき名乗ったろ」
「全員なんかすぐ覚えられるかってんだよ、」
「なんでそんな話になってる・・?」
「先ずは自己紹介からか?俺らからいくか?ハジメマシテ、『Class - B』の『デンジャラ・アズミック』でっス。可愛わいぃ『デン』って呼んでくれ。期待の新人っておだてられて数か月、今日はヤバいところに来ちゃったみたい。お前らがいうところの外部組デス。スカウトされた時はもうドキドキの、新人らしくフレッシュな―――――」
―――――『準備は、できてるかい?』
その空間に声が、行き渡る・・女性の声・・モニタか。
「―――――・・あん?」
ブリーフィングの大きめのモニタに、いつの間にか映っていた――――アイフェリアさんの顔が・・・あって。
『みんな揃っている・・?準備は?できてるのかい?』
あちらも、こちらが見えているみたいだ。
「映像通信です、」
近くのスタッフの人が教えてくれた、ようで。
『・・あ、映っているか』
それより、みんなちょっと驚いたからか、誰も声を発していなかったから。
「ぁ、はい、」
気が付いたミリアが、返事をする―――――のとほぼ同時に。
「ぉ、うっす・・っ、」
「はい、」
みんなもちょっと解けたように、静かに慌てたように向き直っていた。
そこには向こうのチームの、隊長格であるアイフェリアさんが、正面に映っていたから。
そう、ドキっとしていたのか――――――対峙して、立つ、そんな気持ちは全く準備できてなくて――――――急に目の前にいたから――――――
我々が普段、訓練で使うシミュレータが・・一般的、とは決して言えないが、『EAU』のアレを凌ぐほどの高性能なモノだ。
このシミュレータでは現実のように発現ができる拡張がなされている。
あの窓からも景色が見えるだろう?
まだ再成中のようだが。
今回の仮想戦場は公平を期すために人工知能によって適当候補の中から無作為生成している。
私たちはこのロビースペースで観戦できる。
さっきあの窓から見えると言ったが、勧めはしないな。
複数個モニタでなけりゃ、よく見えないだろうから。
実を言えばこの壁面全体にも同調投映できるんだが。
そうだな。
楽しそうだ。
やってみようか?
これらもAIでコントロールされている。
迫力あるカメラがけっこう面白いんだ』―――――――
――――――頭の上から聞こえてくる、そのスピーカーの声を耳に入れながら、ミリアは備え付けのベンチの上で。
その膝を折り曲げて抱え込むようにその『疑似銃』の確認をしていた。
とりあえず、さっきまで自分たちがいたロビースペースが観覧席になるらしく。
しかも、あっちはあっちで楽しんでいるような雰囲気が伝わってきてる。
えっと、それよりも。
この『疑似銃』は、外見が『本物《ジェス・オ・ウィル》』と全く同じ機構のそれで、実弾を用いないRAS用の機具だ。
周りのスタッフの彼らがその辺りのストックの棚を開いて、いくつかの荷物を運んできたのはついさっきで。
この装備一式を、他のチームも受け取っているようだ。
彼らも、同じようにこの部屋へ案内されてきているらしい。
この部屋はかなり広い。
一度見まわすだけで機械的なものだらけとわかる。
よく見れば、いくつかの大がかりな機材ごとに区切られていて、合理的にいろいろ配置されているようだ。
ちなみに、さっき着替えをしていたロッカールームからは、すぐ隣のドアでつながっていた。
ここでは同じような機械の設備がいくつも並んでいたり、工場のような雰囲気がある。
それは、ミリアもなんとなく知っている空気だ。
機械油の臭いも残る、ガレージ倉庫のような、武器庫のような空間。
けれど、まだ綺麗な新しい機械が多くて、それらが何に使われる物なのか、初めて通りがかるたびにキョロキョロと金属の物体を、ちょっと好奇心に、不思議に覗いていたけれど。
そうやって歩いているうちに、予め決められていたらしいそのコーナーのベンチに案内されて座らされた。
今も、ミリアがまた見回すと、周りのスタッフの人たちは機械の支度を始めている。
本当に大掛かりで、1つのチームに数人のメカニックチームが担当するようで、いくつかの機械を持ち出す周りでも別の人たちたくさん動いている。
「何が始まるんだろうな?」
ガイがそこで立っていて、ちょっと、わくわくしているようだ。
ふむ。
ただシミュレータ訓練をやるだけじゃなさそうなのは、みんな既に感じ取っていると思う。
見ているだけだと、何かの機械、人型、装甲のようなものも・・・。
「・・・」
そんな視界の端に入る、ケイジも腕組みしながら立っていて、辺りをちょっと怪訝そうに見まわしている。
知らない場所に来て落ち着かない、まるで小動物、というわけじゃないだろうけど。
対照的に、リースはケイジの傍のベンチに座っていて。
相変わらず、周囲《しゅうい》には特に興味なさそうにまだ眠そうに目をしぱしぱさせていた。
リースは緊張したりしないのか、やっぱり、いつも通りだ。
「パっとやって終わりじゃねぇのか?これ、・・・」
そんな事を一人愚痴ってるケイジは、まあ、いつもの、ただの『めんどくさがり』が発動しているだけだろう。
さっきも私が手を上げた時、参加するって言った後も一番ブーブー言ってたし。
って、ふと、こっちを見たケイジと目が合った。
ケイジが片眉を上げて、難しい顔をわざとしてきたみたい、なので。
「まだ言ってる、」
ミリアは肩をすくめて、やれやれと言わんばかりに、というか、はっきり言ったけど。
ケイジは、口をひきつらせたように笑って、というか、余計に眉を捻らせたので、まあまあイラっとしたみたいだ。
そんな・・・、・・ふと、顔を向けたミリアは。
横顔はその向こうで、なにか違和感を・・・。
・・なにかを話し合うような、向こうがちょっとばかり、メカニックの音とかじゃなく、別の声が聞こえるような気がして。
スタッフの彼らがちらほら、向こうを気にしているようなのも。
ガイがこっちを少し振り返って、目が合った。
そしたら、小さく肩をすくめるような仕草をしてきたのは、ガイは既に気づいていたのかもしれない。
なので、とりあえず。
ミリアは立ち上がった。
気になったので。
歩き出すミリアは。
向こうを見ていたケイジも、こっちに気が付いてるようで。
「やるからにはやろうぜ、」
って、ガイが笑いながら、ちょっと遅れてケイジにさっきのフォローの声を掛けてたけれど。
ケイジは、・・歩き出す私とガイを見てたみたいだけど。
リースとちょっと目を合わせたら。
そしたら、軽い溜息を吐いて、めんどくさそうに後ろをついてきた。
―――――向こうの様子が見えるところまで、ミリアが足を止めたその場所からの景色は、メカニックが作業をする各自のスペースが存分にある。
そして、その中央、この大部屋の中央の辺りに、少し大きめのテーブルが置いてある。
周りでは、『誰か』が少しばかり声を荒げた会話をしているのか、何を言っているのかは聞こえないけれど。
ただ、『誰か?』というか、それは参加する同じチームのメンバーのようだった。
スタッフの人たちの目も集め始めている中で、少しヒートアップしてきているのか。
「・・・あいつらなにやってんだ・・?」
ふと耳に入って気が付いた、ミリアは、通りかかったそこで作業していたメカニックらしい彼かが、遠巻きにそう、つぶやいたようなのを見つけた。
そしたら、たぶん、こっちに気が付いた彼が、ちょっと顔を逸らしたけれど・・――――――
―――――な~にやってんだあいつら・・?」
急に、今度は傍で、自分の後ろを追い越す誰かがいて。
ミリアが振り返った、その横顔、『Class - C』の彼が。
ニヤついているような、眉を顰めているような、一瞬だったからか微妙な表情が近くに見えた。
「なんだあいつら、意外とやる気じゃんかー」
『C』の仲間の彼らも、声を掛けられ歩き向かっている――――――自分を次々と追い越していく――――その次の、黒い鋭い目と一瞬、目が合った――――――すれ違いざまに、・・・ディーと名乗っていた彼と・・・その目が、不機嫌そうな・・・どこかで見た事があるような――――――
―――――その彼の目が、私と確実に合ったけれど―――――彼は、通り過ぎていった。
――――同じように、眼鏡をかけた彼、たしか、オルビ・マイヤーも。
―――俯き気味な、目の下にクマがある彼の眼の光も。
「ミモ、勝手に行くな・・・」
―――――ミモと呼ばれてた彼、ミリュモ・ル・サラマンも。
彼らが、先頭のミモと呼ばれた彼を追いかけるように傍を通って行った。
瞬間に見れた彼らの横顔と、すれ違う目と。
さっきは遠くてよく見えはしなかったから。
こちらを見る目とが合っても、彼らがなにか反応する感じでは無かった。
彼らは、アイフェリアさんたちと最初に・・、ケンカ腰というか、やりあっていた人たちで。
さっき、私たちの参加にも、文句をアイフェリアさんたちへ少し言っていたようだった。
でも、今はこちらに言うことが無いようだ。
その一瞥する目が、こちらを少し注意するような感じもあった気がするけれど。
「お、よろしくなー」
って、前のガイが遅れて気が付いて、彼らの横顔へ挨拶してた、けど。
「・・・・、」
再度こちらを一瞥した彼らは、特に何も言わず。
むしろ、ちょっと舌打ちが聞こえた気がしないでもない。
それはでも、気のせいかもしれなくもない、たぶん。
わからないけど。
まあ、どちらにせよ、やっぱり、快くは思われてないのかもしれない。
「なんだあいつら、」
こっちへ来ていたケイジが、ちょっとイラっとした様だったけれど。
「気が立ってるんだろ、」
ガイは、簡単に受け流してる。
そして、隣のリースは、眠そうなのはさっきからだ。
まあ、何も言わないよりは、挨拶でもして、打ち解けられた方が良いとは思う。
普通ならば。
そんなことを考えつつ、ミリアもみんなが先へ行く後ろを追って歩き出した。
向かう場所はきっと同じだ。
前にいる味方チームの彼らの所へ、それは部屋の中央だから、スタッフや作業をしている人たちは、ちらりとこっちを見たりで。
さっきからちょっとばかり強い話し合いをしている彼らの様子へ、手を止めて気になっているみたいだ。
そこの中央は情報共有のためのスペースなのか、テーブルや一体型のディスプレイらしき設計がされている。
それらをミリアは――――――
―――――なにが言いたいんだ?」
ちょっと苛立ちの感じる声と。
「俺?ちゃんと言ってんだけどなぁ?」
とぼけている様な声と。
「まじめにちゃんと言ってほしい」
「俺だって、まじめだぜ?やー、誤解されやすいんだよなぁ、俺って。なんでだろな?」
それらに目を戻したミリアで、雰囲気的に、やっぱり、既に彼らは揉めているようだった。
「元々そんな顔してるもんな、」
「イケメンすぎるってか?」
「それっ、そういうとこぉ、」
「んっはっは、」
「・・・」
「あれ?これもダメ?」
自分とみんな、同じようなスポーツウェアのようなものに着替えてある彼らの中で、悪ふざけ、ってわけでもないかもしれないけど。
おどけてるような、まじめなような、つかみどころがないような、彼らの中心となって話しているのは、たしか、『デンジャラ・アズミック』と名乗っていた彼だ。
「ロアジュ、あいつらもわざとじゃないってバよ」
「・・・」
ちょっと呆れてるのか、口を閉じて彼を見ているのは、ロアジュで。
「大丈夫だって、俺もチームリーダー任されてっからさ、それなりにやれる方だってさ、」
そう『デンジャラ・アズミック』は言っていた。
「じゃあわかるだろ?チームとチームを誰かがまとめて・・・」
周りにも彼らの仲間が集まってきているようだけど、話しているのはチーム全体の方向性みたいだ。
「つうか勝ちたいんだろ?じゃあ、そりゃ、ムリ。」
「・・・」
はっきり言う彼、『デンジャラ・アズミック』に、ロアジュは口を閉じて黙って見ていて、ちょっとまたイラっとしたみたいだ。
「さっきからそれだけどよ、勝てねぇってーの?」
その横から言った彼は、たしか、ラッドだ。
「いや?別にバラバラでいいじゃんか、どうせ、」
気楽そうに答える『デンジャラ・アズミック』は。
「ほんとかなあ?」
怪しんでるのは、ニール。
「リーダーを決めろなんて言われてないだろ?」
「言われたことしかできないヤツにこんな仕事は務まらないんだよ、」
「おー、いいこと言うな。俺もそう思うよ。コーチから言われたん?」
「・・・時間が無いんだよ、クイズ出し合ってる場合じゃないんだ、」
「だからはっきり言ってるじゃんか、無理なものはムリって」
「お、よく見たらカワいい」
「名前なんてーの?」
「む・・・」
ロアジュの後ろでラッドたちと少し話していた女の人が、そう見られてちょっと警戒したようで、フィジーだっけ、ロアジュたちのチームの1人だ。
「おい、やめろよ、」
「えー、なんでだよ?」
「ナンパじゃないぜ?」
「え、マジ?心外だなっ」
「な?わかるだろ?お互いの名前も知らないのにな?」
デンジャラ・アズミックは、愛嬌のあるちょっとの笑みに当然だろ?と言わんばかりに言ってた。
まあ、彼の言いたいことはなんだかわかる気はする。
そして、こちらにふと気が付いたようだ。
「お?お前らも来たんか、」
こっちは、少し距離を取って様子を見ていたから。
「・・『C』の、と・・・」
彼らが気が付く、こちらへ向ける目と一緒に、私たちも見られた。
「『A』の・・」
少し、異なるような視線、というのは考え過ぎかもしれないけれど。
「よー、ケイジ。来てたのか、」
「あぁ・・?」
「なんだよ、ひでぇな、」
って、不機嫌そうなケイジは、ラッドたちとも友達みたいだ。
「で、君らは何を揉めてるんだ?いま、」
オルビ・マイヤーが、そう。
「ちょうどいいや、お前らもどう思う?こいつが、リーダーを決めた方が良いってさ。」
デンジャラ・アズミックは大きな声を出して、その場にいるみんなへ。
「意見をとりまとめた方がいいだろ?全員呼んだ方がいいか?手が空いてそうなら向こうのやつも呼んできてくれよ、」
「なにかするのは勝手だが、こっちに迷惑かけんなよ、」
「迷惑ってなんだ?」
「あぁ・・?」
「待てって、何しに来たんだよ?」
「別に。俺たちの邪魔をしないでくれ、とだけ言っておく」
って。
「ぁあん?」
「はぁ、それだけ言いに来たのか?」
「感じわりーな~、」
「あぁ?」
ちょっとお互いに、睨み合うような彼らは、まあ。
「ミモ。」
「ぁあん?」
「必要以上に構わないでくれ、」
仲良くする気は、そんなに無いみたいだ。
「・・めんどくさ・・」
その小さな声も『C』の彼らの方から聞こえたが。
「話す必要は無い。俺らに指図しなければそれでいい」
もしかしなくても、仲良し、でもないみたいだし。
「待てって。」
って、デンジャラ・アズミックが、そう。
「いや言いたいことはわかんぜ?でもな、付け焼き刃になったらいいことなんか無いんぜ?そういうのめんどくせぇから、好きにやりゃあいいんぜ?っていう俺の提案。なぁ?」
「俺はどっちでもいいよ、」
「俺も。」
「マジかよ、」
仲間の彼らが味方でもないことに、ちょっと驚いたみたいだけど。
――――――ふと、ロアジュがこっちを見ていて、目が合った。
「・・・」
「・・・?」
ロアジュと、ミリアの目が合って。
彼は、少しこっちをじっと見てきていたけれど・・・。
「・・ん・・・?」
――――――「マテまて、こう言ったら誰にでも伝わるって言い方があるんだよな。
理由は4つ、くらい。
1つ目。
『即席』、で集められたって連携ができない。
『EAU』の戦術が頭に入ってなさそうなやつらもいるかもしんない。
マニュアルの確認なんか今更できないだろ?即席チームってそんなもん。
下手な連携がもっとヤバい。
自由にやってみてから考えても悪くはない。
2つ目。
こんな短い時間でチームをまとめるって?
ムリムリむり、お前ら、俺の言うこと聞く?
俺はお前らの言うこと聞けないぜ?
信用ねぇもん。
あ、誤解があるかもしんないな?
お前らが悪い人間とかってわけじゃないぜ??
協力して結果が良くなるってのかがまだわからんって。
だからさ、まぐれでも勝ちたいってんなら、慣れてるチームでバラバラにやった方が勝率高いだろ、ってことよ。
それも立派な戦術だろ?
どう思うよ?」
デンジャラ・アズミックは、そう。
「『3つ目』は?」
「『4つ』って言ったのは言い過ぎた、」
てへっ、と笑うような彼はまあ、正直者みたいだ。
「それでも全体のまとめ役がいた方が・・、」
「マジかよ、いるか?なぁ?セイガ?」
「・・・・」
「セイガは俺の味方だな、」
「なんも言ってないってよ、」
「まじめにやれってよ、」
「うそぉん、」
チームの方向性は、決まらないみたいだ。
―――――「・・勝ちたくないってわけじゃないんだな?」
「そういうこと。チームをまとめるのが、必ずしも勝つとか負けるの話じゃあないんだよなぁ。」
彼らの話が、また熱くなり始めているようだ。
「もう話し合いしてんのか?」
そう、横からの声も、また。
「よおー、お前らのチームは上手くやれそうか?」
「大丈夫だ。俺がリーダーをやることになった。」
そう言ってこちらを一瞥する彼は、少し貫録を感じると言うか、周りの人たちよりも少し年上なのかもしれない。
いま来た彼らは最後に作られたチームで、即席に、余った人たちで組んで、『C』の女の子2人も入ったチームだ。
これで、今ここにいる全員が26人のはず、同じチームの人たちだ。
ちなみに、ガーニィたちのチームは視界の端で、ちょっと離れているところでこっちの話をのぞき見しているみたい、なのがたまに目に入る。
「で、全体の話はどうなってるんだ?」
「それがさ、俺ら名前も知らんし、趣味も知らんしどうしよう?ってなってて、」
「ん?趣味?」
「さっき名乗ったろ」
「全員なんかすぐ覚えられるかってんだよ、」
「なんでそんな話になってる・・?」
「先ずは自己紹介からか?俺らからいくか?ハジメマシテ、『Class - B』の『デンジャラ・アズミック』でっス。可愛わいぃ『デン』って呼んでくれ。期待の新人っておだてられて数か月、今日はヤバいところに来ちゃったみたい。お前らがいうところの外部組デス。スカウトされた時はもうドキドキの、新人らしくフレッシュな―――――」
―――――『準備は、できてるかい?』
その空間に声が、行き渡る・・女性の声・・モニタか。
「―――――・・あん?」
ブリーフィングの大きめのモニタに、いつの間にか映っていた――――アイフェリアさんの顔が・・・あって。
『みんな揃っている・・?準備は?できてるのかい?』
あちらも、こちらが見えているみたいだ。
「映像通信です、」
近くのスタッフの人が教えてくれた、ようで。
『・・あ、映っているか』
それより、みんなちょっと驚いたからか、誰も声を発していなかったから。
「ぁ、はい、」
気が付いたミリアが、返事をする―――――のとほぼ同時に。
「ぉ、うっす・・っ、」
「はい、」
みんなもちょっと解けたように、静かに慌てたように向き直っていた。
そこには向こうのチームの、隊長格であるアイフェリアさんが、正面に映っていたから。
そう、ドキっとしていたのか――――――対峙して、立つ、そんな気持ちは全く準備できてなくて――――――急に目の前にいたから――――――
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