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第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第22記
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―――――『MU-S.10P = NUE』が、あの『外骨格デバイス』の名称だ。
いま目を通したマニュアルにそう書いてあった。
私たちは『あれら』を着用して、お互いのチームで模擬戦をするらしい。
それらの流れが簡単に説明されているマニュアルから、ミリアが顔を上げると、この格納庫のような雰囲気の金属の多い広い部屋は、機械などの部品が用意されている数もさっきより増えている。
さっきの、騒動とまでは言えない揉め事が過ぎて、ようやく、この空間の機械たちがそこかしこで本格的に動き始めていて、景色もさっきとちょっと変わってきている。
ミリアたちはアライさんに言われて、その部屋に備え付けられたモニタから、今後の説明がされたマニュアルに目を通すように言われたばかりだった。
軽く流し見したそれには『あれら』が用意されていることや、その大まかな仕様など、知りたかったことが大体は記されていた。
そして、コンソールとしても操作していたタブレット端末からミリアは目を離すと、すぐそこで『あれら』が実際に複雑そうな機械装置にセットされていく過程も見える。
それだから、いろいろなことにも、なんとなく納得できた。
「――――いけるぞ、最初にやるのは誰だ?」
向こうのメカニックの彼に声を掛けられて。
ベンチ椅子に座っていたミリアも、近くで立っていたりするガイたちも、ちょっと顔を見合わせていた。
ミリアが・・口を開く前に。
「俺から行くか、」
ガイが、持っていたタブレット端末を傍の机に置いて、メカニックの彼らの方へ向かっていた。
ちょっとあったはずのその間も無かったように、ケイジやリースたちも黙って見送っていたけれど。
「どうも。よろしく、」
周りに声を掛けながらのガイは、案内されて、少しワクワクしているかもしれない。
まあ、『外骨格デバイス』なんて、なかなか触れないものだから、気持ちはわかるけれど。
そんな背中を見ていたミリアは、でも、ちょっとくらい、ほっとしていたのかもしれない。
さっき、みんなも一瞬だけお互いの顔を見合わせたのは、ちょっと遠慮がち、というより、ちょっと勇気が要る、という感じだった気がするから。
「次の順番もきますから、決めておいてくださいね」
そうアライさんからも言われた。
ケイジたちは聞いているのかいないのか、向こうの様子に興味津々みたいだ。
『外骨格デバイス』を補助するっぽい機械のセッティングの様子に、リースも、珍しく、興味を持って向こうを見ているようだった。
「ちょっと見てくる、」
ケイジが立ち上がって、向こうへ歩き出すと、リースもワンテンポ遅くだけど追いかけていったようだ。
その先で、少し離れた所でガイとメカニックの人たち数人が話しながら仕事に入る姿を。
ちょっと眺めていたミリアは、それから、両手で自分の髪の毛の留め具を解き、まとめ直し始めた。
マニュアルによると、例の『外骨格デバイス』を全員が装着することは必須らしい。
これは『シミュレータ内で設定される『再現性(DoR)』をより高めて、意図するとおりに挙動を精確に反映させるため』でもあって。
また、『参加者の状態を測るためのセンサー』でもあり。
そして、『参加者の安全のため』でもある、らしい。
そういった条件を満たすから、この『外骨格デバイス』というデバイスも用いて、『STRAD』はここまで大掛かりなシミュレータ施設になっている、と。
当たり前だけど、シミュレータをよりリアルに近づけるように頑張るのは自然な考えなんだろうけど。
様々なセンサーによって、着用者の物理運動や生体情報から、その周りの空間情報から相互を観測できるセンサーを増やす効果、などなどが複雑に絡んでいるようだし。
シミュレータ内のあらゆるものをリアルタイムに隅々まで観測してデータ収集もする、っていう。
こんな風に簡単に言葉を並べても、これらが物凄い施設ってことはわかる。
まあ、わかるんだけれど、ちょっと理解するには大きすぎて、なんだかちょっと混乱している所があるのかもしれない。
えっと。
まあ、データの収集とかの部分は、やっていることはいつもの『EAU』の方のシミュレータと同じではあるんだけれど。
『STRAD』だと、いつも以上にいろんなことを調べられるんだろうな、って感じなんだろう。
そう、それと、外骨格デバイスの着用で、1番に重要なのは、その硬い装甲でみんなの怪我を未然に防ぐこと・・、だと思う。
これは、かなり重要なことで。
特能力者が本気で動くとなると、不慮の重大な事故が起きる可能性は高いから。
特能力者が起こす発現現象は、大きく分けて『精神感応系』、『物質顕現系』、『変異系』などに単純化できるけれど。
もし、それら全部が干渉したとしても、安全な訓練ができる、という意義は本当に大きいと思う。
たとえ練習だとしても、機動系のような人たちは、瞬間的にも異常な速度が出ることもある。
例えばスポーツなどでも、人と人が衝突して大きな事故になったっていうニュースがあるのだから、それ以上のスピードで衝突するとなると、すごく危険なのは間違いない。
そんな環境で訓練をしようものなら、常に本人も周りも重大な怪我を負う可能性が付き物になってしまう。
実際に、一般生活の中で大きく占める事故が、そういったものだ。
だから、訓練をして、怪我することがないレベルまで訓練をしたという、公的な証明認証をもらったりするんだけれど。
自分の能力を完璧に『モノ』にできる人も一握りだ。
あと、特に、機動系の能力者は軍部でも重要視されてる、らしいから。
この『STRAD』が軍部も関係して造られた、なんてのも想像しやすい。
・・だから、いろいろ納得できた。
『A』の彼らが『それ』を着込んでいた事とか。
自分たちが格納庫のような、こんな場所へ案内されたこと、とか。
待機して、作業をするスタッフがたくさんいる事とか。
・・・だから、特能力者が、その発現能力を前面に押し出す模擬戦が行われる準備ができた、ってことなんだ。
―――――まあ、そんなことを考えていると、またいくつか気になる事も、また新しく、ちょっと浮かんでくるんだけれど――――
――――――見える向こうの、他のチームの彼らも準備に集中している。
たぶん他の味方チームの人たちも、今回は知らないことが多くて戸惑っているかもしれない。
相手チームの人たちがどこまで知っていたかは、知らないけど。
そんな顔をして、でも、その準備の手順を見る目はもう真剣だと思う。
――――――ふと、目を戻せば向こうの、少し離れたガイたちは少し会話をしながら、特殊な形のスタンドに立っていた。
『外骨格デバイス』の装甲のパーツとも機械ともがセットされているような、それらの周りを数人がかりで動いて、手際よく装甲の器具を動かし、はめたり、ロックをかけて確認して。
ガイの、標準よりも体格が良い体躯の端から端まで、外殻で覆っていく。
そんな作業を繰り返してる。
それが、いわゆる強化装甲、『外骨格デバイス』の装着の様子で、初めて見る。
その外殻の表面の目立つカラーリングはピンク色か、マゼンタに近く見える。
綺麗だけど、ちょっと暗い色が入っているのか、明かりの加減に金属の光沢の控えめな艶が動いてるのが見える。
新品の自動車っぽい表面みたいだけど、まだ傷1つなさそうだ。
それと、さっき見た『A』の人たちが装着していたモノと同じかもしれない。
色味のデザインだけ違うんだろう、性能に差があるとは思えないし。
そんなことを考えつつの、ミリアは座っているベンチで、後ろ髪をまとめ直し終えた。
ポニーテールより下で留めたのは、なんとなく、あの『外骨格デバイス』の頭のパーツ、ヘルメットなどに引っかからないように、で。
そもそも、髪はそこまで長くはないんだけれど。
部品の間に挟まりでもしたら、引っ張られてとっても痛そうだから。
ミリアのその傍らには、さっき渡されたシミュレータ専用ライフルが立てかけられている、のを一瞥しつつ。
ちょっと髪の毛の癖を手で流しながら、髪を指で撫でるように触ってみてた。
「次、『S1』いけるぞ」
向こうからの太い声に、振り返ったミリアはアライさんと目が合った。
「ミリアネァ・Cさん?いっちゃいましょうか」
タブレット端末を見ていたアライさんがそう言ったので、ミリアは立ち上がった。
せわしなく動いているその辺り、そこへ近づくと、先に来ていたケイジたちが気が付いてこっちを見てきてたけど。
ミリアに用意されていたのはガイの隣の設備で、先にやっているガイのと大体は同じ物みたいだ。
装着の補助をする器具の詰め合わせの装置っぽい。
人間1人が収まるくらい大きなそれが、その場所に並ぶように設置されている。
近くで見れば、より複雑そうな機構っぽくて、その床から一部むき出しのコードなどと繋がっていて。
ほんとに。
―――――『外骨格デバイス』を着るんだな、って。
思った。
『それ』がどういったものかは、わかってはいるけれど。
どんな感じなのか、着心地とか、ちゃんと動けるのかなとか、考えちゃうけれど、初めてだから。
でも先に『変身』している最中のガイは、あまり緊張していないみたいで。
「これ、すごいっすねぇ」
「へらへらすんな、外れてたら怪我じゃすまないぞ、」
ちょっと聞こえる、むしろ楽しそうに自分や部品を見てお喋りしている。
ガイも初めてだと思うんだけど、・・そうじゃないのかな?
・・・まるで、サイボーグへ改造されていってるようだけど。
SF映画、ちょっと昔っぽい映画に出てくる感じ―――――
「説明に目を通されました?」
って、傍に付いたアライさんに聞かれた。
「はい、」
並んで歩いてたミリアが振り返って、気が付いたけど、ケイジたちもこっちへ来るようだ。
さっきからガイの『変身』を見ていたケイジたちは、やっぱりけっこう興味あるみたいで、なんでも見たいみたいだ。
「簡単な注意事項ばかりでしたけど。わからない箇所があればお教えしますね」
タブレットを見ているアライさんは顔を上げて微笑んで見せて、ケイジたちにもそれは向けられていた。
アライさんは細かいチェックでもあるのか、よくタブレット端末に視線を落としている。
ケイジたちはガイの方を見たり、こっちの方を見たりとキョロキョロしているけれど。
「じゃあ、ミリアネァ・Cさん?準備できたら、そこに立って。上着は脱いでね、」
指定の場所に着くと、アライさんが案内を始めてくれた。
「はい、」
アライさんはタブレット端末を操作しつつ。
「装着は数分で終わります。」
準備していた、こちらを見てくるスタッフの人たちは、最初は男の人が多い印象だったけど、女の人たちもけっこういるのかもしれない。
ちょっと、ドキドキしているかもしれない。
身体を覆っていたツナギのような上着を脱ごうとしたけど。
やっぱり、もう少し進んで、ガイたちの隣の装置の、そのセットスタンドに入る前に、その傍で上着のツナギになっているような、それを脱いだ。
それは簡単に脱げるんだけど、ただ、下がタイトな素材で、身体の線が出やすい気がしてたので。
それを、ちょっと気にしたのはある、けれど。
そんなに気にすることでもないのかもしれない。
『外骨格デバイス』を着る、みんなが着ているわけだし。
周りのスタッフの人たちも気にせず、自分たちの仕事をしている。
それから、ちょっと息を吸って。
・・よし、って。
その機械スタンドの中央にミリアが立つ、その前にケイジたちとちょっと目が合ったけど。
ケイジたちは、また向こうの方を見たり、周りの機械を興味が移るままに見てるようだ。
と、周りの、機械のわずかな反応があったような。
耳元かどこか、既に稼働していたそれら、周囲のセットスタンドのセンサーが反応した気がする。
音にもならない・・キュイーンと細かな機械音が聞こえた気もした。
「装着はじめまーす」
傍で待っていたメカニックのお姉さんが、鋼色の装甲のパーツを手に作業を始めていた。
足元に差し出される金属の部品を。
「靴のままで、乗ってください」
ちょっと慌てて足を上げて、踏んだら、足の部品がハメられたのかカチッと鳴って、お姉さんがガチンっとロックをした。
金属の重くて固い振動が伝わった気がした。
と思ってたら、こっちを見ていたケイジとリースと目が合った。
「これ、どっかで見たことあんだよな、」
って、ケイジが。
「これを?普通のものじゃないですよ?最新機ですから」
そう言うアライさんが、ちょっと得意げかもしれない。
「着れんのか?あれ、ミリア、」
って、ケイジがニヤって、ガイの方を親指で示してた。
その雰囲気は口端を上げていて、意味ありげな無遠慮な意味なのはすぐわかった。
「む。」
だから、ちょっとミリアは、眉を寄せて、ちょっとだけ頬が膨らんだかもしれないけども。
「身体を固定させてもらうよ、動かないでね」
周りに機械が押されて来たので、ちょっと膨れた顔が隠れたかもしれない。
「みんな問題なく着れますよ?」
って、アライさんが教えてくれる。
「あいつでも?」
「大丈夫、問題ないですよ。ねぇ?」
「はい?大丈夫っすよ、」
いま傍で作業をしているお姉さんも軽く答えていた。
「『B.S1』が合いそうで良かったな、」
って、そこのメカニックのベテランっぽい彼が装置をセットしながら言ってた。
「『B.S1』?」
ミリアがつい聞き返すと。
「ぁー、」
お姉さんは、そう。
「最小サイズだ、」
って、ベテランっぽい彼が大きな声で教えてくれたけれど。
「・・・」
作業を手伝い始めたアライさんがこっちへ顔を上げて、ちょっと微妙に柔和に、こっちへ微笑んだのはちょっと見えたけれど。
「あれがいっちばん小っせぇのか?」
って、ケイジの声も聞こえる。
「ああ。これがダメなら無理だったな。」
「マジか、っ・・、良かったな、」
なんか、ケイジが軽い声で、楽しそうな感じで、たぶんあっちでなんかを好き勝手に言ってるっぽいけど。
機械が近くで大きめの音でガチンっといって、たまによく聞こえない。
そして、ミリアは動けないので、ちょっと、イラっとしても、代わりに、またほんのちょっと頬が膨れるしかない。
それも周りに機械があるので、ケイジたちには見えてないだろう。
別に見てなくていいんだけど。
「からかうもんじゃねぇぞ、ボウズ」
って、言ってくれるそのベテランぽい彼だ。
「嬢ちゃんも大きくなるんだからな、なあ?」
って、大きい声で言われた。
「・・・」
・・基本的にいい人みたいだけど。
・・・無言のミリアが険しい顔で、またちょっと膨れているのは、アライさん以外には誰にも気づかれてないのかもしれない、って思えてきた。
別にいいんだけど。
たしかに、目線の高さは、そのベテランそうな彼とは合わないくらいだけれども。
手慣れた様子でさっさと向こうへ戻るそんなベテランっぽい彼は、きっと仕事が速いのかもしれないけども。
それより、顔は見えないけどケイジがからかって笑っているのは容易に想像できるわけで。
「先にアイウェアを着けて」
と、メカニックのもう1人の彼女に手渡されたのはアイウェアだ。
・・・そういえば、さっき自分と同じくらいの体格のロヌマも『外骨格デバイス』を着ていたし・・、ってのを思い出してるミリアは―――――と、受け取ったアイウェアは、いつも現場で使うようなものと少し違う形式だった。
ゴーグルのような、ちょっと重そうな構造もそうだけど、普通より少し大きめでごついのか頑丈そうで、当然だけど通信などはできる『AAD』のものっぽい。
「・・これも、専用のですか?」
ミリアは受け取ったアイウェアをちょっと覗きつつ確かめつつ。
そのまま頭から被れば、自分で軽くセットできそうな、できなさそうなところで。
「・・そうですね、」
お姉さんたちが続けている作業の1つという感じで、後ろから手伝ってくれていた。
いま目を通したマニュアルにそう書いてあった。
私たちは『あれら』を着用して、お互いのチームで模擬戦をするらしい。
それらの流れが簡単に説明されているマニュアルから、ミリアが顔を上げると、この格納庫のような雰囲気の金属の多い広い部屋は、機械などの部品が用意されている数もさっきより増えている。
さっきの、騒動とまでは言えない揉め事が過ぎて、ようやく、この空間の機械たちがそこかしこで本格的に動き始めていて、景色もさっきとちょっと変わってきている。
ミリアたちはアライさんに言われて、その部屋に備え付けられたモニタから、今後の説明がされたマニュアルに目を通すように言われたばかりだった。
軽く流し見したそれには『あれら』が用意されていることや、その大まかな仕様など、知りたかったことが大体は記されていた。
そして、コンソールとしても操作していたタブレット端末からミリアは目を離すと、すぐそこで『あれら』が実際に複雑そうな機械装置にセットされていく過程も見える。
それだから、いろいろなことにも、なんとなく納得できた。
「――――いけるぞ、最初にやるのは誰だ?」
向こうのメカニックの彼に声を掛けられて。
ベンチ椅子に座っていたミリアも、近くで立っていたりするガイたちも、ちょっと顔を見合わせていた。
ミリアが・・口を開く前に。
「俺から行くか、」
ガイが、持っていたタブレット端末を傍の机に置いて、メカニックの彼らの方へ向かっていた。
ちょっとあったはずのその間も無かったように、ケイジやリースたちも黙って見送っていたけれど。
「どうも。よろしく、」
周りに声を掛けながらのガイは、案内されて、少しワクワクしているかもしれない。
まあ、『外骨格デバイス』なんて、なかなか触れないものだから、気持ちはわかるけれど。
そんな背中を見ていたミリアは、でも、ちょっとくらい、ほっとしていたのかもしれない。
さっき、みんなも一瞬だけお互いの顔を見合わせたのは、ちょっと遠慮がち、というより、ちょっと勇気が要る、という感じだった気がするから。
「次の順番もきますから、決めておいてくださいね」
そうアライさんからも言われた。
ケイジたちは聞いているのかいないのか、向こうの様子に興味津々みたいだ。
『外骨格デバイス』を補助するっぽい機械のセッティングの様子に、リースも、珍しく、興味を持って向こうを見ているようだった。
「ちょっと見てくる、」
ケイジが立ち上がって、向こうへ歩き出すと、リースもワンテンポ遅くだけど追いかけていったようだ。
その先で、少し離れた所でガイとメカニックの人たち数人が話しながら仕事に入る姿を。
ちょっと眺めていたミリアは、それから、両手で自分の髪の毛の留め具を解き、まとめ直し始めた。
マニュアルによると、例の『外骨格デバイス』を全員が装着することは必須らしい。
これは『シミュレータ内で設定される『再現性(DoR)』をより高めて、意図するとおりに挙動を精確に反映させるため』でもあって。
また、『参加者の状態を測るためのセンサー』でもあり。
そして、『参加者の安全のため』でもある、らしい。
そういった条件を満たすから、この『外骨格デバイス』というデバイスも用いて、『STRAD』はここまで大掛かりなシミュレータ施設になっている、と。
当たり前だけど、シミュレータをよりリアルに近づけるように頑張るのは自然な考えなんだろうけど。
様々なセンサーによって、着用者の物理運動や生体情報から、その周りの空間情報から相互を観測できるセンサーを増やす効果、などなどが複雑に絡んでいるようだし。
シミュレータ内のあらゆるものをリアルタイムに隅々まで観測してデータ収集もする、っていう。
こんな風に簡単に言葉を並べても、これらが物凄い施設ってことはわかる。
まあ、わかるんだけれど、ちょっと理解するには大きすぎて、なんだかちょっと混乱している所があるのかもしれない。
えっと。
まあ、データの収集とかの部分は、やっていることはいつもの『EAU』の方のシミュレータと同じではあるんだけれど。
『STRAD』だと、いつも以上にいろんなことを調べられるんだろうな、って感じなんだろう。
そう、それと、外骨格デバイスの着用で、1番に重要なのは、その硬い装甲でみんなの怪我を未然に防ぐこと・・、だと思う。
これは、かなり重要なことで。
特能力者が本気で動くとなると、不慮の重大な事故が起きる可能性は高いから。
特能力者が起こす発現現象は、大きく分けて『精神感応系』、『物質顕現系』、『変異系』などに単純化できるけれど。
もし、それら全部が干渉したとしても、安全な訓練ができる、という意義は本当に大きいと思う。
たとえ練習だとしても、機動系のような人たちは、瞬間的にも異常な速度が出ることもある。
例えばスポーツなどでも、人と人が衝突して大きな事故になったっていうニュースがあるのだから、それ以上のスピードで衝突するとなると、すごく危険なのは間違いない。
そんな環境で訓練をしようものなら、常に本人も周りも重大な怪我を負う可能性が付き物になってしまう。
実際に、一般生活の中で大きく占める事故が、そういったものだ。
だから、訓練をして、怪我することがないレベルまで訓練をしたという、公的な証明認証をもらったりするんだけれど。
自分の能力を完璧に『モノ』にできる人も一握りだ。
あと、特に、機動系の能力者は軍部でも重要視されてる、らしいから。
この『STRAD』が軍部も関係して造られた、なんてのも想像しやすい。
・・だから、いろいろ納得できた。
『A』の彼らが『それ』を着込んでいた事とか。
自分たちが格納庫のような、こんな場所へ案内されたこと、とか。
待機して、作業をするスタッフがたくさんいる事とか。
・・・だから、特能力者が、その発現能力を前面に押し出す模擬戦が行われる準備ができた、ってことなんだ。
―――――まあ、そんなことを考えていると、またいくつか気になる事も、また新しく、ちょっと浮かんでくるんだけれど――――
――――――見える向こうの、他のチームの彼らも準備に集中している。
たぶん他の味方チームの人たちも、今回は知らないことが多くて戸惑っているかもしれない。
相手チームの人たちがどこまで知っていたかは、知らないけど。
そんな顔をして、でも、その準備の手順を見る目はもう真剣だと思う。
――――――ふと、目を戻せば向こうの、少し離れたガイたちは少し会話をしながら、特殊な形のスタンドに立っていた。
『外骨格デバイス』の装甲のパーツとも機械ともがセットされているような、それらの周りを数人がかりで動いて、手際よく装甲の器具を動かし、はめたり、ロックをかけて確認して。
ガイの、標準よりも体格が良い体躯の端から端まで、外殻で覆っていく。
そんな作業を繰り返してる。
それが、いわゆる強化装甲、『外骨格デバイス』の装着の様子で、初めて見る。
その外殻の表面の目立つカラーリングはピンク色か、マゼンタに近く見える。
綺麗だけど、ちょっと暗い色が入っているのか、明かりの加減に金属の光沢の控えめな艶が動いてるのが見える。
新品の自動車っぽい表面みたいだけど、まだ傷1つなさそうだ。
それと、さっき見た『A』の人たちが装着していたモノと同じかもしれない。
色味のデザインだけ違うんだろう、性能に差があるとは思えないし。
そんなことを考えつつの、ミリアは座っているベンチで、後ろ髪をまとめ直し終えた。
ポニーテールより下で留めたのは、なんとなく、あの『外骨格デバイス』の頭のパーツ、ヘルメットなどに引っかからないように、で。
そもそも、髪はそこまで長くはないんだけれど。
部品の間に挟まりでもしたら、引っ張られてとっても痛そうだから。
ミリアのその傍らには、さっき渡されたシミュレータ専用ライフルが立てかけられている、のを一瞥しつつ。
ちょっと髪の毛の癖を手で流しながら、髪を指で撫でるように触ってみてた。
「次、『S1』いけるぞ」
向こうからの太い声に、振り返ったミリアはアライさんと目が合った。
「ミリアネァ・Cさん?いっちゃいましょうか」
タブレット端末を見ていたアライさんがそう言ったので、ミリアは立ち上がった。
せわしなく動いているその辺り、そこへ近づくと、先に来ていたケイジたちが気が付いてこっちを見てきてたけど。
ミリアに用意されていたのはガイの隣の設備で、先にやっているガイのと大体は同じ物みたいだ。
装着の補助をする器具の詰め合わせの装置っぽい。
人間1人が収まるくらい大きなそれが、その場所に並ぶように設置されている。
近くで見れば、より複雑そうな機構っぽくて、その床から一部むき出しのコードなどと繋がっていて。
ほんとに。
―――――『外骨格デバイス』を着るんだな、って。
思った。
『それ』がどういったものかは、わかってはいるけれど。
どんな感じなのか、着心地とか、ちゃんと動けるのかなとか、考えちゃうけれど、初めてだから。
でも先に『変身』している最中のガイは、あまり緊張していないみたいで。
「これ、すごいっすねぇ」
「へらへらすんな、外れてたら怪我じゃすまないぞ、」
ちょっと聞こえる、むしろ楽しそうに自分や部品を見てお喋りしている。
ガイも初めてだと思うんだけど、・・そうじゃないのかな?
・・・まるで、サイボーグへ改造されていってるようだけど。
SF映画、ちょっと昔っぽい映画に出てくる感じ―――――
「説明に目を通されました?」
って、傍に付いたアライさんに聞かれた。
「はい、」
並んで歩いてたミリアが振り返って、気が付いたけど、ケイジたちもこっちへ来るようだ。
さっきからガイの『変身』を見ていたケイジたちは、やっぱりけっこう興味あるみたいで、なんでも見たいみたいだ。
「簡単な注意事項ばかりでしたけど。わからない箇所があればお教えしますね」
タブレットを見ているアライさんは顔を上げて微笑んで見せて、ケイジたちにもそれは向けられていた。
アライさんは細かいチェックでもあるのか、よくタブレット端末に視線を落としている。
ケイジたちはガイの方を見たり、こっちの方を見たりとキョロキョロしているけれど。
「じゃあ、ミリアネァ・Cさん?準備できたら、そこに立って。上着は脱いでね、」
指定の場所に着くと、アライさんが案内を始めてくれた。
「はい、」
アライさんはタブレット端末を操作しつつ。
「装着は数分で終わります。」
準備していた、こちらを見てくるスタッフの人たちは、最初は男の人が多い印象だったけど、女の人たちもけっこういるのかもしれない。
ちょっと、ドキドキしているかもしれない。
身体を覆っていたツナギのような上着を脱ごうとしたけど。
やっぱり、もう少し進んで、ガイたちの隣の装置の、そのセットスタンドに入る前に、その傍で上着のツナギになっているような、それを脱いだ。
それは簡単に脱げるんだけど、ただ、下がタイトな素材で、身体の線が出やすい気がしてたので。
それを、ちょっと気にしたのはある、けれど。
そんなに気にすることでもないのかもしれない。
『外骨格デバイス』を着る、みんなが着ているわけだし。
周りのスタッフの人たちも気にせず、自分たちの仕事をしている。
それから、ちょっと息を吸って。
・・よし、って。
その機械スタンドの中央にミリアが立つ、その前にケイジたちとちょっと目が合ったけど。
ケイジたちは、また向こうの方を見たり、周りの機械を興味が移るままに見てるようだ。
と、周りの、機械のわずかな反応があったような。
耳元かどこか、既に稼働していたそれら、周囲のセットスタンドのセンサーが反応した気がする。
音にもならない・・キュイーンと細かな機械音が聞こえた気もした。
「装着はじめまーす」
傍で待っていたメカニックのお姉さんが、鋼色の装甲のパーツを手に作業を始めていた。
足元に差し出される金属の部品を。
「靴のままで、乗ってください」
ちょっと慌てて足を上げて、踏んだら、足の部品がハメられたのかカチッと鳴って、お姉さんがガチンっとロックをした。
金属の重くて固い振動が伝わった気がした。
と思ってたら、こっちを見ていたケイジとリースと目が合った。
「これ、どっかで見たことあんだよな、」
って、ケイジが。
「これを?普通のものじゃないですよ?最新機ですから」
そう言うアライさんが、ちょっと得意げかもしれない。
「着れんのか?あれ、ミリア、」
って、ケイジがニヤって、ガイの方を親指で示してた。
その雰囲気は口端を上げていて、意味ありげな無遠慮な意味なのはすぐわかった。
「む。」
だから、ちょっとミリアは、眉を寄せて、ちょっとだけ頬が膨らんだかもしれないけども。
「身体を固定させてもらうよ、動かないでね」
周りに機械が押されて来たので、ちょっと膨れた顔が隠れたかもしれない。
「みんな問題なく着れますよ?」
って、アライさんが教えてくれる。
「あいつでも?」
「大丈夫、問題ないですよ。ねぇ?」
「はい?大丈夫っすよ、」
いま傍で作業をしているお姉さんも軽く答えていた。
「『B.S1』が合いそうで良かったな、」
って、そこのメカニックのベテランっぽい彼が装置をセットしながら言ってた。
「『B.S1』?」
ミリアがつい聞き返すと。
「ぁー、」
お姉さんは、そう。
「最小サイズだ、」
って、ベテランっぽい彼が大きな声で教えてくれたけれど。
「・・・」
作業を手伝い始めたアライさんがこっちへ顔を上げて、ちょっと微妙に柔和に、こっちへ微笑んだのはちょっと見えたけれど。
「あれがいっちばん小っせぇのか?」
って、ケイジの声も聞こえる。
「ああ。これがダメなら無理だったな。」
「マジか、っ・・、良かったな、」
なんか、ケイジが軽い声で、楽しそうな感じで、たぶんあっちでなんかを好き勝手に言ってるっぽいけど。
機械が近くで大きめの音でガチンっといって、たまによく聞こえない。
そして、ミリアは動けないので、ちょっと、イラっとしても、代わりに、またほんのちょっと頬が膨れるしかない。
それも周りに機械があるので、ケイジたちには見えてないだろう。
別に見てなくていいんだけど。
「からかうもんじゃねぇぞ、ボウズ」
って、言ってくれるそのベテランぽい彼だ。
「嬢ちゃんも大きくなるんだからな、なあ?」
って、大きい声で言われた。
「・・・」
・・基本的にいい人みたいだけど。
・・・無言のミリアが険しい顔で、またちょっと膨れているのは、アライさん以外には誰にも気づかれてないのかもしれない、って思えてきた。
別にいいんだけど。
たしかに、目線の高さは、そのベテランそうな彼とは合わないくらいだけれども。
手慣れた様子でさっさと向こうへ戻るそんなベテランっぽい彼は、きっと仕事が速いのかもしれないけども。
それより、顔は見えないけどケイジがからかって笑っているのは容易に想像できるわけで。
「先にアイウェアを着けて」
と、メカニックのもう1人の彼女に手渡されたのはアイウェアだ。
・・・そういえば、さっき自分と同じくらいの体格のロヌマも『外骨格デバイス』を着ていたし・・、ってのを思い出してるミリアは―――――と、受け取ったアイウェアは、いつも現場で使うようなものと少し違う形式だった。
ゴーグルのような、ちょっと重そうな構造もそうだけど、普通より少し大きめでごついのか頑丈そうで、当然だけど通信などはできる『AAD』のものっぽい。
「・・これも、専用のですか?」
ミリアは受け取ったアイウェアをちょっと覗きつつ確かめつつ。
そのまま頭から被れば、自分で軽くセットできそうな、できなさそうなところで。
「・・そうですね、」
お姉さんたちが続けている作業の1つという感じで、後ろから手伝ってくれていた。
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
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