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第7話 サボりもガイも、ミリアも走らない
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キリ、キリ・・・と金属のネジが絞められていく音が部屋の中で聞こえている。
そこは壁も天井も白い研究室の1室で、ポロシャツを着た男が部品や工具が置かれたデスクに向かって座り作業をしていた。
彼のデスクの上には、趣味のヒーローアニメ、『ガッツ・ルーディー』のヒーローやヴィランのフィギュアなどが飾られている。
『俺が最強なのは本気出さなかったから』のちょっとセクシーな肌色多めな女の子のフィギュアは、少し奥の方に隠し気味に置かれているが。
他にも『悪食の証拠』の、主人公が禍々しい大刀を背負って手をかけているカッコいいムーヴィピクチャの小さいモニタが置かれていて。
時に大概、目を離した際にその凶悪な雄々しい姿が動き始め、鋭く光る眼が見下ろしてくる。
そんなデスクの上で彼は、専用ドライバーを使いネジを回してその金属で作られた腕の付け根の部品を留め終わると、顔を上げて椅子を回し振り返る。
「ケイジ、」
呼びかけた名前に、そこの椅子の上で備え付けられた台の上に左腕を差し出していた、だるそうな黒髪の青年が気が付いて目つきの悪い顔を上げる。
彼の傍にはもう1人、アシスタントしていた彼がそのケイジの腕を触って診ていたが。
名前を呼んだ彼が向き直り、その椅子の上で深めの息を吐くとケイジのその黒い目に向かって、静かに伝える・・・。
「言い忘れてたが。」
デスクの彼の声は、あくまで静か、そして穏やかだ。
「お前の腕な、」
「ああ・・?」
ただ在りのままに在ったことを、伝えるだけだ。
「かなり深い傷跡があった」
ケイジには、その意味がわかる。
ただ、ケイジは口を開いて・・。
「・・・マジか。」
静かにそう、呟いただけだった。
・・あのときのこと、それから腕の構造上の説明は何度も聞いたし、その上でケイジにはよくわからなかったのだが。
彼らに口酸っぱく言われ続けた事実と時間は、重みとしてちゃんとある。
「ああ、驚いた。こんな傷つけられるのは・・・、なんつっうかな、これは特殊だ、」
・・よっぽどやべぇ奴だったんだな、『あいつ』。
傷はあのときのものだ。
ブルーレイクの事件、今でもよくわかっちゃいないが、あの凶暴な特能力者とやり合ったときのことだ。
暗闇が何も見えないぐらいに深い中で月明かりに見えた、ギラついた鋭い眼光、銀光のような爪、変形した異形な顔に牙もあったと思う。
嫌な金属のような色と光り方をしていた、それらが凶器だったし衝突で何度か強い衝撃を受けたことは覚えている。
それとあいつの狂気を交えたような喋り方・・・不気味で、何かがおかしかった。
今まであんな特能力者は見た事ねぇんだが、・・・まあ、ここの連中ならみんなこう言うんだろう。
『よくわからなくても。どんな特能力者でも、どんな事でも有り得る』って。
「いつ直るんだ?」
ケイジが、思い出していたのは一瞬だ。
今、目の前にいる研究者の彼を真っ直ぐに見ていた一瞬だ。
彼を睨みつけているように。
「・・・・」
問いかけられたデスクの彼は、口を噤んだままその眼差しを甘んじて受け入れる。
「・・おい。ドクター、・・レチョイ、・・・なんだよ?」
・・がちゃ、かちゃ、と無言で作業していたアシスタントの彼が、ちょうどケイジの腕のその器具を外し終わった。
それから、その金属の腕を両手に持ってその場を離れた。
「これは回収しますね」
「ああ、どうも。」
デスクの彼のお礼の声に、ケイジも振り返ってアシスタントの彼へちょっと頷いて、それから彼の方に顔を戻した。
「実は、」
ドクターと呼ばれた彼は、意を決そうとしていた。
「・・なんだよ?」
ケイジは、その話し方に嫌な予感はしていた。
思わず身を乗り出しかけるケイジは、その先を促すように・・・。
「また、『修理はしたんだが、新しいヤツも試さないか?』って、あいつらが言ってきててな・・・?」
嫌な予感、していた・・・。
「ぜひ君の返事を、」
「やだよめんどくせぇ」
大きな口を開けてケイジはほぼ即答した。
そしてその勢いのままに、その背もたれへぐぐいっと寄り掛かって、患者用の椅子を軋ませていた。
ぎぎぃっ、となかなか大きく背もたれを鳴かせているケイジに、Dr.レチョイは少し溜息だ。
「ちょっとだけでもいいから付き合ってやれよ、」
「あいつらしつけぇし、」
「俺も断るのに骨が折れるんだよなぁー。まあ、連絡は入れとくんで。時間があったらよろしく。」
「行かねぇけどな。」
「ドクター、義手が来ましたよ、」
「お、新品が来たな」
そう、ちょうど部屋に入ってきた白衣の彼女に気が付き、案内してくれたアシスタントの彼がすれ違って身体を避けつつ道を譲《ゆず》る。
「ごめんねー」
「いえ、」
溌溂《はつらつ》とした彼女が持っていた、というか、その両肩に担いでいた大きな器械の部品を、その辺に空いていたスペースにゆっくりと気を付けて下ろす。
「大丈夫か?」
「ちょっと手伝ってよ、」
「それもそうだ。」
気が付いたようにそんなこと言いつつ、椅子の上でただ眺めているだけのDr.レチョイだ。
ケイジも見てるだけだが。
彼女はがちゃがちゃとちゃんとそれら、義手と義足と遊んでいる。
「んじゃ、付けるか、」
Dr.レチョイがケイジに言ってた。
「ぐっ、ぬっ、ふぅ・・っ!ちょぉおっと、」
って、彼女がちょっと怒っているようだったが、アシスタントの彼が見かねて手伝いに入ったようだ。
「ありがとねー」
「ちゃちゃっと繋ぎたいんだよな。もうトレーニング始まってるしさ、」
「お前、行く気なかったろ。最初からさ」
「そうでもない」
「ほう、感情が籠《こも》ってないな」
「籠めてるよ」
「俺くらいになるとわかるんだなー」
「ちょおおい、ちょっとくらい手伝っても良かったでしょっ」
「グッジョブだな、ゾリィ」
「おつかれっす、」
「あー腕重っ、つかれたー。やっぱ誰かに手伝ってもらうんだったわ・・・。」
「1人で持ってきたんだから大したもんだ、」
「最近、ジム行ってボディメイク?鍛え始めたのよねー。それより、例の話をした?ケイジ君に、」
『例の話』か、さっきの嫌な予感が再び。
「したした、」
「それでそれで?」
「やらないって、」
「え~~~、」
「ほらな?」
何が『ほら』なのかわからないが、レチョイはケイジとそのゾリィの2人にドヤ顔で言って見せたようだった。
「さて、さっさと付けるか、」
って、DR.レチョイは立ち上がる。
「そっちはあまりしつこくしないんだな?」
ケイジがちょっと聞いてみていた。
「開発部のやつらが言ってるだけだしな。俺はお前が健康ならそれでいいの。まあ一応聞いたってことで。」
「ふぅん、」
「じゃあさっさと終わらすぞ」
「聞こえてるよ、レチョイ先生、ケイジ、」
「おっと、力持ちのゾリィ、」
明らかに会話を聞かされているのに、苦労して運んで来た開発部のゾリィにわざとらしく今気づいたようなリアクションだった。
「こんくらいも持てないの、スーパーヒーロー?デスクにかじりついてるからヒョロヒョロになんじゃない?」
大げさに肩をすくめて見せた彼女が、次は腰に手を当てたポーズでそれなりに華奢な筋力を勝ち誇ったみたいだ。
「俺は持てるさ。でも、今は機械をいじるより繊細な事をしているからね」
ケイジの目の前では、よくわからん軽口を叩いている担当医師のレチョイだ。
「繊細な事されてたの?」
ゾリィに聞かれて。
「いや、ぜんぜん」
ケイジは首を横に振っていた。
思い返さなくても、なんかくっちゃべっていただけだ。
ゾリィが視線を戻したらレチョイは肩をすくめて返してた。
ケイジも何度か顔を合わせているが、彼女も開発部の人間だったはずだ。
所属は、主にMAMSを専攻している系の部署らしい。
一応、ケイジが使っている義肢も広い意味ではMAMSと言えなくもないらしい。
なので、そっちの方からいろいろ特注で必要なものが届けられる。
まあ、ケイジからすれば、研究開発部の連中は怪しい器具を持ってきては隙あらばテストを手伝わそうとする、警戒すべき奴らばっかりだが。
ケイジには、定期的に診察を受けに来る義務があり、その度に話を持ち掛けられ、逃げ出そうとするのと罠に嵌《は》めようとする攻防が起きる、のはうんざりだ。
ちなみに、担当医はこのDr.レチョイだ。
彼はメンタルケアのカウンセラーなども兼ねているらしいが、ケイジが覚えている限り、こいつがそれっぽいまともな話をしてきたのは最初の1、2回程度だった気がする。
ヒーローアニメやスポーツも好きな彼はよくそういう話をしてくるが、まあ、嫌いじゃない。
「で、ケイジ君は怪我も何もなかったの?」
「そういうのはもうドクターに言った。」
めんどくさそうなケイジに言われたゾリィは、レチョイと目が合って。
「守・秘・義・務。」
とだけ言われた。
ゾリィがちょっとイラっとしたのか眉を顰めて、肩をすくめてたけど。
「ねえケイジくん。報告書読んだんだけど~、細かいところが書いてないんだよね。ちょっとだけ教えてくれない~?」
ゾリィに急に猫なで声が混じってきた。
「ん?なんのだ?」
「それは、『どんな奴があの義手の傷を作ったのか?』!」
「あれか。あれは・・たぶん、あいつだな。あいつがやった。」
「どんなやつ?」
「変な能力者だったな、」
「ほうほう?それでそれで?」
食いつくゾリィに。
「それ言っていいやつなのかい?」
って、レチョイに言われたケイジは。
「わかんね。」
それでケイジは開いてた口をやっぱり、閉じる事にした。
「もうちょっとぽろっとしてくれよ~」
ゾリィは不満そうだが。
口を閉じてるままのケイジは、ちょっとむんとしてる、カエルのような顔で断固として開かなさそうだ。
「ケイジくん~・・・っ。」
「それより早く腕を付けてくれ。肩が軽すぎるんだ、」
「そうだな。ちょっとやってくれないか?」
「あ、私が?」
「いや、ゾリィっス、いいっす、」
「なんでよ。」
近づきかけてた彼女を右手で制するケイジは、アシスタントの彼をちらっと見たら目が合って、察してくれたようで傍に来てくれた。
「じゃあ、なにか他に言える事ないの?なんか面白い事あったとか、仲間たちの事とか。」
ケイジは腕をアシスタントの彼に預けながら、聞き流すことにした。
「そだ、あのミリアって子の事を教えてよ」
って。
「ミリア?なんで?」
「ん?ちょっと有名というかね。」
って、ゾリィが言ったら、Dr.レチョイが口を開いた。
「ちょっとイレギュラーだから噂になったっていうだけなんだけどね。ほら、理由が必要だろう?イレギュラーになるには、何かの理由が、」
「イレギュラー?普通の奴だぞ」
「ま、そりゃ性格は良い子でしょうけど、そこじゃなくてね、」
「っていうか何を知りたいんだよ」
「素性かな?知らない?あのミリアって子のこと聞いてない?」
「知らん。」
「例えば、『軍部から引き抜いてきた』とか。『逸材』とか、そんな噂があるでしょう?それは知ってる?」
「知らん」
「君はもうちょっと噂の類に興味を持った方がいいぞ?」
「・・・」
ゾリィに茶目っぽく注意されたので、余計にちょっと黙ってむんとしているケイジみたいだ。
「それで、彼女は特能力者かもしれないだろう?」
「EPFが来たかもって噂も聞いたことあったな」
って、レチョイも横からそう。
「特能力者ねぇ・・。なんでそう思ったんだ?」
「ほら、背が。」
手の平でひらひらする彼女だ。
ケイジもそれでなんとなく合点はいく。
その手の平はミリアの背丈よりも若干高いが、誰もが似たような印象をミリアに持っているようだ。
『チビ』だ、と。
まあ、それについては言う事が無いケイジだが。
「・・・」
「で、彼女、どんな特能力者なの?」
って、彼女はケイジへ。
・・ケイジは、ぷいっと向こうに顔を向けてた。
「言わないの。」
「おいおい、守秘義務があるんだぞ」
レチョイが横から言ってきた。
「いいじゃない。ぽろっと話してくれれば。ココだけの話ってやつよ」
「そういうマナーが悪いから嫌われるんだぞ」
「え、わたし嫌われてるの?」
ゾリアが初耳ショックを受けたようだ。
「知らん。それより、早く終わらせろよ」
ケイジはそんなことよりも、早く解放されたい。
「あ、私にもコーヒーちょうだい」
聞く耳も持っていないゾリィか。
「そこにあるから自由に飲んでくれ」
「これ終わったら脚の方も外さないと」
アシスタントの彼の言葉に、ケイジは黙って待つしかなかったが。
彼は新しい金属の腕をちゃんと、嵌《は》めて。
「じゃあ、新しいのテストしてくれるって?」
あっちで自分でコーヒーを淹れながら、ゾリィがしつこく言ってくる。
「いつ言った、」
「なんでしてくれないのさー」
「勝手に指が動いてたんだぞ」
「この前のそれは~、ちょっと変な機転を利かせちゃってぇ、モーターで更に力の伝達率が倍化とか、下心持ってるヤツがいてさぁ。でも今回は付け心地、最高。」
「そういうのつけんなって言ってんだよ!?」
不穏な言葉には敏感なケイジだ。
「だいじょーぶだいじょーぶ、」
ゾリィには届いていないようだが。
「あんまり動かないで・・」
って、アシスタントの彼が言うが、ケイジはずっとループする気がしたので、義手が留まっている自分の左腕を自力で持ち上げて、指先を動かしたり手早く確認すると立ち上がった。
「調整してないよ?」
アシスタントの彼はそう言うが。
「リースにやってもらう。」
ケイジは、そこに置いてあった義手や義足の残りの部品を素早い動きで担ぎ出す。
「ちょっとちょっと、」
ゾリィも熱々のコーヒーカップを片手に見送るだけだ。
「ほら、拗ねちまった」
「あたしの所為?ごめんね、」
「拗ねてねぇよ。めんどくせぇんだよっ、」
離れたところから遠吠えが聞こえてくる。
「新しいやつ本当に要らないー?」
「他の奴に試せばいいんじゃないの?」
と、レチョイがゾリィに問いかける。
「新しく原動機付けるのがめんどくさいのよ。他にも調整必要だし。一体化すると重量が増すしで、」
「ケイジがうってつけってわけだな。」
「うっせ」
遠くの方で聞こえてたらしいケイジがそう言い残して、自動扉から部屋の外へ出て行くようだった。
「ちゃんと後で仮着《かりちゃく》のやつ返せよ?」
って、ケイジの背中に声をかけたレチョイだが、そのまま部屋を出て行ってしまったので、聞こえたかは微妙だった。
そんなケイジの姿を見送っていたゾリィ達だったが。
「彼、怒っちゃった?」
「いや、照れてるだけだよ、たぶんね。」
レチョイがモニタに向き直って、マグカップのコーヒーを一啜《ひとすす》りして、記録の続きを始めたようだ。
彼がそのままケイジを帰したってことは、特にコンディションに問題は無いのだろう、ってゾリィは思う。
「あ、聞きそびれた、」
「ん?」
「あの義手の傷もどうやってついたの?」
さっきも訊ねていた質問だ。
「ん~?まあ・・・、本当に詳しく情報は行ってないのか?」
「ある特能力者と戦闘があったってことだけ。何があったの?」
「それなら俺の方からも何も言えないなぁ・・」
「あの合金が曲がってたのよ?10mmも。信じられる?」
「ん?ああ、相当なもんらしいな。10mmぽっち?だっけ?」
「まるで同等以上の鋭角な合金が激しくぶつけられたみたいだっんだたけど。」
「それがどうしたんだ?」
「報告書の通りでしょ?不可思議なことだらけよ?
鋭角な合金って言ったけど、痕跡は動物の爪のようなものとも分析されてるし、野生の動物の爪がそんなあの『オロ-メタル』を傷つけられるわけないし、野生なら付着してそうな細菌も見つからないし、爪の有機性物は付着していないしで。
だからこれから推測するに、特能力のエグジスト系の発現効果によるものと報告せざるを得ないんだけれど、そんなこと本当にできんの?って感じ。」
「そのまんま報告すればいいんじゃ?」
「あんまりくだらない発言はしたくないでしょう?」
「でも有り得るのなら提起することは・・」
「嫌な奴がいんのよ。」
「ああ、なるほど。」
「他人の失敗をいつまでもネチネチ言うような奴がね。」
「ふむ。軍用金属より頑丈な物質を作り出せるA-Strayer(無所属の特能力者)かぁ・・・」
「思い出したら腹が立つ・・!」
「落ち着いてくれ、」
「だって、あなた信じてないよね?」
「わかったよわかった。君はずいぶん興味を持ったようで」
「うちは生半可な物をEAUの隊員に持たせてなんてないから。戦闘の事情は知らないけど、あの義肢だってお墨付きってことになってんの。」
「仮にもClass - Aの隊員専用カスタマイズだもんな。問題になりそうだ。」
「戦闘データはリプクマ全体に共有されて、装備の改良の基《もと》になるからね。まあ、それだけ影響がありそうな事案ってこと。」
「そっちは聞いていた以上に凄そうだな」
「この名誉ある責任感わかる?下手な装備を持たせたらこっちが怒られる。やりがいがある職場です。」
「無理して言われてもな、」
レチョイは苦笑いをして。
「まあ、イレギュラーな状況だったとも聞いてるけどね。」
ゾリィがそれから、まだ熱いコーヒーの香りを楽しみつつ一口含んでいた。
―――――同一デザインのトレーニングウェアをまとったみんなが集まり、がやがやと賑わしいトレーニングホールの一角で、彼らも立ち止まって顔を突き合わせて会話していた。
「へえ、お前C級か。」
「そっちは?」
「俺はB」
耳に届いて、振り返るミリアは近くのゲームを観戦していたらしい彼らの様子に目を留めていた。
「いつもどこでやってんの?」
「いつも?指定された場所に行くだけだけど」
「ああ、やっぱ違うんだな。俺らのと、」
その辺に屯して初対面のような会話をしている彼ら以外にも、思い思いにこの室内グラウンドの施設をうろついたりする人たちや、会った人と話をしたり。
そして、MRグラウンドで行われている派手なアトラクションを観覧して思い思いの声援を送っている彼らもいる。
そんな様子からミリアは目を戻して、今もステージの中を駆け回っている彼女の様子を眺めていた。
『タッチ&タイムアタック』のステージでは、いろんな所に丸っこいマスコットが出現して、それを追いかけて走る人を見てるだけでも凄い明るくて、華やかな感じで観覧にも人気みたいだ。
このゲームは、以前見たときは、キューブ状や風船のオブジェくらいしかなかったけど、今は見た目からしてファンシーなコースになっている。
今もゲームを始める前に、プレイヤーの要望通りに外見が十数秒もしない内に変化し切り替わって、いくつものステージが目の前に現れる。
その中でも選ばれるのは、こういうファンシーな見た目のもので、私が見ている間でも連続で選ばれたりして人気みたいだ。
中にはハードなジャングルのステージを駆け回る『コンバットソルジャー』みたいな人もいたけれど。
身体の大きな男の人でも、アニメ調やファンシー系のステージを選んだりしていた。
EAUはリプクマの研究開発部門と密接に繋がっているから、こういうのもお願いすると作ってくれるらしい。
今ちょっと気になるのは、ステージの目の端に見えた向こうの、なんだか赤くて暗くてジメジメしてそうな明かりに不気味な、ぼんやり光る白い卵のようなものを回収して駆け回る人もいるけど。
たぶん、ホラー好きがいるようだ。
そんな、いくつかのジャンルのステージにバラエティに富んだテーマはみんなが楽しんで、走ってる人からも笑い声さえ漏れてるみたいだ。
更に上の上級コースは、より高低差の大きいステージになっている。
ミリアが見上げる大型モニタには、現在のコースごとの成績やコース別の上位のハイスコア - ランキングが映っている。
それに、画面が切り替わるとプレイ映像に走ってる人たちの姿も見れるようで、中にはかっこいい角度からの映像もある。
記録された映像のハイライトかもしれないけど、この施設の解析分析の機能を存分に使ってるみたいだ。
「よっしゃ、1位取ったる!」
「初級コース選ぶなよ」
入り口近くを通れば聞こえてくる、コース別に気合を入れる彼らのやる気はお互いに刺激され合ってるみたいだ。
確かに、ランキングに名前が載るかもってなると、変な成績は残したくない気持ちはわかる。
ちなみに、表示する名前はニックネームでもなんでもいいみたいで、変わった名前も表示されている。
『土竜』とか、『ネコシー』とか、『けーにひ』とか。
さっきの大きな声を出してた彼が、コースの前に行くと、スタッフの人に何か言われて、向こうの中級コースへ回ってた。
それを見てた友達らしい彼らは大声で笑ってたけど。
並ぶ場所とか順番とか、ちゃんと整理されてるみたいだ。
今もプレイ中の数人の駆け回る彼らの様子を眺めてると、とてもカラフルなステージが点滅して、身体に触れて得られるマスコットキャラなどから得られるスコアの加点、触れてはいけない減点などの光も見えたり。
良いプレイにはどよめきや拍手を送ったりで、楽しそうだ。
上級コースの方は、特に、機動系の特能力者が多いみたいで派手だ。
身のこなしが突出している人たちも数人いるのがはっきりわかる、壁を蹴って一瞬で数メートル先のターゲットに触れる人とか、高速で動く青白い光を陽炎《かげろう》のように空間に残す人がいる。
あれは、他の色と紛れて少しわかりにくいけど、ステージの演出ではなく、彼の特能力の発現効果によるもの、つまり特能力の癖みたいだ。
ちょっと珍しいかもしれない、あんなに『力』の流れが見えるのは。
それに、そういう彼らの動きは派手で華やかで、注目されて、拍手されることが多い。
動きが流麗で、常人じゃできない瞬間を跳ぶ綺麗な人たちがいる。
彼の青白い光も、ステージのショーの一部のように、綺麗だから。
「よく見ろってー!」
「そっち少ないぞー!」
「落ち着いてー、」
ワーワー言って、遊んでるみたいに。
周りの彼らも声を掛けて、仲間たちが見守る中で。
彼らは、楽しんで汗を掻いている。
こういう雰囲気、トレーニングって感じじゃないんだけれど。
でも、私も嫌いじゃないんだろうなって。
なんとなく、そう思った――――
『特能力者の在るべき姿とは?』
誰か、そんなことを言ってた。
ふと、思い出した。
『君たちが独善で望む姿ではない、特能力者の在るべき社会とは?』
たしか、バズキンズ博士が提唱したんだったか。
それは、特能力を扱う人たちが、本来の姿で、自由に遊ぶような、その光景は。
こういうことを言っていたのかも、って―――――
――――綺麗、だよね、」
華やかに舞うような人達がいて。
それを、観覧する自分たちの中で。
その段差に座って見ていた、女の子がいて。
「そうだね。」
聞こえていた、傍で頷く友達の彼女も、肩を並べて、同じものを見ている。
・・横顔を少し覗き見れば、さっきよりも彼女の顔色は良くなっている。
「タオル、もっと持ってこようか?」
「ぁ、大丈夫、」
よく寒気を感じていたらしいし、寒いわけじゃないらしいんだけれど。
ふわふわのタオルがあればもっと安心するだろうな、って。
「気分どう?」
そう、向かい側のもう1人の女の子、クロが真ん中の彼女に聞いていた。
彼女は、自分の胸の内を、気持ちを確かめるように少し俯いていたけれど。
「・・・大丈夫そう、」
静かにそう言えた。
「そか。」
微笑む友達も。
「・・クロたちと一緒に行けそうだね、ミニーも、」
彼女、ミニーは口端を少し強めに緊張させたのは、微笑んだのかもしれないけれど。
「・・アーチャは来ないの?」
でも、膝の上の手を、ぎゅっと握ってて・・・。
「どうだろうねぇ・・?」
いつも、はぐらかす時は決まっていて。
「私さ、こういう人たちがいるなんて、知らなかったからさ・・・、」
ミニーの言葉に。
でも、彼女はそう・・。
「うん。」
頷いて。
「『あの子』じゃん?」
そう、ステージへ指を差したのは、ずっとそっちを見ていた彼女で。
「あ、『あの子』だね。」
気が付いたアーチャも顔を上げて。
「・・私も、もうちょっと頑張る」
そう聞こえた、アーチャはミニーへ目を戻すと。
目を輝かせてる、ステージを見ているミニーの横顔へ、・・微笑んで―――――
―――――宙から落ちてきた少女は床を踏みしめる、その加重と加速の重さを膝で体で踏ん張りながら顔は次の目標へ向けられる。
すぐにトップスピードに上げるまでに丸い『ネズミ』に向かっていくと、まるで飛びつく『ネコ』になったような気持ちで、そのぽよんと弾む感触を、『拳』に当てた。
勢いよく飛んでいくボールのような『ネズミ』が彩色を失って灰色になりつつ、いくつもあるその辺のボールたちに運悪くぶつかれば連鎖して弾かれどこかへ飛んでいく。
ミリアは、走りながら次のボールに向かいながら、邪魔だからって勢いよく強く殴らない方がいいな、と思いつつまた次の『ネズミボール』へ手を伸ばして、ぺしっと平手打ちした、のと同時にまた次へスピードを落とさずに巡る―――――。
軽めのブザーが鳴って、気が付き見上げればステージの上に『達成!』の文字が出てた。
ミリアは、息を大きく吸って。
ふぅう、っと吐きながら自分の身体を少し見下ろすようにしてた。
身体の調子は悪くないと思う。
汗はまあまあ掻いて温まってるし、違和感はない。
「おつかれさま、成績は外の方で見てね、」
スタッフの人から声を掛けられて、少しずつ歩き出しながらミリアはステージの外へと向かって行った。
成績はあまり気にしてはいなかったけど、なるべくできるだけ早くクリアするのは心掛けていた。
トレーニングだから、それは当然で。
外へ出ていくミリアの背後でライトが動いて次のステージが設置され始める。
その横の待機スペースでスタッフの人が見せてくれる小さなモニタ、携帯デバイスにはリザルトが出ていて。
クリアタイムやポイント、それから減点など見れる項目はいくらか多くて、重要な最終スコアは・・・平均近く。
まあ、大体予想していたくらいのスコアだ。
「どうも、」
ミリアは携帯デバイスを返して、ステージの外へ出ていく。
結果はあとで自分たちのオフィスルームでも見れるだろうし、別に競い合う相手もいない・・いや、ガイくらいか。
ケイジ達はたぶん、来ないだろうし。
と、ステージの外に出たら周りの人たちに一瞬注目されたような気がしたけれど、ミリアは歩いて近くに掲示されたモニタの傍を見上げる。
今自分がやっていたのは上級コースだ。
アスレチック要素もあったけど、基本的には自動で自由に転がるマスコットを追いかけてポイントを集めるルールの『タッチ&タイムアタック』だ。
モニタにはその上級よりもさらに上の、エキスパートコースのベストスコアと名前が出ている。
『1位 88pts 土竜《もぐら》
2位 86pts けーにひ
3位 79pts セイガ
4位 70pts サンデー・ド・モンテ 』
ベスト4までは表示されていて、ちょっと奇妙な名前もいくつかあるけど、登録名は自由らしいので本名じゃない人も多いだろう。
通名《つうめい》を使っている人もいるだろうし。
見覚えのある名前もあった、さっき別ルールのランキングで見た名前だ。
すぐ向こうにエキスパートコースらしい、機動系の人が動いているステージが見えていたから、ちょっと足を向けてみようと。
「よお、」
って、呼ばれた気がしたミリアは気が付いて、ガイがこっちへ歩いてきていたのを認めて、左手の平を上げて見せてから、向こうの方へ歩き出した。
向こうでもエキスパートコースが動いているけれど、見た限りはコースが機動系の特能力者が有利にできている、というわけではないようだ。
なので、機動系の人が有利と言うよりは、機動性が突出している人が上位に来ているようだ。
「特能力は禁止だぞー」
「おーい、今発現が見えたぞー?」
って、賑やかな中で、笑いながらのヤジも自由に飛んでるみたいだった。
と、傍にガイが来たのに気が付いて振り返るミリアは、ガイが訊ねてきた、「どうだった?―――――
――――歓声がひと際上がる、同時に、ガイの背後、傍を誰か、ステージの上を飛んでいた、青年・・彼は、空高く身体をひねって、私の方を見た・・・彼の、その目が一瞬、合ったような気がした。
それは本当に、空高く―――――
――――――空高く、伸身宙返りをしたようだった―――――
その強い着地から路地裏のようなフィールドの―――――隅にいるマスコットの丸いファンシーな亀を触って駆けていく。
ミリアが振り返って見上げたモニタには、そのステージのゲームの様子がカメラで映し出されていた。
――――・・一瞬で飛び上がる、彼の動きは速すぎる。
見えたのは、――――振り回した踵の残像のように、青白い光が、微かに空気に色づいたこと――――――
「行ったぞロアジュ!」
『セイガ!相手のつぶせ!!』
高速度に乗ったロアジュが手を伸ばしていた、その目標が目の前で誰かの影と重なる―――――でっかい黒めのマントを羽織った目つきの悪い黒い犬のアバターだ――――――その身のこなしが地面の上で、踵《かかと》を擦りつけるように方向を変え、水たまりの飛沫が飛ぶ中を次の目標へ向かって駆けていく―――――既に、出遅れている――――ロアジュが、次の目標を探しに飛ぶが―――――「逆だっ・・!ロアジュっ!そっちのが薄い!!」――――――仲間の声に締めた口の隙間から息がひゅっと漏れる、舌打ちのような音を出しながら今更、目の前に見ていたターゲットの亀を足裏で滑《すべ》りながら足で触り――――――その次へ移る瞬間、角から飛び出したその横を誰かが、『敵』、見えていた、横を駆けてその『大きな黒い犬』がポイントを搔っ攫って行く――――ようやく身体が加速し始める、その前の一瞬の事だった―――――
「―――――作戦ハマってるんじゃねぇのかー!?」
路地裏を走っていた彼は仲間へ歓喜の声を掛ける。
「ははぁんっ・・?相手にゃいないな!優秀な指揮官みたいなのがさぁ!」
「お前のが優秀みたいな言い方やめろー!」
その壊れた扉を曲がって寂れた民家の一角に飛び込んだ。
「そういうつもりじゃないんだけどさぁああ!おっ!?、セイガ!!『待機』しろぉぃ!!」
天を見上げた彼の真上を――――クロスしちょうど跳んでき男へ――――――叫ぶ声に、速度に乗っていたセイガと呼ばれた彼は気が付き、離れた地面へ着地すると同時に右足を軸に多少滑り、方向転換する、水飛沫を上げ―――――ある一点の方向へと加速して駆け出す――――――床の『そこ』に置かれていた『銃型デバイス』へ手を伸ばし拾い、ずざぁぁっと、滑り立ち止まる―――――肩の付け根に銃床を当て構えていた――――――淀みの無い一連の動きが、そこで、止まった―――――。
―――――――路地裏の静けさ・・荒れたコンクリートの道路、穴の空いた壁、ヒビが入った窓、遠くに人が走る物音を感じている。
・・青空から、チチチ・・っ・・・と小鳥の鳴き声が聞こえていた。
―――――ステージに赤と黄色の光が混じり、アラームが起動する。
『ラストターゲット出現します。』
ガイドの声が響き渡る。
――――――『セイガ!』
――――仲間の叫ぶ大声、その前から構えていた―――――『タゲ、ノオォーゥスっ!!』――――反転して銃先を、向きを変える彼は両目を開き、照準器《スコープ》を覗き込んだ眼を僅かに細めていた―――――蛍光グリーンのペンキのようなものが声の聞けた方向から大量に放出されている、ステージの仕掛け――――『ロォオーックぅ!』路地の脇から飛び出てきた走る仲間が、指さすその先、動く目が捉えたそのターゲットへと向かって――――全身の筋肉に、正しく力が込められる。
――――たぅんっ・・・放たれる弾丸は一直線に、敵も味方も関係なくその方向を1弾が、路地のステージを貫いて飛ぶ――――――彼が見つめていたその『Shoot Me』の標的の・・僅かに下部に逸れて外れる、手の中の重み、僅かな角度を持ち直す――――たぅんっ・・!・・たぅんっ・・!!2弾目、3弾目―――――その白いカエルの丸いお腹に書かれた文『Shoot Me』の真ん中に命中して、べちょりっ!と色が塗りたくられた――――――
『ゲーム終了です!』
拍手と歓声が送られる。
その中で、彼ら3人は拳を突き上げて喜び、そして彼ら3人は肩を落とす対照的な表情を見せていた。
そして負けた彼は、ラストターゲットが宙を、板のように回転してカラカラっと回っているのを見ていた。
―――――ミリアはステージの横に立って、そのゲームを見ていた。
見えにくい所は掲示モニタに出るカメラ映像を見ながらだ。
お互い、レベルが高かったと思う。
おそらく勝敗に結び付いたのは、チームとしての平均的な能力の差という感じだった。
特に思ったのは、勝った方の機動系の彼、全体的によく動いて要の仕事をするキーマンを任されていたようだった。
機動系だから動き回ってポイントを回収するのは合理的、だけれど特に、最期の狙撃は、精確だった。
外した1発目は距離計算のためのもので、2、3発目で位置を修正して確実に当てる。
お手本通りの狙撃法だ。
流れの中で、プレッシャーのかかる状況で冷静に仕留められるのは、間違いなく上手い。
訓練を積んでいる人の動きだ。
そう、それが、機動系の人の仕事だったというのが、ちょっと新鮮に感じたみたいだ。
ただそれから、それよりも気になるのは、ラストシューティングの前に仲間が叫んでいた言葉があった。
それを聞いたらキーマンの彼がすぐに方向を理解して、標的を撃ったように見えた。
あの《魔法の言葉》、なんて言ったかはちょっと気になる。
まあ、今も思い思いの表情をしている彼らが歩いて、ステージを出て行く。
あの勝利チームは、効率的にチームをチームとして機能させることができていた。
あの敗戦チームは、チームとしての手数で負けたように見える。
途中から見たのではっきりとは言えないけれど、勝敗を分けたのはそこかもしれない。
私なら。
あの戦力でどう動くだろう?
「おい、今の特能力じゃないのかー?」
・・って、ヤジが飛んでいるけど。
「せこいぞー」
「はは、お前、言い過ぎだって、」
悪戯で言っているような人もいるようだ。
確か、禁止ルールの時に特能力を使ったら減点すると言っていた。
特能力を使ったかどうかなんて、はっきりとわかるもんでもないけれど。
今回は禁止されていないみたいだし、ただの意地悪なヤジだろう。
それに、みんなの動きはこのホール全体の測定器によって数値化されているので、不自然な動きや作用は観測されてスコアは減点になるだろうし。
特能力がわざとじゃなくてつい出てしまっても、一律に減点だろう。
だから、参加者は不正ができない。
それに、常に観測されていて、研究者の人たちがいつも裏でゲームの賭けを行っているという、嘘っぽい悪い噂も聞いたことはある。
嘘だと思うけど。
「可愛いネコ、足で踏むとか無理ぃー」
って、歩いてるとそんな声も聞こえてくる。
ターゲットを可愛いものにしたら、さっそく問題点が見つかっているようだ。
次回は修正されるかもしれない。
スタッフの彼らもいろんな様子だけど。
みんな笑ったりしながら、人と話の最中でもなにか気づいたことをちゃんと手持ちのノートに記入しているようだった。
―――――おいおい、『力』使ってもそんなもんかー?」
歩いているニールが顔を上げて向こうを見る。
「ヤジがうるせーな。」
そう愚痴で噛みつきそうだ。
「ここ、禁止じゃないのになぁ~?」
ラッドは能天気そうに他人事みたいだ。
「さっきのそんなにヤバかったか?」
ロアジュが真面目に聞き返してたが。
「性格悪い奴はどこにでもいるんだよ。それよか、あのブーツもまだ機能してないってことだろ」
ラッドは肩を竦めて見せてた。
「あんな距離でも発現が見えてるってことだもんな」
「ま、お前が良いとこどりばっかしなくてよかったわ。」
にぃっと、笑って見せるラッドに。
小首を傾げて見せる様な、ロアジュは微妙な表情を見せた。
「悪い、」
「ん?なんでお前が謝るんだ?」
「・・速さでも負けてた。」
どうやらついさっきの、ゲームでの話みたいだ。
しかも、見た目よりもだいぶ落ち込んでいる雰囲気なのか?
「おいおい。お前は速かったよ。もし謝るなら、・・立案担当した、この俺だ・・・」
ロアジュに驚くようにニールはそう、自分の判断力の無さを悔いる・・・。
「ちょっと待て、お前がいつ作戦を立てたんだよ。俺だろ?」
ラッドが異議を唱えてた。
「俺が指示出ししてたろ、」
「声がでかいだけだろ、」
わーわーと、ラッドとニールが言い合ってるが。
そんな彼らに肩を竦めるロアジュは、見慣れた様子で少し口元を笑ませるのだった。
「にしても、『あいつら』、ヤバいな。」
そうロアジュが、声をかけて。
「だからお前が、頭脳担当、オレ、声担当、ん?セイガのチームか?」
「それでいいのかよ。スピーカーかよ、ってか、だから言ってたろ。ヤバイって。」
「ああ、」
「つうか、あんな機動系、Class - Bにいたのか?って感じだ。」
「いるんだよ。あいつらが手を組むとさらにヤバくなった。あいつら、コっすいもんなぁ・・・」
「コすくはないだろ」
「言ってみただけだよ・・!」
「顔は見た事あるけど、目立った印象が無かったんだけどな。」
「そりゃあれだ。お前も悪いんだぞ。」
「俺も?」
「だよ。みんな機動系って、速さしか話題にしないからな。速さだけならお前とヴィドリオ、お前らしか話題にならん。」
「でもたぶん、ああいうヤツの方がAに行けるんじゃねぇの?」
って、ニールが。
「・・・・。」
ロアジュが黙ってしまったが。
「知るかよ。大方、みんながお前みたいに上昇志向持ってるわけじゃないんだろ」
「ん?」
「Bにいたいって思ってる奴もいるはいるんだよ、」
って、ラッドにそう言われた。
ロアジュは口を閉じたが。
―――――あいつはどっちかな・・・?
そう言おうとして、口を開きかけた。
「おつかれさん、みんな」
と、歩くのを追って来てくれたのか、後ろからその女の子、フィジーが笑顔を見せてくれる、並んで歩く彼女のその手にはタオルが数枚あって。
「使って?」
「お、あんがと、」
ニールが受け取る、そこらで自由配布されている支給品の新しいタオルで、わざわざ持って来てくれたようだ。
「ありがと、」
配るフィジーにロアジュも微笑みで受け取る、それに気が付いて微笑み返すフィジーだ。
「フィジー、スコア見たよ。凄いな、」
「え、あはは。ロアジュのがすごいよ、」
「あ、それな。つうか、フィジーにも負けてたろ。個人ランキング。」
「へん、組み合わせが良かったんだろ、」
「なんでお前が拗ねてんだよ」
「なんだかんだ、お前もけっこうヤバいよな、」
「やめてよ、」
「褒めてんだぜ?」
「ほんとかなぁ・・・」
「あれれ?」
「なんで疑うんだよ、」
「え~?」
「ニールがヤバイとか言ってるからじゃないのか?」
ってロアジュまで。
「すごいって意味だろ。ロアジュならなんていうんだよ」
「あー、」
ロアジュがちょっと、じろじろフィジーをじっくり見る。
「え、なに・・?」
ちょっと緊張したようなフィジーみたいだが。
「おっかしぃ~なぁ~?」
「やっぱ、ヤバいって言うな、俺も。」
「えー、」
「だろ、フィジーがヤバイんだ、」
「フィジーヤバい、はは、」
「なんで、みんな言うの、」
フィジーがちょっとふくれっ面みたいだけども。
「んだ、フィジーがヤバイとかどうでもいいんだけどさ。つうかさ?俺の分のタオルが無いんだよなぁ・・・」
さっきから小さい声で覗き込んでたラッドがそう。
「お?」
「あれ?」
「あ、ごめん、数間違えた。」
「俺が困ってんのに盛り上がりやがって。仕方ねぇな、フィジーのそれ貸せ、」
「え?」
フィジーの首には汗を拭いたタオルが掛けられているが。
「え?な、な、」
ちょっとどぎまぎするフィジーが、赤くなってくる顔で。
「な?」
「な?」
「うん。」
「なんでやねん・・!」
「いい判断だっ。」
フィジーが導き出した答えに、なぜか誇らしげに渋い声でニヤリとしたラッドだ。
「ははは、」
ロアジュやニールも笑ってた、なんかテンションが上がってる彼らみたいだ。
慣れないことをさせられたような、顔を熱くしているフィジーが微妙な顔にも笑いが混じっているようで、変なノリができあがって嬉しいのか、自然とつられるように笑う彼らだ。
「俺はそれを欲しがってたんだよ、」
「次はもっといいタイミングでできそうだな?」
「もういいよ・・・っ」
――――笑みが残るロアジュがそう少し、辺りを見たとき。
―――向こうで、同じ方向に歩いていた彼らを見つける。
さっきの対戦相手、『セイガ』たちだ。
彼はこっちを見たのか、目が合ったのかよくわからない。
――――向こうは勝ったんだ、大してこっちを気にしてないだろう。
周囲では相変わらず誰かがステージに立ってゲームするのを、みんなが眺めていたりだが。
座り込む彼らは、栄養補給用のボトルやパックなどを片手に座って、床や段差ですっかりくつろいでお喋りしていたりする。
――――――さっきのゲームで、今回やることは全部終わったか、次まで何をしていようか。
ロアジュがそんな事を朧気《おぼろげ》に考えたら、横に立ったラッドに気が付いた。
「それよかロアジュ、発現の『あれ』やっぱり見えてたぞ」
向こうを向きながら垂れる汗を腕で拭いながら。
「前よりはどうだった?」
「小さくはなってた。だが、本気だとまだまだ漏れるな。」
「もっと改良が必要みたいだな。」
彼は、その特製のブーツを履いた自分の足を見下ろして、踵からつま先をトントンと床に軽く打って鳴らしていた。
「会場のウケは良かったぞ。光ってわぁーって、」
「それは嬉しいよな。」
おどけたようなラッドに、ロアジュはちょっとばかり笑ったようだった。
通りかかったラッドが、その支給品の棚に畳まれて置いてあったタオルたちから一枚を取って、顔をもふっと埋めてた。
「お、運動の後のジェリポン、」
ニールが嬉しそうにその横の棚から、ジェリポンの1パックを摘まんでた。
――――あいつか、あのセイガってヤツ。たしかゼスが可愛がってたヤツだな」
「ゼスが?」
「ああ、あれか。ゼスはトレーニングのコーチもたまにしてるんだっけか。」
「Class - Bの中だとスコアは平均くらい?」
「Bっつうか、全体でそれくらいじゃないすかね?どんな感じでした?」
「機動系だが、安定しているな。行動一つ一つが無駄のない印象って言うのか。あの相手の青白いヤツには純粋な速度では負けそうだった。けど、速いな。実戦慣れでもしてるのか?」
「ロアジュよりは遅いだろうな。でもそれ以外で勝ったか。」
「身体の置き方や判断力だな。より実戦向きに見える。」
「あのチームは全員がフォローし合っていたよな。良いチームだ。」
「元々のチームか?」
「たぶんな。全員の息が合ってた、」
「そうっすね、データによれば最近チームを組んだみたいです。」
「あの機動系のヤツがちゃんと合わせていたな。突出しやすいもんだがよ、機動系ってのは。」
「性格もそういうヤツのが多いしな」
「そうなんすか?」
「俺の経験上だ。」
「ああ、はいはい」
「なんだよ。」
「ウッス。」
「指揮役もまあまあ良かったってことでいいんじゃねぇの?」
「最後の狙撃も正確に決めたろ。」
「機動系の癖に生意気な野郎だ。」
「機動系は狙撃を外すくらいが可愛げがあるんだよ」
「あ、ウッス、」
「それやめろ。」
「やっかむなよ」
「面白くねぇぞ、」
―――――おお、おおぉ、おぉぉお?」
「なんだようっせえな、」
「俺らなんか注目されてね?」
「上位がいるチームやったんだからな、そりゃそうだろ、」
「お前も顔面が変になってるぞ」
「マジか、」
「今頃面食らってるぜ、あいつら・・」
いっひっひ、と笑う彼が、・・気が付けば、傍に歩いていたセイガが立ち止まっていて、向こうから出てきていた相手チームの奴らを見ていたようだ。
わかりやすい、どこにいても目立つようなロアジュ、あいつがセイガに気が付いたようで、暫く目を合わせていたようだ。
どちらも口は開かなかったが。
「はっはぁっ、セイガ、可愛い子でもいたのかっ?」
セイガの背中を叩いたそいつ、デンは笑顔で何も気づいちゃいないようだった。
「今ならきっとモテるぞ。」
歯を輝かせた良い笑顔を見せてた。
「・・かもな。」
って、セイガは低い声で。
「デン~、シャイなんだからやめとけって、」
「今がチャンスなんだぞ~」
ぐいぐい来るデンに、セイガの眉がちょっと険しくなる、ちょっとイラっとしたようだった。
――――そういえば。
こういうの、ケイジが得意そうだなぁ、ってちょっと眺めててミリアは思った。
機動系の彼らがステージの中で、自身の身体能力を生かして飛ぶように動いているのを見ていると、ケイジが混ざると実際どうなるんだろうなって思うけれど。
ケイジはたぶん、来ないだろう。
リースもまあ、来ないだろう。
うん。
「まだ呼ばれないみたいだな。」
って、傍で一緒に見てるガイが言ってた。
「ケイジ達から連絡来てたりするかな?」
「あいつらはしないだろうな。」
って、ガイが言ってた。
なんとなく、ミリアはガイの横顔を見てたけど。
ガイがこっちを見たから。
「そだね、」
ミリアも頷いてた。
・・・。
「あのさ、あっちに、」
ミリアが向こうをちょっと指差して見せて。
「ん・・?ああ、射撃シミュレータ―も使えるんだな」
ガイも、ミリアが首を向ける方にある、射撃訓練用のMR施設を見た。
さっきから気になっていたらしい、ミリアが見る方は人が結構いる。
その理由は、たぶん、これの所為だろう。
「『チーム&シューター』でライフル使うから、肩慣らししてるのか」
「そうだね。」
・・・頷くミリアは。
向こうを見ているが。
「・・使っていいみたいだぞ?」
「・・・」
ふむ。
まあ、トレーニングも仕事だし。
マジメにやるのはとてもイイことだと思う。
「私もやっとこ、」
ミリアは向こうへ足を向けていた。
そんなミリアの後ろ姿を、見送ってたガイだ。
・・ガイは、周りをちょっと見つつ。
なんだか自分たちが注目されている視線は、ここに来てからずっと感じている気がしていたのだが。
「じゃ、俺も、」
ミリアの傍へ、ガイもそう追って付いてきてた。
―――――――いつもこんなのやってるのか?こいつら、」
「ん?どうした?」
顎髭を生やした大男が、その巨体でその段差をソファのようにダレている。
「子供の遊びみたいだ」
向こうの様子を見る顔は退屈そうで、顎をしゃくって不思議そうに眺めてる。
「いやぁ・・」
返事に困ったような傍の彼もいるが。
「あ、アイフェリアさん」
と、戻ってきた彼女は名前を呼ばれて、手を軽く上げて見せる。
「っとぉ、」
ソファでダレていたような大男は起き上がって背筋をいくぶん正していた。
アイフェリアはそこで両腕を胸の前で組んだまま、彼らと同じ方を眺めている、その端正な横顔を僅かに彼へ向けたが。
口を閉じたまま静かで何も話さず。
彼女のその横では、そこで繰り広げられているゲームを見ている彼らが言葉を交わし合っている。
「子供の遊び場だと思わないか?アイフェリア」
そう、背筋を直した大男は問いかけていたが。
アイフェリアはそのクールな目で彼を一瞥しただけだ。
代わりに答えたのも横の、その内の1人だ。
「見た所、必要なのは敏捷性、スタミナ、視界の広さ、仲間の連携、それから判断力、アドリブだな。」
「俺なら余裕でやれるね、」
「そういうヤツは地獄へ落ちろ」
「へっへ、」
「お前だよ、ゴラバス、」
アイフェリアはプレイしている彼らをじっと見ている。
さっきから呼びかけてきていた彼、ゴラバスを無視しているみたいだった。
「冗談だよ。悪ぶっていたわけじゃないけどよ、」
だから、根負けした彼はまるで降参した様子だ。
そんな姿を見る事も無い、アイフェリアは傍のグループと向こうの戦いを見学している。
「少ない時間で仲間との打ち合わせも必要だしな。気心の知れた仲間たちとやるならある程度はカバーできるが、見ろよ、ハイスコアを出す奴らは声とボディランゲージもちゃんと使ってる。」
「練度が知れる。」
「上位のやつらは素直に称賛に値するレベルだな」
アイフェリアがそう、彼らへ冷静な声、芯の通った声で同意した。
「へっ、」
その声を聞いて、彼、ゴラバスは口端を上げて笑ったようで。
またその辺の様子に、つまらなさそうに目をやるのだった。
「どうだい?実際に見てみて、」
と、声を掛けられて気が付き、後ろの人影を見上げる。
「お、あんたか、」
他にも気がついて行く彼らは、その職員のようなワイシャツにスラックス姿の優男に気がついて行く。
背は高いがおよそ力仕事とは無縁そうな柔和な笑みを見せる彼は、ワイシャツを腕まで捲っていて、仕事の合間にふらっと立ち寄ったような出で立ちだ。
「ヴェルべさん、」
「うっす、」
「視察っすか?」
アイフェリアも向き直って、彼へ背筋を正す。
「おはようございます。」
「お疲れ様、みんな。順調かい?」
「順調も何もないですよぉ、こんなお遊戯みたいなの見せられて・・」
「トレーニングは順調です。」
アイフェリアが、そのゴラバスのダレている言葉をカットインしていた。
ゴラバスは半眼でアイフェリアのクールな横顔を見ていたが。
「そちらの調子は?面白い人でも見つけたかい?」
「こちらの方は、まだ観察が必要な状態で、」
「あ、そうだったね。邪魔してごめん。気にせず仕事に戻っていいよ、」
「はい、」
アイフェリアたち彼らはそれから、向こうのゲームの方へ顔を向ける、その前に。
「やあ、トリッシュ、」
「今日は見学か?」
と、大きなヴェルべの傍に立つ、というか、半歩後ろに少し隠れ気味の、小柄な少年、のような少女に声を掛ける。
白いシャツに長いストレッチパンツ、とボーイッシュな格好の少女は全体的には華奢な印象だ。
一応、彼らの方を見る切れ長、つり目気味のの目つきは、一度、二度とこくこく頷いてから、目を離して向こうを見る。
彼らはそんな少女の様子に、少しの笑顔を見せて前を向く。
アイフェリアも、そんな彼女の様子を見ていて、・・少し口元を微笑ませていたが。
「面白そうだろ?トリッシュ、」
彼が訊ねた傍の少女は、彼と比べればとても小さい。
華奢な体躯、茶色い短髪、長い睫毛に切れ長の瞳、表情はあまり移さないが。
彼らとはあまり目線を合わさずに、その広いトレーニングホールで繰り広げられている大人数の賑やかな様子を眺めていた。
ゴラバスは一度、横目にその少女を少し見たが、興味なさげに向こうのトレーニングの様子に目を戻すのだった。
「それじゃあ、よろしくね」
ヴェルべは彼らへ微笑み、少女、トリッシュの肩に手を触れて傍を離れる。
「はい」
気が付く彼らは手を上げて見せたりして。
そんな彼の手が一度触れたのに気が付き、トリッシュはヴェルべの傍を付いて行く。
「あのモニタ、見てみ。すごい飛ぶね。青白いってことは、あれがチーフの秘蔵っ子かぁ・・すごいなぁ、」
少し早歩きに付いて、それから彼女が口を開く。
「青白い光の、瞬間加速するタイプみたい。かなり馴化してる、」
少しつまらなさそうな、仏頂面のようにも見える彼女だけれど。
「凄い跳躍の人も、足場に設置してないと跳べなさそうだけど。」
聞きたかったのは、全体の雰囲気とかそういうことだったんだが。
「・・いろんな・・・」
少女が、モニタにも映る彼らの姿を追う目は、見つめる瞳の奥に、僅かに煌《きら》めきを魅《み》せるから。
「機動系だけ?」
聞かれて、少し反応が遅れた。
「・・ん、」
彼女が見るのは、彼らの様子。
視線を、顔を振って、観覧している人たちまで見回していた。
「・・・無理やり抑え込んでるみたい」
「あぁ、ここでは身体能力を見てるから、他の人には我慢してもらう形になっているけど・・」
彼の視線に気が付いて、彼女は。
「・・なに?」
「いや。君が楽しそうで、」
彼が少し表情を柔らかくして。
「・・・」
彼女は口を閉じて、前を向いたけど。
頬はちょっとだけ、膨らんだかもしれないけれど。
「今日は、最後まで見れるよ」
眼前に広がるトレーニングホールの光景に、EAUの面々が集う景色へ。
顔を上げたヴェルベを。
・・その彼を見上げた彼女は。
ヴェルベが、目を輝かせるような、そんな景色を――――。
――――追っている、その景色へ、鋭い眼は睨むように見えるかもしれないけれど。
またちょっと膨らんだ頬はちょっと、ほんのちょっとだけ、うっすらと紅味が増してきてるみたいだった。
――――ミリアが。
空いていたルームナンバーを選んで、入り口で引っかけられていたライフル型のデバイスへ手を伸ばして。
ベルトが変に引っかかって、背伸びを少ししたが。
ライフルは腕の中でずっしりと重く、それのベルトを頭の上に潜《くぐ》らせ肩に掛けた重みを分散させる。
「実戦以来だな、この前の、」
離れるガイが、そう――――――それが、一瞬の。
――――――砂漠の景色が。
闇夜の、あの匂いが―――――
一瞬だけ、甦った―――――
それは、ほんの一瞬だけだ。
―――――・・私が今、持っているものは。
あのときの、古びた本物の長銃じゃない。
・・射撃位置に立っていた私は。
ずっしりとする、腕の中の重みを・・・。
・・・さっきよりも重い・・。
・・両手に持つ『それ』を、見下ろしていた。
これは、『ライフル-デバイス』、訓練用のものだ。
現在、リリー軍部で主流のアサルトライフル『ジェスオウィル』を模している。
これを使い、MR空間に出現する標的への射撃をする。
使用する際の、構造上の重み、重心、射撃時の反動、弾道計算など諸々がほぼリアルに再現されるよう計算されている。
だからこれは、戦場で使うものとほぼ同じ。
訓練で使い慣れているもので。
だけれど、なんだか感触が、おかしい気がした。
あの時とは違う。
あの時と違う。
この最新のライフルなら、―――――『あれ』に当てる事ができたのだろうか。
ブルーレイクは、闇だった。
何か腐ったような匂いが強く残っていた。
特能力者は、闇から襲ってきた。
一発も当てられなかった。
あの時の暗闇、光、臭い、闇夜の熱さ、私の荒れた呼吸―――心臓の音―――――目の前にあった、すべてのもの。
特能力者の『彼』は、更に特殊だった。
冷静な時間を経た後でも、思い出しても、そう思う。
瞼を閉じれば、暗闇が私を見ている。
鋭い銀色にも似た野生の動物の眼光が、私を捉えていた。
息を吸う、ミリアは――――
息を、吐く、・・・ミリアは――――――
けれど、私がやることは、1つだ。
『彼』がいかに、特殊であろうとも。
どれだけの速度を持っていようとも。
・・相手は、人間だ。
あのとき、私は冷静じゃなかったかもしれない。
もしも、私が、もっと冷静だったら。
もっと、精確だったら。
私の判断が、正しければ。
この訓練のように。
冷静でいられたのなら。
もし、私が――――
たくさんの人の命を救えた可能性があったのなら―――――
バットストック《銃床》を肩に当て、ライフル-デバイスの先を正面に合わせて、構える――――――――――
―――――――おい、」
「ん?」
「あれ見ろよ?」
モニタを瞬くようにしている友人を、気が付いた彼も同じ方を見やる。
いつの間にか、同じ方向を見ている人たちが他にもいたようだ。
映し出されている大型モニタには向こうの射撃演習場の様子で、MRが加算された景色が見える。
カメラが自動的にハイライトを追っているのか、今メインでやっているステージとは関係のない方だが、なぜか人が注目し始めているようだった。
射撃場の近くにいる人たちが、1つのブースを見つめているのだ。
「なんだ?」
「なんかすげぇ上手いヤツがいるって、」
「射撃が?―――――
――――――目の前に広がる場面はいくつか切り替わった、何度目か、ミリアは溜めた息を深く吐く。
・・そして、また胸に空気を大きく吸いこむ。
MRが作り出し現れる市内の景色、車両が乱れて炎上している交差点、道路の両脇にいくつも並ぶ店の中は破壊され煙を上げる、武装した人間たちが物陰に動く。
味方が隣にいる、そして物陰から飛び出してくる人影、民間人が恐怖で動き始める。
市街地戦に巻き込まれた、テロリストから逃げる人たち。
表情が、ちょっと不自然だけれど。
構えていた銃口を素早く戻す。
僅かに手を出し拳銃を撃つ人、走って物陰に飛び込もうとするテロリスト、応戦しようと僅かな頭を出す人間、現実に想定されるシーンがいくつも現れ、動く人影のタイミングを、標的を撃ち抜いていく。
動く人間の姿、そして構えた射手の姿、こちらへ狙いを定める敵の姿。
――――それら全てを撃ち抜いていく。
狙った場所を、精確に。
僅かなズレ、それは起こる。
仕方ない。
必要なのは、それを上回る集中と調整。
私がいま構えていること。
身体の芯を感じること。
必要な筋力を感じること。
それらを感じて微調整する、角度を、再度、狙う箇所を撃ち抜く。
何度でも、何度でも、目を常に動かして、指先を連動させて、銃身が暴れる衝撃を全身で受け止めて、いくら撃っても、撃っても――――――いくら撃っても。
硝煙の匂いは感じない。
―――――これは、ただの訓練だ。
そこは壁も天井も白い研究室の1室で、ポロシャツを着た男が部品や工具が置かれたデスクに向かって座り作業をしていた。
彼のデスクの上には、趣味のヒーローアニメ、『ガッツ・ルーディー』のヒーローやヴィランのフィギュアなどが飾られている。
『俺が最強なのは本気出さなかったから』のちょっとセクシーな肌色多めな女の子のフィギュアは、少し奥の方に隠し気味に置かれているが。
他にも『悪食の証拠』の、主人公が禍々しい大刀を背負って手をかけているカッコいいムーヴィピクチャの小さいモニタが置かれていて。
時に大概、目を離した際にその凶悪な雄々しい姿が動き始め、鋭く光る眼が見下ろしてくる。
そんなデスクの上で彼は、専用ドライバーを使いネジを回してその金属で作られた腕の付け根の部品を留め終わると、顔を上げて椅子を回し振り返る。
「ケイジ、」
呼びかけた名前に、そこの椅子の上で備え付けられた台の上に左腕を差し出していた、だるそうな黒髪の青年が気が付いて目つきの悪い顔を上げる。
彼の傍にはもう1人、アシスタントしていた彼がそのケイジの腕を触って診ていたが。
名前を呼んだ彼が向き直り、その椅子の上で深めの息を吐くとケイジのその黒い目に向かって、静かに伝える・・・。
「言い忘れてたが。」
デスクの彼の声は、あくまで静か、そして穏やかだ。
「お前の腕な、」
「ああ・・?」
ただ在りのままに在ったことを、伝えるだけだ。
「かなり深い傷跡があった」
ケイジには、その意味がわかる。
ただ、ケイジは口を開いて・・。
「・・・マジか。」
静かにそう、呟いただけだった。
・・あのときのこと、それから腕の構造上の説明は何度も聞いたし、その上でケイジにはよくわからなかったのだが。
彼らに口酸っぱく言われ続けた事実と時間は、重みとしてちゃんとある。
「ああ、驚いた。こんな傷つけられるのは・・・、なんつっうかな、これは特殊だ、」
・・よっぽどやべぇ奴だったんだな、『あいつ』。
傷はあのときのものだ。
ブルーレイクの事件、今でもよくわかっちゃいないが、あの凶暴な特能力者とやり合ったときのことだ。
暗闇が何も見えないぐらいに深い中で月明かりに見えた、ギラついた鋭い眼光、銀光のような爪、変形した異形な顔に牙もあったと思う。
嫌な金属のような色と光り方をしていた、それらが凶器だったし衝突で何度か強い衝撃を受けたことは覚えている。
それとあいつの狂気を交えたような喋り方・・・不気味で、何かがおかしかった。
今まであんな特能力者は見た事ねぇんだが、・・・まあ、ここの連中ならみんなこう言うんだろう。
『よくわからなくても。どんな特能力者でも、どんな事でも有り得る』って。
「いつ直るんだ?」
ケイジが、思い出していたのは一瞬だ。
今、目の前にいる研究者の彼を真っ直ぐに見ていた一瞬だ。
彼を睨みつけているように。
「・・・・」
問いかけられたデスクの彼は、口を噤んだままその眼差しを甘んじて受け入れる。
「・・おい。ドクター、・・レチョイ、・・・なんだよ?」
・・がちゃ、かちゃ、と無言で作業していたアシスタントの彼が、ちょうどケイジの腕のその器具を外し終わった。
それから、その金属の腕を両手に持ってその場を離れた。
「これは回収しますね」
「ああ、どうも。」
デスクの彼のお礼の声に、ケイジも振り返ってアシスタントの彼へちょっと頷いて、それから彼の方に顔を戻した。
「実は、」
ドクターと呼ばれた彼は、意を決そうとしていた。
「・・なんだよ?」
ケイジは、その話し方に嫌な予感はしていた。
思わず身を乗り出しかけるケイジは、その先を促すように・・・。
「また、『修理はしたんだが、新しいヤツも試さないか?』って、あいつらが言ってきててな・・・?」
嫌な予感、していた・・・。
「ぜひ君の返事を、」
「やだよめんどくせぇ」
大きな口を開けてケイジはほぼ即答した。
そしてその勢いのままに、その背もたれへぐぐいっと寄り掛かって、患者用の椅子を軋ませていた。
ぎぎぃっ、となかなか大きく背もたれを鳴かせているケイジに、Dr.レチョイは少し溜息だ。
「ちょっとだけでもいいから付き合ってやれよ、」
「あいつらしつけぇし、」
「俺も断るのに骨が折れるんだよなぁー。まあ、連絡は入れとくんで。時間があったらよろしく。」
「行かねぇけどな。」
「ドクター、義手が来ましたよ、」
「お、新品が来たな」
そう、ちょうど部屋に入ってきた白衣の彼女に気が付き、案内してくれたアシスタントの彼がすれ違って身体を避けつつ道を譲《ゆず》る。
「ごめんねー」
「いえ、」
溌溂《はつらつ》とした彼女が持っていた、というか、その両肩に担いでいた大きな器械の部品を、その辺に空いていたスペースにゆっくりと気を付けて下ろす。
「大丈夫か?」
「ちょっと手伝ってよ、」
「それもそうだ。」
気が付いたようにそんなこと言いつつ、椅子の上でただ眺めているだけのDr.レチョイだ。
ケイジも見てるだけだが。
彼女はがちゃがちゃとちゃんとそれら、義手と義足と遊んでいる。
「んじゃ、付けるか、」
Dr.レチョイがケイジに言ってた。
「ぐっ、ぬっ、ふぅ・・っ!ちょぉおっと、」
って、彼女がちょっと怒っているようだったが、アシスタントの彼が見かねて手伝いに入ったようだ。
「ありがとねー」
「ちゃちゃっと繋ぎたいんだよな。もうトレーニング始まってるしさ、」
「お前、行く気なかったろ。最初からさ」
「そうでもない」
「ほう、感情が籠《こも》ってないな」
「籠めてるよ」
「俺くらいになるとわかるんだなー」
「ちょおおい、ちょっとくらい手伝っても良かったでしょっ」
「グッジョブだな、ゾリィ」
「おつかれっす、」
「あー腕重っ、つかれたー。やっぱ誰かに手伝ってもらうんだったわ・・・。」
「1人で持ってきたんだから大したもんだ、」
「最近、ジム行ってボディメイク?鍛え始めたのよねー。それより、例の話をした?ケイジ君に、」
『例の話』か、さっきの嫌な予感が再び。
「したした、」
「それでそれで?」
「やらないって、」
「え~~~、」
「ほらな?」
何が『ほら』なのかわからないが、レチョイはケイジとそのゾリィの2人にドヤ顔で言って見せたようだった。
「さて、さっさと付けるか、」
って、DR.レチョイは立ち上がる。
「そっちはあまりしつこくしないんだな?」
ケイジがちょっと聞いてみていた。
「開発部のやつらが言ってるだけだしな。俺はお前が健康ならそれでいいの。まあ一応聞いたってことで。」
「ふぅん、」
「じゃあさっさと終わらすぞ」
「聞こえてるよ、レチョイ先生、ケイジ、」
「おっと、力持ちのゾリィ、」
明らかに会話を聞かされているのに、苦労して運んで来た開発部のゾリィにわざとらしく今気づいたようなリアクションだった。
「こんくらいも持てないの、スーパーヒーロー?デスクにかじりついてるからヒョロヒョロになんじゃない?」
大げさに肩をすくめて見せた彼女が、次は腰に手を当てたポーズでそれなりに華奢な筋力を勝ち誇ったみたいだ。
「俺は持てるさ。でも、今は機械をいじるより繊細な事をしているからね」
ケイジの目の前では、よくわからん軽口を叩いている担当医師のレチョイだ。
「繊細な事されてたの?」
ゾリィに聞かれて。
「いや、ぜんぜん」
ケイジは首を横に振っていた。
思い返さなくても、なんかくっちゃべっていただけだ。
ゾリィが視線を戻したらレチョイは肩をすくめて返してた。
ケイジも何度か顔を合わせているが、彼女も開発部の人間だったはずだ。
所属は、主にMAMSを専攻している系の部署らしい。
一応、ケイジが使っている義肢も広い意味ではMAMSと言えなくもないらしい。
なので、そっちの方からいろいろ特注で必要なものが届けられる。
まあ、ケイジからすれば、研究開発部の連中は怪しい器具を持ってきては隙あらばテストを手伝わそうとする、警戒すべき奴らばっかりだが。
ケイジには、定期的に診察を受けに来る義務があり、その度に話を持ち掛けられ、逃げ出そうとするのと罠に嵌《は》めようとする攻防が起きる、のはうんざりだ。
ちなみに、担当医はこのDr.レチョイだ。
彼はメンタルケアのカウンセラーなども兼ねているらしいが、ケイジが覚えている限り、こいつがそれっぽいまともな話をしてきたのは最初の1、2回程度だった気がする。
ヒーローアニメやスポーツも好きな彼はよくそういう話をしてくるが、まあ、嫌いじゃない。
「で、ケイジ君は怪我も何もなかったの?」
「そういうのはもうドクターに言った。」
めんどくさそうなケイジに言われたゾリィは、レチョイと目が合って。
「守・秘・義・務。」
とだけ言われた。
ゾリィがちょっとイラっとしたのか眉を顰めて、肩をすくめてたけど。
「ねえケイジくん。報告書読んだんだけど~、細かいところが書いてないんだよね。ちょっとだけ教えてくれない~?」
ゾリィに急に猫なで声が混じってきた。
「ん?なんのだ?」
「それは、『どんな奴があの義手の傷を作ったのか?』!」
「あれか。あれは・・たぶん、あいつだな。あいつがやった。」
「どんなやつ?」
「変な能力者だったな、」
「ほうほう?それでそれで?」
食いつくゾリィに。
「それ言っていいやつなのかい?」
って、レチョイに言われたケイジは。
「わかんね。」
それでケイジは開いてた口をやっぱり、閉じる事にした。
「もうちょっとぽろっとしてくれよ~」
ゾリィは不満そうだが。
口を閉じてるままのケイジは、ちょっとむんとしてる、カエルのような顔で断固として開かなさそうだ。
「ケイジくん~・・・っ。」
「それより早く腕を付けてくれ。肩が軽すぎるんだ、」
「そうだな。ちょっとやってくれないか?」
「あ、私が?」
「いや、ゾリィっス、いいっす、」
「なんでよ。」
近づきかけてた彼女を右手で制するケイジは、アシスタントの彼をちらっと見たら目が合って、察してくれたようで傍に来てくれた。
「じゃあ、なにか他に言える事ないの?なんか面白い事あったとか、仲間たちの事とか。」
ケイジは腕をアシスタントの彼に預けながら、聞き流すことにした。
「そだ、あのミリアって子の事を教えてよ」
って。
「ミリア?なんで?」
「ん?ちょっと有名というかね。」
って、ゾリィが言ったら、Dr.レチョイが口を開いた。
「ちょっとイレギュラーだから噂になったっていうだけなんだけどね。ほら、理由が必要だろう?イレギュラーになるには、何かの理由が、」
「イレギュラー?普通の奴だぞ」
「ま、そりゃ性格は良い子でしょうけど、そこじゃなくてね、」
「っていうか何を知りたいんだよ」
「素性かな?知らない?あのミリアって子のこと聞いてない?」
「知らん。」
「例えば、『軍部から引き抜いてきた』とか。『逸材』とか、そんな噂があるでしょう?それは知ってる?」
「知らん」
「君はもうちょっと噂の類に興味を持った方がいいぞ?」
「・・・」
ゾリィに茶目っぽく注意されたので、余計にちょっと黙ってむんとしているケイジみたいだ。
「それで、彼女は特能力者かもしれないだろう?」
「EPFが来たかもって噂も聞いたことあったな」
って、レチョイも横からそう。
「特能力者ねぇ・・。なんでそう思ったんだ?」
「ほら、背が。」
手の平でひらひらする彼女だ。
ケイジもそれでなんとなく合点はいく。
その手の平はミリアの背丈よりも若干高いが、誰もが似たような印象をミリアに持っているようだ。
『チビ』だ、と。
まあ、それについては言う事が無いケイジだが。
「・・・」
「で、彼女、どんな特能力者なの?」
って、彼女はケイジへ。
・・ケイジは、ぷいっと向こうに顔を向けてた。
「言わないの。」
「おいおい、守秘義務があるんだぞ」
レチョイが横から言ってきた。
「いいじゃない。ぽろっと話してくれれば。ココだけの話ってやつよ」
「そういうマナーが悪いから嫌われるんだぞ」
「え、わたし嫌われてるの?」
ゾリアが初耳ショックを受けたようだ。
「知らん。それより、早く終わらせろよ」
ケイジはそんなことよりも、早く解放されたい。
「あ、私にもコーヒーちょうだい」
聞く耳も持っていないゾリィか。
「そこにあるから自由に飲んでくれ」
「これ終わったら脚の方も外さないと」
アシスタントの彼の言葉に、ケイジは黙って待つしかなかったが。
彼は新しい金属の腕をちゃんと、嵌《は》めて。
「じゃあ、新しいのテストしてくれるって?」
あっちで自分でコーヒーを淹れながら、ゾリィがしつこく言ってくる。
「いつ言った、」
「なんでしてくれないのさー」
「勝手に指が動いてたんだぞ」
「この前のそれは~、ちょっと変な機転を利かせちゃってぇ、モーターで更に力の伝達率が倍化とか、下心持ってるヤツがいてさぁ。でも今回は付け心地、最高。」
「そういうのつけんなって言ってんだよ!?」
不穏な言葉には敏感なケイジだ。
「だいじょーぶだいじょーぶ、」
ゾリィには届いていないようだが。
「あんまり動かないで・・」
って、アシスタントの彼が言うが、ケイジはずっとループする気がしたので、義手が留まっている自分の左腕を自力で持ち上げて、指先を動かしたり手早く確認すると立ち上がった。
「調整してないよ?」
アシスタントの彼はそう言うが。
「リースにやってもらう。」
ケイジは、そこに置いてあった義手や義足の残りの部品を素早い動きで担ぎ出す。
「ちょっとちょっと、」
ゾリィも熱々のコーヒーカップを片手に見送るだけだ。
「ほら、拗ねちまった」
「あたしの所為?ごめんね、」
「拗ねてねぇよ。めんどくせぇんだよっ、」
離れたところから遠吠えが聞こえてくる。
「新しいやつ本当に要らないー?」
「他の奴に試せばいいんじゃないの?」
と、レチョイがゾリィに問いかける。
「新しく原動機付けるのがめんどくさいのよ。他にも調整必要だし。一体化すると重量が増すしで、」
「ケイジがうってつけってわけだな。」
「うっせ」
遠くの方で聞こえてたらしいケイジがそう言い残して、自動扉から部屋の外へ出て行くようだった。
「ちゃんと後で仮着《かりちゃく》のやつ返せよ?」
って、ケイジの背中に声をかけたレチョイだが、そのまま部屋を出て行ってしまったので、聞こえたかは微妙だった。
そんなケイジの姿を見送っていたゾリィ達だったが。
「彼、怒っちゃった?」
「いや、照れてるだけだよ、たぶんね。」
レチョイがモニタに向き直って、マグカップのコーヒーを一啜《ひとすす》りして、記録の続きを始めたようだ。
彼がそのままケイジを帰したってことは、特にコンディションに問題は無いのだろう、ってゾリィは思う。
「あ、聞きそびれた、」
「ん?」
「あの義手の傷もどうやってついたの?」
さっきも訊ねていた質問だ。
「ん~?まあ・・・、本当に詳しく情報は行ってないのか?」
「ある特能力者と戦闘があったってことだけ。何があったの?」
「それなら俺の方からも何も言えないなぁ・・」
「あの合金が曲がってたのよ?10mmも。信じられる?」
「ん?ああ、相当なもんらしいな。10mmぽっち?だっけ?」
「まるで同等以上の鋭角な合金が激しくぶつけられたみたいだっんだたけど。」
「それがどうしたんだ?」
「報告書の通りでしょ?不可思議なことだらけよ?
鋭角な合金って言ったけど、痕跡は動物の爪のようなものとも分析されてるし、野生の動物の爪がそんなあの『オロ-メタル』を傷つけられるわけないし、野生なら付着してそうな細菌も見つからないし、爪の有機性物は付着していないしで。
だからこれから推測するに、特能力のエグジスト系の発現効果によるものと報告せざるを得ないんだけれど、そんなこと本当にできんの?って感じ。」
「そのまんま報告すればいいんじゃ?」
「あんまりくだらない発言はしたくないでしょう?」
「でも有り得るのなら提起することは・・」
「嫌な奴がいんのよ。」
「ああ、なるほど。」
「他人の失敗をいつまでもネチネチ言うような奴がね。」
「ふむ。軍用金属より頑丈な物質を作り出せるA-Strayer(無所属の特能力者)かぁ・・・」
「思い出したら腹が立つ・・!」
「落ち着いてくれ、」
「だって、あなた信じてないよね?」
「わかったよわかった。君はずいぶん興味を持ったようで」
「うちは生半可な物をEAUの隊員に持たせてなんてないから。戦闘の事情は知らないけど、あの義肢だってお墨付きってことになってんの。」
「仮にもClass - Aの隊員専用カスタマイズだもんな。問題になりそうだ。」
「戦闘データはリプクマ全体に共有されて、装備の改良の基《もと》になるからね。まあ、それだけ影響がありそうな事案ってこと。」
「そっちは聞いていた以上に凄そうだな」
「この名誉ある責任感わかる?下手な装備を持たせたらこっちが怒られる。やりがいがある職場です。」
「無理して言われてもな、」
レチョイは苦笑いをして。
「まあ、イレギュラーな状況だったとも聞いてるけどね。」
ゾリィがそれから、まだ熱いコーヒーの香りを楽しみつつ一口含んでいた。
―――――同一デザインのトレーニングウェアをまとったみんなが集まり、がやがやと賑わしいトレーニングホールの一角で、彼らも立ち止まって顔を突き合わせて会話していた。
「へえ、お前C級か。」
「そっちは?」
「俺はB」
耳に届いて、振り返るミリアは近くのゲームを観戦していたらしい彼らの様子に目を留めていた。
「いつもどこでやってんの?」
「いつも?指定された場所に行くだけだけど」
「ああ、やっぱ違うんだな。俺らのと、」
その辺に屯して初対面のような会話をしている彼ら以外にも、思い思いにこの室内グラウンドの施設をうろついたりする人たちや、会った人と話をしたり。
そして、MRグラウンドで行われている派手なアトラクションを観覧して思い思いの声援を送っている彼らもいる。
そんな様子からミリアは目を戻して、今もステージの中を駆け回っている彼女の様子を眺めていた。
『タッチ&タイムアタック』のステージでは、いろんな所に丸っこいマスコットが出現して、それを追いかけて走る人を見てるだけでも凄い明るくて、華やかな感じで観覧にも人気みたいだ。
このゲームは、以前見たときは、キューブ状や風船のオブジェくらいしかなかったけど、今は見た目からしてファンシーなコースになっている。
今もゲームを始める前に、プレイヤーの要望通りに外見が十数秒もしない内に変化し切り替わって、いくつものステージが目の前に現れる。
その中でも選ばれるのは、こういうファンシーな見た目のもので、私が見ている間でも連続で選ばれたりして人気みたいだ。
中にはハードなジャングルのステージを駆け回る『コンバットソルジャー』みたいな人もいたけれど。
身体の大きな男の人でも、アニメ調やファンシー系のステージを選んだりしていた。
EAUはリプクマの研究開発部門と密接に繋がっているから、こういうのもお願いすると作ってくれるらしい。
今ちょっと気になるのは、ステージの目の端に見えた向こうの、なんだか赤くて暗くてジメジメしてそうな明かりに不気味な、ぼんやり光る白い卵のようなものを回収して駆け回る人もいるけど。
たぶん、ホラー好きがいるようだ。
そんな、いくつかのジャンルのステージにバラエティに富んだテーマはみんなが楽しんで、走ってる人からも笑い声さえ漏れてるみたいだ。
更に上の上級コースは、より高低差の大きいステージになっている。
ミリアが見上げる大型モニタには、現在のコースごとの成績やコース別の上位のハイスコア - ランキングが映っている。
それに、画面が切り替わるとプレイ映像に走ってる人たちの姿も見れるようで、中にはかっこいい角度からの映像もある。
記録された映像のハイライトかもしれないけど、この施設の解析分析の機能を存分に使ってるみたいだ。
「よっしゃ、1位取ったる!」
「初級コース選ぶなよ」
入り口近くを通れば聞こえてくる、コース別に気合を入れる彼らのやる気はお互いに刺激され合ってるみたいだ。
確かに、ランキングに名前が載るかもってなると、変な成績は残したくない気持ちはわかる。
ちなみに、表示する名前はニックネームでもなんでもいいみたいで、変わった名前も表示されている。
『土竜』とか、『ネコシー』とか、『けーにひ』とか。
さっきの大きな声を出してた彼が、コースの前に行くと、スタッフの人に何か言われて、向こうの中級コースへ回ってた。
それを見てた友達らしい彼らは大声で笑ってたけど。
並ぶ場所とか順番とか、ちゃんと整理されてるみたいだ。
今もプレイ中の数人の駆け回る彼らの様子を眺めてると、とてもカラフルなステージが点滅して、身体に触れて得られるマスコットキャラなどから得られるスコアの加点、触れてはいけない減点などの光も見えたり。
良いプレイにはどよめきや拍手を送ったりで、楽しそうだ。
上級コースの方は、特に、機動系の特能力者が多いみたいで派手だ。
身のこなしが突出している人たちも数人いるのがはっきりわかる、壁を蹴って一瞬で数メートル先のターゲットに触れる人とか、高速で動く青白い光を陽炎《かげろう》のように空間に残す人がいる。
あれは、他の色と紛れて少しわかりにくいけど、ステージの演出ではなく、彼の特能力の発現効果によるもの、つまり特能力の癖みたいだ。
ちょっと珍しいかもしれない、あんなに『力』の流れが見えるのは。
それに、そういう彼らの動きは派手で華やかで、注目されて、拍手されることが多い。
動きが流麗で、常人じゃできない瞬間を跳ぶ綺麗な人たちがいる。
彼の青白い光も、ステージのショーの一部のように、綺麗だから。
「よく見ろってー!」
「そっち少ないぞー!」
「落ち着いてー、」
ワーワー言って、遊んでるみたいに。
周りの彼らも声を掛けて、仲間たちが見守る中で。
彼らは、楽しんで汗を掻いている。
こういう雰囲気、トレーニングって感じじゃないんだけれど。
でも、私も嫌いじゃないんだろうなって。
なんとなく、そう思った――――
『特能力者の在るべき姿とは?』
誰か、そんなことを言ってた。
ふと、思い出した。
『君たちが独善で望む姿ではない、特能力者の在るべき社会とは?』
たしか、バズキンズ博士が提唱したんだったか。
それは、特能力を扱う人たちが、本来の姿で、自由に遊ぶような、その光景は。
こういうことを言っていたのかも、って―――――
――――綺麗、だよね、」
華やかに舞うような人達がいて。
それを、観覧する自分たちの中で。
その段差に座って見ていた、女の子がいて。
「そうだね。」
聞こえていた、傍で頷く友達の彼女も、肩を並べて、同じものを見ている。
・・横顔を少し覗き見れば、さっきよりも彼女の顔色は良くなっている。
「タオル、もっと持ってこようか?」
「ぁ、大丈夫、」
よく寒気を感じていたらしいし、寒いわけじゃないらしいんだけれど。
ふわふわのタオルがあればもっと安心するだろうな、って。
「気分どう?」
そう、向かい側のもう1人の女の子、クロが真ん中の彼女に聞いていた。
彼女は、自分の胸の内を、気持ちを確かめるように少し俯いていたけれど。
「・・・大丈夫そう、」
静かにそう言えた。
「そか。」
微笑む友達も。
「・・クロたちと一緒に行けそうだね、ミニーも、」
彼女、ミニーは口端を少し強めに緊張させたのは、微笑んだのかもしれないけれど。
「・・アーチャは来ないの?」
でも、膝の上の手を、ぎゅっと握ってて・・・。
「どうだろうねぇ・・?」
いつも、はぐらかす時は決まっていて。
「私さ、こういう人たちがいるなんて、知らなかったからさ・・・、」
ミニーの言葉に。
でも、彼女はそう・・。
「うん。」
頷いて。
「『あの子』じゃん?」
そう、ステージへ指を差したのは、ずっとそっちを見ていた彼女で。
「あ、『あの子』だね。」
気が付いたアーチャも顔を上げて。
「・・私も、もうちょっと頑張る」
そう聞こえた、アーチャはミニーへ目を戻すと。
目を輝かせてる、ステージを見ているミニーの横顔へ、・・微笑んで―――――
―――――宙から落ちてきた少女は床を踏みしめる、その加重と加速の重さを膝で体で踏ん張りながら顔は次の目標へ向けられる。
すぐにトップスピードに上げるまでに丸い『ネズミ』に向かっていくと、まるで飛びつく『ネコ』になったような気持ちで、そのぽよんと弾む感触を、『拳』に当てた。
勢いよく飛んでいくボールのような『ネズミ』が彩色を失って灰色になりつつ、いくつもあるその辺のボールたちに運悪くぶつかれば連鎖して弾かれどこかへ飛んでいく。
ミリアは、走りながら次のボールに向かいながら、邪魔だからって勢いよく強く殴らない方がいいな、と思いつつまた次の『ネズミボール』へ手を伸ばして、ぺしっと平手打ちした、のと同時にまた次へスピードを落とさずに巡る―――――。
軽めのブザーが鳴って、気が付き見上げればステージの上に『達成!』の文字が出てた。
ミリアは、息を大きく吸って。
ふぅう、っと吐きながら自分の身体を少し見下ろすようにしてた。
身体の調子は悪くないと思う。
汗はまあまあ掻いて温まってるし、違和感はない。
「おつかれさま、成績は外の方で見てね、」
スタッフの人から声を掛けられて、少しずつ歩き出しながらミリアはステージの外へと向かって行った。
成績はあまり気にしてはいなかったけど、なるべくできるだけ早くクリアするのは心掛けていた。
トレーニングだから、それは当然で。
外へ出ていくミリアの背後でライトが動いて次のステージが設置され始める。
その横の待機スペースでスタッフの人が見せてくれる小さなモニタ、携帯デバイスにはリザルトが出ていて。
クリアタイムやポイント、それから減点など見れる項目はいくらか多くて、重要な最終スコアは・・・平均近く。
まあ、大体予想していたくらいのスコアだ。
「どうも、」
ミリアは携帯デバイスを返して、ステージの外へ出ていく。
結果はあとで自分たちのオフィスルームでも見れるだろうし、別に競い合う相手もいない・・いや、ガイくらいか。
ケイジ達はたぶん、来ないだろうし。
と、ステージの外に出たら周りの人たちに一瞬注目されたような気がしたけれど、ミリアは歩いて近くに掲示されたモニタの傍を見上げる。
今自分がやっていたのは上級コースだ。
アスレチック要素もあったけど、基本的には自動で自由に転がるマスコットを追いかけてポイントを集めるルールの『タッチ&タイムアタック』だ。
モニタにはその上級よりもさらに上の、エキスパートコースのベストスコアと名前が出ている。
『1位 88pts 土竜《もぐら》
2位 86pts けーにひ
3位 79pts セイガ
4位 70pts サンデー・ド・モンテ 』
ベスト4までは表示されていて、ちょっと奇妙な名前もいくつかあるけど、登録名は自由らしいので本名じゃない人も多いだろう。
通名《つうめい》を使っている人もいるだろうし。
見覚えのある名前もあった、さっき別ルールのランキングで見た名前だ。
すぐ向こうにエキスパートコースらしい、機動系の人が動いているステージが見えていたから、ちょっと足を向けてみようと。
「よお、」
って、呼ばれた気がしたミリアは気が付いて、ガイがこっちへ歩いてきていたのを認めて、左手の平を上げて見せてから、向こうの方へ歩き出した。
向こうでもエキスパートコースが動いているけれど、見た限りはコースが機動系の特能力者が有利にできている、というわけではないようだ。
なので、機動系の人が有利と言うよりは、機動性が突出している人が上位に来ているようだ。
「特能力は禁止だぞー」
「おーい、今発現が見えたぞー?」
って、賑やかな中で、笑いながらのヤジも自由に飛んでるみたいだった。
と、傍にガイが来たのに気が付いて振り返るミリアは、ガイが訊ねてきた、「どうだった?―――――
――――歓声がひと際上がる、同時に、ガイの背後、傍を誰か、ステージの上を飛んでいた、青年・・彼は、空高く身体をひねって、私の方を見た・・・彼の、その目が一瞬、合ったような気がした。
それは本当に、空高く―――――
――――――空高く、伸身宙返りをしたようだった―――――
その強い着地から路地裏のようなフィールドの―――――隅にいるマスコットの丸いファンシーな亀を触って駆けていく。
ミリアが振り返って見上げたモニタには、そのステージのゲームの様子がカメラで映し出されていた。
――――・・一瞬で飛び上がる、彼の動きは速すぎる。
見えたのは、――――振り回した踵の残像のように、青白い光が、微かに空気に色づいたこと――――――
「行ったぞロアジュ!」
『セイガ!相手のつぶせ!!』
高速度に乗ったロアジュが手を伸ばしていた、その目標が目の前で誰かの影と重なる―――――でっかい黒めのマントを羽織った目つきの悪い黒い犬のアバターだ――――――その身のこなしが地面の上で、踵《かかと》を擦りつけるように方向を変え、水たまりの飛沫が飛ぶ中を次の目標へ向かって駆けていく―――――既に、出遅れている――――ロアジュが、次の目標を探しに飛ぶが―――――「逆だっ・・!ロアジュっ!そっちのが薄い!!」――――――仲間の声に締めた口の隙間から息がひゅっと漏れる、舌打ちのような音を出しながら今更、目の前に見ていたターゲットの亀を足裏で滑《すべ》りながら足で触り――――――その次へ移る瞬間、角から飛び出したその横を誰かが、『敵』、見えていた、横を駆けてその『大きな黒い犬』がポイントを搔っ攫って行く――――ようやく身体が加速し始める、その前の一瞬の事だった―――――
「―――――作戦ハマってるんじゃねぇのかー!?」
路地裏を走っていた彼は仲間へ歓喜の声を掛ける。
「ははぁんっ・・?相手にゃいないな!優秀な指揮官みたいなのがさぁ!」
「お前のが優秀みたいな言い方やめろー!」
その壊れた扉を曲がって寂れた民家の一角に飛び込んだ。
「そういうつもりじゃないんだけどさぁああ!おっ!?、セイガ!!『待機』しろぉぃ!!」
天を見上げた彼の真上を――――クロスしちょうど跳んでき男へ――――――叫ぶ声に、速度に乗っていたセイガと呼ばれた彼は気が付き、離れた地面へ着地すると同時に右足を軸に多少滑り、方向転換する、水飛沫を上げ―――――ある一点の方向へと加速して駆け出す――――――床の『そこ』に置かれていた『銃型デバイス』へ手を伸ばし拾い、ずざぁぁっと、滑り立ち止まる―――――肩の付け根に銃床を当て構えていた――――――淀みの無い一連の動きが、そこで、止まった―――――。
―――――――路地裏の静けさ・・荒れたコンクリートの道路、穴の空いた壁、ヒビが入った窓、遠くに人が走る物音を感じている。
・・青空から、チチチ・・っ・・・と小鳥の鳴き声が聞こえていた。
―――――ステージに赤と黄色の光が混じり、アラームが起動する。
『ラストターゲット出現します。』
ガイドの声が響き渡る。
――――――『セイガ!』
――――仲間の叫ぶ大声、その前から構えていた―――――『タゲ、ノオォーゥスっ!!』――――反転して銃先を、向きを変える彼は両目を開き、照準器《スコープ》を覗き込んだ眼を僅かに細めていた―――――蛍光グリーンのペンキのようなものが声の聞けた方向から大量に放出されている、ステージの仕掛け――――『ロォオーックぅ!』路地の脇から飛び出てきた走る仲間が、指さすその先、動く目が捉えたそのターゲットへと向かって――――全身の筋肉に、正しく力が込められる。
――――たぅんっ・・・放たれる弾丸は一直線に、敵も味方も関係なくその方向を1弾が、路地のステージを貫いて飛ぶ――――――彼が見つめていたその『Shoot Me』の標的の・・僅かに下部に逸れて外れる、手の中の重み、僅かな角度を持ち直す――――たぅんっ・・!・・たぅんっ・・!!2弾目、3弾目―――――その白いカエルの丸いお腹に書かれた文『Shoot Me』の真ん中に命中して、べちょりっ!と色が塗りたくられた――――――
『ゲーム終了です!』
拍手と歓声が送られる。
その中で、彼ら3人は拳を突き上げて喜び、そして彼ら3人は肩を落とす対照的な表情を見せていた。
そして負けた彼は、ラストターゲットが宙を、板のように回転してカラカラっと回っているのを見ていた。
―――――ミリアはステージの横に立って、そのゲームを見ていた。
見えにくい所は掲示モニタに出るカメラ映像を見ながらだ。
お互い、レベルが高かったと思う。
おそらく勝敗に結び付いたのは、チームとしての平均的な能力の差という感じだった。
特に思ったのは、勝った方の機動系の彼、全体的によく動いて要の仕事をするキーマンを任されていたようだった。
機動系だから動き回ってポイントを回収するのは合理的、だけれど特に、最期の狙撃は、精確だった。
外した1発目は距離計算のためのもので、2、3発目で位置を修正して確実に当てる。
お手本通りの狙撃法だ。
流れの中で、プレッシャーのかかる状況で冷静に仕留められるのは、間違いなく上手い。
訓練を積んでいる人の動きだ。
そう、それが、機動系の人の仕事だったというのが、ちょっと新鮮に感じたみたいだ。
ただそれから、それよりも気になるのは、ラストシューティングの前に仲間が叫んでいた言葉があった。
それを聞いたらキーマンの彼がすぐに方向を理解して、標的を撃ったように見えた。
あの《魔法の言葉》、なんて言ったかはちょっと気になる。
まあ、今も思い思いの表情をしている彼らが歩いて、ステージを出て行く。
あの勝利チームは、効率的にチームをチームとして機能させることができていた。
あの敗戦チームは、チームとしての手数で負けたように見える。
途中から見たのではっきりとは言えないけれど、勝敗を分けたのはそこかもしれない。
私なら。
あの戦力でどう動くだろう?
「おい、今の特能力じゃないのかー?」
・・って、ヤジが飛んでいるけど。
「せこいぞー」
「はは、お前、言い過ぎだって、」
悪戯で言っているような人もいるようだ。
確か、禁止ルールの時に特能力を使ったら減点すると言っていた。
特能力を使ったかどうかなんて、はっきりとわかるもんでもないけれど。
今回は禁止されていないみたいだし、ただの意地悪なヤジだろう。
それに、みんなの動きはこのホール全体の測定器によって数値化されているので、不自然な動きや作用は観測されてスコアは減点になるだろうし。
特能力がわざとじゃなくてつい出てしまっても、一律に減点だろう。
だから、参加者は不正ができない。
それに、常に観測されていて、研究者の人たちがいつも裏でゲームの賭けを行っているという、嘘っぽい悪い噂も聞いたことはある。
嘘だと思うけど。
「可愛いネコ、足で踏むとか無理ぃー」
って、歩いてるとそんな声も聞こえてくる。
ターゲットを可愛いものにしたら、さっそく問題点が見つかっているようだ。
次回は修正されるかもしれない。
スタッフの彼らもいろんな様子だけど。
みんな笑ったりしながら、人と話の最中でもなにか気づいたことをちゃんと手持ちのノートに記入しているようだった。
―――――おいおい、『力』使ってもそんなもんかー?」
歩いているニールが顔を上げて向こうを見る。
「ヤジがうるせーな。」
そう愚痴で噛みつきそうだ。
「ここ、禁止じゃないのになぁ~?」
ラッドは能天気そうに他人事みたいだ。
「さっきのそんなにヤバかったか?」
ロアジュが真面目に聞き返してたが。
「性格悪い奴はどこにでもいるんだよ。それよか、あのブーツもまだ機能してないってことだろ」
ラッドは肩を竦めて見せてた。
「あんな距離でも発現が見えてるってことだもんな」
「ま、お前が良いとこどりばっかしなくてよかったわ。」
にぃっと、笑って見せるラッドに。
小首を傾げて見せる様な、ロアジュは微妙な表情を見せた。
「悪い、」
「ん?なんでお前が謝るんだ?」
「・・速さでも負けてた。」
どうやらついさっきの、ゲームでの話みたいだ。
しかも、見た目よりもだいぶ落ち込んでいる雰囲気なのか?
「おいおい。お前は速かったよ。もし謝るなら、・・立案担当した、この俺だ・・・」
ロアジュに驚くようにニールはそう、自分の判断力の無さを悔いる・・・。
「ちょっと待て、お前がいつ作戦を立てたんだよ。俺だろ?」
ラッドが異議を唱えてた。
「俺が指示出ししてたろ、」
「声がでかいだけだろ、」
わーわーと、ラッドとニールが言い合ってるが。
そんな彼らに肩を竦めるロアジュは、見慣れた様子で少し口元を笑ませるのだった。
「にしても、『あいつら』、ヤバいな。」
そうロアジュが、声をかけて。
「だからお前が、頭脳担当、オレ、声担当、ん?セイガのチームか?」
「それでいいのかよ。スピーカーかよ、ってか、だから言ってたろ。ヤバイって。」
「ああ、」
「つうか、あんな機動系、Class - Bにいたのか?って感じだ。」
「いるんだよ。あいつらが手を組むとさらにヤバくなった。あいつら、コっすいもんなぁ・・・」
「コすくはないだろ」
「言ってみただけだよ・・!」
「顔は見た事あるけど、目立った印象が無かったんだけどな。」
「そりゃあれだ。お前も悪いんだぞ。」
「俺も?」
「だよ。みんな機動系って、速さしか話題にしないからな。速さだけならお前とヴィドリオ、お前らしか話題にならん。」
「でもたぶん、ああいうヤツの方がAに行けるんじゃねぇの?」
って、ニールが。
「・・・・。」
ロアジュが黙ってしまったが。
「知るかよ。大方、みんながお前みたいに上昇志向持ってるわけじゃないんだろ」
「ん?」
「Bにいたいって思ってる奴もいるはいるんだよ、」
って、ラッドにそう言われた。
ロアジュは口を閉じたが。
―――――あいつはどっちかな・・・?
そう言おうとして、口を開きかけた。
「おつかれさん、みんな」
と、歩くのを追って来てくれたのか、後ろからその女の子、フィジーが笑顔を見せてくれる、並んで歩く彼女のその手にはタオルが数枚あって。
「使って?」
「お、あんがと、」
ニールが受け取る、そこらで自由配布されている支給品の新しいタオルで、わざわざ持って来てくれたようだ。
「ありがと、」
配るフィジーにロアジュも微笑みで受け取る、それに気が付いて微笑み返すフィジーだ。
「フィジー、スコア見たよ。凄いな、」
「え、あはは。ロアジュのがすごいよ、」
「あ、それな。つうか、フィジーにも負けてたろ。個人ランキング。」
「へん、組み合わせが良かったんだろ、」
「なんでお前が拗ねてんだよ」
「なんだかんだ、お前もけっこうヤバいよな、」
「やめてよ、」
「褒めてんだぜ?」
「ほんとかなぁ・・・」
「あれれ?」
「なんで疑うんだよ、」
「え~?」
「ニールがヤバイとか言ってるからじゃないのか?」
ってロアジュまで。
「すごいって意味だろ。ロアジュならなんていうんだよ」
「あー、」
ロアジュがちょっと、じろじろフィジーをじっくり見る。
「え、なに・・?」
ちょっと緊張したようなフィジーみたいだが。
「おっかしぃ~なぁ~?」
「やっぱ、ヤバいって言うな、俺も。」
「えー、」
「だろ、フィジーがヤバイんだ、」
「フィジーヤバい、はは、」
「なんで、みんな言うの、」
フィジーがちょっとふくれっ面みたいだけども。
「んだ、フィジーがヤバイとかどうでもいいんだけどさ。つうかさ?俺の分のタオルが無いんだよなぁ・・・」
さっきから小さい声で覗き込んでたラッドがそう。
「お?」
「あれ?」
「あ、ごめん、数間違えた。」
「俺が困ってんのに盛り上がりやがって。仕方ねぇな、フィジーのそれ貸せ、」
「え?」
フィジーの首には汗を拭いたタオルが掛けられているが。
「え?な、な、」
ちょっとどぎまぎするフィジーが、赤くなってくる顔で。
「な?」
「な?」
「うん。」
「なんでやねん・・!」
「いい判断だっ。」
フィジーが導き出した答えに、なぜか誇らしげに渋い声でニヤリとしたラッドだ。
「ははは、」
ロアジュやニールも笑ってた、なんかテンションが上がってる彼らみたいだ。
慣れないことをさせられたような、顔を熱くしているフィジーが微妙な顔にも笑いが混じっているようで、変なノリができあがって嬉しいのか、自然とつられるように笑う彼らだ。
「俺はそれを欲しがってたんだよ、」
「次はもっといいタイミングでできそうだな?」
「もういいよ・・・っ」
――――笑みが残るロアジュがそう少し、辺りを見たとき。
―――向こうで、同じ方向に歩いていた彼らを見つける。
さっきの対戦相手、『セイガ』たちだ。
彼はこっちを見たのか、目が合ったのかよくわからない。
――――向こうは勝ったんだ、大してこっちを気にしてないだろう。
周囲では相変わらず誰かがステージに立ってゲームするのを、みんなが眺めていたりだが。
座り込む彼らは、栄養補給用のボトルやパックなどを片手に座って、床や段差ですっかりくつろいでお喋りしていたりする。
――――――さっきのゲームで、今回やることは全部終わったか、次まで何をしていようか。
ロアジュがそんな事を朧気《おぼろげ》に考えたら、横に立ったラッドに気が付いた。
「それよかロアジュ、発現の『あれ』やっぱり見えてたぞ」
向こうを向きながら垂れる汗を腕で拭いながら。
「前よりはどうだった?」
「小さくはなってた。だが、本気だとまだまだ漏れるな。」
「もっと改良が必要みたいだな。」
彼は、その特製のブーツを履いた自分の足を見下ろして、踵からつま先をトントンと床に軽く打って鳴らしていた。
「会場のウケは良かったぞ。光ってわぁーって、」
「それは嬉しいよな。」
おどけたようなラッドに、ロアジュはちょっとばかり笑ったようだった。
通りかかったラッドが、その支給品の棚に畳まれて置いてあったタオルたちから一枚を取って、顔をもふっと埋めてた。
「お、運動の後のジェリポン、」
ニールが嬉しそうにその横の棚から、ジェリポンの1パックを摘まんでた。
――――あいつか、あのセイガってヤツ。たしかゼスが可愛がってたヤツだな」
「ゼスが?」
「ああ、あれか。ゼスはトレーニングのコーチもたまにしてるんだっけか。」
「Class - Bの中だとスコアは平均くらい?」
「Bっつうか、全体でそれくらいじゃないすかね?どんな感じでした?」
「機動系だが、安定しているな。行動一つ一つが無駄のない印象って言うのか。あの相手の青白いヤツには純粋な速度では負けそうだった。けど、速いな。実戦慣れでもしてるのか?」
「ロアジュよりは遅いだろうな。でもそれ以外で勝ったか。」
「身体の置き方や判断力だな。より実戦向きに見える。」
「あのチームは全員がフォローし合っていたよな。良いチームだ。」
「元々のチームか?」
「たぶんな。全員の息が合ってた、」
「そうっすね、データによれば最近チームを組んだみたいです。」
「あの機動系のヤツがちゃんと合わせていたな。突出しやすいもんだがよ、機動系ってのは。」
「性格もそういうヤツのが多いしな」
「そうなんすか?」
「俺の経験上だ。」
「ああ、はいはい」
「なんだよ。」
「ウッス。」
「指揮役もまあまあ良かったってことでいいんじゃねぇの?」
「最後の狙撃も正確に決めたろ。」
「機動系の癖に生意気な野郎だ。」
「機動系は狙撃を外すくらいが可愛げがあるんだよ」
「あ、ウッス、」
「それやめろ。」
「やっかむなよ」
「面白くねぇぞ、」
―――――おお、おおぉ、おぉぉお?」
「なんだようっせえな、」
「俺らなんか注目されてね?」
「上位がいるチームやったんだからな、そりゃそうだろ、」
「お前も顔面が変になってるぞ」
「マジか、」
「今頃面食らってるぜ、あいつら・・」
いっひっひ、と笑う彼が、・・気が付けば、傍に歩いていたセイガが立ち止まっていて、向こうから出てきていた相手チームの奴らを見ていたようだ。
わかりやすい、どこにいても目立つようなロアジュ、あいつがセイガに気が付いたようで、暫く目を合わせていたようだ。
どちらも口は開かなかったが。
「はっはぁっ、セイガ、可愛い子でもいたのかっ?」
セイガの背中を叩いたそいつ、デンは笑顔で何も気づいちゃいないようだった。
「今ならきっとモテるぞ。」
歯を輝かせた良い笑顔を見せてた。
「・・かもな。」
って、セイガは低い声で。
「デン~、シャイなんだからやめとけって、」
「今がチャンスなんだぞ~」
ぐいぐい来るデンに、セイガの眉がちょっと険しくなる、ちょっとイラっとしたようだった。
――――そういえば。
こういうの、ケイジが得意そうだなぁ、ってちょっと眺めててミリアは思った。
機動系の彼らがステージの中で、自身の身体能力を生かして飛ぶように動いているのを見ていると、ケイジが混ざると実際どうなるんだろうなって思うけれど。
ケイジはたぶん、来ないだろう。
リースもまあ、来ないだろう。
うん。
「まだ呼ばれないみたいだな。」
って、傍で一緒に見てるガイが言ってた。
「ケイジ達から連絡来てたりするかな?」
「あいつらはしないだろうな。」
って、ガイが言ってた。
なんとなく、ミリアはガイの横顔を見てたけど。
ガイがこっちを見たから。
「そだね、」
ミリアも頷いてた。
・・・。
「あのさ、あっちに、」
ミリアが向こうをちょっと指差して見せて。
「ん・・?ああ、射撃シミュレータ―も使えるんだな」
ガイも、ミリアが首を向ける方にある、射撃訓練用のMR施設を見た。
さっきから気になっていたらしい、ミリアが見る方は人が結構いる。
その理由は、たぶん、これの所為だろう。
「『チーム&シューター』でライフル使うから、肩慣らししてるのか」
「そうだね。」
・・・頷くミリアは。
向こうを見ているが。
「・・使っていいみたいだぞ?」
「・・・」
ふむ。
まあ、トレーニングも仕事だし。
マジメにやるのはとてもイイことだと思う。
「私もやっとこ、」
ミリアは向こうへ足を向けていた。
そんなミリアの後ろ姿を、見送ってたガイだ。
・・ガイは、周りをちょっと見つつ。
なんだか自分たちが注目されている視線は、ここに来てからずっと感じている気がしていたのだが。
「じゃ、俺も、」
ミリアの傍へ、ガイもそう追って付いてきてた。
―――――――いつもこんなのやってるのか?こいつら、」
「ん?どうした?」
顎髭を生やした大男が、その巨体でその段差をソファのようにダレている。
「子供の遊びみたいだ」
向こうの様子を見る顔は退屈そうで、顎をしゃくって不思議そうに眺めてる。
「いやぁ・・」
返事に困ったような傍の彼もいるが。
「あ、アイフェリアさん」
と、戻ってきた彼女は名前を呼ばれて、手を軽く上げて見せる。
「っとぉ、」
ソファでダレていたような大男は起き上がって背筋をいくぶん正していた。
アイフェリアはそこで両腕を胸の前で組んだまま、彼らと同じ方を眺めている、その端正な横顔を僅かに彼へ向けたが。
口を閉じたまま静かで何も話さず。
彼女のその横では、そこで繰り広げられているゲームを見ている彼らが言葉を交わし合っている。
「子供の遊び場だと思わないか?アイフェリア」
そう、背筋を直した大男は問いかけていたが。
アイフェリアはそのクールな目で彼を一瞥しただけだ。
代わりに答えたのも横の、その内の1人だ。
「見た所、必要なのは敏捷性、スタミナ、視界の広さ、仲間の連携、それから判断力、アドリブだな。」
「俺なら余裕でやれるね、」
「そういうヤツは地獄へ落ちろ」
「へっへ、」
「お前だよ、ゴラバス、」
アイフェリアはプレイしている彼らをじっと見ている。
さっきから呼びかけてきていた彼、ゴラバスを無視しているみたいだった。
「冗談だよ。悪ぶっていたわけじゃないけどよ、」
だから、根負けした彼はまるで降参した様子だ。
そんな姿を見る事も無い、アイフェリアは傍のグループと向こうの戦いを見学している。
「少ない時間で仲間との打ち合わせも必要だしな。気心の知れた仲間たちとやるならある程度はカバーできるが、見ろよ、ハイスコアを出す奴らは声とボディランゲージもちゃんと使ってる。」
「練度が知れる。」
「上位のやつらは素直に称賛に値するレベルだな」
アイフェリアがそう、彼らへ冷静な声、芯の通った声で同意した。
「へっ、」
その声を聞いて、彼、ゴラバスは口端を上げて笑ったようで。
またその辺の様子に、つまらなさそうに目をやるのだった。
「どうだい?実際に見てみて、」
と、声を掛けられて気が付き、後ろの人影を見上げる。
「お、あんたか、」
他にも気がついて行く彼らは、その職員のようなワイシャツにスラックス姿の優男に気がついて行く。
背は高いがおよそ力仕事とは無縁そうな柔和な笑みを見せる彼は、ワイシャツを腕まで捲っていて、仕事の合間にふらっと立ち寄ったような出で立ちだ。
「ヴェルべさん、」
「うっす、」
「視察っすか?」
アイフェリアも向き直って、彼へ背筋を正す。
「おはようございます。」
「お疲れ様、みんな。順調かい?」
「順調も何もないですよぉ、こんなお遊戯みたいなの見せられて・・」
「トレーニングは順調です。」
アイフェリアが、そのゴラバスのダレている言葉をカットインしていた。
ゴラバスは半眼でアイフェリアのクールな横顔を見ていたが。
「そちらの調子は?面白い人でも見つけたかい?」
「こちらの方は、まだ観察が必要な状態で、」
「あ、そうだったね。邪魔してごめん。気にせず仕事に戻っていいよ、」
「はい、」
アイフェリアたち彼らはそれから、向こうのゲームの方へ顔を向ける、その前に。
「やあ、トリッシュ、」
「今日は見学か?」
と、大きなヴェルべの傍に立つ、というか、半歩後ろに少し隠れ気味の、小柄な少年、のような少女に声を掛ける。
白いシャツに長いストレッチパンツ、とボーイッシュな格好の少女は全体的には華奢な印象だ。
一応、彼らの方を見る切れ長、つり目気味のの目つきは、一度、二度とこくこく頷いてから、目を離して向こうを見る。
彼らはそんな少女の様子に、少しの笑顔を見せて前を向く。
アイフェリアも、そんな彼女の様子を見ていて、・・少し口元を微笑ませていたが。
「面白そうだろ?トリッシュ、」
彼が訊ねた傍の少女は、彼と比べればとても小さい。
華奢な体躯、茶色い短髪、長い睫毛に切れ長の瞳、表情はあまり移さないが。
彼らとはあまり目線を合わさずに、その広いトレーニングホールで繰り広げられている大人数の賑やかな様子を眺めていた。
ゴラバスは一度、横目にその少女を少し見たが、興味なさげに向こうのトレーニングの様子に目を戻すのだった。
「それじゃあ、よろしくね」
ヴェルべは彼らへ微笑み、少女、トリッシュの肩に手を触れて傍を離れる。
「はい」
気が付く彼らは手を上げて見せたりして。
そんな彼の手が一度触れたのに気が付き、トリッシュはヴェルべの傍を付いて行く。
「あのモニタ、見てみ。すごい飛ぶね。青白いってことは、あれがチーフの秘蔵っ子かぁ・・すごいなぁ、」
少し早歩きに付いて、それから彼女が口を開く。
「青白い光の、瞬間加速するタイプみたい。かなり馴化してる、」
少しつまらなさそうな、仏頂面のようにも見える彼女だけれど。
「凄い跳躍の人も、足場に設置してないと跳べなさそうだけど。」
聞きたかったのは、全体の雰囲気とかそういうことだったんだが。
「・・いろんな・・・」
少女が、モニタにも映る彼らの姿を追う目は、見つめる瞳の奥に、僅かに煌《きら》めきを魅《み》せるから。
「機動系だけ?」
聞かれて、少し反応が遅れた。
「・・ん、」
彼女が見るのは、彼らの様子。
視線を、顔を振って、観覧している人たちまで見回していた。
「・・・無理やり抑え込んでるみたい」
「あぁ、ここでは身体能力を見てるから、他の人には我慢してもらう形になっているけど・・」
彼の視線に気が付いて、彼女は。
「・・なに?」
「いや。君が楽しそうで、」
彼が少し表情を柔らかくして。
「・・・」
彼女は口を閉じて、前を向いたけど。
頬はちょっとだけ、膨らんだかもしれないけれど。
「今日は、最後まで見れるよ」
眼前に広がるトレーニングホールの光景に、EAUの面々が集う景色へ。
顔を上げたヴェルベを。
・・その彼を見上げた彼女は。
ヴェルベが、目を輝かせるような、そんな景色を――――。
――――追っている、その景色へ、鋭い眼は睨むように見えるかもしれないけれど。
またちょっと膨らんだ頬はちょっと、ほんのちょっとだけ、うっすらと紅味が増してきてるみたいだった。
――――ミリアが。
空いていたルームナンバーを選んで、入り口で引っかけられていたライフル型のデバイスへ手を伸ばして。
ベルトが変に引っかかって、背伸びを少ししたが。
ライフルは腕の中でずっしりと重く、それのベルトを頭の上に潜《くぐ》らせ肩に掛けた重みを分散させる。
「実戦以来だな、この前の、」
離れるガイが、そう――――――それが、一瞬の。
――――――砂漠の景色が。
闇夜の、あの匂いが―――――
一瞬だけ、甦った―――――
それは、ほんの一瞬だけだ。
―――――・・私が今、持っているものは。
あのときの、古びた本物の長銃じゃない。
・・射撃位置に立っていた私は。
ずっしりとする、腕の中の重みを・・・。
・・・さっきよりも重い・・。
・・両手に持つ『それ』を、見下ろしていた。
これは、『ライフル-デバイス』、訓練用のものだ。
現在、リリー軍部で主流のアサルトライフル『ジェスオウィル』を模している。
これを使い、MR空間に出現する標的への射撃をする。
使用する際の、構造上の重み、重心、射撃時の反動、弾道計算など諸々がほぼリアルに再現されるよう計算されている。
だからこれは、戦場で使うものとほぼ同じ。
訓練で使い慣れているもので。
だけれど、なんだか感触が、おかしい気がした。
あの時とは違う。
あの時と違う。
この最新のライフルなら、―――――『あれ』に当てる事ができたのだろうか。
ブルーレイクは、闇だった。
何か腐ったような匂いが強く残っていた。
特能力者は、闇から襲ってきた。
一発も当てられなかった。
あの時の暗闇、光、臭い、闇夜の熱さ、私の荒れた呼吸―――心臓の音―――――目の前にあった、すべてのもの。
特能力者の『彼』は、更に特殊だった。
冷静な時間を経た後でも、思い出しても、そう思う。
瞼を閉じれば、暗闇が私を見ている。
鋭い銀色にも似た野生の動物の眼光が、私を捉えていた。
息を吸う、ミリアは――――
息を、吐く、・・・ミリアは――――――
けれど、私がやることは、1つだ。
『彼』がいかに、特殊であろうとも。
どれだけの速度を持っていようとも。
・・相手は、人間だ。
あのとき、私は冷静じゃなかったかもしれない。
もしも、私が、もっと冷静だったら。
もっと、精確だったら。
私の判断が、正しければ。
この訓練のように。
冷静でいられたのなら。
もし、私が――――
たくさんの人の命を救えた可能性があったのなら―――――
バットストック《銃床》を肩に当て、ライフル-デバイスの先を正面に合わせて、構える――――――――――
―――――――おい、」
「ん?」
「あれ見ろよ?」
モニタを瞬くようにしている友人を、気が付いた彼も同じ方を見やる。
いつの間にか、同じ方向を見ている人たちが他にもいたようだ。
映し出されている大型モニタには向こうの射撃演習場の様子で、MRが加算された景色が見える。
カメラが自動的にハイライトを追っているのか、今メインでやっているステージとは関係のない方だが、なぜか人が注目し始めているようだった。
射撃場の近くにいる人たちが、1つのブースを見つめているのだ。
「なんだ?」
「なんかすげぇ上手いヤツがいるって、」
「射撃が?―――――
――――――目の前に広がる場面はいくつか切り替わった、何度目か、ミリアは溜めた息を深く吐く。
・・そして、また胸に空気を大きく吸いこむ。
MRが作り出し現れる市内の景色、車両が乱れて炎上している交差点、道路の両脇にいくつも並ぶ店の中は破壊され煙を上げる、武装した人間たちが物陰に動く。
味方が隣にいる、そして物陰から飛び出してくる人影、民間人が恐怖で動き始める。
市街地戦に巻き込まれた、テロリストから逃げる人たち。
表情が、ちょっと不自然だけれど。
構えていた銃口を素早く戻す。
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動く人間の姿、そして構えた射手の姿、こちらへ狙いを定める敵の姿。
――――それら全てを撃ち抜いていく。
狙った場所を、精確に。
僅かなズレ、それは起こる。
仕方ない。
必要なのは、それを上回る集中と調整。
私がいま構えていること。
身体の芯を感じること。
必要な筋力を感じること。
それらを感じて微調整する、角度を、再度、狙う箇所を撃ち抜く。
何度でも、何度でも、目を常に動かして、指先を連動させて、銃身が暴れる衝撃を全身で受け止めて、いくら撃っても、撃っても――――――いくら撃っても。
硝煙の匂いは感じない。
―――――これは、ただの訓練だ。
0
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