-MGLD- 『セハザ《no1》-(2)- 』

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第8話 シルエット オブ ミリア

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――――――・・・っ・・・ぉ・・キォ・・ぃぃん・・・・っ――――――

「いてっ、・・耳が・・・?」
一瞬、何かの痛みを感じたような、甲高過ぎる音を聞いた気がして自分の耳を指でほじってみる彼だが。
「ん・・?」
別に異状はない、何かが耳に付いているだとか、怪我をしたわけでもないようだ。
気が付けば、ステージの傍を歩いていた彼らが一様にみんな耳を気にしていたり、周囲を見回している。
訓練用のトレーニングウェアをまとった彼らは、ただ各々の時間を過ごしていただけだった。
けど、全員が同じ耳鳴りか何かを感じたのだろうか、と彼は少し不思議に思った。
その間にも何かの音が、耳の奥で残り続けているような感覚があって・・――――――
「お前も?」
隣の仲間が。
「・・なにか感じたか?」
「あぁ、これは・・―――――
『―――ご、ごめんなさい、』
「ぬぁっ?」
急に、子供のような高い声がした。
一様に周りを見る周囲の彼らは。
「あいつだ、『イム - ヴォイス』だ」
何かを知っていそうな男が向こうを指差して周りに言っていたのに注目する。

彼が指差すステージの上では、例の『チーム&シューター』の戦いが繰り広げられている中で、特異な姿といえば。
「あいつか・・?」
周囲に目をやっていた彼は初めて気が付く、ステージの上で、ひと際、華奢な体躯の少女、ふわふわした金髪の少女がプレイ中にも関わらず、周囲へ申し訳なさそうにぺこぺこしたり慌てたりしていて。
みんな同じようなトレーニングウェアなのだが、あの子だけ着ているものが違うんじゃないか、と思えるほど印象が違う。
遠目に見ていても可憐な愛らしい瞳を歪めて、真剣な表情でプレイしているのはわかるのだが。

「随分可愛らしいな。Class - Cのやつか?」
彼が隣へ伝えた第一声の感想はそれだった。
「・・何度か精神感応《テレパス》系の声は聞いたことあるが、ここまで強いヤツは初めて見たな、」
「ほぉ。・・・は?今の?精神感応《テレパス》か?」
「あいつがたぶん、『イム - ヴォイス』だ。聞いたことあるだろ?」
驚いた顔をそのままに、隣からの問いかけも耳に入っていたが、彼は顔を前に戻してあの少女の挙動を追ってまじまじと見ていた。


―――――ちょうど終了したゲームのステージから出てくる彼らの中にいた、年端も行かなさそうな見た目の少女は仲間にも相手にも申し訳なさそうに肩を縮こまらせている。

「『声漏れ』したな、びっくりしたぜ、リオット」
歩きながら仲間の彼が、その小さくなって俯いているリオットに声を掛ければ。
「まあ、仕方ないだろう。力んじゃったんだよな。」
すぐ甘やかすそいつがリオットの頭にぽむ、と手を置いてた。
その緩やかなウェーブがかった金色の髪の長い睫毛、茶色の瞳の綺麗な褐色肌の美少女と誰もが口を揃えて言うだろう外見の、それでも気落ちしている様子と表情でとぼとぼ歩いているのだから。
「気にするな。動きは良かったぞ。ゴードンも文句を言わないだろう。」
・・それを聞いて、ちょっと潤んだ瞳で見上げるリオットへ。
少し口元を笑ませてやれば、リオットは嬉しそうに変わる表情に、両手ところころ変わる表情だけでで返事をしていた。
そう、リオットは、『声』を発することは無いけれど。

「楽しかったかい?」
そんな仲間からの質問に、リオットは華やかな笑顔を見せて。
「そうか、」
頭をクシャリとされるのも、くすぐったそうに楽しそうだった。


「―――――あいつが『イム - ヴォイス』だな。」
彼らが歩いて出てきたのを見ていた彼は、指を差して隣の仲間へ伝える。
「話を聞いたことある。Class - Cの秘蔵っ子の1人だとよ。精神感応《テレパス》の能力が優れているって聞いてたが、体験するとよくわかるな、」
「さっきの『音』、本当にあいつが出したんだろうな?」
「精神感応《テレパス》系は以前、体験したことがある。感覚が似てた。」
「道理で、耳の奥に当たるような・・。お前も聞いたのか?」
「ああ?」
「この距離で、周囲全員に入ったのか?」
「そうなんじゃねぇか?少なくとも耳を気にしたヤツらには影響しただろうな」
確かに思い返せば、さっきは周囲を円周状にいる人が反応していたのかもしれない。
「一体何の研究をしてるんだ?こんな訓練にまで連れてきて、」
「さあな。リプクマは変わった事するのが大好きな奴らばっかりだし」
「天才と変人は紙一重ってことか」
そう少しの間、あの美少女を目で追っていた彼は・・。
「・・・にしても可愛いな。」
「・・お前、あいつは・・・――――

―――――『イム - ヴォイス』と呼ばれたリオットの前を歩く仲間の彼は、周囲から少し注目されていたのは肌で感じていが、気にせずに向こうで屯する仲間らと合流しに歩く。
そう、ただ・・・。

・・顔を向こうへ向けたのはなにか風のような、歓声が少しでもさざめいたからなのか。
・・・その誰かが集まり始めている一か所は、何かの注目が始まりかけているようだった。
後ろを歩く仲間の彼らや、リオットも何かに気が付き、向こうへ顔を上げている。

リオットはその麗しい睫毛と瞳を少し瞬かせて。
その場で注目される更に向こう、なにかがあるのに気が付いた、彼らが見るのは―――――通りかかった向こうの一角にある射撃場だった―――――


 射撃場のスコアボードへ、ハイスコアを保つ数字へ。
通りかかったり、立ち寄った人たちがほとんど一度足を止めていくのだが。
その射撃場の1つのブースで注目されているらしい、・・たんっ、たたんっ・・と小さな少女が射撃を続けている。

少女の構えた両脚は微動だにせず、がっちり両脇で固めて構えたライフル-デバイスは撃つたびに強めの反動を少女の体躯に伝えているが、彼女はそれを正しく抑え込みリコイル反動をコントロールして狙いを定め続ける。
その双眸《そうぼう》は集中し細かく動く、標的を追い続けて動き見つめていた。

―――――様々な人型の標的、室内でのテロリスト戦の状況を再現したARの光景を狙い続ける、そんな少女の姿を含めて。
柵のすぐ外に溜まり中を覗き込む人たちの傍へ、なんとか頭を覗かせるように突き出したのは、リオットだった。
そのくりっとした青い瞳が、その彼女を見つけて更に少し輝きを帯びる。

「なんで集まってる?なんかあったのか?」
「いやあの子、例の子だろ。やっぱ腕がいいなぁ。」
「すごい難しいコースをやってるらしい、」
頭の上でのそんな会話を聞きながら、リオットは少女を見つめていた。

―――――彼女は鋭く細めた目が狙いを外さず、銃が反動を覚えるたびにスコアは加算されていく。
狙撃だ、まるで作法のように綺麗な―――――

不意に、プォン、と終了の合図が鳴った。
ARの光景が解放され解体されていき、終了の文字とオブジェが出現していた。
―――彼女の横顔は初めて息を抜くように、ふうっ、と微かに頬を膨らませていた。
自分には見えていた、前方から目を離して、足元を見るようだったあの子を。

それから、その瞳が動いて、ちらっとこちらを見た気がした。

目が合ったような気がした。

その茶色の瞳、こっちを見た。
まっすぐに射竦められたような。

とくん、と心臓が高鳴った気がした。


どこにもいない、誰とも雰囲気が違うその目、表情。
凄いことをしていたらしいのに、喜んで目を細めたりしない。

当たり前のように、仕事を終えただけだと、その目で伝えられた。

それでも、まっすぐに綺麗な目が、僅かに緩んで煌めいたような。

・・・一瞬の彼女と目が合ったのだ。

けれど、彼女はそのままその大きくて重そうな長銃を肩に担いで、ブースの外へと足を向けていた。
リオットは、そんな彼女の姿を、横顔を、その青い瞳で追い続けていて。

『おおお、』
低い声が中心の喝さいが上がる。
モニタに表示されるスコアなどを見て、リオットにはよくわからなかったが、凄い成績だというのはわかった気がした。
だから、息を呑むように、目を細めた。

「エキスパートツアー、コース全部撃ち抜いた命中率が87パー超えてるってよ、」
「俺らじゃまだ触らせてもらえないやつだ」
「俺、あれの2、3こ下の簡単なヤツやったことあるけど、動くだけでも命中させるの難しかったわ」
「マジか。」
そんな会話に、リオットはまた頬を紅潮させてみんなの横から顔を覗かせる――――――


――――ふうっと息を抜く、ミリアは、もう一度。
担いだアサルトライフルを模したデバイス《シューター》を持って準備スペースへ戻ってきて、元の場所にそれを引っかけて戻したところだ。
さっきちらりと見たが、向こうの柵の外でも注目されてる気はしたが、スコアの結果が外にも表示されるのはより面倒な気がする。
スコアがみんなへ表示される意味はなんとなくわかるけれど、できればこのまま隠れつつ外に出て、誰にも気づかれないようにしたい気持ちがちょっとある。
まあ、このブースの傍の机に置いてあるPDA携帯情報端末でもスコアの確認はできるので、少しここで時間を潰してても問題は無いのだが。
ミリアは側頭部に付けているAR対応アイウェアのスイッチを切り替えて、視界に映るAR表示を一旦、全OFFにした。
それは、着替えた時からずっと付けているトレーニングウェア一式の内の1つだ。
付けっぱなしだと目が悪くなるとか、そういう噂話はあまり信じてないんだけれど。
手元の携帯のスクリーンを見る時などにはちょっと、たまに色や表示が重なって見にくくなることがあるから消しておいた。
「よ、すげーな、嬢ちゃん。」
って。
「どうも、」
PDA携帯情報端末を指でいじってる間にも、次に撃つ男の人が声を掛けてきてブースの奥へ入って行った。
結果を知られるというのは、なんだか、こそばゆい。
なんでだろうか。
まあ、気にしなければいいんだけど。
手元で確認するスコアなどリザルト成績は、撃っていた時の感覚とほぼ合っているようだった。
「よ、調子は?」
って、隣で撃っていたガイも終わったらしく、ブースの入り口から出てきたところで、にっと笑ってた。
「まあまあかな。」
標的は全部落とせてたし、悪くない結果だと思う。
「まあまぁね。相変わらず俺のまぁまぁとは一味違うが。見慣れてきてるけど、よく当てるよな、」
「ん?見えてたの?」
「ちょっとだけな。スコア見せてくれよ」
「自分のを先にチェックしたら?」
「はは、」
笑うガイが覗き込んでくる前に向こうを見る様な、だからミリアも同じ方を見やるけども。
さっきから思ってた、なんか少し騒がしいような、射撃場の柵外からこっちを見ている人たちが増えている気がした。
「なんかあったの?」
ミリアがガイに訊ねてた。
「ミリアの射撃がハイライトで映ったらしいぞ」
ガイが手に持ってた備品のPDA携帯情報端末のモニタをこっちに見せてくれたら、自分の射撃中の映像が映っている。
「あ、なるほど、」
つい頷いたミリアだけれど。
「交換するか?」
射撃姿勢に動作に、甘いところは無いか少しチェックする目になってたミリアは。
「あ、ううん。」
自分の手元のPDA携帯情報端末へ目を戻して、また指で操作し始める。
「・・でも、そんなにスコアは出てないはずだけれど、」
「命中率が良かったんだろ。それか今ちょうどヒーローショーに空きがあったタイミングか、」
「ふぅん?」
あまりガイの言う事は信じてないけれど。
まあ、このトレーニングホールに来た時点からそういう注目される雰囲気は感じていたから、特に問題だとは思ってないけれど。
「残念なお知らせだな、」
って、ガイが自分の方のPDA携帯情報端末を操作しながら。
「本日のハイスコアは更新できなかったってさ、」
どうやら、こっちの話らしい。
「うん。」
「また変な撃ち方してたんだろ」
「変《へん》って。」
言われる筋合いは無いけども。
どうせ言い返してもしつこいだろう。
「そっちは?」
「俺の調子もまあまあだ。スコアはお前より高いぞ。」
ちょっと自慢気なガイに。
「ふむ、」
とりあえず、ミリアは鼻をちょっと鳴らして返事しておいた。


 この射撃訓練場の施設はトレーニングホールのAR機能を利用したARタイプの射撃シミュレータだ。
実際の銃や弾薬を使わないとはいえ、本物の感触を追求しつつ、ARタイプの施設であるメリットも生かしている。
モードやコースなどを設定し開始すると、AR表示されるクオリティの高い映像が標的ゾーンに現れ、様々に想定されるシーン、市街地での銃撃戦や対テロリスト戦、屋内の戦闘、市民が逃げ惑う繁華街、ドーム内にある公共施設を再現したシーンから、シームレスに動く人間タイプの標的が敵となってランダムな状況で出てくる。
中には、自分が持つ仮想アサルトライフル、『ジェスオウィル』の性能ぎりぎりの射程距離を狙う狙撃場面もある。
全て連続で来るのでほぼ休憩はなく、射撃を安定させ続けるのも、常に自然な動作の必要がある。
特に、息継ぎをするタイミングが難しい。
救いは、こちらが撃つだけで良くて、走り回らなくてもいい事か。

急に変わる状況には、常に両目を開いて全体を見ないといけないし、瞬時の的確な判断力も必要だ。

実戦でもやるべきことを。
瞬時に人型の標的の人間の動きに合わせて動くのも。
物陰から僅かに見える手足を狙うのも。
ただ無心に、反動を抑え込みながら撃ち抜いていく。
的を外しても大きく崩れることなく、リカバリできたとも思う。

・・それに、特能力者、機動系を想定した動きの標的にちゃんと命中させられた。
それは、今回の目標だったし達成できたのは良かった。
・・やっぱ当てられたか。
となると、この前の『あれ』は・・・。

「そろそろ呼ばれるかな?」
ガイがそう、聞いてきてて。
「・・そうだね、行こか。私たちで最後の方かな。」
PDAを置くガイと、ミリアもPDAを置いて隣並んで歩き出す。

とりあえず、射撃訓練をしたいなら、ここはとても良い施設だと思う。
射撃訓練場の出口から出ると、ARグラウンドのある方へ向かって。
「やっぱりケイジ達は間に合わなかったか、」
まるで知ってたと言わんばかりの口ぶりのガイに。
思い出したミリアは。
「あとできつく言っておきましょうか、」
ちょっとびくっとしてたガイだけど。
ミリアは独り言のようにお仕置きの決意を固めたようだった―――――



「―――――あれって、スコアは低め?」
「え、なんで?」
「平均よりも下みたいだ、」
「あ、本当だ」
「あいつ、Class - Aの、例の噂のだろ?」
「本物ちっこいな、」
「やっぱ例の噂って本当だったのか?」
「どんな能力だった?分類は?」
「知ってるやつ、いないらしい」
「射撃に有利?そんな能力?」
「あいつにチビって言わない方がいいんだってよ」
「あん?」
「すげぇ睨まれるらしい。」
「マジかよ・・・」
「そりゃそうだろ。誰だって、」
そんな会話を耳の端にしながらリオットは、向こうを見ていた。

―――――シゴく?足りない分を埋めようと思っただけだよ。どんな時も加減はしてるって、」
ちょっと不満そうな少女の。
「前、自主トレ一緒にさせたとき、EAUからのトレーニング量は守れって説教されたなぁ、」
「もうちょっとイケると思ってたんだけど。」
「過度って言われてたろ?」
「今なら体力上がってると思うんだ。」
「そういうとこだ、」

――――彼女の声は、凛としていて、はっきりとした声の形が、耳に届く。

「あいつらグラウンドで倒れてたし。リースが次の日は休んでたよな。前から思ってたんだが、あれ以降からかな、リースが従順になった気がしたんだ。」
「まさか?そんなつもりなかったんだけどな。ちゃんと水分も摂らせてたし。まあでも、今はEAUのペースに合わせようって約束は守ってるでしょう――――――」

彼女たちが傍を通り過ぎて行った―――――リオットが振り返った、その瞳は彼女たちの姿を追っていた。
その横顔、近くで見た彼女はやっぱり、堂々とした凛々しい瞳が自身の行く先を見つめていた。

――――――さすが、Class -Aの子だろ。今噂になってる」
「実戦に出るだけあるってか、ん・・?」
と、傍のリオットが向こうの方を、瞳を煌めかせて見ていたのに彼は気が付いた。
「おい、どうした?」
リオットは頬を紅潮させて、手や顔の表情で『言葉』を伝えてくる。
「ああ、そうだな。」
彼はそんなリオットに頷いてやりながら。
「わかった、わかったって。ああいうヤツがAに行くんだろうな。」

そんな手話を見てなくても、手話がわからなくても、その興奮はリオットのキラキラの瞳と紅潮した頬に感じ取れる、彼らも少し笑うのだった。
―――――キィきぃん・・っ・・、って、耳鳴りっぽい感触がしても。
「うぉ、ちょっと『声』が漏れてる、落ち着け、」
周りの彼ら、無関係の彼らもぴくっと気が付いたり、耳を抑えたりする。
「おい、なんて言ってんだ?レニー、」
レニーと呼ばれた彼は、興奮気味の愛らしいリオットの前に立ち、その身振り手振りと、ころころ変わる表情に相槌《あいづち》を打つ。
「あー・・まぁ、・・。まあ・・そうだな。お前と同じくらいか、それぐらいの年だもんな、」
「なんだって?」
「『かっこいい』だってさ」
「へぇ、」
彼は珍しく興奮しているリオットの全身の表現と会話してて。
「かっこいい、ねぇ、」
呟きながら彼女たちが行った光景を見る彼は、既に角に消えたか少女たちの姿は見つけられなかった。
それから結局、そのゆるふわな金髪の頭の上に、大きな手をポふっと置いていた。
そのときは、リオットもその瞼をぎゅっ、と閉じてた――――――



――――なんか向こうが騒がしかねぇか?」
「またイカついのが暴れてるんじゃねぇんすか?こんな結果なっとくできるかーって、」
そこの段差に座って屯していた、体格の良い彼らの1人がPDA携帯情報端末から顔を上げたら、傍で口を開いたそいつは茶化すように返してきた。
「今日はそんなヤツが少ない平和なトレーニングだろ」
「チビは多いですけどね。あ、負けて癇癪を起したチビとか?」
「それは有り得る、」
「無駄口叩いてないでお前らも挑戦して来いよ」
「疲れるから嫌です」
「根性なしが。煽ってないでちゃんと見とけ。」
「へーい。」
返事の直後に欠伸《あくび》しかける、その悪いタイミングの欲求をかみ殺しながら・・・誤魔化すように彼は向こうの光景へ顔をやる。
その傍ではPDA携帯情報端末を覗き込むように見てる数人が、さっきからその少し気になっている映像を見て意見を交わしていた様子を見ている。
彼が少し涙目になっているのは欠伸《あくび》を我慢したからだ。
「・・生意気な新人ねぇ・・・」
「メインスクリーンにも映ってたが、」
「あいつは噂にもなってたし、スイッチャーの悪ノリかもよ?」
「裏でスイッチャー映像切り替え役やってる奴なんているのか?」
「それもノリだよ」
その返答に疑問符を浮かべる彼だが、とりあえずPDA携帯情報端末を触って、さっきハイライトされたEAUの隊員、例の少女を調べてみるのは少し話題の中心になったからだ。

「あ、お疲れ様です。」
そう、ちょうどやって来た数人に、傍に腰を落ち着けた黒髪短髪の女性、アイフェリアが手に持ったノートから顔を上げた。
彼らへその端正で整った顔立ちと、細める黒い目を向けて、落ち着いた声音を返す。
「順調か?」
「ええ、まあ。」
傍に数人を伴《ともな》って戻ってきた彼女だが。
「まあ、ついでとはいえ息抜きだ。楽しんで来ても構わないんだぞ」
「俺らああいうの苦手ですから、」
「そうか?」
彼女に気遣ってもらって、彼はにっと笑顔を見せていた。
「ん?」
と、アイフェリアがその彼らの様子に気になったようだ。
「お前ら、何かを話していたようだったが?」
彼女の部下の1人が訊ねていた。
見つめ返してくる彼女に、彼は少し緊張を交えつつ答える。
「ミリアって子、見ました?」
「・・か。気になったのか?」
アイフェリアは彼らに向き直って聞き返していた。
「実は、妙な撃ち方をしていた気がして、」
そう、PDAのスクリーンに映るプレイ映像を見せる。
「こちらで見よう。」
アイフェリアが持っていたPDAを操作し始めた。
「別に目立った動きをしてるわけじゃないんだが、気になりましたね」
「あの子、不思議なんですよね。成績は平均と比べて突出してるわけじゃあない。」
「状況を限れば上の方だがな。逆に、平均以下の項目が今のところないみたいだ。銃の腕は良さそうだ」
「きっと年代別なら突出しているな、」
「だな。」
「もう1人のヤツは?」
「あのイケメン君か、悪くない。銃の扱いも上手な方だ、」
彼の操作に映る先ほどの少女の射撃訓練の様子を、数人が覗き込んで見ている。
「『A』に受かる実力はある。戦闘試験は余裕でクリアしてそうだ。」
「でも妙なんだな。」
「なにが?」
「撃っていてそれほどスコアを伸ばしてないんだ。ヒット率がヤバいのに。」
「確かに良く当てる。」
「90%近くか。実戦でこれだけいったら、お前・・」
「狙撃って言ったら、アッシュさんとかだよな。どれだけ張り合えるかな?」
「そこまでじゃねぇだろ。ただ的に当てるヤツなんてザラにいる」
「なあ、こいつ、ポイントをそもそも狙ってねぇな、」
「ん?ギリギリ当たってるってことだろ?」
「そうでもない」
「はぁ・・?」
「まあ見ろよ。」

細部も見れる映像の中で、小さな彼女の狙い澄ました射撃は、人型の人間らしく動く標的の腕に脚へ撃つたびに直撃していくが、彼女は顔色一つ変えない。
まるで、最初からそこを狙っています、と言う面構えだ。

「・・狙っている様には見えるな」
「無駄撃ちはしていない。変わった射撃法しているのか。自前の特能力とかに関係あるのか?」
「こっち系の能力なのか?そうなら、制限でもあるってことか」
「リドックも調子悪そうだったしな、今日はなんかが影響し合ってんのかね」
「あいつは訓練で勝手に緊張してただけだろ。」
「あいつはあれで精いっぱいだと思うぜ?」
「きっと魔物だ。」
「魔物うるせーよ」
「ほら、今、急所の、狙えるチャンスでもそこを撃ってねぇ。やっぱりこいつは高ポイントを狙ってるってわけじゃないんだよ、」
「足でも手でも、どこでもって感じだが・・やっぱ狙ってんな、こいつ、」
「お洒落な撃ち方なのか?はん?」
「理由は?」
「さあ。」
「頭とか心臓とかのが高ポイントなんだから、かっこつけてねぇで素直に狙えって感じっすね、」
「でも、わざと腕や脚を狙うのは俺にもできねぇな。」
「それな。」
「んだ、」
そんな会話を交わした彼らは顔を上げ始め、向こうの光景に目を戻す。
一先ず、彼らは話すことが無くなったようだ。
トレーニングに賑わう光景を眺めて、またなにか目新しいことを探すようだった。

―――――物を狙うなら、制止している標的が理想的で、命中する確率は格段に跳ね上がる。
標的がどれだけ小さくても、微調整を繰り返せば一発当てきる事は大体の人間が可能だ。
対応・修正能力は繰り返しの練習・訓練で伸ばせる。
だが、動く標的を狙う場合は、時間の概念が割り込んでくる。
タイミングという要素が増え、そして更に自由に動く標的には予期しなければいけない概念がまた1つ増える。
人間の思考力が、解決までの次元数を増やす。
標的に当てるための弾道計算、集中力、射撃に耐える筋力も加えた後、自由に動く表面積の小さい『腕や脚を狙う』となると、常識的には『そこを狙う意味が無い』。


「彼女、独自の鍛錬《トレーニング》法かもな、」
と、アイフェリアが手元のPDAを見ながら言っていた。
「隊長もそう思いますか?」
「ああ。途中からだが、」
短く端的な返事で、彼女はまた手元の映像に目を戻す。
だし、ついでにな。」
「そうっすね。わざわざ、ご苦労な事で、」
そんな言葉を交わす2人の顔を見比べた若い彼は、傍で肩を竦めるように口を開く。
「ま、確かに目立とうと思ってやるなら、もっと良い方法があるもんな。」
「頭とか急所を狙わないトレーニングですか?」
その質問者を見たアイフェリアだが、誰かが次に口を開く前に彼女は答えていた。
「推測だ。実戦を想定しているのかもな。制限を課して。」
「俺もそう思います。」
?手足を狙ってですか?」
聞き返されたアイフェリアは手を止め顔を上げ、話を聞きたそうにしている彼らを見た。
だから、その口を開く。
「知ってると思うが、手脚よりも胴体の方が弾は当てやすい。
手足を狙い撃ち抜こうとすると、極端に被弾面積が小さくなるからだ。
加えて、人間の四肢は胴体などと比べて素早く動く。
精確に撃ち抜くには、観察眼とタイミングが必要だな。
行動パターンを読み予測する必要がある。
それは狙撃の基本でもある。
だから、狙撃ではよほどのことが無い限り胴体を狙うのが常識だ。
だが彼女は、単発射撃で精確性を上げているにも関わらず、四肢を狙っている。
恐らく、生身の人間をイメージして練習しているように見受けられる。」
「ん?生身のですか・・」
「データ上はどこまで生身の人間に近づけられるかはわからないがな。より難しい方を選んでいるだけかもしれない。あくまで推測だ。」
「隊長、詳しいデータをもらってみますか。」
「ああ、頼む。」
そう、彼女達が向こうで他の話をし始めていた。

「なぜ生身の人間を・・・」
次に誰かが、言葉を続けたときに。
「面白そうなヤツ見つけてるかあ?」
って、その低く野太い男の声が背後から聞こえてきた。
武骨な連中がこっちへ近づいてきたことに、屯している彼らも気付くが。
その中の1人、大きな体躯の男、ゴラバスがにっと筋張った愛くるしい笑顔を見せたようだった。
「よお、お前ら新人を上から見てるとは余裕だな?追い抜かれたら泣くぜ?」
軽口にそうも言ってくる。
ゴラバスがさっき寝転んでやる気の欠片も見えなかったのを知っている彼らは、先ず何を言えばいいのか迷ったが。
「そっちはどうなんだ?」
アイフェリアがPDAからゴラバスたちを見上げて一瞥していた。
「ぼちぼちだな。アイフェリア、どうよ?目を付けたやつでもいたか?」
呼ばれたアイフェリアのクールな視線は、彼に一瞬触れただけだが。
「後でわかる。お前も自分の仕事をしていろ。」
「仕事ばっかりでつまらねぇな、お前らも。最低限のデータしか見てないんだっけか?精が出るねぇ。こんなもん、おすすめされた秘蔵っ子とか見てりゃ十分だろ、」
「マジメにやれ、」
「冷やかしに来たんすか?」
「ああ?」
彼にはぎろりと睨みつける様な顔を見せたが、それもぱっとまた斜めに見る様なニヒルな笑いに変わる。
「俺らはマジメにやってるさぁ。雇い主が見せたい自慢の『優等生』がいる。それを俺らがちゃんと見て褒めてやる。お互いにウィンウィンだろ?」
「・・・で、何の用だ?」
「そっちが気になってよ。どいつだ?気になってるヤツってのは、」
「ちょっとゴラバスさん、」
彼を押しのけるように、アイフェリアとも顔が近いので文句を言った彼だが、そこで突っ立ってるゴラバスの部下の彼らも肩を竦めたように、彼の態度に諦めてるようだ。
「いいから教えろよ。ん、こいつは・・」
アイフェリアが手にしたノートに映る映像を無理やり覗き込んで、無精《ぶしょう》ひげが残る顔で彼は大きく頷いていた。
「噂のあいつか、」
最近だけで何度か話題になっていた少女だ。
当然、彼も知っているだろう。
アイフェリアは近い彼を手で押しのけて、立ち上がる。
「どこ行くんだよ?」
「まだ見ていないところがある。」
口数少なくアイフェリアは、そう言いおいて歩き出す。
「ちょーマジメだな。」
頭を掻くようなゴラバスは呆れたようだ。
「俺らも行きますか?」
「いや、個人的なものだ。お前たちも気になる所があれば自由に動いていい」
「わかりやした、」
「はい、」
「うっす、」
「くそ生意気そうな奴らがたくさん入ってくる、いちいち現実を教えてやらねぇとなぁ?」
「はっは、」
ゴラバスとその仲間の彼らが笑ったようだが。
「慎め。お前も模範となるべき立場だろう。」
肩越しに振り返ってアイフェリアは、その横柄な態度のゴラバスに凛とした声で言い渡す。
「模範より先に、指導だよ。自己評価が高すぎる奴らはめんどくせぇぞぉ。独断で動く奴は更に扱いにくいしなぁ・・・」
にやり・・とする彼は、映像の中の少女、ミリアの横顔を見て言ったようだ。
「・・・・」
普段、冷静なアイフェリアは表情の読めないポーカーフェイスで、凛としたクールビューティとも言われてありがたられちゃいる。
だが、今ゴラバスに向けている表情はわかりやすい。
黙ったままだが、じっと睨んでいる様にも見えるアイフェリアは、彼の事が嫌いだろう。
きっとそうだろう、と傍で見ていた部下の彼は思っている。
「まあまあまあ、」
部下の彼が間に入って、場を和ませようと動くほどには。
「はっは、冗談だよぉ。よぉーし、俺らも実力を見せてやるか。ってことで、アイフェリア、勝負しねぇか?」
当の本人であるゴラバスは、全く気にしていないようだが。
「え?」
「お?」
「やるんすか?」
それよりも、周囲の彼らが少し色めき立つ。
「さっきそこでジジナーと会ってよぉ。ちょうどいいから前言ってた勝負に決着付けようぜってな。ジジナーもやるって言ってんだ、アイフェリアは逃げねぇだろ?」
そう、さっきからゴラバスの後ろにいた数人の中に、そのがっしりと太い筋肉を持つ体格のジジナーが立っていたのには気づいていたが。
「私は関係ないだろう。」
「そうでもないだろ?決着付けといた方がすっきりするだろう?ついでに俺に惚れるかもしれねぇし。」
「私にメリットが無い。」
「威張れるぜ?」
って、きょとんとゴラバスが言ったのを、アイフェリアはちょっと眉を寄せて見てたけれど。
「・・貴方にもしつこかったんですか?」
アイフェリアが声を掛けたのはジジナーへ、だ。
「トレーニングのついでだ。」
低い声で端的に答えるジジナーはいつも通りのようだ。
別に、ゴラバスは彼を怒らせたわけではないらしい。
「いいだろ?隊長同士のお遊びだ、」
「おお、面白そうっすね、」
「射撃ですか、誰が一番上手いのか見せてくださいよ、」
「・・確かに、忙《せわ》しなくし過ぎたな。せっかくだ、」
PDAを片手に持っているアイフェリアも振り返り、彼らに向き直って腕組をし正面から見据えた。
「お前を叩きのめしてやる。」
ジジナーは、アイフェリアがゴラバスに宣戦布告したのを見て、少しだけ笑んだかもしれない。
「はっはぁっ、来いよっ。久しぶりだろ、新人も多いみたいだしよ、少しは目立っておけって、」
ご機嫌になったゴラバスを置いて、先に歩き出すアイフェリアを追いかけて。
その隊長格の3人と、面白そうだと見物しに行く他の彼らも立ち上がったりして、歩き出していた。
「尊敬を集めりゃ次からやり易くなるからなぁ、」
「・・お前のそういう所が、」
不敵な大声をアイフェリアにダメ出しされてもニヤニヤ笑うゴラバスの、やや後ろを歩くジジナーは賑わしい向こうのエリアへ横顔を見せる。

そんな3人の姿を、周囲の彼らは見送ろうとしていたが。
「ありゃあ、なかなか無い組み合わせだな・・・。」
「ちょっと目立ってるみたいだぜ、やっぱEAUで顔を知られてるんだな、」
「・・ちょっと俺も見てくる、いや、隣で撃ってみるか・・・」
「お?それなら俺も、」
うずうずしていた、立ち上がる彼を追って、立ち上がる彼も―――――

観覧していた彼らから注目を浴び始める彼らを追って、次の射手の立つ方へ――――。



 一見、スレンダーな印象の体躯のショートカットの髪の彼女はその唇の先を、チューブの口に付ける。
そして、中身のゼリーをちゅうぅっと吸いながら、その『ジェリポン』を喉に流し込んで、疲れた身体に栄養補給をしつつ周囲を眺め歩いていた。
彼女は長身とは言わないが、彼女たち3人並んだ中ではちょっと高めだ。
筋肉量は周囲の本格的な彼らと比べれば全然少なく細く見られるだろう。
これでも筋力トレーニングは本格的にやっているし、やり始めてからメニュー量は何倍にもなった。
それでも、トレーニングに来れば自分のランキングがどれくらい下なのかは一目でわかってしまうし、さっきなんかは年下の子供たち相手にゲームをさせられた。
ミニーやアーチャたちは勝って喜んでいたけれど。
まあ、対戦の相手はくじ引きみたいなもので、ランダムかもしれないけれど。
ただ、見上げる機動系の能力者たちの頭上の活躍は、相対的に私の後ろに影を落とす。
背中にあると常に感じる、ひりひりした、触れてきて欲しくない黒い靄《もや》のようなそれは。
『どうしても彼らには届かない』、ってずっと誰かに言われているみたい。

わかっている。
それを言っているのは、自分だ、って―――――

――――向こうに少し、人が集まっているような気がして。
・・向こうへ目を留めたていた彼女は、それから、片手に持ってたPDA携帯情報端末に目線を落とした。
「どうしたの?クロ、」
傍の、ミニーに聞かれたから。
「ん、なんかあっちも騒がしくなったなって、」
彼女は、落ち着いた声音で話す。
ミニーも、クロがさっき見ていたような、同じ方を少し覗くように見ていたけれど。
「人、増えてる気がするよね、」
アーチャがそう、瞬いて言ってた。
「でもさぁ、差し入れとか自由にって、さすが気前良いよねぇ」
それは、ご機嫌でにっと笑ってて。
「うん、」
クロと同じように『ジェリポン』を手にしてるアーチャもミニーも、施設で用意してくれた飲料などの中から、好きなものを選んでから嬉しそうにしてる。

――――何より、『ここにいるのが私なんだ』、って思うことに何も思わなくなっているのが。
―――――『受け入れる』ってことなのかもしれない。

「クロもみんなもそれ好きだよね、」
・・って、アーチャに言われたクロは、口の中の甘いジェリーを飲み込んで。
「当然」
って、答えてた。
なにか可笑しくてアーチャはその笑顔をミニーと見合わせて、2人で笑顔を見せ合ってて。
クロは少し、頬を緩めるように笑みを見せる。
別に、なにかに苦しんでるわけじゃないし。
『ジェリポン』とかも飲み放題、食べ放題でいっぱいあるし。
今はお祭りのようなこの雰囲気を、ミニーやアーチャ達と楽しむのが楽しい。


『ジェリポン』は子供から大人まで大好きな定番人気の、美味しく手軽な運動後の栄養補給にも良い飲むゼリーだ。
のどごしも爽やか、汗を掻いた後でもごくごく飲める。
まあ、他のドリンクなども自由に選べるので、いろんな人たちがそれぞれ水分や栄養補給のためのボトルを片手に持って行ったり、傍に置いて友達と会話していたり、今も頑張っている人たちのステージを観戦している彼らも持っていたりする。
そんな光景の中、クロが目に留めたのはちょうど、たまたまだった。
近くを、横を通りかかっていた、少年と少女たちが多いようなグループの横で。
目が合ったのが、そこで座っているその少女の瞬くような瞳で。

見覚えのある顔の少女と少年の並びは、クロがちょっと瞬いた後、すぐ思い出した。
「・・あー、さっきの」
クロは、どこかで見覚えがあるような顔の中から、その少年と少女を見つけ出していたのだった。
「あ、」
向こうもこちらに気が付いたようだった。
そして、こちらを見たら、顔を伏せる様なその小柄な少女だけれど。
クロは、彼らの手にはやっぱり冷たそうな『ジェリポン』が握らていたのに気が付き。
それで、ちょっとだけ微笑んだ。

そこに屯するように段差に腰掛けていた彼らは、ステージを観覧していたようだ。
「あ、さっきの相手だ、」
横でアーチャたちも彼らを見つけたようで、クロは彼らの方に足を向けていた。
「やぁ、」
クロが声を掛けて。
「あ、はい、」
少年がちょっと背筋を伸ばしたように返事をしていた。
「横、座っていい?」
「あ、はい、」
その質問は少年をちょっと緊張させたみたいだけれど。
「あ、さっきは、」
眼鏡をかけたお兄さんの彼がこっちに気が付いて、クロたちが顔をよく見れば彼は3人一組だった内の1人、この子たちを引率していたようなお兄さんを思い出した。
このグループは慣れてない子たちが多いのか、明らかに年上の人が混ざって年齢が下めの子たちと組んでいるようで、気が付けば周囲もなんだか、クロたちをちょっと珍しそうに見たりしていたけれど。
でも、そんなに気を留められるようではなく、また自分たちの会話にちょっとずつ戻って行くようだ。
少年の隣に腰掛けたクロが、彼らを見ててなんとなく気づいたのは、その対戦した3人の内の1人の、その少女が少年の陰でなんだかそわそわしてて、こっちを見ない事で。
さっきのゲーム中での印象では、その少女はとても気丈に声を出していたようだった。
でも、今は少年の横でもじもじしているのが、お腹が痛いとか、そういうのでは無いだろう。
「・・・?」
それから、クロは少年たちがじっと見られて、ちょっと居心地が悪そうにしてたのにも気づいた。
顔を前に戻したクロは、気が付けばアーチャやミニーたちも顔をちょっと見合わせたようにしていた。
たぶん、わかっている。
柄じゃないってことは。
さっきの相手だった子たちを見かけたからとはいえ、席を探していたとはいえ。
ほぼ初対面の彼らと一緒に座ろうと思ったのは、柄じゃない。

でも、クロが少年たちに口を開いていた。
「・・ハリードさんから聞いたんだけど、君たちもClass - Cでしょ。『A』を目指してるって?」
クロがそう、少年たちに訊ねたら・・。
「・・・・」
少年たちはちょっと、戸惑っているような、顔を上げて目が合っても顔を慌てて逸らすような。
「そうなんですよ、僕ら。頑張ってて。」
傍に座ってる眼鏡のお兄さん、同じチームの彼はちょっと笑って話すのは、気恥ずかしさもあるのかもしれない。
「ぉー、やっぱり、」
アーチャとミニーも嬉しそうだ。
「あ、はい・・」
少年は照れてるようにだけれど。
「もしかして、あなた達も?」
お兄さんの質問には。
「ううん、クロが目指してるんだ、」
アーチャがそう答えて。
3人の中でも背の一番高い、まあ3人はそれほど差が無いけれど、ショートヘアの少々クールな印象がある目元の彼女が、クロみたいだ。
そんなクロは、そう伝えたアーチャを見て。
その隣で微笑んでるミニーにも、目を移していたが。
「え、そうなんですか?」
それは少しの間だけだった。
「あ、あの、」
少年に呼ばれたから。
「ん?なに?」
「ど、どうして1人だけ、で目指してるのかな・・?、って」
って、カオは。
クロは・・・。

・・そのカオの横顔を見てるリコが、ちょっとそのカオの発言に瞬いたようなのを、見つけていたけれど。

「・・失礼でした?」
そう、年上のお兄さんの彼が気遣って、言ってくれて。
「あ、いや。いえ、・・んー、なんでだろうね」
クロは呟くような。
返事を考えていたみたいだ。
「ご、ごめんなさい」
「ん、いや」
「怒ってないよ」
って、クロの代わりに横からミニーが、そう。
「いつもこんなんだし、・・仏頂面でしょ?」
って、更にアーチェが、からかうように言ってた。
クロは何か言いたそうに口元を曲げて、彼女を見てたけど。
「そ、そんなこと、ないです、」
カオは遠慮気味にだけど、首を振ってた。
クロは、それを変化のない表情で見ていたけれど。
見ようによってはちょっと、むすっとしているようにも見えるかもしれない。
「君たちは?」
そう、ミニーが。
「なんで『A』に行きたいの?」
彼らに聞いていた。

「えっと、その、」
カオはリコをちらっと見たけど。
「ぇっと、それは・・・」
カオはそう・・・口ごもるようにだけれど。

「・・・EPFみたいに、たくさん人を助けられるから、」
って。

少年は、恥ずかしそうにだけど、そうはっきり伝えていた。

「そっか。」
クロは。

「えらいねー」
ミニーたちも。

「こ、これ、リコも言ってたんです、」
って、カオが言ったのは。
ちょっと自慢気な少年のものだ。

隣の少女を見れば、かぁっと顔を紅くして、片手のジェリポンの飲み口を咥えたたまま、うつむき気味だったけど。
左手でぎゅうっとハーフパンツの裾を握ってるのは、力強くて皺《しわ》になりそうだ。
皺《しわ》になりにくい素材だろうけど。

だから、ミニーたちは、もうちょっと微笑んでた。

「ぉ、お姉さんたち、Class - C、ですよね?」
「うん。?」
頷くアーチャはそれからちょっと不思議そうな顔をする。
「あ、その、み、見かけた事あったんで、」
「そか、私も見た事あったんだよね、」
って、彼女は微笑む。
「違う『部屋』の子でしょ?」
「は、はい。ダーさんのとこです。」
「ふぅん?あ、こっちは、ウェチェスさんの所でよくお世話になってる。」
「ウェチェスさん・・?」
「まあ、他の研究室の事なんか知らないよね、」
「え、えっと、・・すいません」
「え、謝らなくていいって、」
アーチャに、はにかむような少年は・・。

ふと、視線を落としたPDAに映る画面へ、クロは。
「そろそろだ、」
と、手に持っていたPDAから顔を上げていた。
「・・?」
カオたちはちょっと不思議そうな顔でクロを見ていて。
それに気が付くクロは、彼らへ伝える。
「知ってる?あそこの、あの小さい子、『A』でやってるらしいよ。」
そう、クロが小さく指差す向こう、その視線の先は、人が多いけど。
「あそこの、髪を2つ尻尾にしてる子、」
見た事ある人をカオは見つけた。
「あ、はい。あの人?あ、」
「知ってた?」
「はい。みんな言ってたよね、ねぇ、リコ?」
「・・ミリアって人でしょ、」
紅い頬のリコはちょっと、ぶすっとしているようだけれど。
この子たちも知ってる、ってことはやっぱり、噂が広がっているのは間違いないみたいだ。
きっと話題だけなら彼女たちがNO.1かもしれない。
なのか、気になるよね。」
クロがそう見つめる、その横顔の眼差しは次第に細められていく。
「は、はい、」
カオはそわそわしていて。
・・リコはそんなクロの横顔をじっと見てたけど・・・。
「話したことってあります?」
マキオがそう訊ねてた。
「ううん。ない。でも・・ねぇ、どんな感じなんだっけ?」
クロがミニーを振り返って聞いていた。
ミニーはちょっと瞬いたけど。
「・・悪い子じゃないと思う、」
って、答えていた。
「え?」
カオたちはちょっと、瞬く。
「悪い子じゃないと思うんだってさ、」
クロがもう一度言って。
「あは、」
アーチャが可笑しさを堪えるように笑うのは、カオやリコ、マキオたちにはよくわからないけれど。
「穏やかな感じがするんだってさ、」
って。
「そっか、」
リコは呟くように、納得してた。
「今は、ちょっと違うけど・・」
って、ミニーは彼女を、あのミリアって子をじっと見つめてる。
「そうなの?」
「・・うん、」
それはもう、当たり前みたいだ。

カオも知っている。
そういうやり取り、なんとなくカオたちもも見た事はある。
他の子たちもよくやってる。
言葉にはしづらい、自分たちの感覚を、口にするときの感じ。

「今はどんな感じ?」
「・・アイフェリアさんとかみたい、な、あ、アイフェリアさんも機嫌良いときはあるけど、今は、トレーニング中のアイフェリアさんみたいな、」
「へええ?」
「・・ふぅん、」
あのミニーってお姉さん、感知系かそっち系なんだと思う。

「ちょっと違うんだけど、たくさん人がいて、だから、」
「うんうん。・・わかんないかー」
「そろそろかな、」
ステージの方に動きがあったようだ、クロがそっちを見てる。

そんな皆を見てる、なんだかそわそわしてるカオの。
「・・ね、リコ、凄いよね?」
こそこそ、話すカオが紅潮した顔で、キラキラした眼で、だからリコは。
「・・『A』がどんなのか、見てやろうじゃない、」
って、リコは上から目線でツンツンしてて。
カオは何とも言えないような顔で口をむんと閉じたけど、顔を逸らすようなそのリコの横顔を見てた。
そんな様子を目の端に見てたミニーたちもちょっと、くすりと笑ってた――――。

「――――私たちがために、」
そう、クロが。
リコの言葉の、続きを足したように――――――
ミニーには聞こえた、アーチャにも。
―――――クロも、ステージを見つめている。



 ―――――ミリアが、胸の前で両腕を組んでいる。
ステージ横の大型モニタに表示される情報を眺める横顔は、必要なものを大体見終わったものだ。

周囲には同じように情報を求めて集まる人たちが、知り合いたちと大型モニタとを見比べては話し続けている。
なにかが起きる度に更新されるそのモニタ、ステージの方のプレイを見て声援を掛ける彼らもいる。
この目の前の『チーム&シューター』ルールのステージは注目度も高く、ステージの演出もより派手で華やかだ。
見ている限り、ルールは少し複雑そうだけれど。
ルールは教えてもらうまで秘密だそうで、とりあえず眺めているだけしかできないのだから仕方ない。
「ちょ、もう、たいりょくげんかいっ・・なんでっ、」
「いいからはしれ!」
「・・ちくしょぉお・・!」
ここまで聞こえてくる彼らの大きな声で。
今もステージでプレイして走り回っている彼らは、真剣だけど、楽しそうだ、たぶん。

ミリアが見るモニタには、ルール別のスコアランキング、今行われているステージの名前と組み合わせ、カメラに映る彼らの様子、それからスコアの移り変わりなど。
画面端のお知らせに流れる文字には、トレーニング終了時間の予定や現在時刻、スタッフに宛てた業務連絡、そして、『さっきから迷子が2人いる』ようだ。

「まだ呼ばれないのか?」
隣のガイの声が耳に入り、ミリアは小さく肩を竦めて見せる。
「まさか、このまま終わるんじゃないだろうなぁ・・?」
ガイが不吉な事を言ってる。
「それは無いでしょ。たぶん、」
と・・人が多すぎて時間の管理をミスしている可能性もあるかも、ってミリアもちょっと思い当たったけど。
「まあ、『これ』が一番疲れそうだしな。・・出られなくてもいいかもな、」
って、ガイがほっとしてるような、だから。
とりあえず、ミリアはちょっと伸ばした左拳で、隣のガイの右の脇腹の良い所をグッと押し込むと。
ガイが『グっ』、って口端から声を漏らして身を捩ってた――――――

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