karma

千尋

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1章

3話「旅立ち」

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まだ夜も明け切らぬ黎明、ビュウとリルティは自宅の玄関口で、いよいよ旅立とうとしているところだった。

辺りは静寂としていて薄暗く、旅立つ二人とそれを見送るリラの話し声だけが、静かに響いていた。

「もう少しだけでも家に居て、出発するのは夜が明けてからでも良いのよ?まだ少し暗いし、そんなに急がなくても」

二人の旅路の心配が募り、動揺しているリラ。

「お母さん!私達は大丈夫だから。もし出発が遅れて、到着が遅くなったらどうするの。謝って済む問題じゃないってことくらい、お母さんもわかってるよね」

「そうだけれど・・・」

「そんなに心配しないで。
 役目が終わったら、ビュウと一緒にすぐ帰って来るよ」

その言葉を聞いたリラは、ほんの数秒の間を置いた後、少しだけ頷いた。

「行こっか、ビュウ」

リルティが促すと、ビュウはラノの出入り口である門の方へ歩き始め、リラのいる後ろの方を振り向きながら、彼女に大きく手を振った。

「それじゃ、行ってくるから」

それに応える様に、リラは微笑みながら手を振る。

暫くの間は会えないというのに、何故か、リルティは一度も彼女の方を振り向こうとはしなかった。

ビュウがそれを不思議に思っている最中、リルティは肩鞄の中から地図を取り出し、ビュウにも見えるよう、大きく広げて全体を見た。

「ここが私達のいるラノで、ここが月燐だよね。近そうに見えるけど少し遠いみたい。ソルト兄さんとも相談して、進むルートを決めて行こうね」

リルティは地図上にある建物のような形の目印を、交互に指差しながら言った。

ラノは地図上で西南の方に在り、二人の目指す月燐は、そこから北の方角にあった。
 
「街かー、楽しみだな。ラノは田舎の方に入るらしいけど、どんな所なんだろうな」

「沢山の人がいて、賑やかなイメージがあるね。ソルト兄さんは、よく武器を売りに他の街へ出る事があるらしいから、結構知ってるみたい」
 
「なるほどな、後で聞いてみよっと」

ほどなく歩いていると、二人の目の先には深緑色をしたアーチ状の門と、ソルトの姿があった。

まだ眠いのだろうか、柱にもたれかかり、腕を組んで静かに目を閉じている。

その存在に気づいた二人が駆け出してまもなく、彼は二人の足音から気配を感じ、ふっと目を開けてその方を見た。

「すみません、兄さん。待ちましたか?」

「遅くなって、ごめんなさい」

近づくと、ソルトを気にかけて話しかける。

「いや、俺も今さっき着いた所だ」

眠たそうにしながらも微笑するソルトに、二人は安心して微笑み返した。

合流した三人はそのまま門を抜け、一つ目の街を目指して歩き始める。

直後、リルティは肩鞄の中から白い帽子を取り出し、深く被った。

彼女は紅紫の瞳を持つため、その瞳を見れば、神子であるということが外部の者へすぐに発覚してしまう。

そうなれば、珍しがって集まる者も多いだろう。

旅を円滑に進めるため、彼女はそれを晒すことを控えた。

歩きながら、ソルトはビュウとリルティの持っている地図と同じ物を取り出し、二人にも見えるように持つと、分かりやすいように順序を立てて道筋を説明し始めた。

先ほどリルティが言ったように、ラノから月燐へ向かうには二つの街を経由する必要がある。

一つ目はデル、二つ目はアルガンタと呼ばれる街だった。

現在、彼らが向かっているのは、ラノから徒歩三十分ほどで着く場所にあるデルで、領土の割に人口は少なく静かな街だが、宿屋は多いという少し風変わりな街だった。

デルには、大陸全土に数少なく存在する情報屋があると有名で、それが目当てでやって来る来訪客が随分多かった。

人口の少ない割に宿屋が多く設備されているのは、各地からの来訪客を接待するためだという。

ソルトは二人にデルまでの道筋を教えると、その先の事がらは着いてから説明すると言い、地図をしまった。

「情報屋って、やっぱりどんな事でも知ってるのかな」

話を聞き終えた後、不思議そうにリルティは呟く。

「どうなんだろうな。基本的に秘密主義で、内部のことは一切漏らそうとしない」

ソルトの答えに感心し、頷くリルティ。

「って事は、競馬とかも楽勝?」

それを聞き、まるで小銭を拾った時の様に嬉し気な顔をするビュウ。

何気ない彼の一言に、リルティとソルトは思わず失笑してしまう。

「法に反するから、扱わんだろうな」

「ちぇ、つまんねぇなぁ」

少し悔し気に舌を鳴らすと、ビュウは足元の小さな石ころを蹴る。

三人は、このまま順調に月燐へ到着する事が出来そうだった。

初めて目にする光景に、ビュウとリルティは目を輝かせながら進んでいく。

嬉々とした二人の傍にいるソルトも、いつの間にか彼らにつられ微笑んでいる。

少しずつゆっくりと、彼らは目的地のデルへと近づいていた。
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