4 / 8
1章
3話「旅立ち」
しおりを挟む
まだ夜も明け切らぬ黎明、ビュウとリルティは自宅の玄関口で、いよいよ旅立とうとしているところだった。
辺りは静寂としていて薄暗く、旅立つ二人とそれを見送るリラの話し声だけが、静かに響いていた。
「もう少しだけでも家に居て、出発するのは夜が明けてからでも良いのよ?まだ少し暗いし、そんなに急がなくても」
二人の旅路の心配が募り、動揺しているリラ。
「お母さん!私達は大丈夫だから。もし出発が遅れて、到着が遅くなったらどうするの。謝って済む問題じゃないってことくらい、お母さんもわかってるよね」
「そうだけれど・・・」
「そんなに心配しないで。
役目が終わったら、ビュウと一緒にすぐ帰って来るよ」
その言葉を聞いたリラは、ほんの数秒の間を置いた後、少しだけ頷いた。
「行こっか、ビュウ」
リルティが促すと、ビュウはラノの出入り口である門の方へ歩き始め、リラのいる後ろの方を振り向きながら、彼女に大きく手を振った。
「それじゃ、行ってくるから」
それに応える様に、リラは微笑みながら手を振る。
暫くの間は会えないというのに、何故か、リルティは一度も彼女の方を振り向こうとはしなかった。
ビュウがそれを不思議に思っている最中、リルティは肩鞄の中から地図を取り出し、ビュウにも見えるよう、大きく広げて全体を見た。
「ここが私達のいるラノで、ここが月燐だよね。近そうに見えるけど少し遠いみたい。ソルト兄さんとも相談して、進むルートを決めて行こうね」
リルティは地図上にある建物のような形の目印を、交互に指差しながら言った。
ラノは地図上で西南の方に在り、二人の目指す月燐は、そこから北の方角にあった。
「街かー、楽しみだな。ラノは田舎の方に入るらしいけど、どんな所なんだろうな」
「沢山の人がいて、賑やかなイメージがあるね。ソルト兄さんは、よく武器を売りに他の街へ出る事があるらしいから、結構知ってるみたい」
「なるほどな、後で聞いてみよっと」
ほどなく歩いていると、二人の目の先には深緑色をしたアーチ状の門と、ソルトの姿があった。
まだ眠いのだろうか、柱にもたれかかり、腕を組んで静かに目を閉じている。
その存在に気づいた二人が駆け出してまもなく、彼は二人の足音から気配を感じ、ふっと目を開けてその方を見た。
「すみません、兄さん。待ちましたか?」
「遅くなって、ごめんなさい」
近づくと、ソルトを気にかけて話しかける。
「いや、俺も今さっき着いた所だ」
眠たそうにしながらも微笑するソルトに、二人は安心して微笑み返した。
合流した三人はそのまま門を抜け、一つ目の街を目指して歩き始める。
直後、リルティは肩鞄の中から白い帽子を取り出し、深く被った。
彼女は紅紫の瞳を持つため、その瞳を見れば、神子であるということが外部の者へすぐに発覚してしまう。
そうなれば、珍しがって集まる者も多いだろう。
旅を円滑に進めるため、彼女はそれを晒すことを控えた。
歩きながら、ソルトはビュウとリルティの持っている地図と同じ物を取り出し、二人にも見えるように持つと、分かりやすいように順序を立てて道筋を説明し始めた。
先ほどリルティが言ったように、ラノから月燐へ向かうには二つの街を経由する必要がある。
一つ目はデル、二つ目はアルガンタと呼ばれる街だった。
現在、彼らが向かっているのは、ラノから徒歩三十分ほどで着く場所にあるデルで、領土の割に人口は少なく静かな街だが、宿屋は多いという少し風変わりな街だった。
デルには、大陸全土に数少なく存在する情報屋があると有名で、それが目当てでやって来る来訪客が随分多かった。
人口の少ない割に宿屋が多く設備されているのは、各地からの来訪客を接待するためだという。
ソルトは二人にデルまでの道筋を教えると、その先の事がらは着いてから説明すると言い、地図をしまった。
「情報屋って、やっぱりどんな事でも知ってるのかな」
話を聞き終えた後、不思議そうにリルティは呟く。
「どうなんだろうな。基本的に秘密主義で、内部のことは一切漏らそうとしない」
ソルトの答えに感心し、頷くリルティ。
「って事は、競馬とかも楽勝?」
それを聞き、まるで小銭を拾った時の様に嬉し気な顔をするビュウ。
何気ない彼の一言に、リルティとソルトは思わず失笑してしまう。
「法に反するから、扱わんだろうな」
「ちぇ、つまんねぇなぁ」
少し悔し気に舌を鳴らすと、ビュウは足元の小さな石ころを蹴る。
三人は、このまま順調に月燐へ到着する事が出来そうだった。
初めて目にする光景に、ビュウとリルティは目を輝かせながら進んでいく。
嬉々とした二人の傍にいるソルトも、いつの間にか彼らにつられ微笑んでいる。
少しずつゆっくりと、彼らは目的地のデルへと近づいていた。
辺りは静寂としていて薄暗く、旅立つ二人とそれを見送るリラの話し声だけが、静かに響いていた。
「もう少しだけでも家に居て、出発するのは夜が明けてからでも良いのよ?まだ少し暗いし、そんなに急がなくても」
二人の旅路の心配が募り、動揺しているリラ。
「お母さん!私達は大丈夫だから。もし出発が遅れて、到着が遅くなったらどうするの。謝って済む問題じゃないってことくらい、お母さんもわかってるよね」
「そうだけれど・・・」
「そんなに心配しないで。
役目が終わったら、ビュウと一緒にすぐ帰って来るよ」
その言葉を聞いたリラは、ほんの数秒の間を置いた後、少しだけ頷いた。
「行こっか、ビュウ」
リルティが促すと、ビュウはラノの出入り口である門の方へ歩き始め、リラのいる後ろの方を振り向きながら、彼女に大きく手を振った。
「それじゃ、行ってくるから」
それに応える様に、リラは微笑みながら手を振る。
暫くの間は会えないというのに、何故か、リルティは一度も彼女の方を振り向こうとはしなかった。
ビュウがそれを不思議に思っている最中、リルティは肩鞄の中から地図を取り出し、ビュウにも見えるよう、大きく広げて全体を見た。
「ここが私達のいるラノで、ここが月燐だよね。近そうに見えるけど少し遠いみたい。ソルト兄さんとも相談して、進むルートを決めて行こうね」
リルティは地図上にある建物のような形の目印を、交互に指差しながら言った。
ラノは地図上で西南の方に在り、二人の目指す月燐は、そこから北の方角にあった。
「街かー、楽しみだな。ラノは田舎の方に入るらしいけど、どんな所なんだろうな」
「沢山の人がいて、賑やかなイメージがあるね。ソルト兄さんは、よく武器を売りに他の街へ出る事があるらしいから、結構知ってるみたい」
「なるほどな、後で聞いてみよっと」
ほどなく歩いていると、二人の目の先には深緑色をしたアーチ状の門と、ソルトの姿があった。
まだ眠いのだろうか、柱にもたれかかり、腕を組んで静かに目を閉じている。
その存在に気づいた二人が駆け出してまもなく、彼は二人の足音から気配を感じ、ふっと目を開けてその方を見た。
「すみません、兄さん。待ちましたか?」
「遅くなって、ごめんなさい」
近づくと、ソルトを気にかけて話しかける。
「いや、俺も今さっき着いた所だ」
眠たそうにしながらも微笑するソルトに、二人は安心して微笑み返した。
合流した三人はそのまま門を抜け、一つ目の街を目指して歩き始める。
直後、リルティは肩鞄の中から白い帽子を取り出し、深く被った。
彼女は紅紫の瞳を持つため、その瞳を見れば、神子であるということが外部の者へすぐに発覚してしまう。
そうなれば、珍しがって集まる者も多いだろう。
旅を円滑に進めるため、彼女はそれを晒すことを控えた。
歩きながら、ソルトはビュウとリルティの持っている地図と同じ物を取り出し、二人にも見えるように持つと、分かりやすいように順序を立てて道筋を説明し始めた。
先ほどリルティが言ったように、ラノから月燐へ向かうには二つの街を経由する必要がある。
一つ目はデル、二つ目はアルガンタと呼ばれる街だった。
現在、彼らが向かっているのは、ラノから徒歩三十分ほどで着く場所にあるデルで、領土の割に人口は少なく静かな街だが、宿屋は多いという少し風変わりな街だった。
デルには、大陸全土に数少なく存在する情報屋があると有名で、それが目当てでやって来る来訪客が随分多かった。
人口の少ない割に宿屋が多く設備されているのは、各地からの来訪客を接待するためだという。
ソルトは二人にデルまでの道筋を教えると、その先の事がらは着いてから説明すると言い、地図をしまった。
「情報屋って、やっぱりどんな事でも知ってるのかな」
話を聞き終えた後、不思議そうにリルティは呟く。
「どうなんだろうな。基本的に秘密主義で、内部のことは一切漏らそうとしない」
ソルトの答えに感心し、頷くリルティ。
「って事は、競馬とかも楽勝?」
それを聞き、まるで小銭を拾った時の様に嬉し気な顔をするビュウ。
何気ない彼の一言に、リルティとソルトは思わず失笑してしまう。
「法に反するから、扱わんだろうな」
「ちぇ、つまんねぇなぁ」
少し悔し気に舌を鳴らすと、ビュウは足元の小さな石ころを蹴る。
三人は、このまま順調に月燐へ到着する事が出来そうだった。
初めて目にする光景に、ビュウとリルティは目を輝かせながら進んでいく。
嬉々とした二人の傍にいるソルトも、いつの間にか彼らにつられ微笑んでいる。
少しずつゆっくりと、彼らは目的地のデルへと近づいていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる