karma

千尋

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1章

4話「出会い」

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デルへ向かう途中、発見した建物や風景などの話をするうち、三人は目的地付近に到着した。

ビュウとリルティにとっては、見る物全てが始めてで新鮮な光景ばかりだった為、随分な寄り道をしてしまい、デルに到着する頃にはもう昼過ぎになっていた。

ビュウとリルティはまだまだ元気はつらつといった所だが、好奇心旺盛な二人に質問攻めにされたソルトの方は、少し疲れている様子だった。

「それにしても、本当にソルト兄さんは物知りだよね。何だか凄く尊敬するな」

「この辺には何度も来てるからな」

「やっぱ、武器とか売りに?」

ビュウの問いに応える様に頷くソルト。

三人は、街中を歩きながら話をする。

人通りが激しい割に路上で談話する者は極僅かで、殆どの通行者が単独で街を行き交っていた。

通行者の中にはいかにも怪し気な服装の者もおり、迂闊な夜歩きは、かなり危険そうな場所であった。

「静かって言うか、結構変わった街だな。ここ」
 
二人以外に聞こえない様、呟く様にビュウは言う

「まぁな。妙な人間が住み着いてる」

少しだけ、ソルトは顔を顰めてみせた。

その後、三人は昼食をとる為に料亭へと足を運ぶ。

小じんまりとした少し古い店で、昼時にも拘らず中は数人しか客が居なかった。

多くの来訪客により、商売繁盛であってもおかしく無いはずなのだが、食事は宿屋でとる場合が多いため、空いているのだという。

手短に食事を終え、三人が料亭を出た直後、ビュウの視線は目の先に居た少女に留まった。

その少女は、不安気に辺りを見回していたが、ふと、彼女はビュウの存在に気が付くと、ビュウの元へ駆け寄り、声を掛けた。

「あの、すみません」
 
「ん?」

呼び掛けに応える様、ビュウは少女と向き合う。

腰下まで在る彼女の長髪は高い部分で二つに結われていて、鮮明な空色をしている。

リルティとはほぼ同じ位の身長で、彼女の肩から背の部分には、兎と熊が合体した様な動物の縫い包みが背負われていた。

古い物なのだろうか、所々の布が破れていて、少しだけ中の綿がとび出している。

派手でも地味でもない、彼女の有り触れた服装を珍しく感じたのは、奇妙な容姿をしている者の多い、デルによる影響だろうか。

それとも、ひょっとすると彼女は遼遠の国からやって来ているのかも知れない。

「突然ごめんなさい、人を探してるんです。この辺りで、私と同じ髪の色をしてて、丁度、あなたと同じくらいの身長の、男の子を見かけませんでしたか?」

誰かを探しているのだろうか。

少女は不安気な表情を浮かべながらも、淡々と話していく。

「いや、見てないけど。人探し?」

数秒の間、ビュウはラノからデルへ来るまでに出会った人々の事を思い出していたが、彼女の言っている、それらしき人物の事は全く記憶に無かった。

「はい」

少女は少し俯き、表情を曇らせる。

その間、リルティとソルトは、ビュウの横で二人の話を黙って聞いていた。

「情報屋に行ってみるのはどうだ?そこなら何か知っているかもしれない」

ふと、ソルトが口を開き、少女に助言をする。

それを聞いた彼女は、驚いた様にソルトを見た。

「情報屋って、この街の西の方にあるお店の事ですか?
 そこへ行って聞いたら良いんでしょうか。あのお店の事、よく知らなくって」

「あぁ、その店だ。多少の金は要るが、行ってみた方が確実だ」

「解りました、ありがとうございます!早速行ってみます。それでは、失礼しますね」

少女は嬉しそうに笑みを浮かべると、三人に一礼をし、大急ぎで情報屋の方へ走って行った。

「すげぇ急いでましたね、はぐれたりしたら大変だな」

少女が立ち去った直後、ビュウが言った。

「私達も行ってみない?ちょっとだけ見てみたいな」

ビュウの肩を軽く叩くリルティ。

「兄さん、どうします?」

そしてビュウはソルトの方を向く。

「少し覘いてみるか」

三人は、少女の跡を辿る様に彼女の向かった道を進み、それから少しして情報屋前に到着した。

そこは、通りに立ち並ぶ多くの宿屋の裏側に在り、簡単には見つける事の出来ない様な場所に建てられていた。

先程の少女がこの店のありかを知っていたという事は、彼女は長い時間を掛け、デルを歩き回っていたのだろう。

三人は、ソルトを先頭に情報屋へ入って行った。

中は薄暗く、入り口の正面には扉が開いた状態の小さな個室がずらりと並んでいる。

所々の閉まっている個室は、使用中の様だった。

「ちょっと不気味な所だね。それに、物凄く静か」

小さな声で、呟くリルティ。

開いた扉から覘く事の出来た部屋の中には、墨の様に黒い幕が部屋全体を包み込む様に吊るされていて、四人程が同時に使える、どこにでも在りそうな一般的で単純な構造の木の机が一つ、中心に置いてあった。

その外にも、外部の者に話が漏れない為の様々な工夫が施されている。

「陰気くせぇ呪術師婆さんの館か、ここは」

飽きれた様な顔で、薄笑いを浮かべるビュウ。

「上手いこと言うな」

ビュウの言葉にソルトは失笑する。

その直後、三人から少し離れた場所の使用中であった部屋から、一人の少女が出てきた。

二つに結われた空色の長髪に、背負われている動物の古い縫い包み。

彼女は、先程に三人が出会った少女だった。

何があったのか、少女は額に大粒の冷や汗をかいていて、その表情からは、不安と焦りにより酷く混乱している様子が窺えた。

彼女は、俯きながら小走りで三人の居る方へ向かって来る。

恐らく出入り口から外に出ようとしているのだろう。

周囲にまで意識を配慮する余裕が無いのか、彼女は三人の存在に全く気付いていない。

丁度、ソルトの右横を通り過ぎようとした時、彼女の肩はソルトの腕にぶつかり、あっという声と共に体制を崩す。

それに反応したソルトが素早く腕を掴み、お蔭で彼女は転倒を免れ、そして漸く正気に返った。

体制を取り直し、驚いた表情で三人を一見した後、彼女は頭を下げてソルトに謝った。

「ごめんなさい!私、ぼーっとしてたみたいで」

「大丈夫か?」

その様子に、僅かに驚いた表情を見せるソルト。

「はい、大丈夫です。」

少女は曖昧に頷くと、もう一度丁寧に頭を下げた。

「何かあった?すげぇ顔色悪いけど」

首を傾げた後、彼女の顔を覘くビュウ。

ビュウの問いに、少女は思わず俯いてしまう。

「とりあえず、外へ出てお話ししよう。私達が聞いても良い事なら、だけど・・・」

返事を求めるようにリルティは少女の顔を窺う。

彼女の発言に、少女は再び曖昧な動作で頷いた。

少女を含む四人は情報屋から外へ出ると、住宅の裏通りの方へ向かった。

「この辺でいいのかな」

比較的、人通りの少ない場所へ行くと、リルティが口を開いた。

ビュウとソルトは足を止め、少女の方を見る。

少女は微かに頷くと、自分に何があったのかを説明し始めた。

彼女が探している人物、それは彼女の弟だった。

とある事情により、彼女は幼い時に弟と離れ離れになってしまったのだという。

ところが数週間前のある日、彼女は故郷で、弟らしき人物がデル周辺をうろついているらしい、という情報を耳にし、彼女は弟を探す為、遼遠の街から遥々デルへやって来たのだ。

しかし、着いたものの、弟らしき人物はどこにも見当たらず、途方に暮れていた所、丁度彼女の目に留まったのがビュウであり、彼の容姿から自分と同世代だと判断した為、声を掛けやすかったのだという。

ソルトより情報屋の存在を聴いた後、彼女はすぐにそこへ向かい、弟の事を尋ねた。

数日前、正しく彼女の弟はデルに滞在していた様なのだが、今現在は付近では見当たらないという。

少女は彼の行方を訊き出そうとしたが、捜索には少々多額の貨幣が必要だと伝えられ、金銭に余裕の無い彼女は、諦念してしまった。

現在も弟の事が気掛かりで落ち着かず、今後の事に対しても不安なのだという。

彼女の話を全て聞き終えた後、リルティは静かに口を開いた。

「大変な事が遭ったんだね。確かに弟さんの事、凄く気掛かりだよね。言い辛かったら言わなくて良いんだけど、お金ってどの位掛かるって言われたの?」
 
「三万Gです・・・」

少女の返答に、ビュウとリルティは声を上げて驚いた。

三万Gを稼ぐには、二人の視点から言えば、リラの作るパンを七十弱も配達してやっとで貯まるという、随分な大金だ。

「探索だけで三万G?ぼったくりかよ!」

ビュウの言い分に、リルティも納得して頷いている。

三人は暫くの間そこで考えを巡らせていると、

「うーん、力になるか分かんないけど、俺らと一緒に来る?」

彼の一言に、少女は声を上げて驚いた。

「皆さんも旅の途中なんですか?」

ビュウはそれに応える様に頷いて見せた。

「今日はデルの宿屋に泊まるけど、明日朝早くには、ここから北にあるアルガンタって街に出発だし、そこに行けば弟も見つかるかもしんねぇじゃん!訳ありで、ちょっとの間しか一緒に行けねぇけど、一人で捜すよりは心強いっしょ?」

リルティとソルトの二人は彼に賛成し、頷いている。

少女は確かめるように三人を交互に見回していた。

「い、良いんですか?確かに一人じゃ心細いけど、私、どんくさいから迷惑掛けちゃうかもしれないです」

「私は嬉しいよ、あなたが来てくれるなら。一人でも多い方が旅は楽しいし、ビュウの言う通り、心強いよ」

少女の言葉を聞き、リルティは即答した。

少女は最後にソルトを見ると、それに気付いた彼は、彼女を暖かく迎える様に優しく微笑んだ。

彼の微笑みにつられ、少女の表情は光が差した様に明るくなる。

「ありがとうございます!」

彼女は、三人に頭を下げた

「っしゃ決まり!そいや、まだ名前も言ってなかったっけな。俺はビュウ、これから宜しくな」

明るく陽気な表情をするビュウ。

「ソルトだ、宜しくな」

「私はリルティ、リルティ・ユエルだよ」

ビュウに続き、二人も簡単な自己紹介をする。

「あたしはリュイって言います。本名は、リュイ・サファイアです。
 ビュウ君とリルティちゃんとソルトさんだよね、これから宜しくお願いします」
 
会釈をした後、リュイと言う少女は、突然何かを思い出したかの様に声を上げた。

「あ、敬語は使わない方が良いですか?」

静かに訊ねるリュイ。

「そうだね、普通に話して欲しいな」

頷き、微笑むリルティ。

「分かった。ありがとう」

そんな彼女の様子に、つられてリュイも嬉しそうに微笑んだ。

「そういえば、そろそろ辺りが暗くなって来たね。もう宿屋に向かう?ちょっと早いかもしれないけど」

それまで会話に夢中で気が付かなかったが、辺りを見渡すと、リルティの言う通り、灰色の空の下の風景は段々と仄暗くなっている。

「うわっ、何か時間経つの早いな。ここ、あんま遅くなると不気味だし、そうすっか!」

四人は賛成すると、近辺の宿屋へ向かった。

新たな仲間を加え、三人は旅を進めて行く。

意外と社交的なのか、その後すぐにリュイは彼らと親しくなっていった。

宿屋で、リルティは彼女に自分が神子である事を打ち明けてしまったが、誰にも暴かず、秘密にして置くと約束を交わしたリュイならば、問題も無く共に過ごして行ける事だろう。
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