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1章
5話「漆黒の野獣」
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明くる日の昼前、四人は宿屋を後にすると、次の目的地であるアルガンタを目指し、デルを発った。
デルを出てからも比較的なだらかな道が多く、四人が横一列並びをしてもあり余る程、幅の広い道が続いている。
ラノ同様に、この辺りはかなり歩き易い場所であった。
4人が会話を弾ませるうち、彼らの行く道の両端には、生い茂った林が姿を見せる。
その林からは野兎や小鳥、リスなどの小動物が時折、四人の目の前へと躍り出ては、林の中へと帰って行く。
その可愛らしい仕草を見るたび、リルティとリュイは目を輝かせると同時に、顔をほころばせた。
「可愛いね、ラノにはこんなに沢山の動物はいないから少し驚いちゃった」
木の枝に這い上がり、器用に木の実をかじるリスを、リルティは目で追う。
「リル、ほんっっっとに動物好きだよな。そこまで可愛いか?」
そんな彼女を見ながら、呆れた様に言うビュウ。
「可愛いよ、リュイもそう思うよね?」
リルティの問いに、リュイは一つ強く頷いた。
「狼とか虎ならかっこいいけどさ。兄さんも、そう思いますよね?」
ビュウは後頭部に手を組んで呑気に考え込むと、同意を求めようとしてソルトの方を向いた。
「そうだな」
ソルトは微笑すると、ビュウに応じようと少しだけ彼の方を向く。
「ビュウが言ってるのは〝かっこいい〟でしょ。私達が言ってるのは〝可愛い〟だもん」
リルティはリュイといたずらに顔を見合わせて笑う。
「ふーん、そうですかっと」
そんな二人を見た後、ビュウが微笑しながら肩をすくめて見せたその時。
彼は突然、前方の林へ何かの気配を感じ、目を凝らしてその方を見つめながら足を止めた。
同じ気配を感じ取ったのか、既にソルトの方も立ち止まり、前方へ意識を集中させている。
「二人共、どうかしたの?」
言いながら首を傾げるリルティ。
不思議に思いながらも、彼ら同様に足を止める。
いつに無く真剣な眼差しをしている彼らを見据え、リュイは異変に気付いたのだろう。
咄嗟にリルティの腕を掴むと、彼女を連れ後方の木陰へ隠れた。
直後、睨んでいた前方の林から、一頭の獅子が彼ら目掛けて飛びかかって来た。
紅の瞳、額には、一本の鋭く雄大な角を持っている。
漆黒の鬣に威厳を纏ったそれは、百獣の王と呼ばれるに相応しい容姿をしていた。
大人の雄であろう、体長は三メートルほどもある。
二人は寸での所でそれをかわし、ビュウは前方へ、ソルトは後方へと着地する。
刹那、獅子は機敏に向きを変え、ビュウに狙いを定めると、憤怒の形相で睨みつけながら、鋭い咆哮を浴びせ、威嚇した。
それに威圧され、思わず身が竦んでしまうビュウ。
額に汗を滲ませる彼を目前とし、獅子はここぞと言わんばかりに容赦無くビュウへと襲い掛かった。
ビュウは後退りをしながら、反射的にその場から逃れようとするが、焦りにより運悪く足を絡ませ、後方へ尻餅を付いてしまう。
獅子が牙を剥き、ビュウの元へ飛びかかろうとするや否や、突然彼の耳には軽く鋭い銃声が突き込んで来た。
直後、獅子の体は石像の様に硬直すると共に、勢い余ってビュウの傍へと倒れ込む。
呆然と、真正面を見据えたままのビュウの視界から獅子は消え、獅子の硬直を確認すると同時に、冷静に銃を納めるソルトの姿が映った。
「怪我はないか」
言いながら、彼はビュウの元へ歩み寄る。
彼の問いに、ビュウは曖昧に頷いた。
ソルトの手を借りながら立ち上がるビュウ。
「実戦は、緩い稽古とは違う。初めてとは言え、あの程度で怯むようなら、まだまだ特訓がいるな」
「ですよね・・・」
呟き、ビュウは悔しげな顔をする。
同時に、彼らの元へと不安げな表情でリルティとリュイは駆けて来る。
「大丈夫?怪我してない?」
それを確かめようと彼の傍に屈んで心配そうに様子を窺うリルティ。
「平気、なんともない」
恥ずかし気に笑いながら、ビュウは頭を掻いた。
「良かった」
その答えにほっとし、胸を撫で下ろすリュイ。
彼の無事を確認した後、リルティは何か不幸な事を思い出したかの様に青ざめた表情をした。
「ソルト兄さん、あの子は大丈夫?まさか、死んじゃったりしないよね?」
言いながら、横たわっている獅子を不安げに見つめるリルティ。
「心配しなくていい、撃ったのは麻酔銃だから」
ソルトは獅子の傍に屈むと、鼻の辺りに手をかざし、息があるか確認をした。
「ライオンって、南西の砂漠に生息する動物だよ。こんな自然の多い地方にいるなんて、何か遭ったのかもしれない」
怪訝な顔をしながら、横たわる獅子を見つめるリュイ。
「そうなのか?よく知ってんだな」
「うん、あたしはその方から来たから」
ビュウの言葉に、静かに一つ頷く。
「おい、これ見ろ」
ふと、ソルトが獅子の耳の部分に触れ、三人に促す。
彼の触れている部分には、ピアスのようにして奇妙な物が取り付けられていた。
小さなその一部には、鈍く光る、群青色の石が埋め込まれている。
「何だ、これ」
それを見るなり怪訝な顔をする三人、いち早くビュウが口を開いた。
「人間に取り付けられた物だろうな」
ソルトは呟くように言った。
「私たちを襲ったのは何でだろ、物凄く興奮してたみたいだけど。どこから来たのかな」
リュイは辺りを見回し始めた。
「ねぇ、みんな」
ふと、小さな声でリルティが言った。
「この子が起きたら、話をさせてみてくれないかな?私、この子と話してみたいの」
彼女の一言に、ビュウとリュイは驚いたような顔をした。
「止めとけって!また襲って来たらどうすんだよ?」
いち早く、ビュウが彼女を阻止させようと言う。
「ねぇ、お願い。この子が私達を襲おうとしたのは、何か良くない事が原因だと思う」
いつに無く頑固なリルティに、黙り込んでしまうビュウ。
同様に、リュイも心配気に彼女を見つめている。
そんな彼女を見据えた後、ふと、ソルトが口を開いた。
「危険を感じたら、即座にこいつを撃つからな」
言いながら立ち上がり、ソルトは片手に銃を取る。
リルティは彼の一言に一瞬驚いた顔をすると、真剣な面持ちで強く頷いた。
「気を付けてね、危ない事しちゃだめだよ」
リュイがリルティの手を強く握ると、彼女は返事の変わりに優しく微笑んだ。
少しずつ、リルティは横たわる獅子の元へと、近づいて行った。
デルを出てからも比較的なだらかな道が多く、四人が横一列並びをしてもあり余る程、幅の広い道が続いている。
ラノ同様に、この辺りはかなり歩き易い場所であった。
4人が会話を弾ませるうち、彼らの行く道の両端には、生い茂った林が姿を見せる。
その林からは野兎や小鳥、リスなどの小動物が時折、四人の目の前へと躍り出ては、林の中へと帰って行く。
その可愛らしい仕草を見るたび、リルティとリュイは目を輝かせると同時に、顔をほころばせた。
「可愛いね、ラノにはこんなに沢山の動物はいないから少し驚いちゃった」
木の枝に這い上がり、器用に木の実をかじるリスを、リルティは目で追う。
「リル、ほんっっっとに動物好きだよな。そこまで可愛いか?」
そんな彼女を見ながら、呆れた様に言うビュウ。
「可愛いよ、リュイもそう思うよね?」
リルティの問いに、リュイは一つ強く頷いた。
「狼とか虎ならかっこいいけどさ。兄さんも、そう思いますよね?」
ビュウは後頭部に手を組んで呑気に考え込むと、同意を求めようとしてソルトの方を向いた。
「そうだな」
ソルトは微笑すると、ビュウに応じようと少しだけ彼の方を向く。
「ビュウが言ってるのは〝かっこいい〟でしょ。私達が言ってるのは〝可愛い〟だもん」
リルティはリュイといたずらに顔を見合わせて笑う。
「ふーん、そうですかっと」
そんな二人を見た後、ビュウが微笑しながら肩をすくめて見せたその時。
彼は突然、前方の林へ何かの気配を感じ、目を凝らしてその方を見つめながら足を止めた。
同じ気配を感じ取ったのか、既にソルトの方も立ち止まり、前方へ意識を集中させている。
「二人共、どうかしたの?」
言いながら首を傾げるリルティ。
不思議に思いながらも、彼ら同様に足を止める。
いつに無く真剣な眼差しをしている彼らを見据え、リュイは異変に気付いたのだろう。
咄嗟にリルティの腕を掴むと、彼女を連れ後方の木陰へ隠れた。
直後、睨んでいた前方の林から、一頭の獅子が彼ら目掛けて飛びかかって来た。
紅の瞳、額には、一本の鋭く雄大な角を持っている。
漆黒の鬣に威厳を纏ったそれは、百獣の王と呼ばれるに相応しい容姿をしていた。
大人の雄であろう、体長は三メートルほどもある。
二人は寸での所でそれをかわし、ビュウは前方へ、ソルトは後方へと着地する。
刹那、獅子は機敏に向きを変え、ビュウに狙いを定めると、憤怒の形相で睨みつけながら、鋭い咆哮を浴びせ、威嚇した。
それに威圧され、思わず身が竦んでしまうビュウ。
額に汗を滲ませる彼を目前とし、獅子はここぞと言わんばかりに容赦無くビュウへと襲い掛かった。
ビュウは後退りをしながら、反射的にその場から逃れようとするが、焦りにより運悪く足を絡ませ、後方へ尻餅を付いてしまう。
獅子が牙を剥き、ビュウの元へ飛びかかろうとするや否や、突然彼の耳には軽く鋭い銃声が突き込んで来た。
直後、獅子の体は石像の様に硬直すると共に、勢い余ってビュウの傍へと倒れ込む。
呆然と、真正面を見据えたままのビュウの視界から獅子は消え、獅子の硬直を確認すると同時に、冷静に銃を納めるソルトの姿が映った。
「怪我はないか」
言いながら、彼はビュウの元へ歩み寄る。
彼の問いに、ビュウは曖昧に頷いた。
ソルトの手を借りながら立ち上がるビュウ。
「実戦は、緩い稽古とは違う。初めてとは言え、あの程度で怯むようなら、まだまだ特訓がいるな」
「ですよね・・・」
呟き、ビュウは悔しげな顔をする。
同時に、彼らの元へと不安げな表情でリルティとリュイは駆けて来る。
「大丈夫?怪我してない?」
それを確かめようと彼の傍に屈んで心配そうに様子を窺うリルティ。
「平気、なんともない」
恥ずかし気に笑いながら、ビュウは頭を掻いた。
「良かった」
その答えにほっとし、胸を撫で下ろすリュイ。
彼の無事を確認した後、リルティは何か不幸な事を思い出したかの様に青ざめた表情をした。
「ソルト兄さん、あの子は大丈夫?まさか、死んじゃったりしないよね?」
言いながら、横たわっている獅子を不安げに見つめるリルティ。
「心配しなくていい、撃ったのは麻酔銃だから」
ソルトは獅子の傍に屈むと、鼻の辺りに手をかざし、息があるか確認をした。
「ライオンって、南西の砂漠に生息する動物だよ。こんな自然の多い地方にいるなんて、何か遭ったのかもしれない」
怪訝な顔をしながら、横たわる獅子を見つめるリュイ。
「そうなのか?よく知ってんだな」
「うん、あたしはその方から来たから」
ビュウの言葉に、静かに一つ頷く。
「おい、これ見ろ」
ふと、ソルトが獅子の耳の部分に触れ、三人に促す。
彼の触れている部分には、ピアスのようにして奇妙な物が取り付けられていた。
小さなその一部には、鈍く光る、群青色の石が埋め込まれている。
「何だ、これ」
それを見るなり怪訝な顔をする三人、いち早くビュウが口を開いた。
「人間に取り付けられた物だろうな」
ソルトは呟くように言った。
「私たちを襲ったのは何でだろ、物凄く興奮してたみたいだけど。どこから来たのかな」
リュイは辺りを見回し始めた。
「ねぇ、みんな」
ふと、小さな声でリルティが言った。
「この子が起きたら、話をさせてみてくれないかな?私、この子と話してみたいの」
彼女の一言に、ビュウとリュイは驚いたような顔をした。
「止めとけって!また襲って来たらどうすんだよ?」
いち早く、ビュウが彼女を阻止させようと言う。
「ねぇ、お願い。この子が私達を襲おうとしたのは、何か良くない事が原因だと思う」
いつに無く頑固なリルティに、黙り込んでしまうビュウ。
同様に、リュイも心配気に彼女を見つめている。
そんな彼女を見据えた後、ふと、ソルトが口を開いた。
「危険を感じたら、即座にこいつを撃つからな」
言いながら立ち上がり、ソルトは片手に銃を取る。
リルティは彼の一言に一瞬驚いた顔をすると、真剣な面持ちで強く頷いた。
「気を付けてね、危ない事しちゃだめだよ」
リュイがリルティの手を強く握ると、彼女は返事の変わりに優しく微笑んだ。
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