婚約破棄をしようとしたら

らがまふぃん

文字の大きさ
10 / 17

そのじゅう

しおりを挟む
 隻眼が、心の底からの殺意を容赦なくハウメルにぶつけてきたのだ。

 愛して止まないジュエル様の側に自分以外がいることなど考えられない、耐えられない、許さないし、赦さない。けれど、貴様如きがジュエル様の発言を否定することなどあってはならないし、あり得ない。

 そんな思いが、ありありと伝わってきた。
 これは、敬愛なのだろうか。狂愛、の、間違いではないか。
 ハウメルは震えが止まらない。捕食者と被捕食者どころではない。
 カインハウメル
 普通なら、ハウメルなど目にさえ止まらなかった。それなのに、何の因果か視界に入ってしまい、命が風前の灯火となっている。蟻にさえ、全力で叩き潰してきそうな恐ろしさがある。きそう、ではない。全力で叩き潰す。間違いない。
 受けても地獄、断っても地獄。

 ならば。

 ハウメルは、今にも意識を失って倒れそうになりながら、まさに命懸けで口を開いた。

 「み、身、に、余る、お言葉、誠に、あ、あり、がたき、幸せ、に、ござい、ます。わた、し、は、覇王、様の、盾に、すら、なれない、未熟という、言葉すら、烏滸おこがま、しいほどの、矮小な、存在に、ございます。そのよう、な、この、矮小な身が、勘違い、するような、お、お、おたわむ、れ、は、あま、りに、酷、かと」

 冗談だということにして欲しい。

 紙のように白くなったハウメルが、深く深く頭を下げながらそう言うと、

 「おやおや、よく自分をわかっているようで何よりですね。真に受けるような愚か者であれば、私自ら手塩にかけて絶望の中で死んでいただこうと思っておりましたが」

 カインが感心したようにそう言った。
 良かった。どんな絶望が待っていたのかは知りたくない。本当に良かった。
 何とか及第点をもらえたようで、ハウメルは心の底から安堵し、そのまま意識が暗転した。

 親切心というか、人として当然の行動をしたがために、これほどまでに恐ろしい目に遭うなど、誰が想像出来ただろう。憐れなハウメルが、とにかく生き延びてくれて良かったと、誰もが思った。

 そんなみんなの思いを知る由も当然なく、魔法の国の二人は会話を続けている。

 「たまにはか弱いペットを飼ってみようと思ったのだが」
 「あなた様に群がるモノは、すべて噛み殺して見せましょう」

 昏く笑うカイン。

 「独占欲の強い駄犬だ」

 楽しそうに笑うジュエル。

 「当然です。あなた様にすべてを捧げるのは私だけでいいのです。そう思っている者は星の数ほどいるでしょう。ですが、私が赦しません。その栄誉を受けられるのは、私だけでいいのです」

 ジュエルが右手を伸ばすと、カインは腰を屈めてその手に首を差し出す。ジュエルはその首をグッと引き寄せた。
 赤くなるカインを見て上機嫌になったジュエルは、ワインレッドの眼帯を優しく撫でる。
 すべてを捧げると誓った証が、この眼帯の奥にある。
 それを思うだけで、ジュエルは舌舐めずりをした。

 「最高にいい女だ、カイン」




*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。

朝日みらい
恋愛
魔物を討伐し国を救った若き魔術師アリア・フェルディナンド。 国王から「望むものを何でも与える」と言われた彼女が選んだ褒美は―― 「国一番の美男子を、夫にください」 という前代未聞のひと言だった。 急遽開かれた婿候補サロンで、アリアが一目で心を奪われたのは、 “夜の街の帝王”と呼ばれる美貌の青年ルシアン・クロード。 女たらし、金遣いが荒い、家の恥―― そんな悪評だらけの彼を、アリアは迷わず指名する。 「顔が好きだからです」 直球すぎる理由に戸惑うルシアン。 だが彼には、誰にも言えない孤独と過去があった。 これは、 顔だけで選んだはずの英雄と、 誰にも本気で愛されたことのない美貌の青年が、 “契約婚”から始める恋の物語。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

処理中です...