婚約破棄をしようとしたら

らがまふぃん

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そのじゅういち

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 耳元で囁かれると、カインはさらに顔を真っ赤に染める。

 誰もがカインを男だと思っている。
 艶のある黒髪が腰まで伸び、同じく黒い、黒曜石のような隻眼。長身に、心地よい低めのアルト。冷たい表情は彫刻のようで、その美貌をより際立たせる。その中性的な容姿でいつも男装をしているため、誰もが男だと思っている。
 ただでさえ美しいカイン。着飾れば、すべてを魅了してしまう。
 けれどカインは着飾ることを好まない。常に動きやすさを重視している。
 だから、誰も知らない。

 それでいい。

 コレは、私の。
 私だけの。

 度を超えたカインの独占欲を見ることが、何よりの至福。
 それが見られたこの国に、少しばかりのを与えよう。

 ジュエルは天井近くまで浮遊魔法で浮かび上がる。

 「そこの娘」

 ジュエルの視線の先、ミレイは頭を下げる。

 「隣国に嫁ぐようだが、残す母国に何を望む」

 ミレイは頭を下げつつ大きく目を開く。ジュエルが何かをしようとしていると、瞬時に察した。ミレイは内心で、はしたなくも舌打ちをし、悪態をく。そうしつつ、答えを間違えればとんでもないことになると、ミレイは頭をフル回転させた。
 考える時間はない。
 その中で、最善の答えを。

 「何も」

 少しして零れた言葉に、ジュエルは目を細める。

 「何も、望みません、覇王様」
 「何も?」
 「はい。何も」

 ミレイは尚も頭を下げ続けたまま、同じ答えを口にした。
 望みを、願いを口にしたら、きっとどこかで歪みが生じる。

 「ククッ。欲のないことだ」

 

 そう、言っているように聞こえた。

 そう感じたのはミレイだけではない。周囲もミレイの答えに、心から感謝をした。
 王家に復讐を望まなかったことも、未来への希望を口にしなかったことも。
 何か望みを口にしてしまえば、何が起こるか。悪魔との契約のようだ。望んだ通りの結果がもたらされるなどと思ってはいけない。最初はいいかもしれない。恩恵にあやかれるだろう。だが、時が経つにつれ、違和感を覚えるかもしれない。もしくは、時限爆弾のように、ある日突然何かが起こるかもしれない。

 とても願いを口にすることなど出来ない。

 だが、ジュエルはわかっていたようだ。ミレイの答えを。人魚の涙如きを辞退するような慎ましい娘。そして聡い。願いを口にしてくれたら、叶えてあげようと考えていた程度。

 ジュエルは笑う。

 「まあ良い」

 本命は。

 「楽しませてもらったのはおまえのお陰でもあったな」

 とても、願いを口にすることなど、出来ないのだ。
 通常であれば。

 覇王ジュエルの視線の先にいたのは。
 誰もの血の気が引いた。

 「ほぇ?」

 意識を取り戻してキョロキョロとしている、ギャレットがいた。



*最終話につづく*
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