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番外編 狂愛2

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 まさかこんなに近くでジュエルと相対出来ると思ってもいなかったアウラは、驚きと焦りで固まってしまった。
 ひとり、時が止まってしまっているアウラを、ジュエルは頭の天辺から足の爪先までじっくりと見た。そして満足そうに頷くと、アウラの目の前に立つ。

 「名を申せ」

 その言葉にハッとし、いつの間にか目の前にいたジュエルにアウラは慌てる。

 「あ、あ、あの、もうし、申し訳、ございませんっ」

 挨拶すら出来ていない自分に焦り、頭を下げようとしてジュエルにその顎を掴まれた。

 敬愛するジュエルに触れられている。

 その事実にますます混乱するアウラを、ジュエルは少しの間楽しんだ。

 「とりあえず落ち着け」

 簡単な精神魔法で強制的に落ち着かせると、アウラは真っ赤な顔でやっと挨拶が出来た。

 「アウラ、村では何と?」
 「ザン、と、呼ばれておりました」

 その肉体の名前を知ると、よりスムーズにその体に魂を馴染ませられる。故に、魔法の国の人間は、本名を名乗らない。
 ジュエルは少し考える。

 「アウラ、おまえはこれからカインと名乗れ」

 アウラは目を見開く。

 「良いな?」
 「は、はいっ。ありがたき幸せっ。その名を、大切に名乗らせていただきますっ」

 名を貰い、興奮に頬を染めるカイン。しかし、すぐにハッとする。

 その名を、名乗る機会は訪れない。

 「あ、あの、覇王様、発言を、お許し下さい」

 ジュエルは頷く。
 カインは、何度も何度も心の中で練習してきた言葉を、口にした。

 「覇王様。私の魔力はこれ程までに乏しいですが、どうか、覇王様の微かな魔力として、私を使っていただけませんか」

 カインの言葉に、ジュエルは驚いて目を見開く。そんなジュエルの反応に、カインは恥ずかしくなって俯いた。

 こんな自分が、村でも爪弾きにされていたような存在が、覇王様に使ってもらおうなんて夢を見すぎてしまった。自分程度では、微かな魔力にすらなれないんだ。

 あまりにも大それたことを言ってしまったと、カインは涙が滲んだ。
 すると。

 「ククッ。そうかそうか。おまえの周りにはいなかったのだな。だからそんなことを言うのか」
 「も、申し訳ございませんっ。私如きが不敬もいいところでしたっ。どのような罰も覚悟の上にございますっ」
 「違う違う。カイン、顔を上げよ」

 カインの思いを知っている者がいれば、それは不敬である、と止める者がいなかったのか、と言われたと思ったカインは、床に平伏した。しかし、ジュエルは笑って否定する。恐る恐る顔を上げると、ジュエルはソファに腰を下ろしていた。

 「さて、何から話したものか」

 ふむ、と考える素振りを見せるジュエルを、カインは黙って見つめる。

 「まず、おまえの魔力は膨大だ。恐らく私に次ぐほどに」

 カインは口をぽかりと開けてしまう。

 「まさか、そのような」

 ジュエルを否定するような言葉が出てしまうのは仕方がないことと言えた。この国で底辺と言われるほど乏しい魔力のはずだから。そうでなければ、村でのこれまでの扱いがおかしい。何より自分が、出来損ないであると、知っているのだ。

 「まあ聞け」

 ジュエルはカインの言葉を止める。

 曰く、ジュエルはカインの潜在魔力というものを見ているのだという。魔力は魔法を使うときに使用するのだが、表面に出ている魔力しか扱えない。大抵の者は、この表面化された魔力を見る。だが、ジュエル始め、上位に食い込む表面魔力量を保持する者たちは、表に出てこない内包された魔力、潜在魔力を見る。

 カインが村を出てから時々ギョッとされたのは、これによる。驚いた者たちは皆、上位魔力量の保持者。潜在魔力に圧倒されていたのだ。

 だがカインの潜在魔力が凄まじいがため、それを表に出すための器官が未熟な体では耐えられないと判断したのだろう。少しでも制御を誤れば、生死に関わる。そんな判断を脳が下し、恐ろしいまでの防衛反応が働いて、器官に鍵をかけている。

 「そこで、おまえの未熟な体を創り替えてやろうと思う。どうだ?」

 何とか話を飲み込んだカインに、ジュエルはそう提案した。

 「そ、そうしたら、覇王様に、私をもらっていただくことは出来ますか?」

 ジュエルは笑った。

 「ああ。もちろんおまえをもらう」

 元よりそのつもりだ、という言外の言葉にカインは気付かず、花が綻ぶような笑顔を見せた。

 ああ、これで、敬愛する覇王様に交われる。



*3へつづく*
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