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そんな明るいオルベスタに、ひっそりと想いを寄せる男が、実は何人かいる。その内の一人、エヴラール侯爵家の次男、クート。
「こんばんは、レグホーン子爵令嬢」
「あらぁ、エヴラール侯爵令息様、ご機嫌よう」
ある意味人気者のオルベスタは、いつも意外と人に囲まれているので、なかなか一人にならない。
侯爵家という高位の生まれながら、クートは少々自分に自信のないタイプだった。本当だったら、嗤われるオルベスタをさりげなく助け、スマートにその輪から連れ出し、彼女を傷つける者から守りたい。けれど、なかなか思うように動くことが出来ず、いつも情けなく思っていた。だからこそ、あらゆる悪意を笑い飛ばせるオルベスタの強さに惹かれたのだ。
そんな性格から、オルベスタが一人になるタイミングでしか話しかけられないため、自然、クートはオルベスタをよく見ていることになる。
やっと声をかけることが出来て、嬉しそうに話題を振るクート。
そして、そんな彼を、よく見ている者もいた。
「未婚のご令嬢に近付き過ぎではないかな、エヴラール侯爵家の」
オルベスタと談笑し始めると、背後から、どこか冷たい声がした。
「それとも、婚約でも結ばれたか」
振り返ると、そこにいたのは。
「は、お、王太子殿下っ。ご、ご挨拶申し上げ」
慌てて頭を下げるが、
「ああよい。楽にせよ」
そう言葉を遮り、ぞんざいに腕を振る王太子ウスターシュに、クートは違和感を持っていた。
年に数回催される王家主催の夜会には、成人を迎えた全貴族が参加する。クートはそんな時にしかオルベスタと話が出来ないため、彼なりに積極的に話しかけているのだが。そうすると、なぜかいつも王太子であるウスターシュが態々話しかけて来るのだ。隣の王太子妃ヒセラは扇で口元を覆いながら、どこか別の所を見ているような、遠い目をしているように感じる。おしどり夫婦と呼ばれている王太子殿下たちだが、クートに、いや、オルベスタと好意的に関わろうとする男性に、王太子は邪魔をするような行動を取っている姿を見かける。そんな時の殿下たちは、おしどり夫婦と呼ぶには違和感が拭えない。そう訝しんでしまうほど、ウスターシュはオルベスタと好意的に関わろうとする男性に対して、どこか冷たく感じるのだ。
「やあ、オルベスタ嬢。今日も変わりないようで何よりだよ」
対して、みんなから嘲笑されるオルベスタには、どこか熱のあるような視線と口調に感じられてしまう。
まさか、ね。
自身の考えを、あり得ない、と言うように首を振って否定する。
王太子妃ヒセラとは、政略でありながら、相思相愛と声高い。だからこそ、誰もが羨むおしどり夫婦と言われているのだ。
自分の想像通りであるなど、そんな恐ろしいことあってはならないし、何よりもあって欲しくない。だから、きっと、すべて自分の勘違い。勘違いでなくてはならない。
クートは、いつもそうして自分を納得させていた。
「王太子殿下、並びに王太子妃殿下にご挨拶申し上げます。斯様な矮小の身にまでお声がけいただけるなんて、恐悦至極に存じますわ。ふぉふぉふぉふぉふごっ」
誰に対しても臆することなく堂々としたオルベスタの姿が眩しい。どんな時でも明るいオルベスタの、鼻を鳴らしてしまう珍妙な笑い声さえ。そんなことすら可愛く思えて。その内面の輝きに魅了されるクートは、そっと微笑む。
だが、そんなクートをウスターシュは冷たく見据え、その隣のヒセラは、そんなウスターシュを睨むように見ているのだった。
*つづく*
「こんばんは、レグホーン子爵令嬢」
「あらぁ、エヴラール侯爵令息様、ご機嫌よう」
ある意味人気者のオルベスタは、いつも意外と人に囲まれているので、なかなか一人にならない。
侯爵家という高位の生まれながら、クートは少々自分に自信のないタイプだった。本当だったら、嗤われるオルベスタをさりげなく助け、スマートにその輪から連れ出し、彼女を傷つける者から守りたい。けれど、なかなか思うように動くことが出来ず、いつも情けなく思っていた。だからこそ、あらゆる悪意を笑い飛ばせるオルベスタの強さに惹かれたのだ。
そんな性格から、オルベスタが一人になるタイミングでしか話しかけられないため、自然、クートはオルベスタをよく見ていることになる。
やっと声をかけることが出来て、嬉しそうに話題を振るクート。
そして、そんな彼を、よく見ている者もいた。
「未婚のご令嬢に近付き過ぎではないかな、エヴラール侯爵家の」
オルベスタと談笑し始めると、背後から、どこか冷たい声がした。
「それとも、婚約でも結ばれたか」
振り返ると、そこにいたのは。
「は、お、王太子殿下っ。ご、ご挨拶申し上げ」
慌てて頭を下げるが、
「ああよい。楽にせよ」
そう言葉を遮り、ぞんざいに腕を振る王太子ウスターシュに、クートは違和感を持っていた。
年に数回催される王家主催の夜会には、成人を迎えた全貴族が参加する。クートはそんな時にしかオルベスタと話が出来ないため、彼なりに積極的に話しかけているのだが。そうすると、なぜかいつも王太子であるウスターシュが態々話しかけて来るのだ。隣の王太子妃ヒセラは扇で口元を覆いながら、どこか別の所を見ているような、遠い目をしているように感じる。おしどり夫婦と呼ばれている王太子殿下たちだが、クートに、いや、オルベスタと好意的に関わろうとする男性に、王太子は邪魔をするような行動を取っている姿を見かける。そんな時の殿下たちは、おしどり夫婦と呼ぶには違和感が拭えない。そう訝しんでしまうほど、ウスターシュはオルベスタと好意的に関わろうとする男性に対して、どこか冷たく感じるのだ。
「やあ、オルベスタ嬢。今日も変わりないようで何よりだよ」
対して、みんなから嘲笑されるオルベスタには、どこか熱のあるような視線と口調に感じられてしまう。
まさか、ね。
自身の考えを、あり得ない、と言うように首を振って否定する。
王太子妃ヒセラとは、政略でありながら、相思相愛と声高い。だからこそ、誰もが羨むおしどり夫婦と言われているのだ。
自分の想像通りであるなど、そんな恐ろしいことあってはならないし、何よりもあって欲しくない。だから、きっと、すべて自分の勘違い。勘違いでなくてはならない。
クートは、いつもそうして自分を納得させていた。
「王太子殿下、並びに王太子妃殿下にご挨拶申し上げます。斯様な矮小の身にまでお声がけいただけるなんて、恐悦至極に存じますわ。ふぉふぉふぉふぉふごっ」
誰に対しても臆することなく堂々としたオルベスタの姿が眩しい。どんな時でも明るいオルベスタの、鼻を鳴らしてしまう珍妙な笑い声さえ。そんなことすら可愛く思えて。その内面の輝きに魅了されるクートは、そっと微笑む。
だが、そんなクートをウスターシュは冷たく見据え、その隣のヒセラは、そんなウスターシュを睨むように見ているのだった。
*つづく*
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