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結婚編
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ララは一歩前に出た。
「クシャラダナ嬢、確認をしても?」
「どなたかしら。わたくしを誰だと思っているの?未来のディレイガルド夫人よ」
このパーティーに参加しておいて、主賓の顔を知らないとは。後ろに控えるレンフィとシャールは呆れた。
「これは失礼いたしました。ご挨拶が遅れました。わたくし、クロバレイス国より参りましたクロバレイス国第二王女ララと申します。わたくしたちのための王家主催パーティーご参加くださり、恐悦至極に存じます」
ララの挨拶に、カリアの顔色が変わる。
「ま、まあ、主賓が何故このようなところに?それに隣にいるその女性、婚約者のいる男性をたぶ」
「言葉は選ばれた方がよろしい」
ピリッと張り詰めたララの声に、カリアは知らず一歩後退る。
「あなたがディレイガルド家嫡男の婚約者、とはどういうことです?わたくし、こちらにいらっしゃるアリス嬢との結婚式に参加するべく参りました。これはわたくしどもの国が謀られている、ということでしょうか」
外交に関わる由々しき事態だと言っている。カリアは明らかに顔色を悪くしながら視線を彷徨わせている。すると、ララたちの背後から声がかかった。
「カリア!何をしている!」
「お、お父様!」
ディレイガルド公爵に袖にされ、いたたまれずに会場から出て来たクシャラダナ侯爵だった。
ララは内心拍手喝采だ。絶対親子で何かやらかす。期待に胸を膨らませるララに、レンフィは呆れたように溜め息をつき、シャールはやれやれと首を振った。
「おお、これはこれは、王女殿下。我が娘に何か?」
娘に何かじゃねぇ。娘が何かじゃボケェ。
「殿下、顔」
こっそり諫めるレンフィに、ララは扇で隠して一旦顔を直す。
「おや、お隣はファナトラタ家の。ディレイガルド家だけでは飽き足らず、隣国の王女にまで触手を伸ばすとは。いやはやその手腕、見習いたいものですなあ」
「あ゛?」
「殿下、顔」
「クシャラダナ侯爵様」
レディにあるまじき顔になったララを諫めるレンフィとのやり取りに微笑んだアリスは、侯爵に穏やかに話しかけた。ララたちはアリスを見る。
「クシャラダナ侯爵嬢様から伺いました。エリアスト様のご婚約者様であったと」
侯爵の顔が強ばる。
「ええそうよ。ね、お父様。お父様が仰っていましたもの。“おまえはエリアスト様の妻となるのだ。よくよく自分を磨いておきなさい”って。“お父様が話はつけておくから安心して花嫁修業に勤しむように”とも仰っていましたもの!」
侯爵の顔色が一気に悪くなる。額に汗が滲んでいる。
「それで、クシャラダナ侯爵嬢様は今の今まで待っていた、ということでしょうか」
アリスの言葉にカリアはキッと睨みつける。
噂は噂でしかない。自分がディレイガルドの花嫁になるのだ。例え一度として話どころか顔合わせもしたことがないとしても。父が、大丈夫だと言っているのだから。
「そうよ。それなのに、それなのに」
結婚式のために呼ばれた隣国の王族は、アリスが花嫁だという。今後続々と来る諸外国の人々も、エリアストとアリスの式だと思って来るのだろう。それでは自分は一体今まで何をしていたというのだろう。酷い裏切りだ。
「あ、いや、カリア、それについては」
侯爵の様子を見るに、カリアは言ってしまえば騙されていたのだろう。
アリスたちは、カリアを可哀相なものを見る目になった。被害者と言ってもいいかもしれないが、そんな騙され方するか普通、という意味合いが大きい。
「絶対に赦さないわ!このドロボウ猫!わたくしのエリアスト様を返しなさい!」
さめざめとしていたかと思ったら、急にアリスに向かって突進してきた。驚いて動けないアリスの前に、ダイヤモンドの髪が揺れた。そして難なくカリアを制する。両手首を後ろ手に片手でまとめられ動けなくなった。
「きゃあ!無礼者!放しなさい!」
「騒がしい。エルシィ、大丈夫か」
アリスは安堵の息と共に微笑んだ。
「エル様」
*つづく*
「クシャラダナ嬢、確認をしても?」
「どなたかしら。わたくしを誰だと思っているの?未来のディレイガルド夫人よ」
このパーティーに参加しておいて、主賓の顔を知らないとは。後ろに控えるレンフィとシャールは呆れた。
「これは失礼いたしました。ご挨拶が遅れました。わたくし、クロバレイス国より参りましたクロバレイス国第二王女ララと申します。わたくしたちのための王家主催パーティーご参加くださり、恐悦至極に存じます」
ララの挨拶に、カリアの顔色が変わる。
「ま、まあ、主賓が何故このようなところに?それに隣にいるその女性、婚約者のいる男性をたぶ」
「言葉は選ばれた方がよろしい」
ピリッと張り詰めたララの声に、カリアは知らず一歩後退る。
「あなたがディレイガルド家嫡男の婚約者、とはどういうことです?わたくし、こちらにいらっしゃるアリス嬢との結婚式に参加するべく参りました。これはわたくしどもの国が謀られている、ということでしょうか」
外交に関わる由々しき事態だと言っている。カリアは明らかに顔色を悪くしながら視線を彷徨わせている。すると、ララたちの背後から声がかかった。
「カリア!何をしている!」
「お、お父様!」
ディレイガルド公爵に袖にされ、いたたまれずに会場から出て来たクシャラダナ侯爵だった。
ララは内心拍手喝采だ。絶対親子で何かやらかす。期待に胸を膨らませるララに、レンフィは呆れたように溜め息をつき、シャールはやれやれと首を振った。
「おお、これはこれは、王女殿下。我が娘に何か?」
娘に何かじゃねぇ。娘が何かじゃボケェ。
「殿下、顔」
こっそり諫めるレンフィに、ララは扇で隠して一旦顔を直す。
「おや、お隣はファナトラタ家の。ディレイガルド家だけでは飽き足らず、隣国の王女にまで触手を伸ばすとは。いやはやその手腕、見習いたいものですなあ」
「あ゛?」
「殿下、顔」
「クシャラダナ侯爵様」
レディにあるまじき顔になったララを諫めるレンフィとのやり取りに微笑んだアリスは、侯爵に穏やかに話しかけた。ララたちはアリスを見る。
「クシャラダナ侯爵嬢様から伺いました。エリアスト様のご婚約者様であったと」
侯爵の顔が強ばる。
「ええそうよ。ね、お父様。お父様が仰っていましたもの。“おまえはエリアスト様の妻となるのだ。よくよく自分を磨いておきなさい”って。“お父様が話はつけておくから安心して花嫁修業に勤しむように”とも仰っていましたもの!」
侯爵の顔色が一気に悪くなる。額に汗が滲んでいる。
「それで、クシャラダナ侯爵嬢様は今の今まで待っていた、ということでしょうか」
アリスの言葉にカリアはキッと睨みつける。
噂は噂でしかない。自分がディレイガルドの花嫁になるのだ。例え一度として話どころか顔合わせもしたことがないとしても。父が、大丈夫だと言っているのだから。
「そうよ。それなのに、それなのに」
結婚式のために呼ばれた隣国の王族は、アリスが花嫁だという。今後続々と来る諸外国の人々も、エリアストとアリスの式だと思って来るのだろう。それでは自分は一体今まで何をしていたというのだろう。酷い裏切りだ。
「あ、いや、カリア、それについては」
侯爵の様子を見るに、カリアは言ってしまえば騙されていたのだろう。
アリスたちは、カリアを可哀相なものを見る目になった。被害者と言ってもいいかもしれないが、そんな騙され方するか普通、という意味合いが大きい。
「絶対に赦さないわ!このドロボウ猫!わたくしのエリアスト様を返しなさい!」
さめざめとしていたかと思ったら、急にアリスに向かって突進してきた。驚いて動けないアリスの前に、ダイヤモンドの髪が揺れた。そして難なくカリアを制する。両手首を後ろ手に片手でまとめられ動けなくなった。
「きゃあ!無礼者!放しなさい!」
「騒がしい。エルシィ、大丈夫か」
アリスは安堵の息と共に微笑んだ。
「エル様」
*つづく*
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