なまえのわからないものがたり

らがまふぃん

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4.茉莉花1

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 愛しい茉莉花。命の危険などない私の腕の中で笑って欲しい。私だけを見て私だけに微笑んで。真綿で包むようにドロドロに甘やかしてあげるから。血濡れで這いつくばるキミを見たくない。でも血濡れで這いつくばるキミを見たい。ああ、どんなキミでも愛してる。命のやり取りをしているキミのなんと気高く美しいことか!高潔なキミが屈辱に歪む顔が見たい。茉莉花、茉莉花、すべての危険から遠ざけたい、甘やかしたい、汚したい、気が狂うまで犯したい、私だけのものにしたい。
 茉莉花、キミに殺されたい。
 キミに殺された奴らにいつもいつも嫉妬していた。その繊細な指が、無慈悲なくちびるが、怜悧な眼差しが、他者に向けられていることに気が狂いそうだ。キミはオレのモノだ。キミのすべては、オレのモノなんだ。
 茉莉花、茉莉花、茉莉花。
 閉じ込めてしまいたい。自由でいて欲しい。
 いろんな感情が、相反する感情がいつも胸に渦巻いている。
 茉莉花を思うと気持ちが昂ぶる。この昂ぶりを茉莉花の代用品で鎮める。茉莉花に似ている女。でもちっとも似ていない。茉莉花ではないと気付くと萎えるから、正面から抱くことはない。後ろ姿が茉莉花に似ている女を選ぶ。性欲処理の道具でしかない女が勘違いするのも困る。だから嘘でも甘い言葉を吐くことさえない。
 茉莉花、早くこの腕に堕ちてきて。少しだけ自由をあげるから。そうすれば、どれだけオレが必要なのか気付くでしょ?だから待ってあげる。必ずオレの元に戻ってきて。
 愛してるよ、茉莉花。


*~*~*~*~*


 「さて、みなさまお待ちかね。覚えている方も多いと思います。この人に賭けず、一攫千金を狙う者たちの夢をことごとく砕いてきた少女!その番号を与えられてから、誰にも譲ったことがない!この空白の期間、一体何があったのか?!ちょっぴり大人になって帰ってきました!三年ぶりの登場です!我らがナンバーサーティーン!!」
 会場が割れんばかりの歓声に包まれる。凄まじい観客の熱気に、相手の元ムエタイチャンピオンも興奮している。対するナンバーサーティーン、茉莉花は、凪のように静かだった。
 試合開始前の握手で、それは起こった。
 チクリ。
 一瞬眉を顰め、茉莉花は相手を見る。嫌な笑みを浮かべていた。
 「その仮面を剥がしてやる」
 試合は仮面を着けるよう匡臣に言われていた。その茉莉花の被る狐の面を指して、対戦相手は勝利宣言をした。会場はうねるような歓声に包まれる。
 茉莉花の背中に、汗が伝う。
 毒か。
 茉莉花は内心舌打ちをした。油断をした自分が悪い。
 「今回の条件は至ってシンプル、素手!さあ、思う存分殺り合ってください!始め!!」
 それは一瞬だった。
 男は攻撃をしようとしたのだろう。ボクシングのファイティングポーズのような体勢のままだ。その懐には、ナンバーサーティーン。男の背中から、手が出ている。ナンバーサーティーンのものだ。その手には、まだドクドクと、脈打つ心臓が握られていた。
 ずるりと、男の体がナンバーサーティーンに寄りかかる。
 会場は、音がない。
 ナンバーサーティーンが腕を引き抜くと、男はどさりと倒れた。
 抜き取った心臓をそのまま掲げる。
 会場が、観客の狂喜に地響きを起こした。



 会場が地響きを起こす。凄まじい観客の熱気に、佐伯たちは震える。白い部屋でスクリーンを見つめながら、黒い扉から出て行った元同僚が、躊躇いもなく人を殺したのを見た。何も言葉が出てこない。狐のような面をつけているため、茉莉花の表情はわからない。
 彼女たちにわかるのは、死ぬ、ということだけだった。


*~*~*~*~*


 試合が終わると、茉莉花は元同僚たちのいる部屋を通り、彼女たちに声をかけることなく部屋を後にする。そのまま匡臣まさおみに与えられている部屋に入ると、シャワーで血を流した。
 「寒い」
 ぽつりと呟く。毒が回り始めている。毒の耐性はあるから死にはしないだろう。とにかく寒かった。ガクガクと体が震え出す。それなのに汗が止まらない。シャワールームを出ると、匡臣が待っていた。
 「ほら、体をよく拭いて、茉莉花」
 持っていたバスタオルで茉莉花の裸体を包む。
 なぜここに匡臣がいるのだろう。
 「あの」
 「ああ、大丈夫。死ぬような毒じゃないよ」
 この人の仕業か。呆れたように息を吐くと、
 「どっちかって言うと、こっちの方がつらいかもね」
 首筋に何かを刺された。一瞬で意識が闇に落ちる。
 自由なんて与えると、碌なことにならないね。
 匡臣は昏く笑った。


 *つづく*

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