乙女ゲームの世界の攻略の仕方

らがまふぃん

文字の大きさ
3 / 10

しおりを挟む
 今オレは、オレたちは、何を見せられているんだろう。
 「あ、こちらでよろしいですか?」
 「ああ」
 「ミルクいれます?」
 「いらねぇ」
 「お砂糖は」
 「いらねぇ」
 第三王子が甲斐甲斐しくナツの世話をしているように見えるんだが。
 「ああ、そうだ、リュカ、婚」
 「リュ・カ?」
 ナツの、目が笑っていない笑顔に、第三王子はブワリと体を膨らませた。
 「っと、失礼いたしました、ローゼイン嬢。それで、婚約白紙の話ですが、陛下から了承をいただきましたので、後日、ローゼイン家へ伺います。そこで白紙に戻しましょう」
 入学から一週間。
 生徒会室で誰よりも偉そうにしているヒロインがいる。王族が執事のようにヒロインに仕えている。第三王子も攻略対象なんだけど、攻略の仕方が明らかにおかしいよね。確かにヒロインを見つめる目に熱があるよ。でもこれ、恋愛のれの字もないよね。明らかに女王様と下僕、いや、奴隷だよね。お仕置きを待ってる感じが否めないんだけど。何したの、ナツ様。
 「いえ、殿下、それには及びません。ローゼイン家が王城へ伺いますわ」
 ハルがキョトキョトしながらなんとか言葉を紡ぐ。王家を呼びつけるなんてとんでもない。そう思っての返答だったようだけど、ヤバい言葉を王子が言った。
 「いえ、私は直に王族から出る身。一代限りの公爵の身となりますので、そのようなお気遣いは無用です」
 ナツさーん?!ホントに何したの?!
 ハルもフユもその発言に挙動不審になっている。ナツをチラチラ見るのだが、ナツはいい笑顔で気にするなと言う。気になることしかないんですけど。とりあえず臣籍降下することは卒業後に発表するからご内密に、と言われた。さらりと国家機密級の発言をするな。まあ、オレの嫁と切れたのはいいけど。でも謎の縁は残ったな。主にナツと。
 「ご主人様、こちら王都で評判の焼き菓子です。お気に召せばよろしいのですが」
 おい、王子、呼び方どうした。
 「ん」
 順応してるナツ様、似合ってます。少しかじって顔をしかめる。ナツ、甘いもの苦手だもんね。わかっててなんで食べたか知ってるよ。
 「フユ、口開けろ」
 隣に座るフユに、食べかけを食べさせる。毒味、だよね。どの食べ物に何をされているかわからないから、すべて自分が口にしたものを渡す。ナツの囓ったクッキーを、顔を赤らめながらもぎゅもぎゅ食べるフユが可愛い。
 「アキ、ちょっとこっち来い」
 ナツの斜め前で、私を信用していないご主人様、尊い!と息を荒くしている王子ヘンタイはあえて無視する。
 「ハル、ちょっとアキにベロチュー紛いのことするけど赦せよ」
 ベロチュー?
 「アキ、舌出せ」
 べー、と舌を出すナツを真似て、オレもべー、と出す。するとナツがそのまま近付いてきて、オレの舌とナツの舌が触れた。
 「!!」
 オレは口を押さえて床に転がる。別にナツとベロチュー紛いをして驚いたからではない。痛い!ものすごく痛い!痛すぎて声を出せなくて床に転げ回っている状態だ。
 「うええええ?!アキちゃん、アキちゃあん!」
 ハルが慌てて駆け寄ってくれる。さすがオレの嫁。でも痛い!何したの、ナツ?!少しすると、さっきまでの痛みがさっぱりなくなった。訳がわからず頭にめっちゃハテナを飛ばして悲劇のヒロインみたいな座り方をしていると、ハルが涙と鼻水を拭いてくれた。女神。
 「俺の毒やら薬やらの情報をアキの舌に味覚として覚えさせた。一遍に流したから痛覚になったんだろうな」
 ニヤリと口の端を上げるナツ。ワザとだね。王子ヘンタイがオレを睨んでいる。やめろ、嫉妬。
 「これでアキがハルを守ってやれよ。俺の食べかけ渡すわけにいかねぇからな」
 囓らずに割ってくれればいいのでは、と思ったが、単純にこの毒味を伝授したかったのだろう。
 「うう、あ、ありがとう。でももう少しお手柔らかにお願いします」
 「貴様、ご主人様からのご褒美に対して文句を言うとは」
 「話に入ってくるんじゃねぇ。誰が許可した」
 「はい!出過ぎた真似をいたしました!申し訳」
 「黙ってろ」
 「はい!」
 王子ヘンタイが喜びに溢れた顔をしてナツの後ろに控えた。かまってもらえてよかったね。
 「でもさ、なっちゃんだったらわざわざ食べなくても、なんか鑑定とかの魔法で毒とかパパーッと見破れそうなんだけど」
 ハルの言葉は尤もだ。オレもそれは思う。
 「あー、そうだな」
 ナツは少し考える素振りを見せると、一枚クッキーを手にした。
 「鑑定なんて便利な魔法はないけど、単純に何が入っているか見分けることは確かに出来る」
 パキ、とクッキーを割ると、僅かに甘い香りが強くなる。
 「嗅覚を使って」
 ただ、何がどんな匂いを持つのか、など膨大な知識が必要となるわりに、使い勝手が悪い。まず周囲の匂いが混ざらないように、対象物と自分の周りの空気を遮断しなければならない。そして嗅覚を犬並に上げてやる。周りの空気を遮断しているから酸素がなくなる前に素早く正しい結果を導かなくてはならない、ということらしい。風と水と雷の属性が必須とのこと。
 「ほかには毒に反応する魔法だが」
 光と土の魔法を使ってあらゆる毒の情報を詰め込み、それにヒットすれば赤くなる、というもの。
 「ほら」
 クッキーはぼんやり赤く光る。
 「ええ?どうして?」
 ハルが困惑する。オレはピンときた。
 「はちみつ?」
 オレの言葉にナツは笑った。
 「何を毒とするかが難しいんだ。大人には何でもないものでも子どもでは命を落とすこともある。さらに毒と薬は表裏一体。成分の配合でどちらにも転ぶ」
 だから味覚が一番確実なのだと言った。
 「即効性のものばかりじゃない。遅効性のものだってもちろんある。だから知識が必要なんだ。あらゆる可能性を考えられるように」
 ナツは笑った。この世界に生まれて、何があっても大丈夫なように、ずっと知識を身につけてきた。それを惜しげもなく分け与える。ああ、ホントに敵わないなあ。情けなくて眉を下げていると、ナツはまた頭をワシワシして、顔を近付けてそっと耳元で囁く。オレの顔、絶対赤くなってる。もう、オレ、落ち込んでるんだよ?
 「ちゃんと二人きりの時にやるんだぞ」
 ニヤリとナツが笑った。

 もちろんハルにも伝授してくれよ?舌同士が触れ合わないと出来ないからな。ゆっくりやれば痛みはない。ゆ~っくり、時間をかけてやれよ?
 そう囁いたナツ。
 邪魔されずに二人きりになれる空間を提供しよう。
 そう言ってナツとフユとヘンタイは生徒会室から出て行った。終わったら教室に来るようにと伝言を置いて。
 毒に関することだ。確かに少しでも早い方がいい。今まで無事だからって、これからもそれが保証されているわけじゃない。リスクは少しでも回避したい。
 「ねぇねぇ、なっちゃんに何言われたの?」
 無邪気な嫁可愛い。でもちょっと待って。心の準備が。そりゃあ今更って感じはあるけど、今世では初めてだからね。雰囲気も大事にしたいんだよ。乙女ならぬ男心ってヤツです。
 「うん、あの、ね。さっきナツが毒のこと伝授してくれたでしょ」
 「うん、めっちゃ痛がってたよね。ハッ!まさかあたしにも?!」
 青くなって口を押さえる嫁尊い。大正解。だけどね。
 「まあ、そう、なんだけど」
 「痛いのイヤだからいいです」
 涙目でサムズアップする嫁監禁したい。
 「や、アレ、一瞬でどうこうしようとしたからだって。ゆっくりやればまったく痛くない、らしいん、だけど」
 「ホントかなぁ」
 嫁、痛みに気を取られ過ぎだ。アレをゆっくりやるんだよ?わかる?もちろんオレは嬉しいに決まってますよ。ただ、さっきも考えた通り、今世では初めてなの!雰囲気大事にしたいの!だから。
 「ハル」
 サラリと絹糸のような髪を耳にかけてあげる。両手でそっとハルの顔を上向かせると、キョトンとした目が向けられた。そのままゆっくり頬を撫でると、ぶわりとハルの顔が赤く染まる。
 使命感からのものじゃイヤなんだよ。
 「ハル」
 恋い焦がれた存在との再会。奇跡のようなこの出会い。
 「また、オレと一緒に生きて」
 熱の籠もった目で見つめる。
 「愛してる、ハル」
 静かに唇が重なる。
 ゆっくりハルの腕が背中に回された。歓喜に心が震える。
 何度か繰り返して、吐息混じりに言葉を紡ぐ。
 「ハル、少しクチあけて」
 ますますハルは顔を赤くするが、おずおずと口を開けてくれた。そこから舌を滑り込ませると、ハルの体がビクリと揺れた。ああ、本当に可愛くて可愛くてどうしようもない。思う存分ハルを堪能した。
 ようやく唇が離れると、ハルはくったりと力が抜けてオレに寄りかかってくる。マジ天使。そのまま抱き上げてソファに座る。横抱きに膝の上に乗せたまま優しく頬を撫でる。
 「じゃあハル、ナツから伝授されたものをハルにも渡すね」
 「えっ、さっき渡してくれたんじゃないのっ?」
 初めては使命抜きに決まってるでしょ。


*4につづく*

 伝授するための魔法は水と雷の魔法で出来ます。
 水と風でも出来ますが、風より雷の方がやりやすいです。
 作者イメージの余談でした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】聖女召喚で婚約破棄されましたが、冷徹王弟と政略結婚して王宮の均衡を保ちます

藤原遊
恋愛
王太子妃の座を聖女に奪われ、婚約破棄―― その瞬間、人生が転落するはずだったはずの私に差し伸べられたのは、王弟アレクシス殿下の手でした。 「私の共犯者になりませんか?」 ――冷徹王弟と、権謀術数渦巻く王宮を生き抜くことに。 次々と巻き起こる国内派閥争い、聖女礼賛派の思惑、外交王族による求婚劇―― 舞台はやがて、盤上の恋愛戦争へと変わっていく。 ◆政略結婚から始まる恋愛駆け引き ◆冷徹王弟 × 才色兼備の元王太子妃候補 ◆溺愛・腹黒・じれじれ・外堅内甘要素あり 冷静だった共犯関係は、やがて本物の愛に―― 今、一国の均衡を賭けた新たな政略婚が動き出す。 ※毎日21時更新 ※画像はAIが作成しました。

処理中です...