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アーリオーリ王国編

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 女官も護衛も崩れ落ちている。不敬しか働いていないこの王女の責任を、誰がどう取ったらいいのか本気でわからない。こんなヤツの外遊を許可した王の責任としか思えなくなってきた。実際、ついて来た者たちは本気で阻止したのだ。外交問題になりかねない、いや、絶対になる、と。だが、あの王家は、それをさせないのがおまえたちの務めだろう、と一蹴しやがった。こんな瞬間湯沸かし器で暴走機関車の王女を止めるなんて、土台無理なのだ。もう祖国の地は踏めないだろうな、そんな諦念ていねんの思いで、みんなこの外遊について来ている。
 「この展開は予想していなかったよ、ディア」
 珍獣を見るような心持ちで、ノアリアストはダリアに耳打ちをする。
 「わたくし、アレが義妹なんてイヤよ、ノア」
 寒気を催したのか、腕をさするダリア。
 「私にも選ぶ権利が欲しい」
 同じく腕を摩るノアリアスト。
 「ちょっとあーた!セドニア様という婚約者がいながらなぜあたくしの婚約者につきまとってますの?!」
 同じ顔だ。双子だと気付け。
 「色々な意味で怖。なんとかして、ノア」
 「あの着ている肉を削ぎ落とせば圧迫感は軽減するかな」
 「汚いモノを撒き散らさないで欲しいわ」
 「ディアのわがまま」
 ノアリアストは腰にいた剣を鞘ごと抜くと、アフロディーテに向かってその鞘じりを突きつけた。不敬だなどというやからはいない。
 「殿下は私をお望みのご様子。それならば、我がディレイガルド家の仕来しきたりに従っていただきましょう」
 ノアリアストは冷たくアフロディーテを睥睨へいげいした。
 「我がディレイガルド家とえにしを結びたい者は、強くなくてはなりません」
 ノアリアストが説明をする。
 「私から剣で一本取れたら、その強さを認め、殿下に従いましょう。諦めるなら辞退して構いません。ただし、辞退した時点で、私を手に入れるすべは永遠に失われます。諦めないのであれば、一本を取れるまで、何度でも挑んでいただいて構いません」
 一本取るだけで、この美しい男が手に入る。アフロディーテは欲望に目をギラつかせる。
 「みんな、そうやって来たのかしら」
 「ディレイガルドが望んだのであれば、そんな必要はない。こちらが何でも望みを叶える代わりに、こちらの望みを聞いてもらうだけだ」
 アフロディーテの背後からの声に、みんなが一斉に振り返る。女官たちの殆どが倒れ、護衛たちも半数以上が膝をついた。
 「父上、母上」
 「お父様、お母様」
 双子は頭を下げる。
 エリアストの登場に、免疫のない他国の人々はその色香にあてられた。
 アフロディーテは腰を抜かして呆然とエリアストを見ている。
 エリアストはアフロディーテを一瞥すると、アリスと共にその横を通り過ぎ、双子の前に立つ。
 「なぜこんなことになっている」
 「殿下が私を婚約者にと」
 「まあ。ノアを?セドニア様とのお話ではなかったかしら」
 アリスの声に、何とか意識を保った者たちは陶酔したような表情を浮かべた。
 「エルシィ」
 アリスの顔を覗き込み、話してはダメだと言うように、エリアストは自身の唇に人差し指を立てた。
 「エルシィの声を聞いた者の耳を、削ぎ落とさねばならなくなる」
 エリアストの発言に、全員の顔色が悪くなる。とんでもない独占欲だ。それに、頬を染めて微笑むアリスは、恐ろしいほど大物だと思う。
 「ノア」
 「はい」
 「好きにしていい」
 「かしこまりました」


*つづく*

 湯沸かし器も機関車もこの世界にはありません。わかり易い表現を用いました。あしからず。

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