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ディレイガルド事変編
7
「先日のお茶会以来ですわね、オーシェン伯爵嬢様」
「ディ、ディレイガルド公爵夫人様っ。あ、あ、でぃ、れい、がるど、公爵、様」
王家主催の夜会。王族への挨拶も終わり、人々が談笑している頃。
二人の登場に、シズワナは体を震わせつつ、顔を紅潮させながら、頭を下げる。醜女と陰で嗤われるシズワナに、筆頭公爵家が声をかけたことに会場はどよめいている。オーシェン家の者たちも、何事かと駆けつける。あわよくばお近づきに、の根性も携えて。
「これはディレイガルド公爵様、申し訳ございません。娘が何かご無礼を」
「ほら、謝罪なさい!誠心誠意謝るのですよっ」
何の話もしていないのに、シズワナを悪と決めつけ、その頭を掴んで下げさせる。
「大変申し訳ございません。このような醜女をその視界に入れてしまうことすら無礼でしたね」
「ほら、あなたはその顔を伏せていなさい!お目汚しにも程があるわ!」
勝手に話し始め、あろうことか、自分たちの娘であり妹であるシズワナを貶める。
アリスは扇をたたみ、最後の一折りをわざと大きな音を立ててたたんだ。伯爵家の四人は肩を震わせた。アリスは常に微笑みを湛えた穏やかな人物。その笑みが、消えている。
「シズワナ様を随分貶めますね」
アリスの言葉に、シズワナは泣きそうな顔を上げてアリスを見た。
「ああ、申し訳ありません、シズワナ様。勝手にお名前をお呼びしてしまいました」
お許し下さいましね、とアリスはシズワナに柔らかく微笑む。それだけで、もうシズワナには充分だった。罪を告白するには、想いを打ち明けるには。
「こ、公爵様、公爵夫人様、申し訳、申し訳ございませんでしたあっ」
声をかけられた時点で、すべてを観念した。ディレイガルドを欺けるはずなどない。もう、自分の罪は知られている。自分の想いは、知られてしまっている。こんな自分が望むには、烏滸がましすぎることは百も承知。
「何に対する謝罪だ」
エリアストの絶対零度の声が、視線が、シズワナの全身を震わせる。
「あ、の、て、手紙、です」
「貴様の仕業と認めるのか」
「は、はいぃ、みとめ、ます」
何の話かまったくわからず、オーシェン家の者たちは困惑した。本当に何かをしでかしていたなんて、思ってもいなかった。何か行動を起こせるような性格ではないと、わかっているからだ。それなのに、一体何をしたというのか。手紙、とは。
「おい、貴様!貴様のようなものを育ててやっているだけでも感謝して然るべきだと言うのに!ディレイガルド公爵様に何をした!」
「存在自体が迷惑だというのに、あろうことか公爵様にご迷惑をかけるだなんて!この親不孝者!育ててやった恩も忘れるとは!」
「黙れ。誰が口を開くことを許可した」
口々にシズワナを責めるオーシェン家に、エリアストが静かに怒気を込めた。オーシェン家は青ざめ、全身を震わせる。
「私がこの娘と話をしている。邪魔をするな」
先程アリスを怒らせていたことからわかる通り、これは、アリスが好まない人種だ。事前にアリスからオーシェン家のことは聞いていたが、本当に怒らせるとは。アリスの滅多に見られない感情を引き出したことにも、エリアストは不快であった。例えそれが、負の感情であっても。
ついでに潰そう。
そう考えるのは、当然だった。
*つづく*
「ディ、ディレイガルド公爵夫人様っ。あ、あ、でぃ、れい、がるど、公爵、様」
王家主催の夜会。王族への挨拶も終わり、人々が談笑している頃。
二人の登場に、シズワナは体を震わせつつ、顔を紅潮させながら、頭を下げる。醜女と陰で嗤われるシズワナに、筆頭公爵家が声をかけたことに会場はどよめいている。オーシェン家の者たちも、何事かと駆けつける。あわよくばお近づきに、の根性も携えて。
「これはディレイガルド公爵様、申し訳ございません。娘が何かご無礼を」
「ほら、謝罪なさい!誠心誠意謝るのですよっ」
何の話もしていないのに、シズワナを悪と決めつけ、その頭を掴んで下げさせる。
「大変申し訳ございません。このような醜女をその視界に入れてしまうことすら無礼でしたね」
「ほら、あなたはその顔を伏せていなさい!お目汚しにも程があるわ!」
勝手に話し始め、あろうことか、自分たちの娘であり妹であるシズワナを貶める。
アリスは扇をたたみ、最後の一折りをわざと大きな音を立ててたたんだ。伯爵家の四人は肩を震わせた。アリスは常に微笑みを湛えた穏やかな人物。その笑みが、消えている。
「シズワナ様を随分貶めますね」
アリスの言葉に、シズワナは泣きそうな顔を上げてアリスを見た。
「ああ、申し訳ありません、シズワナ様。勝手にお名前をお呼びしてしまいました」
お許し下さいましね、とアリスはシズワナに柔らかく微笑む。それだけで、もうシズワナには充分だった。罪を告白するには、想いを打ち明けるには。
「こ、公爵様、公爵夫人様、申し訳、申し訳ございませんでしたあっ」
声をかけられた時点で、すべてを観念した。ディレイガルドを欺けるはずなどない。もう、自分の罪は知られている。自分の想いは、知られてしまっている。こんな自分が望むには、烏滸がましすぎることは百も承知。
「何に対する謝罪だ」
エリアストの絶対零度の声が、視線が、シズワナの全身を震わせる。
「あ、の、て、手紙、です」
「貴様の仕業と認めるのか」
「は、はいぃ、みとめ、ます」
何の話かまったくわからず、オーシェン家の者たちは困惑した。本当に何かをしでかしていたなんて、思ってもいなかった。何か行動を起こせるような性格ではないと、わかっているからだ。それなのに、一体何をしたというのか。手紙、とは。
「おい、貴様!貴様のようなものを育ててやっているだけでも感謝して然るべきだと言うのに!ディレイガルド公爵様に何をした!」
「存在自体が迷惑だというのに、あろうことか公爵様にご迷惑をかけるだなんて!この親不孝者!育ててやった恩も忘れるとは!」
「黙れ。誰が口を開くことを許可した」
口々にシズワナを責めるオーシェン家に、エリアストが静かに怒気を込めた。オーシェン家は青ざめ、全身を震わせる。
「私がこの娘と話をしている。邪魔をするな」
先程アリスを怒らせていたことからわかる通り、これは、アリスが好まない人種だ。事前にアリスからオーシェン家のことは聞いていたが、本当に怒らせるとは。アリスの滅多に見られない感情を引き出したことにも、エリアストは不快であった。例えそれが、負の感情であっても。
ついでに潰そう。
そう考えるのは、当然だった。
*つづく*
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