悲しくも美しい物語

らがまふぃん

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12.シェファニール

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 『あーあ、酷いなあ。あと三年は使えるはずだったのにさあ』
 ジュラキュリオンの暴力に晒されたシェファニールの顔は、殴られた場所がへこんでいた。通常であれば腫れるはずだが、シェファニールはへこんで歪な形になっていた。
 「あの程度のあおり耐性もないことが、王族として問題だ。あんなのが王太子。まああんな平民にうつつをぬかしている時点で先は見えている」
 国王の王太子時代の話をしたのは、これからの振る舞いを考えさせるためと、色事に傾きすぎるな、という警告を込めていた。あんなお粗末な人間では、第二第三のアルテイルを生むだけ。
 『そうだけど。代わりを探すの面倒じゃない』
 レンは、横たわるシェファニールを見つめた。
 可哀相なシェファニール。側近候補の婚約者となったがために、その若い命を散らすことになった、憐れな令嬢。王太子の為人ひととなりを見るために、その体をもらった。綺麗な体が必要だから、真冬の冷たい湖に沈めた。苦しまなくてすむように、深く深く眠らせて。
 魂のない体に、レンの魂を入れる。学園に行っている間だけ。家に帰って眠るとき、レンは自分の体に戻る。魂のない体は、朽ちやすい。そのため、メフィストフェレスが魔法で保護をする。メフィストフェレスはその体を動かすことは出来ないが、限定的だが魔法を使うことは出来る。
 「そうだな。だが、もう必要ない。シェファニールは長期休暇中、領地に戻る途中、事故死する」
 遺体の傷は癒やせない。幻影魔法で何事もないように見せることは可能だが、触れられたらわかってしまう。だからシェファニールには、もう眠ってもらう。
 シェファニールのお陰で、王太子の為人はこの一年でだいたい把握できた。だから伝えた。自分の父親の罪を。そのせいで、あと僅かしか生きられないかも知れないという恐怖を。その血を継いでいるが故の、理不尽な運命を。
 《ねえ、血を繋ぐの?》
 足下にいる猫が話しかける。ノルウェージャンフォレストキャットのように、ふさふさの長毛、極太のしっぽ。あまり自由の利かないメフィストフェレスの手足となるべく、使い魔として造られた。名前はねこ。
 レンはゆっくりと空を仰ぐ。
 「必要性を感じなかった。むしろ、元凶と同じ匂いがした。同じことが、繰り返されかねない」
 もう一度、シェファニールに視線を落とす。
 「あの平民の女に対してさえ、今は冷たいものだ」
 側近候補たちと王城を訪ねられても、心ここに在らずといった様子で何事か思案していたり、忙しいからと断ったり。終いには癇癪を起こしたティシャに、キミはそんな女性だったかな、と呆れた視線を投げた。羞恥に震えるティシャは、側近候補たちを連れて去って行った。側近候補たちは内心、一番邪魔なライバルがいなくなったと喜んでいた。
 けれど、去って行く者たちを見つめるジュラキュリオンの目は、どこか今までと違っていた。そう、レンは感じた。
 「だが、アレは今十六。あと二年近くある。その間に生かしておいていいと思えるものがあれば、血を繋げさせてもいい。今度はその子どもに対象が移っていくだけだ。だがおまえにとっては繋がない方がいいんじゃないか?」
 メフィストフェレスに言う。
 『まあね。キミの復讐が早く終わればさっさとその体をいただけるし』
 「そうだな」
 『だから、残念ながら、キミのもしも・・・は叶わない』
 「わかっている。わかっているよ、メフィストフェレス」
 レンは寂しそうに笑った。


 *つづく*
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