これはひとつの愛の形

らがまふぃん

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トリウ王国編 *年の差*

前編

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 新しい話始めました。
 今回は、ひとつの世界観の元、各国でひっそり育まれた?愛にスポットをあてています。
 最初に世界観をお読みいただきましたら、あとはどの章からお読みいただいても差し支えありません。
 どのような内容かは、章の横にサブタイトルのようについたタグでご判断ください。


*~*~*~*~*


 「気持ちは嬉しいです。ですが、私は教師です。生徒とそういう関係になることは出来ません。申し訳ありません」
 この国一番の美人だと言われても納得する。それほどの美少女が、顔を真っ赤に染め、勇気を振り絞って想いを告げたであろうことは、一目でわかる。それでも、その気持ちに応えるわけにはいかない。



 シトリはとても美しい少女だった。それ故、幼い頃、一度誘拐された。五つ上の双子の兄たちの目の前での犯行であった。兄たちは必死に犯人に追いすがるが、大人と子どもだ。間もなく犯人の姿を見失ってしまう。しかし兄たちは賢かった。自分の魔力をシトリに纏わせ、その魔力を糸のように細く繋いだ。双子の一人、リュウがそれを追い続け、もう一人の双子、リョウが急ぎ両親に知らせに走った。そのお陰でシトリはすぐに戻って来ることが出来た。
 それ以降も度々攫われそうになるが、兄たちがそれを許さなかった。一度の失敗をよくよく胸に刻み、同じ轍を踏まぬよう律してきたからだ。二つ下の妹ナトリも、美しい姉を騎士も顔負けに守っていた。
 そんなシトリが中等部三年に上がった頃だ。どこか上の空になることが多くなったシトリに、兄妹たちは訝しんだ。
 「シトリがおかしい」
 リュウが言うと、リョウとナトリが頷く。
 「姉様、お部屋で時々暴れています」
 「「なんだと?!」」
 ナトリの発言に双子は声を揃える。あの穏やかで慎ましいシトリが暴れているだと?!
 「部屋に入ったら、ベッドの上でバタバタゴロゴロしているのを目撃しました」
 暴れているには程遠いが、シトリにしては確かに暴れている。
 「制服のままでしたので、美しい姉様のなまめかしい御御足おみあしが太ももまで露わになって、私は理性を抑えるのが大変でした」
 双子はそっと目を逸らす。シトリの禁断の絶対領域を想像してしまった。というより、勝手に人の部屋に入るんじゃない、ナトリよ。
 「あれは、恋をしています」
 「「なんだとおおおおおぉぉ?!」」
 そっちの方が遙かに衝撃的だった。
 「な、なぜわかる?!なにか、そう、勉強でわからないことがあったのかも知れないだろう?!」
 「姉様から相談を受けました」
 「「相談されたのかよ!!」」
 さすが双子。息ぴったり。
 「高等部の教師です。数学のソウ・サグラ」
 「「は??」」
 昨年高等部を卒業した二人は、もちろんその教師を知っていた。特筆すべきことのない、平々凡々の教師。可もなく不可もない、そんな人物だ。それだけに、疑問しか浮かばない。きっかけは何だったのか。そもそもどう知り合ったのか。
 「訓練所が合同でしょう。姉様を見ても、全く態度が変わらなかったそうですよ」
 胡散臭い、とナトリは顔を顰めた。
 「姉様を見て変わらない人間は人間じゃないと思います」
 ナトリの言葉に双子も頷く。
 「ですが、姉様には、それが、大事、だったんです、よね」
 しょぼしょぼと尻すぼみに言葉を紡ぐナトリに、双子はポンポンと頭を撫でた。
 容姿で苦労してきたシトリ。美しいと羨む者は、大勢いる。だが、誰もが羨むものでも、望まない者も確かにいることを忘れてはならない。それを持っている本人が、望まぬ者かもしれないことも。
 「まあ、本当にシトリがそいつを望むなら、協力しないわけにはいかないよなあ」
 「だな」
 リョウの言葉にリュウが頷く。ナトリもしかめっ面だが、姉の幸せのためならやぶさかではない。
 「試しに告白させて、本性見るってのもありだけど」
 「シトリはそういうコト出来ないからな。気遣い屋さんだからなあ」
 「お試しなんて、姉様気を病みます」
 リュウ、リョウ、ナトリの順に、口にして悩む。
 「とりあえず、教師と生徒でどうこうはシトリは望まないだろ。高等部の卒業式だな、告白は」
 リュウがそう言うと、二人は頷いた。
 「何かアピール出来るといいな。それでヤツの反応を見るのもありだろう」
 「リョウ兄様、それはお弁当攻撃のことを言っているのですか」
 「いや、別に弁当限定の話はしてないだろ」
 「そうですよね。姉様の手作りなんて、万死に値しますね。羨ましい死ね数学教師」
 「なんもしてないだろ、まだ」
 「まあとりあえず、卒業までに告白されるに足る人物かしっかり見極めます」
 ビシッと敬礼をするナトリに、二人は頼んだ、と敬礼を返した。

 「姉様、ただ見つめているだけでは何も実りません。なにか、こう、なにか、してみたら如何でしょう」
 「ええ、な、なにか?ええっと、そうね、どう、したら、いいのかしら」
 淡い栗色の髪を、くるくると指に巻き付けて動揺するシトリが尊い。薄桃色の頬を目元まで赤く染める姿は、正しく恋する乙女。ただでさえ誘拐必至の美貌が、崇拝レベルに達している。
 「姉様、街に出て、恋人たちを観察しに行きましょう。何かヒントが得られるかも知れません」
 ナトリの提案に、シトリは柔らかく微笑んだ。
 「ありがとう、ナトリ。私のために」
 ふぐうっ、とナトリは胸を押さえてよろめく。
 「ね、姉様のためでしたら、地獄、に姉様は用はないので、天国の果てまででもお伴しますよ。何それヤバい姉様と天国ってご褒美」
 最後のひと言はシトリの耳には聞こえなかった。


 
 「姉様、帽子をもっと深く被ってください。あらゆる生き物が姉様を狙っていますから」
 「あ、あらゆる?わ、わかったわ」
 休日、二人は街にやって来た。
シトリは素直にナトリの言うことを聞いて、帽子をより目深に被り直す。
 「恋人たちのスポットと言えば公園です。というわけで、芝生にシートを敷いてお弁当を食べつつ食後は姉様の膝枕で過ごしながらゆっくり観察いたしましょう」
 「わかったわ」
 何かがおかしいと思うことなく、ナトリの提案にシトリはキリリと頷く。そうして有言実行、ナトリは至福の膝枕を堪能していた。
 「姉様」
 周囲を一生懸命観察していたシトリは、ハッとしてナトリを見た。
 「どうしたの、ナトリ」
 「姉様は、数学教師と一緒になれなかったら、どうするんです?」
 「え」
 そんなことを考えていなかったシトリは戸惑う。
 「いえ、姉様が振られるなんて微塵も思っていないですよ。でも、姉様が好きになるってことは、そんじょそこらの有象無象と違うから。あり得ないことが起きてもおかしくないかと」
 ナトリの言葉に、シトリは考える。
 「振られるとか、成功する、とか、正直言って、考えていなかったわ。どうすれば伝わるかなって。この気持ちが本物だって、どうすれば伝わるかなって、考えているの」
 ナトリは黙って聞いている。
 「先生と私、教師と生徒っていうだけでも、障害だと思っているの。それに加えて、年齢も、結構離れているわ。子どもの遊びだって、大人に憧れているだけだって、思われたくないの」
 この気持ちを、否定して欲しくない。シトリの目は真剣だった。ナトリはゆっくり起き上がると、シートから出る。
 「ナトリ?」
 「行きましょう、姉様」
 バスケットを手にして、ナトリはシトリを急かす。
 「ど、どこへ行くの、ナトリ」
 バサバサとシートを手早く畳むと、シトリの手を掴んで来た道を戻り始めた。
 「な、ナトリ?」
 「姉様がそこまで本気であれば、やることはひとつです」
 「え?」



 *後編へつづく*
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