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12 ~サリュア、ウェンリアインside~
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~サリュアside~
「ほ、本当ですか?」
震える父親の声に、私は顔を上げる。
国民は生まれてから十八歳の成人を迎えるまで、毎年神殿で聖女の素質を鑑定してもらう義務がある。成人するまでは、どのタイミングで聖女の素質が芽生えるかわからないのだ。成人してからは素質が芽生えることは稀なので、区切りとして成人までは義務としている。ちなみに滅多にいないが、男は聖女ではなく神子と呼ばれる。
私が十二歳の誕生日に神殿を訪れたときだ。
「ええ、確かに。おめでとうございます、クアルント男爵様。サリュア様は今後神殿預かりとなります。追ってご連絡をいたしますね」
神官が微笑む。
「おめでとうございます、サリュア様。近年最年少での聖女候補です。親元を離れるのは淋しいかも知れませんが、少しでもその淋しさが紛れるよう我々も努力いたします。どうか安心してお越しくださいませ」
優しく私の手を包み、その手を恭しく持ち上げて祈る神官に、魅入っていた。まるでお伽噺のお姫様になった気分だった。
そうして迎えられた神殿で、今まで抑圧されていたモノが抑えきれなくなっていった。
質素な食事をしなくていい。朝から晩まで追われるように家のことをしなくていい。うるさくてワガママな弟の面倒を見なくていい。特別扱いされる兄を羨まなくていい。ただ言われた通りに日課を熟すだけ。清めも祈りも禊ぎも大したことはない。食事だって自分で用意する必要もない。
徐々に抑圧されていた部分が解放されていった。
自分は特別。聖女の候補。早い段階で開花した特別な自分。聖女の中でもさらに特別。特別の中の特別。周りは傅き、王子でさえ自分を特別に扱う。すべてが自分の思うがまま。
なんて素敵。
もう、何も我慢なんてしなくていい。
私がいないと困るでしょう。
それならほら、言うことを聞きなさい。
私の言うことを、聞きなさいよ。
*~*~*~*~*
~ウェンリアインside~
上手に隠せていると思っているその愚かさが可愛い。
自分が特別だと思っているサリュア。千年聖女と呼ばれ、どんどん増長している愚かな子。私にその本性がバレていないと、“一生懸命お務めに励んでいる私”を演じている姿が、あまりにも滑稽で。それが見たくて、騙されたフリをしてあげている。
顔色を窺い、媚び諂う大人たちには反吐が出るが、それを傅かれていると勘違いしているサリュアが楽しいので、放置している。勘違いされているとも気付かない周りも嗤える。
愚か者は可愛い。そんな私の性癖は、かなり歪んでいると自覚がある。それが見たくて、サリュアをより増長させるよう特別に扱ってあげる。時々サリュア以外に声をかけると、嫉妬のオーラがダダ漏れだ。それでも本性がバレていないと思える頭の弱さが、可愛くて仕方がない。
さあ、もっと見せてくれ。どんなワガママを言うのか。どんな風に人を貶めるのか。どんな稚拙な言い訳をするのか。
足りない頭で私を満たしてくれ。もっともっと、私を満たして。
私をしっかり満たすことが出来たなら、望み通り結婚してあげよう。
王太子妃に相応しくないと、周りは眉を顰めるだろう。けれど千年聖女と持て囃しているのはおまえたち。反対など、出来ようはずもない。そんなおまえたちで、より楽しむことが出来る。
可愛いサリュア。愚かなサリュア。
どこまでも愚かになるといい。もっと私を楽しませてくれ。
そう言えば、もう一つ、楽しみも作っておいたな。
ブルーエイ侯爵家。
いろいろ罪状が出て来そうだ。シラユキなる人物を見つけるために、少しソフィを手伝ってやろう。周辺国にも協力してもらうとするか。
どんな子だろうね。私を楽しませてくれる子だといいなあ。
*つづく*
「ほ、本当ですか?」
震える父親の声に、私は顔を上げる。
国民は生まれてから十八歳の成人を迎えるまで、毎年神殿で聖女の素質を鑑定してもらう義務がある。成人するまでは、どのタイミングで聖女の素質が芽生えるかわからないのだ。成人してからは素質が芽生えることは稀なので、区切りとして成人までは義務としている。ちなみに滅多にいないが、男は聖女ではなく神子と呼ばれる。
私が十二歳の誕生日に神殿を訪れたときだ。
「ええ、確かに。おめでとうございます、クアルント男爵様。サリュア様は今後神殿預かりとなります。追ってご連絡をいたしますね」
神官が微笑む。
「おめでとうございます、サリュア様。近年最年少での聖女候補です。親元を離れるのは淋しいかも知れませんが、少しでもその淋しさが紛れるよう我々も努力いたします。どうか安心してお越しくださいませ」
優しく私の手を包み、その手を恭しく持ち上げて祈る神官に、魅入っていた。まるでお伽噺のお姫様になった気分だった。
そうして迎えられた神殿で、今まで抑圧されていたモノが抑えきれなくなっていった。
質素な食事をしなくていい。朝から晩まで追われるように家のことをしなくていい。うるさくてワガママな弟の面倒を見なくていい。特別扱いされる兄を羨まなくていい。ただ言われた通りに日課を熟すだけ。清めも祈りも禊ぎも大したことはない。食事だって自分で用意する必要もない。
徐々に抑圧されていた部分が解放されていった。
自分は特別。聖女の候補。早い段階で開花した特別な自分。聖女の中でもさらに特別。特別の中の特別。周りは傅き、王子でさえ自分を特別に扱う。すべてが自分の思うがまま。
なんて素敵。
もう、何も我慢なんてしなくていい。
私がいないと困るでしょう。
それならほら、言うことを聞きなさい。
私の言うことを、聞きなさいよ。
*~*~*~*~*
~ウェンリアインside~
上手に隠せていると思っているその愚かさが可愛い。
自分が特別だと思っているサリュア。千年聖女と呼ばれ、どんどん増長している愚かな子。私にその本性がバレていないと、“一生懸命お務めに励んでいる私”を演じている姿が、あまりにも滑稽で。それが見たくて、騙されたフリをしてあげている。
顔色を窺い、媚び諂う大人たちには反吐が出るが、それを傅かれていると勘違いしているサリュアが楽しいので、放置している。勘違いされているとも気付かない周りも嗤える。
愚か者は可愛い。そんな私の性癖は、かなり歪んでいると自覚がある。それが見たくて、サリュアをより増長させるよう特別に扱ってあげる。時々サリュア以外に声をかけると、嫉妬のオーラがダダ漏れだ。それでも本性がバレていないと思える頭の弱さが、可愛くて仕方がない。
さあ、もっと見せてくれ。どんなワガママを言うのか。どんな風に人を貶めるのか。どんな稚拙な言い訳をするのか。
足りない頭で私を満たしてくれ。もっともっと、私を満たして。
私をしっかり満たすことが出来たなら、望み通り結婚してあげよう。
王太子妃に相応しくないと、周りは眉を顰めるだろう。けれど千年聖女と持て囃しているのはおまえたち。反対など、出来ようはずもない。そんなおまえたちで、より楽しむことが出来る。
可愛いサリュア。愚かなサリュア。
どこまでも愚かになるといい。もっと私を楽しませてくれ。
そう言えば、もう一つ、楽しみも作っておいたな。
ブルーエイ侯爵家。
いろいろ罪状が出て来そうだ。シラユキなる人物を見つけるために、少しソフィを手伝ってやろう。周辺国にも協力してもらうとするか。
どんな子だろうね。私を楽しませてくれる子だといいなあ。
*つづく*
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