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はあ?どんな偶然だよ。王子じゃねぇか。魔法だけで私だと判断したのか。それとも私は記憶に残るほどの匂いでも醸していると?レディに対して何て失礼な。まあ、こっちに気付いていないから無視して立ち去ろう。と思ったのに。見ている、だと?え、マジで私何か匂い発してる?思わず二の腕辺りをクンクンしてしまう。
「ねえ影艶。私そんなに臭う?自分じゃ体臭ってわからないよね」
影艶がいい匂いだと言うように、喉を鳴らして鼻先をお腹にゴシゴシしてくれた。
「やっぱりシラユキだ」
勝手に感動の再会が始まりました。綺麗なおめめがうるうるです。お会いしたかったです!と飛び降りて抱きつくのが正解か?いや、過剰はよくない。久しぶり、くらいに手を振ろう。しかしあれから五年くらい経っているのによく覚えていたな。マジで。
「ご無沙汰しております、王子様」
王子がくしゃりと顔を歪ませた。
「うん、本当に、久しぶりだね。無事で、良かった。本当に」
声を詰まらせて泣きそうな顔で笑う王子が、何となく可哀相になった。
「キミが攫われてから、無事を確かめたくて。でも、何の情報もなくて、時だけが、どんどん過ぎて」
王子の頬に、涙が零れた。
「ねえ、シラユキ。下りてきて。キミに、触れたい」
下りたくない。なんで映画のワンシーンのように手を差し伸べて恥ずかしい台詞を宣ってやがるの。怖い。王子怖い。そんな画面の向こうでしか聞いたことない台詞を真顔で言っちゃうとか。イケメンだから許されるとでも思っているのか。客観的に見られるなら許す。寧ろ良き。だが自分に向けられるのは勘弁だ。寒い。
「怖くて下りられません」
「っ、誰か!誰かシラユキを」
「嘘でーす。余裕でーす。でも今はダメでーす。また明日来てくださーい」
「何故だ!」
「後処理がありますー」
「ならば待とう」
引かねぇな、コイツ。空気読めよ。か・え・れ、言うとるんじゃ。完璧笑顔の私もそろそろ限界よ?すん、てなるよ?すん、て。怖いよ?お姉さん、表情消えると怖いよ?
「人体に影響を及ぼす可能性のある魔法を使用しますので、また明日」
「そんなに凄い魔法を!どんな魔法なんだ?」
「ではそこで見ていてください。生きていたら感想を聞かせてくださいね」
しゅん、てなった。王子、やっと邪魔だって気付いたね。そんなんじゃ先が思いやられるよ?曲がりなりにも王族なんだから、もっと空気読めよ、な?
「本当に、明日、会えるのか?」
チッ。二度目は騙されないぞってか。攫われたことにした日に助けようとしてくれたことには感謝しているからな。今も私のために泣いてくれたしなあ。面倒だけど借りは返さないとね。向こうは貸しとも思っていないだろうけど。
「影艶、仕方ないから下りよう。あの王子はね、私が家を出るときに助けようとしてくれた人。詳しいことは後で説明するね。悪い人じゃない」
影艶はわかったと言うように頬を舐めてくれた。そして私を背中に乗せると、軽やかに地面に降り立つ。王子は驚きに目を見開いている。
「あ、後処理、いいのかい?」
「冗談ですよ。王子様をからかっただけです」
影艶から下りると、影艶が相変わらず私を守るように、包み込むように背後に立つ。
「とても、綺麗な生き物だね。木の上で、とても目を惹いたよ」
なるほど。影艶のあまりに美しいその存在は隠せない、ということか。私の体臭じゃなくて安心したよ。
*つづく*
「ねえ影艶。私そんなに臭う?自分じゃ体臭ってわからないよね」
影艶がいい匂いだと言うように、喉を鳴らして鼻先をお腹にゴシゴシしてくれた。
「やっぱりシラユキだ」
勝手に感動の再会が始まりました。綺麗なおめめがうるうるです。お会いしたかったです!と飛び降りて抱きつくのが正解か?いや、過剰はよくない。久しぶり、くらいに手を振ろう。しかしあれから五年くらい経っているのによく覚えていたな。マジで。
「ご無沙汰しております、王子様」
王子がくしゃりと顔を歪ませた。
「うん、本当に、久しぶりだね。無事で、良かった。本当に」
声を詰まらせて泣きそうな顔で笑う王子が、何となく可哀相になった。
「キミが攫われてから、無事を確かめたくて。でも、何の情報もなくて、時だけが、どんどん過ぎて」
王子の頬に、涙が零れた。
「ねえ、シラユキ。下りてきて。キミに、触れたい」
下りたくない。なんで映画のワンシーンのように手を差し伸べて恥ずかしい台詞を宣ってやがるの。怖い。王子怖い。そんな画面の向こうでしか聞いたことない台詞を真顔で言っちゃうとか。イケメンだから許されるとでも思っているのか。客観的に見られるなら許す。寧ろ良き。だが自分に向けられるのは勘弁だ。寒い。
「怖くて下りられません」
「っ、誰か!誰かシラユキを」
「嘘でーす。余裕でーす。でも今はダメでーす。また明日来てくださーい」
「何故だ!」
「後処理がありますー」
「ならば待とう」
引かねぇな、コイツ。空気読めよ。か・え・れ、言うとるんじゃ。完璧笑顔の私もそろそろ限界よ?すん、てなるよ?すん、て。怖いよ?お姉さん、表情消えると怖いよ?
「人体に影響を及ぼす可能性のある魔法を使用しますので、また明日」
「そんなに凄い魔法を!どんな魔法なんだ?」
「ではそこで見ていてください。生きていたら感想を聞かせてくださいね」
しゅん、てなった。王子、やっと邪魔だって気付いたね。そんなんじゃ先が思いやられるよ?曲がりなりにも王族なんだから、もっと空気読めよ、な?
「本当に、明日、会えるのか?」
チッ。二度目は騙されないぞってか。攫われたことにした日に助けようとしてくれたことには感謝しているからな。今も私のために泣いてくれたしなあ。面倒だけど借りは返さないとね。向こうは貸しとも思っていないだろうけど。
「影艶、仕方ないから下りよう。あの王子はね、私が家を出るときに助けようとしてくれた人。詳しいことは後で説明するね。悪い人じゃない」
影艶はわかったと言うように頬を舐めてくれた。そして私を背中に乗せると、軽やかに地面に降り立つ。王子は驚きに目を見開いている。
「あ、後処理、いいのかい?」
「冗談ですよ。王子様をからかっただけです」
影艶から下りると、影艶が相変わらず私を守るように、包み込むように背後に立つ。
「とても、綺麗な生き物だね。木の上で、とても目を惹いたよ」
なるほど。影艶のあまりに美しいその存在は隠せない、ということか。私の体臭じゃなくて安心したよ。
*つづく*
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