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 人助けなんて柄じゃないんだけどなあ。目の前で食い散らかされるの見るのもなあ。
 魔族とちょいちょい交流を持ちながら、魔法の腕を磨いてさらに二年。実験体となる群れの魔物を探していた。
 遠くに剣戟の音や悲鳴に怒声、濃密な魔力の気配に濃密な瘴気の気配。間違いなく誰かが魔物と戦っている。どんな魔物と対峙しているのだろう、どんな魔法を使っているのだろう。そんな好奇心がいけなかった。
 どこぞのお貴族様の馬車を護る人々。然程さほど脅威にはならない猿の魔物。だが、数が異常だった。この魔物は、通常十から二十の群れで行動している。だが、視認できるだけで五十はいる。倒した数や隠れているものを考えれば、相当な数になるはずだ。聖女がいれば、まだ何とかなっただろう。浄化をしたり、結界を張って応援を待つことも出来たはず。
 魔物暴走スタンピードの兆候か、と誰かが叫んでいるが、違うだろ。運が悪かっただけ。いくつかの縄張りが、交錯してしまっている場所だよ、そこ。で、その縄張りを主張し合っているところに通りかかってしまった、と。そんなところに道を作るなと言いたいが、魔物や獣の縄張りなんてよく変わるからね。本当に運が悪いってだけ。
 「影艶かげつや、あの木の上に連れて行って」
 まあ丁度いい。探していた魔物の群れだ。検証を開始しよう。
 背に跨がると、影艶は軽く跳躍をして、あっという間に十五メートルほどの高さに到達。魔物の位置を把握するため、魔物感知の魔道具を取り出す。結界を張り、それを粒子化させて結界内に雨のように降らせる。
 「おお、わかるわかる。影艶、成功だよ」
 粒子化させた魔道具は、自分の魔力と繋がっている。瘴気を感知して魔物が近くにいることを報せる魔道具のため、手に取るように魔物を感知することが出来た。ゆくゆくは浄化魔法を応用して、魔道具なしで感知魔法を完成させたい。瘴気を浄化させるのだ。瘴気を感知していると考えてもいいだろう。腕が鳴るぜ。
 ちなみに結界内に魔物がいても外に弾き出されることはない。結界を通れない、或いは忌避するというだけで、最初から結界内にいる場合、本来の結界の意味を成さない。閉じ込める、という意味では大いに役立つ。
 「じゃあ次だ」
 粒子化した魔道具を集めて手元に戻す。そして浄化魔法を付与し、浄化魔法で再び粒子化させる。同じ魔法の違う使用法。再び雨のように降らせると、魔物たちは弱った。
 「うーん、浄化まではいかないね。あ、ムダに散らばっている分を魔物に集めればいいかも」
 魔物を感知している場所に、粒子を集めた。
 「影艶影艶、天才と褒めていいよ」
 思った通りだ。魔物が浄化されていく。
 もふもふに抱きつき、褒めるが良い、と頭をぐりぐり擦りつけると、影艶の頬が私の頭にすりすりしてくれた。
 人助けも、バレなきゃいいのよははん。実験の結果、助けた形になったってだけだけどな。急に消えた魔物に困惑しておるわ。悩むが良い、ホモサピエンス。
 そう上から目線で悦に浸っていたときだ。
 「シラユキ!」
 馬車から飛び出して名を呼ぶ人物に顔が引きつった。


*つづく*
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