悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

文字の大きさ
33 / 117

33

しおりを挟む
 「ああ、違う。言い間違えた。マリー・・・ではなかった。メリー・・・だったよ。ふふ。本当に知らないんだね」
 さすがにシラユキという名ではないと思っていたようですが。
 「騙したな!」
 「騙される内容ではないよ。その様子だと、メリー嬢は虐待によって死亡、かな」
 子どもの名前を知らないのだ。そう思われても仕方がない。あくまでも私とメリーは別人だという前提で話が進む。そのことに、侯爵は半狂乱状態だ。犯してもいない殺人罪を問われているのだ。無理もない。
 「違う違う違う違う!そこの娘が私たちの子だ!その子が私たちの子どもなんだ!」
 「では証拠は?」
 おお。同じ台詞に首絞められとる。
 「あんなに自分の子ではないと主張していたではないか。その主張通り、確かに似ていない。この子は本当にメリーなのか?」
 親だと認めない、と私の容姿を逆手にとっての反撃。
 「旦那様は信じてくださらないけれど!本当にわたくしと旦那様との子なのです、この子は!」
 不貞を疑われています、と叫んでいるようなものですね、夫人。
 「だから証拠だよ、ブルーエイ侯爵夫人。二人の子である証明をしてくれと言っているんだよ」
 それが出来たら私はこんな扱い受けていなかったよね。
 「そ、んな、無茶な」
 「ではシラユキがあなたたちの娘だというなら、なぜシラユキの好きなものを知らない?」
 兄が侯爵たちに背を向け、こちらに戻りながら言葉を重ねる。
 「なぜ、シラユキは自分の名を知らなかったんだ」
 兄の声に、怒りが滲んでいるように感じる。
 「おまえたちさえ覚えていない名だ。シラユキが知るはずもない」
 兄が私のところへ来た。座る私をそっと抱き締める。
 「なぜ、シラユキは、笑わないんだ」
 ギュッと、抱き締められた腕に力が入る。少し、その腕が震えている。怒ってくれているの。気にしてないから、気にしなくていいんだよ、兄。
 「鑑定義務を怠り、国に損害を与えた。長い間義務を怠ったことは、相当な損害を与えたと判断する」
 イケオジの王様が、素敵ボイスでまとめに入った。今年のみならず、毎年鑑定に連れて行っていなかったことになってる。まあその通りだけど。
 「失踪届義務違反に偽証、公文書偽造まで。子は国の宝。それを大人のくだらん事情でその命を蔑ろにしたことも、相応の罰が下ると覚悟せよ」
 連れて行け、と王様が衛兵に合図をすると、二人は項垂れながら大人しく連れて行かれた。
 おお、殺人罪にはしないか。まあそうだね。でもこんなたくさんの耳目の中、えらい恥かいたね、あの二人。貴族は体裁をめっちゃ気にする生き物だからね。社会的に抹殺されたようなものですな。でも殺人罪だともっとヤバいんだろう?貴族怖あ。
 「さて、シラユキ」
 「はい」
 なーにー、王様ー。帰っていい?
 本当なら私はこっそり侯爵家に復讐するつもりだったんだよ。地味にストレス溜まらせて、全員脱毛してくれれば良かっただけ。頭つるつるになってくれれば良かったの。早く帰って元の大きさに戻った影艶かげつやさんに癒されなくちゃ。触り心地は変わらないが、やはりもふもふ感が足りぬ。
 「つらい目に遭ったな。よく、がんばった」
 「ありがとう、ございます」
 何がつらい目かはわからないが、とりあえず礼を言っておく。兄がなぜか離してくれないので、立ち上がれないしお辞儀も出来ぬ。不敬になるのか、これ。
 「殿下、離してください。殿下が邪m、んん、そこにいらっしゃると、お辞儀のひとつも出来ないのですが」
 「うん、そうだね。よくがんばった、シラユキ。いいこいいこ」
 聞く気ねぇな、コイツ。
 抱き締めたままの兄が、そう言って私の頭にくちづける。
 危うく浄化魔法をかけてキレイにするところだった。聖女に認定されたら、候補より自由がなくなるじゃん。あっぶね。
 影艶さんや、噛みついてもいいがここではダメだよ。闇夜にこっそりね。


*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【受賞&書籍化】先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)

神宮寺 あおい
恋愛
謎解き×恋愛 女神の愛し子は神託の謎を解き明かす。 月の女神に愛された国、フォルトゥーナの第二王女ディアナ。 ある日ディアナは女神の神託により隣国のウィクトル帝国皇帝イーサンの元へ嫁ぐことになった。 そして閉鎖的と言われるくらい国外との交流のないフォルトゥーナからウィクトル帝国へ行ってみれば、イーサンは男爵令嬢のフィリアを溺愛している。 さらにディアナは仮初の皇后であり、いずれ離縁してフィリアを皇后にすると言い出す始末。 味方の少ない中ディアナは女神の神託にそって行動を起こすが、それにより事態は思わぬ方向に転がっていく。 誰が敵で誰が味方なのか。 そして白日の下に晒された事実を前に、ディアナの取った行動はーー。 カクヨムコンテスト10 ファンタジー恋愛部門 特別賞受賞。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...