悪役令嬢 VS 悪役令嬢

らがまふぃん

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 「それで?何があったの」
 「先程申し上げた通りです」
 「ちゃんと話して。開花どころか、誰よりも凄まじい使い手だってバラすよ」
 ホントいい性格してるよ。ハゲればいいのに。
 「今死ねばいいのにって思ったでしょ」
 「そんな過激なこと思っていません。ハゲればいいのにと思ったくらいです」
 「ええ?なにそれ。そんな可愛いこと思うんだ、シラユキは」
 何が可愛いんだ。コイツの頭、良すぎてぶっ壊れているんだろうな。それで性格が歪みに歪んでいる、と。
 「また良からぬことを考えた?」
 「はい。良からぬことしか考えていないのでお気になさらずに」
 兄はお腹を抱えて笑った。そうしていると、年相応に見える。何でもいいが、私に構うな。千年聖女がまたウザ絡みしてくる。アイツも相当こじらせてるけど何なんだ。みんな私に構うなよ。
 ああ、いや、違う。さっさと終わらせるんだ。絡みに絡みまくって、私か千年聖女のどちらが生き残るか。見極めなくては。私が生き残るための道を。探さなくては。影艶と二人、平穏に歩める道を。
 とりあえず先程のやり取りを伝える。そろそろ祈りの時間になる。
 「王太子殿下」
 「ウェル、と呼んでくれと言っているじゃないか」
 ツ、と綺麗な長い指先が、私の顎を軽く持ち上げる。影艶が唸る。
 「影艶、曲がりなりにも王太子だからね。ダメだよ、威嚇しちゃ」
 「本人目の前にして曲がりなりにもって。ホント、いいよシラユキ」
 楽しそうに目を細める兄が本当に鬱陶しい。他の人たちみたいに、きゃっきゃうふふと王子様見て頬を染めていれば興味も持たれないのだろうことはわかっている。けれど、表情筋が死滅しているとわかっている今それをやると、ますます楽しませてしまう。マジでどうしたものか。せめて本音は隠したい。うっかりポロッと口から出てしまうのをなんとかせねば。
 「そろそろ祈りの時間です。ご機嫌よう、王太子殿下」
 お清めの時間が終わる。次の祈りの時間には出るから早よ離せ。
 「ウェル、と呼んで」
 呼ぶまで離す気ねえな。
 「ご機嫌よう、リィン様」
 兄、目が落ちるんじゃないのかな。そんなに開いて大丈夫?
 「え、え、なに、何それ」
 「愛称で呼んで欲しいんですよね」
 ウェンリアインだから、わかりづらい部分で呼んであげた。のだが。
 「シラユキが、考えてくれた。シラユキだけが呼べる愛称。いい。いいよ、シラユキ」
 とろけるような笑顔を向けられた。そんな風に笑えるんだね、兄。そんなこと思っていたら、イケメンがドアップになった。瞬間、私の黄金の左手が炸裂した。兄、横に吹っ飛んだよ。
 「えっと、気持ち悪い虫が、いました」
 兄がよろよろと起き上がって、恨めしそうに私を見る。そんな目で見るな。おまえが悪い。なぜ私にチューしようとした。嬉しいとするんか。変質者か。
 「シラユキは、虫をグーで追い払うんだ」
 「はい。残念ながら」
 一応治癒魔法をかけてやる。近付きたくないし触りたくないので、私は一歩も動かず遠距離治療だ。
 「ねえ、私が虫とかいうわけじゃないよね。まさか」
 「そんなことないのではなかろうかと思われます」
 「そうだよね。私は気持ち悪くないからね」
 「そうですね。大多数の人には。本当にもう行っていいですか。時間に遅れます」
 「納得いかないけれど仕方がないね。送ろう」
 「ありがとうございます。丁重にお断りいたします。ご機嫌よう」
 「シラユキ」
 面倒くさすぎるな。何だよ。思い切り態度に出して振り返る。
 「もう一度。もう一度呼んで、私の愛称」
 「リィィィィィンさまあああぁぁぁ」
 地を這うような声で言ってやったわい。なんでそんな嬉しそうなの。


*つづく*
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