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47 ~サリュアside~
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禁忌とされる魔法。
「魅了、魔法?」
聞いたこともない魔法だった。それは、封印された魔法。心を操る、禁忌の魔法。
神殿の奥深く。見慣れぬ扉が目に入る。
「こんなところに部屋なんてあったかしら」
生意気なあの子に腹が立ちすぎて、気付けばこんなところまで来てしまった。
町の結界の張り直しを条件に、あの子を追い出してやろうと思ったのに。人の命がかかっているのよ。絶対に追い出すと思ったのに!
あの子が来てから、神殿内の空気が変わった。すべてが私に傅いていたのに、どこか少し、よそよそしくなったのだ。開花も出来ていないあの子の周りに人が集まり始めている。あんな生意気な子のどこがいいっていうのよ。特に出戻りの聖女候補たちだ。そいつらは顕著に私を避け、あのガキを慕っている。大方、同じ候補であるにもかかわらず、聖女たちと対等に渡り歩いていることに憧れを抱いているのだろう。そして私には、劣等感から近付けない。何年経っても開花出来ない自分を恥じているのね。だから戻ってこなければ良かったのよ。無能がのうのうとのさばっていることに、イライラする。ウェンリアイン様の慈悲で戻れたって事、理解していないのかしら。さっさと開花させないと、ウェンリアイン様のお顔に泥を塗ることになるってわかっているのかしら。考える力まで低いなんて、手に負えない。本当に目障り。あのガキ諸共どうにか追い出してやりたい。
そうしていつの間にか、神殿の奥深く。
こんなところになんて用はない。そう思って戻ろうとして気付く。
真っ白な扉。白い壁と同化して、注意深く見ていないと、見落としてしまう。だから今まで気付かなかった。気付いたのは、本当に偶然だった。
扉に手をかけると、鍵もかかっていなかったようで、あっさりと開く。暗い部屋の中央三カ所に、ぼんやりと明かりが灯っている。恐る恐る近付くと、明かりが灯っているのではなく、本自体が発光しているとわかる。
「何なの、これ」
ガラスのケースに収められた本は、向かって右と中央のケースは開かなかったが、左のケースはなぜか開かれた。本は、自分を取れ、とまるで意志を持っているかのように明滅している。恐る恐る手を伸ばすと、触れるか触れないか、というところで、本自らが手に飛び込んできた。
「本当に、一体何なの」
手に収められた、黒革の表紙が美しい本。
恐れもあったが、好奇心の方が勝る。
ペラリ。
表紙を捲ると、魅了魔法、とタイトルがあった。
「魅了、魔法?」
ペラリ、ペラリ。
そうよ、そうよね。やっぱり私は特別。だから、運命がこうして導くのよ。
これがあれば、あの神獣を私のモノに出来る。
あのクソ生意気なガキが、泣き喚く姿が見られる。泣いて、赦してくれと、無様に縋り付く姿が見える。
「赦すわけないじゃない。散々私を、千年聖女であるこの私をコケにしてきたのよ」
精々私のご機嫌取りに勤しみなさい。この私を見下してきた分、しっかり恥をかかせてあげるわ。神獣をちらつかせて、絶対に叶わない願いに縋り続けさせてあげる。神獣は私のものよ。あんたは、二度と神獣に触れない。ただ遠くから、悔しそうに指を咥えて見ていればいいわ。
「ああ、楽しみ。あんたの無様な姿が早く見たいわ、シラユキ」
*つづく*
「魅了、魔法?」
聞いたこともない魔法だった。それは、封印された魔法。心を操る、禁忌の魔法。
神殿の奥深く。見慣れぬ扉が目に入る。
「こんなところに部屋なんてあったかしら」
生意気なあの子に腹が立ちすぎて、気付けばこんなところまで来てしまった。
町の結界の張り直しを条件に、あの子を追い出してやろうと思ったのに。人の命がかかっているのよ。絶対に追い出すと思ったのに!
あの子が来てから、神殿内の空気が変わった。すべてが私に傅いていたのに、どこか少し、よそよそしくなったのだ。開花も出来ていないあの子の周りに人が集まり始めている。あんな生意気な子のどこがいいっていうのよ。特に出戻りの聖女候補たちだ。そいつらは顕著に私を避け、あのガキを慕っている。大方、同じ候補であるにもかかわらず、聖女たちと対等に渡り歩いていることに憧れを抱いているのだろう。そして私には、劣等感から近付けない。何年経っても開花出来ない自分を恥じているのね。だから戻ってこなければ良かったのよ。無能がのうのうとのさばっていることに、イライラする。ウェンリアイン様の慈悲で戻れたって事、理解していないのかしら。さっさと開花させないと、ウェンリアイン様のお顔に泥を塗ることになるってわかっているのかしら。考える力まで低いなんて、手に負えない。本当に目障り。あのガキ諸共どうにか追い出してやりたい。
そうしていつの間にか、神殿の奥深く。
こんなところになんて用はない。そう思って戻ろうとして気付く。
真っ白な扉。白い壁と同化して、注意深く見ていないと、見落としてしまう。だから今まで気付かなかった。気付いたのは、本当に偶然だった。
扉に手をかけると、鍵もかかっていなかったようで、あっさりと開く。暗い部屋の中央三カ所に、ぼんやりと明かりが灯っている。恐る恐る近付くと、明かりが灯っているのではなく、本自体が発光しているとわかる。
「何なの、これ」
ガラスのケースに収められた本は、向かって右と中央のケースは開かなかったが、左のケースはなぜか開かれた。本は、自分を取れ、とまるで意志を持っているかのように明滅している。恐る恐る手を伸ばすと、触れるか触れないか、というところで、本自らが手に飛び込んできた。
「本当に、一体何なの」
手に収められた、黒革の表紙が美しい本。
恐れもあったが、好奇心の方が勝る。
ペラリ。
表紙を捲ると、魅了魔法、とタイトルがあった。
「魅了、魔法?」
ペラリ、ペラリ。
そうよ、そうよね。やっぱり私は特別。だから、運命がこうして導くのよ。
これがあれば、あの神獣を私のモノに出来る。
あのクソ生意気なガキが、泣き喚く姿が見られる。泣いて、赦してくれと、無様に縋り付く姿が見える。
「赦すわけないじゃない。散々私を、千年聖女であるこの私をコケにしてきたのよ」
精々私のご機嫌取りに勤しみなさい。この私を見下してきた分、しっかり恥をかかせてあげるわ。神獣をちらつかせて、絶対に叶わない願いに縋り続けさせてあげる。神獣は私のものよ。あんたは、二度と神獣に触れない。ただ遠くから、悔しそうに指を咥えて見ていればいいわ。
「ああ、楽しみ。あんたの無様な姿が早く見たいわ、シラユキ」
*つづく*
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