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 兄から思いがけない自由時間をもらってから六日が経った。
 祈りの間のお清めをしているときに、それは起こった。
 日課のお清めやらお祈りやらの時間は、影艶かげつやはいつも大人しく邪魔にならないところで伏せて待っている
 今日は兄弟揃って神殿に来ている。暇なのかな。
 「見ているだけでしたらお暇でしょう。どうぞ神官長様と何か話しに行くなり帰るなり手伝うなりされたら如何でしょうか」
 「シ、シラユキさんっ、殿下に何てことをっ」
 側で聞いていた聖女候補の人が慌てて口を挟む。
 「ああ、いいよ。シラユキはこういうものだから、気にしないで」
 兄の言葉に、候補の人は、え?と私を見る。
 「お忙しいお二人のお時間が気になって申し上げただけですが、不敬でしたね。もう少し時間の使い方を考えた方がよろしいですよ」
 「か、変わっていない、というより、余計に悪くなっているわ、シラユキさんっ」
 ここ何年か、聖女候補が神殿を去る傾向にあったらしい。開花出来ないことに自信喪失してとのことのようだが、果たして果たして。そんな候補たちを、先日呼び戻したようだ。候補が集まれば、周りが聖女ばかりではないことに安心出来るだろうと。戻って来た候補たちは、聖女たちとあまり関わりたがらない。千年聖女には近付きもしない。何となく、何があったかわかる。私の予想を裏付けるように、千年聖女に忖度そんたくしない私の物言いが気に入っているのか、戻って来た候補たちは、私を妙にキラキラした目で見つめてくる。よせやい。照れるじゃろう。
 そんな触れ合いも日常の一部になりつつあるこの頃。
 ここが神殿であることに、気が緩んでいたのだろう。さらに今は千年聖女ご執心の王太子がいる。もっと言えば、まだ遠征先から戻って来ていないと思っていた。戻りの予定日より一日早い。
 完全に、油断していた。
 「さあ、私のものになりなさい!」
 「ギャウウウッ!」
 影艶の苦悶の声に驚いてそちらを見る。
 「影艶っ?!」
 側には千年聖女。なにを、しているんだ、あのクズサリュアは!
 あの女、いつ来た?祈りの間は扉のない解放された空間。油断故に、クズの気配に気付かなかった。
 「影艶っ」
 のたうち回る影艶に駆け寄る。何かが纏わり付いている気配がする。影艶の魔法が解け、大きさが元に戻る。巨大な体に、周りが驚いて叫ぶ。影艶の体があちこちにぶつかって、物や柱を破壊する。私は影艶に纏わり付く気配をよく見た。魔族の王、アールグレイが魔力を見ていたものを、私仕様で使えるようにした。使用された魔法を見極める。
 すぐに、助けるから。
 「やってくれたな」
 思い切り舌打ちをする。魅了魔法だ。魔族の国で、禁忌魔法について本で触れた。その内のひとつ、魅了魔法。こういう魔法がある、という紹介だけで、もちろん具体的な内容は禁忌のため、許された者の目にしか触れることはない。私なりの解釈でいくと、聖女にしか使えないはずだ。結界魔法の派生と言うか応用と言うべきか。だから、結界の解除魔法をぶつけてやればいい。もちろんただの解除魔法ではダメだ。見極めなくては。
 影艶がこんなにも苦しんでいるのは、抗っているから。
 「ごめん、ごめんね、影艶」
 油断をしなければ。
 私があんなことを言わなければ。


*つづく*
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