美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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夢幻の住人編

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 「おまえのような悪魔に話すことなどない。天使に会わせるなら話してやらなくもない」
 夜会から三日後の昼、ようやく現れたエリアストに、男はそう言った。
 黒い扉の向こう側。ビゲッシュ伯爵家の四人が、壁から延びた鎖に四肢を拘束されていた。
 部屋は色々なものが置かれている。だが、雑然としているわけではない。それらは、その用途に相応しくそこにある。
 見る者が見れば、それらが何であるかすぐにわかるだろう。
 そう、ディレイガルド家専用、拷問部屋だ。
 「貴様次第だ」
 エリアストは感情のない声で男にそう言った。
 「僕と天使の出会いの話を、おまえのような悪魔に話すのはもったいないけど、天使と会うためだ。仕方がない。話してあげるよ」


 伯爵家の次男に生まれ、いつも兄と比較されてきた。パーティーや夜会に出ても、いつも嗤われ虐められ。おまえらのようなくだらない連中と口をきくことももったいないから話をしないだけだ。陰気だ、社交の出来ないヤツだと嗤われる謂われなどない。バカみたいに女の話や狩りの話ばかり。もっと建設的な話でもしてみろよ。そんなくだらない話しか出来ないくせに、僕をバカにしやがって。見てろよ。今におまえたちは指を咥えて羨ましがるようになるんだからな。
 ああ、今日の夜会も面倒だ。またくだらない連中に絡まれるんだ。
 そう思っていたら。
 僕をくだらない連中から隠すように、アリス様がアリス様の取り巻きを連れて僕の前に立ってくれたんだ。
 取り巻きたちと会話をするフリをして、僕に話しかけてきてくれていたんだ。
 大丈夫ですよ、素敵ですね、素晴らしいですわ。
 そう、何度も言ってくれた。
 とても飲みやすいですわね、こちらおいしいですよ、苦手なものではありませんか。
 そうやって自分の好みを教えつつ、僕の好みにまで配慮してくれて。そうしながら、ずっと僕を嫌な連中から守ってくれていたんだ。


 「さあ、話したぞ。どうだ。これでわかっただろう?天使の心がどこにあるのか」
 勝ち誇ったように笑みを浮かべる。伯爵家の三人はもう諦めている。自分たちの命を。
 「早く天使を連れて来いよ」
 エリアストは側に控える護衛に目配せをすると、護衛は頭を下げた。
 「おい!聞いているのか!話せば会わせると言っただろう!」
 エリアストは何も言わず去って行った。
 「ふざけるな!騙したな、この悪魔!天使を解放しろ!僕の元に連れて来い!おい!おい!」
 「黙れ」
 残っていた護衛が静かに口を開いた。
 「あるじは騙してなどいない」
 「はっ。悪魔の使い魔が。話せば天使に会わせると言ったのに」
 「言っていない」
 「天使に会わせるなら話すと言ったら、貴様次第だと言ったではないか!素直に話せば会わせる、と同義だ!」
 「おまえの言葉への返答ではない」
 意味がわからず男は眉をひそめた。
 「おまえの態度次第で今後の対応が変わる、と主はおまえに親切に忠告してやったのだ」
 おまえと会話をしたのではない、と護衛は言う。
 「はあっ?!騙したな!」
 尚も喚き散らす男に、護衛はひとつ溜め息をくと、その喉を締め上げた。
 「だから違うと言っている。おまえが勝手に勘違いをしたのだ」
 男が呻き声を上げるが、その手の力は緩むどころかますます強くなる。
 「主が主の奥方様に、おまえのようなヤツを視界に入れさせるはずがないだろう。同じ空間の空気すら吸わせるはずがない」
 男の顔は赤くなり、苦しさに喘ぐが、手が外れることはない。
 「主が手を下す価値すらない。その証拠にほら」
 男の口から泡が出始め、眼球は裏返る。伯爵たちは目を瞑る。その時を見ないように。
 「おまえの処理を護衛わたしに任せたのだ」
 ゴギン
 男の喉は潰れ、首の骨が折れた。
 男の目が開くことは、二度とない。



*最終話につづく*
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