美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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夢幻の住人編

最終話

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 「赦したわけではない、チャンスをやる、とのことです」
 ビゲッシュ家の三人は鎖に四肢を繋がれたまま、そう言った男を凝視した。
 話しながら男は、次男の首を握り潰した手に嵌めていた手袋を裏返して脱ぐと、ズボンのポケットにしまう。ディレイガルド家の護衛が被るヘルムで表情は見えないが、人を殺めたというのに、新しい手袋を嵌めている姿からは、感情の起伏が微塵も感じられない。護衛という職業柄、命への認識は一般人とは隔たりがあるだろう。それでも、これほどまでに淡々としていられるものだろうか。何事もなかったかのように、丁寧な口調で話すことにもまた、ビゲッシュ家は恐れた。
 その護衛が伯爵に近付くと、後ろに控えていた二人の護衛もそれぞれ、伯爵夫人と嫡男へと歩を進める。
 覚悟を決めていたとはいえ、やはり目の前で命を、それも、あんなやり方で摘まれるのを見ると、恐怖で体が震えてしまう。
 「チャンスを、とあるじからのご命令です。ご安心を」
 震える伯爵たちにそう伝えながら、護衛たちは四肢を拘束する鎖を外した。
 三日振りに自由となった手足は、体が固まってしまい、かなり痛んだ。三人は、痛む体を堪えひざまずくと、護衛から伝えられるであろうエリアストの沙汰を待つ。
 「男爵位へと降格、血を繋ぐことを許可しない。もし既に子どもがいるなら、子どもの婚姻は認めない。これを破るようであれば、一族郎党根絶やしにする。以上が主からの伝言です。理解をしましたら、三人ともここにサインを」
 一切の質問も拒否も認めない。
 三人を生かしているのは、害にならないと判断したため。喚き散らすような愚か者であったなら、命はなかった。
 「はい、確認いたしました。それでは最後です」
 三人がサインを終えると、一人の護衛が伯爵を後ろ手に固定する。もう一人が左の鎖骨少し下までを晒すように、服をはだけさせる。最後の一人が、いつの間にか火の入っていた暖炉から、鉄の棒を取り出した。
 「己の罪を、忘れぬように」
 「ぐあああああああああっ!!」
 熱せられた鉄の塊が、晒された皮膚を焼く。焼きごてだった。
 「罪の証を見る度に、己を戒めなさい」
 夫人と嫡男も同じ場所に、罪の証しるしを刻まれた。


*~*~*~*~*


 夢を見た。

 音のない世界。
 ひどく穏やかな空気が流れている。
 草原にふたり、並んで座り、ゆっくり流れる雲を見つめている。
 エリアストにもたれかけていた頭をアリスが起こすと、エリアストがアリスを見つめる。アリスもエリアストを見つめる。
 “エル様、幸せですね”
 そう、アリスの口が動いた。
 “ああ、とても、とても幸せだ、エルシィ”
 エリアストもそう答えると、お互いニッコリと笑う。そうしてまたアリスは、エリアストに頭を凭れかけた。

 そこで夢から覚める。
 目を開き、真っ先に映ったのは、安心しきった顔で眠るアリス。それを見て、信じられないほどの幸せが胸を、全身を満たす。
 幸せ故か、かつて見た夢を思い出した。

 名前を知らない、小さな白い花が、時折風に揺れながら一面に咲いている。空は、見たこともないほどたくさんの星が瞬いていた。体は羽が生えたように軽く、どこまでも飛んでいけそうだ。
 とてもとても、夢のように美しい場所。
 それなのに。
 なぜ、あなたはいないのだろう。

 アリスが初めてディレイガルド邸を訪れた日。
 アリスが欲しくて、絶対に手放したくなくて、とんでもない暴挙に出たあの日。
 腕にアリスを抱えたまま、一瞬眠りに落ちたときに見た夢。
 そんな、ひどく、もの悲しい夢を、思い出した。
 あんな夢は、見たくない。
 堪らなく愛しい、愛しすぎる最愛を、より抱き締める。

 今見ていた夢を、夢で終わらせない。



*夢幻の住人編おしまい*

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
話の通じない人間に、エル様は時間を使いません。
使えそうな人間は残すこともあります。一作目で伯爵に降格された元公爵家も、そういったわけで残されています。一族郎党根絶やしにするかどうかは、その人の有用性に左右されるという感じです。
これにて夢幻の住人編はおしまいです。
番外編を挟んで、次章レイガード新王即位編を、引き続きお楽しみください。
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