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15.願いの代償
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神に見放された世界は、緩やかに滅んでいく。
そうして滅んだ世界は、再び神の手によって新しい世界に創り替えられる。
ボクが初めて創り上げた、この世界。
大切な大切な魂と、共に見守っていこうと考えていた時。
大切な大切な魂が、その世界に堕ちた。
大切な大切な魂の彼女が、願った。
神様。
もし本当に神様がいらっしゃるなら。
もう、このまま、目を開かせないでくださいませ。
だから、彼女が願った瞬間、ボクはその世界の時を止めた。
ボクの願いを叶えてくれる人を探すために。
見つけた女性は、背筋をピンと伸ばして佇んでいた。
声をかけ、同時に女性の過去を覗く。
見つけた。
少しの嘘を織り交ぜて、彼女の魂と女性の魂を入れ替えるために、女性をこの場では本来あるべき魂の姿にする。
そしてボクも世界に戻ろうとした直後。
「あの方の、姫様のお側に」
男が懇願してきた。女性が処刑され、その後、男も処刑されたという。男は、女性の世界で宰相として生きてきた者だという。そして、女性を崇拝してやまない筆頭だったようだ。女性を追いかけるようにして死んだ男は、この世界で永遠に女性に仕えようと思っていたのに、タッチの差で再会が叶わなかったことを酷く嘆いていた。
ならばと、女性が少しでも過ごしやすくなるようにと、男をプレゼントすることにした。女性と同等の魔法の力を持たせて。
公爵家の使用人なら、女性の側にいられるだろう。女性の部屋に向かっている執事に、男の魂をねじ込んだ。魂の入れ替えは、力技だと体の持ち主の魂は消滅する恐れがあるけれど、まあどうでもいい。
せめてもの、ボクからの感謝の印。
そしてボクの手には、彼女の美しい魂。
「おかえり」
やっと、生を諦めた彼女。
「やっと、ボクの元へ戻って来てくれた」
美しい魂に、くちづける。
自分が生みだした、最高傑作の魂。
ずっと一緒にいるために、その魂を入れる器を創っていたのに。
攫われ、世界に堕とされた。
「世界に手出し出来ないなんて、あるわけないのにね」
ただ、ボクは基本干渉せず、自然に任せる。
けれど、神の大切な大切な魂は別。
肉体から魂を引き剥がすことは、どれだけ慎重におこなっても傷が付く恐れがある。それは絶対避けたい。だから、手を出せなかった。肉体という枷を放棄しようとすれば、魂が枷から離れようとする。だからその時を待った。魂を傷つけずに済む方法だから。
死を願えば、すぐにでも攫う。
ボクを絶望させたかっただろう悪魔は、ボクの彼女を世界から爪弾きにされるようにした。
腹立たしいが、その制約があったことは良かった。
「甘いねえ」
おかげで、誰にも奪われず、穢されずに済んだから。
死を、願いやすい状況だったから。
「だからといって、大切な大切な魂を蔑ろにし続けた者たちを赦しはしないよ」
そのために、メルナーゼの肉体を生かし続け、愚か者たちを絶望させるための魂を探し続けたのだから。
「その元凶に、安らぎなんてあるはずもないだろう?」
チラリ、ひとつの扉に視線を向ける。
捕らえた悪魔が、決して死ぬことのない永遠の責め苦を受け続けている狂った世界が広がる部屋。
扉の向こうの惨劇と隔絶された、美しいだけのこの部屋。
もう一度、美しい魂にくちづける。
「さあ、本当の体にお還り、セリュレエン」
メルナーゼの魂に名付けていた、本来の名を愛おしく口にする。
セリュレエンの魂を入れる器は、祝福されたようにキラキラと光が降り注いでおり、美しい魂がそっと本来の姿へと還る。
「ボク以外、セリュレエンの名を絶対に呼んで欲しくなかったから、一文字も被らない名前をつけさせたんだ」
魂が器に馴染むまでの時間は、奪われた十八年に比べたらほんの瞬きの時間ですらない。けれど、その時間さえ創造主には永遠のようで。
「ああ、セリュレエン、ヤトラスに僅かでも好意を寄せてしまったらどうしようかと気が気じゃなかったんだよ」
誰かに好意を持ったものなんていらない。
すべて一からやり直しになるところだった。
壊れ物を扱うように、ひどく慎重な手つきでその頬を撫でる。
「もう離さないよ、セリュレエン」
永遠に、一緒。
「感謝するよ、メディテラーネ」
ボクの願いはただひとつ。
セリュレエンをこの手に取り戻すこと。
その代償に、世界をあげるよ、メディテラーネ。
*おしまい*
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
神様の事情に巻き込まれた人々の話でした。
世界と引き替えにするほどセリュレエンに執着しているのに、少しでも誰かに好意を持っていたらいらなくなっていたなんて、愛の振り幅が大きいというか何というか。無慈悲な神様を、そんな形で表現してみました。
この作品のタイトルは神様メインではありますが、他の人たちもそれぞれに何かしら願いまたは望みを持っており、その代償が何なのか。その辺りも見ていただけていると嬉しいです。
本編はこれにて終了ですが、この後、気まぐれにいくつか番外編をお届け出来ればと思います。少々疑問に思うことが解決するかもしれません。引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
そうして滅んだ世界は、再び神の手によって新しい世界に創り替えられる。
ボクが初めて創り上げた、この世界。
大切な大切な魂と、共に見守っていこうと考えていた時。
大切な大切な魂が、その世界に堕ちた。
大切な大切な魂の彼女が、願った。
神様。
もし本当に神様がいらっしゃるなら。
もう、このまま、目を開かせないでくださいませ。
だから、彼女が願った瞬間、ボクはその世界の時を止めた。
ボクの願いを叶えてくれる人を探すために。
見つけた女性は、背筋をピンと伸ばして佇んでいた。
声をかけ、同時に女性の過去を覗く。
見つけた。
少しの嘘を織り交ぜて、彼女の魂と女性の魂を入れ替えるために、女性をこの場では本来あるべき魂の姿にする。
そしてボクも世界に戻ろうとした直後。
「あの方の、姫様のお側に」
男が懇願してきた。女性が処刑され、その後、男も処刑されたという。男は、女性の世界で宰相として生きてきた者だという。そして、女性を崇拝してやまない筆頭だったようだ。女性を追いかけるようにして死んだ男は、この世界で永遠に女性に仕えようと思っていたのに、タッチの差で再会が叶わなかったことを酷く嘆いていた。
ならばと、女性が少しでも過ごしやすくなるようにと、男をプレゼントすることにした。女性と同等の魔法の力を持たせて。
公爵家の使用人なら、女性の側にいられるだろう。女性の部屋に向かっている執事に、男の魂をねじ込んだ。魂の入れ替えは、力技だと体の持ち主の魂は消滅する恐れがあるけれど、まあどうでもいい。
せめてもの、ボクからの感謝の印。
そしてボクの手には、彼女の美しい魂。
「おかえり」
やっと、生を諦めた彼女。
「やっと、ボクの元へ戻って来てくれた」
美しい魂に、くちづける。
自分が生みだした、最高傑作の魂。
ずっと一緒にいるために、その魂を入れる器を創っていたのに。
攫われ、世界に堕とされた。
「世界に手出し出来ないなんて、あるわけないのにね」
ただ、ボクは基本干渉せず、自然に任せる。
けれど、神の大切な大切な魂は別。
肉体から魂を引き剥がすことは、どれだけ慎重におこなっても傷が付く恐れがある。それは絶対避けたい。だから、手を出せなかった。肉体という枷を放棄しようとすれば、魂が枷から離れようとする。だからその時を待った。魂を傷つけずに済む方法だから。
死を願えば、すぐにでも攫う。
ボクを絶望させたかっただろう悪魔は、ボクの彼女を世界から爪弾きにされるようにした。
腹立たしいが、その制約があったことは良かった。
「甘いねえ」
おかげで、誰にも奪われず、穢されずに済んだから。
死を、願いやすい状況だったから。
「だからといって、大切な大切な魂を蔑ろにし続けた者たちを赦しはしないよ」
そのために、メルナーゼの肉体を生かし続け、愚か者たちを絶望させるための魂を探し続けたのだから。
「その元凶に、安らぎなんてあるはずもないだろう?」
チラリ、ひとつの扉に視線を向ける。
捕らえた悪魔が、決して死ぬことのない永遠の責め苦を受け続けている狂った世界が広がる部屋。
扉の向こうの惨劇と隔絶された、美しいだけのこの部屋。
もう一度、美しい魂にくちづける。
「さあ、本当の体にお還り、セリュレエン」
メルナーゼの魂に名付けていた、本来の名を愛おしく口にする。
セリュレエンの魂を入れる器は、祝福されたようにキラキラと光が降り注いでおり、美しい魂がそっと本来の姿へと還る。
「ボク以外、セリュレエンの名を絶対に呼んで欲しくなかったから、一文字も被らない名前をつけさせたんだ」
魂が器に馴染むまでの時間は、奪われた十八年に比べたらほんの瞬きの時間ですらない。けれど、その時間さえ創造主には永遠のようで。
「ああ、セリュレエン、ヤトラスに僅かでも好意を寄せてしまったらどうしようかと気が気じゃなかったんだよ」
誰かに好意を持ったものなんていらない。
すべて一からやり直しになるところだった。
壊れ物を扱うように、ひどく慎重な手つきでその頬を撫でる。
「もう離さないよ、セリュレエン」
永遠に、一緒。
「感謝するよ、メディテラーネ」
ボクの願いはただひとつ。
セリュレエンをこの手に取り戻すこと。
その代償に、世界をあげるよ、メディテラーネ。
*おしまい*
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
神様の事情に巻き込まれた人々の話でした。
世界と引き替えにするほどセリュレエンに執着しているのに、少しでも誰かに好意を持っていたらいらなくなっていたなんて、愛の振り幅が大きいというか何というか。無慈悲な神様を、そんな形で表現してみました。
この作品のタイトルは神様メインではありますが、他の人たちもそれぞれに何かしら願いまたは望みを持っており、その代償が何なのか。その辺りも見ていただけていると嬉しいです。
本編はこれにて終了ですが、この後、気まぐれにいくつか番外編をお届け出来ればと思います。少々疑問に思うことが解決するかもしれません。引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
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