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4 想い
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グラスライラ国には、三人の王子と二人の王女がいる。
王太子と王太子妃、それから第一王女は、優和に優しかった。第二王子と第二王女は、優和に冷たい。自然と優和は王太子と王太子妃、第一王女に懐く。
「おーたいし、でんか、こんにちは」
中庭で花を摘む優和を見つけた王太子フォスクロスが声をかけると、優和はにこにこと挨拶をする。最近やっと、あやしいけれど、王太子殿下と言えるようになった。
「花を摘んでいたのか」
穏やかにそう言うと、優和は満面の笑顔で頷く。
「はい。王様に、あげようと思います。王様に、喜んで欲しくて」
フォスクロスは優和の頭を撫でる。
「そうだね。きっと喜んでくれるよ」
王様と言っても、国王陛下のことではないことはわかっている。優和に思うところがあってわざと第三王子をそう呼んでいたら大変なことだ。だが、誰もが知っている。彼女は何もわからない。見た目こそもう大人ではあるが、彼女の知能は幼い子ども。何もわからない彼女は、幸せそうに笑う。その無垢な笑顔に、フォスクロスたちは癒されるのだ。
「いつもフォスガイアに花を贈っているのはどうしてなの?」
優和は嬉しそうな顔をした。
「あの、王様、笑いました。優和がお花をあげたら、王様、笑ったんです」
いつの話をしているのだろう。ずっと受け取ってもらえていないことをフォスクロスは知っている。出会った頃のことではないだろうか。そんな昔の記憶で、彼女は懸命に花を摘んでいるのか。
「王様、笑っていません。だから、優和は、お花をあげようと思いました」
無垢な笑顔に、フォスクロスは泣きたくなった。
「フォスガイア、もっと彼女に優しくしてやれ。見ていてこちらが辛くなる」
フォスクロスの言葉に、フォスガイアは明らかに不機嫌になった。
「何がおまえをそうさせる?そんなに気に入らないなら追い出せばいいだろう」
それが出来たらとっくにやっている。ギリ、とフォスガイアは拳を握る。
「私たちのことに口出しは無用です。兄上、用件がそれだけでしたら私は失礼します」
「おまえは何を抱えているんだ。兄にも話せぬことか」
フォスガイアはグッと押し黙る。
「話せぬなら無理には聞かん。だが、おまえの態度を見て、周りが彼女をどう扱っているかわからないわけではないだろう」
フォスガイアは拗ねた子どものようにそっぽを向く。
「彼女に何かある度に粛正するくらいなら、優しくしてやればいいではないか」
粛正のことはバレているらしい。だが、フォスガイアは頷けない。
「優和が、優和自ら、私から離れていかなくては意味がありません」
フォスクロスは黙って聞いた。
「あの、健気で献身的な、無垢な存在は、突き放しても突き放しても慕ってくる。だから、私に愛想を尽かして、自らの足で、出て行かなくては、ならないのです」
俯き、何かに耐えるように震えるフォスガイアに、フォスクロスは息を吐いた。
「そうか。何がおまえをそうさせるかはわからん。だが、私の忠告を聞いて欲しい」
突き放しても突き放しても慕ってくると、わかっている時点でわかっているはずだ。
「あの子は、何があってもおまえから離れることはないだろう」
だから、おまえも我慢などせず愛してやればいい、そう言外に伝える。言わない言葉もしっかりフォスガイアには伝わっているが、どうしても頷けない。優和が幸せになるために、自分はどう考えても邪魔なのだ。早くそれに気付いて、手の届かないところへ行って欲しい。
「ご忠告、感謝いたします」
*つづく*
王太子と王太子妃、それから第一王女は、優和に優しかった。第二王子と第二王女は、優和に冷たい。自然と優和は王太子と王太子妃、第一王女に懐く。
「おーたいし、でんか、こんにちは」
中庭で花を摘む優和を見つけた王太子フォスクロスが声をかけると、優和はにこにこと挨拶をする。最近やっと、あやしいけれど、王太子殿下と言えるようになった。
「花を摘んでいたのか」
穏やかにそう言うと、優和は満面の笑顔で頷く。
「はい。王様に、あげようと思います。王様に、喜んで欲しくて」
フォスクロスは優和の頭を撫でる。
「そうだね。きっと喜んでくれるよ」
王様と言っても、国王陛下のことではないことはわかっている。優和に思うところがあってわざと第三王子をそう呼んでいたら大変なことだ。だが、誰もが知っている。彼女は何もわからない。見た目こそもう大人ではあるが、彼女の知能は幼い子ども。何もわからない彼女は、幸せそうに笑う。その無垢な笑顔に、フォスクロスたちは癒されるのだ。
「いつもフォスガイアに花を贈っているのはどうしてなの?」
優和は嬉しそうな顔をした。
「あの、王様、笑いました。優和がお花をあげたら、王様、笑ったんです」
いつの話をしているのだろう。ずっと受け取ってもらえていないことをフォスクロスは知っている。出会った頃のことではないだろうか。そんな昔の記憶で、彼女は懸命に花を摘んでいるのか。
「王様、笑っていません。だから、優和は、お花をあげようと思いました」
無垢な笑顔に、フォスクロスは泣きたくなった。
「フォスガイア、もっと彼女に優しくしてやれ。見ていてこちらが辛くなる」
フォスクロスの言葉に、フォスガイアは明らかに不機嫌になった。
「何がおまえをそうさせる?そんなに気に入らないなら追い出せばいいだろう」
それが出来たらとっくにやっている。ギリ、とフォスガイアは拳を握る。
「私たちのことに口出しは無用です。兄上、用件がそれだけでしたら私は失礼します」
「おまえは何を抱えているんだ。兄にも話せぬことか」
フォスガイアはグッと押し黙る。
「話せぬなら無理には聞かん。だが、おまえの態度を見て、周りが彼女をどう扱っているかわからないわけではないだろう」
フォスガイアは拗ねた子どものようにそっぽを向く。
「彼女に何かある度に粛正するくらいなら、優しくしてやればいいではないか」
粛正のことはバレているらしい。だが、フォスガイアは頷けない。
「優和が、優和自ら、私から離れていかなくては意味がありません」
フォスクロスは黙って聞いた。
「あの、健気で献身的な、無垢な存在は、突き放しても突き放しても慕ってくる。だから、私に愛想を尽かして、自らの足で、出て行かなくては、ならないのです」
俯き、何かに耐えるように震えるフォスガイアに、フォスクロスは息を吐いた。
「そうか。何がおまえをそうさせるかはわからん。だが、私の忠告を聞いて欲しい」
突き放しても突き放しても慕ってくると、わかっている時点でわかっているはずだ。
「あの子は、何があってもおまえから離れることはないだろう」
だから、おまえも我慢などせず愛してやればいい、そう言外に伝える。言わない言葉もしっかりフォスガイアには伝わっているが、どうしても頷けない。優和が幸せになるために、自分はどう考えても邪魔なのだ。早くそれに気付いて、手の届かないところへ行って欲しい。
「ご忠告、感謝いたします」
*つづく*
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