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暴かれた秘密~誤解を解くのはお早めに~
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今年の王太子の生誕祭は、驚きの連続だ。
呪われた伯爵の同伴者に始まり、その美貌が明らかにされ、王族が入場すると、数十年に一度しか姿を見せない東の森の魔女が祝福に訪れたのだ。吉兆だと、王太子の御世も安泰だと大喜びする一方。なんと西の森の魔女も、その姿を現わしたのだ。これは何としたことかと、祝福ムードが一変してしまう。
東の森の魔女は、空のように青く透き通った長い髪を靡かせ、涼しげな切れ長の金の瞳をした、真っ白なローブに身を包んだ美しい魔女だった。西の森の魔女は、淡いピンク色の輝く髪を丁寧にハーフアップに纏め、大きく蕩けそうな金の目をした、真っ青なローブを纏ったこれまた美しい魔女だった。
「な、なにを、しに、来たのですか」
王が恐る恐る西の魔女に声をかける。
「え?待って。なんでこんなに怖がられつつ嫌がられているの??」
「西の森の魔女様のお姿を見なくなって、久しいものですから、驚いただけです。決して嫌がっているなど、そのようなことは、ありません」
王太子が慌てて取り繕う。
「左様です左様です。さ、さあ、どうぞ存分に楽しんでいってください。おい、酒だ!酒を振る舞え!西の森の魔女様を精一杯おもてなしするんだ!」
呪いをかけられたら堪らない。けれど好意を持たれても大変だ。大臣たちも必死で西の森の魔女のご機嫌を取り過ぎないように取る。その様子に、西の森の魔女が眉を寄せて首を傾げる。
「え、え、なんで?どういうこと?北の魔女の方がよっぽど人前に姿現わしてなかったのに、なんで私は忘れられてるのよ」
北の森の魔女。
聞いたことのない魔女の存在に、会場中がざわめく。そしてどこに、その魔女がいるというのだろう。
「え、嘘。知らないの?」
東と西の魔女がキョトンとした。
「そもそも私、西じゃないわ。私は南の魔女。そう言えば西の魔女の姿、五百年程見てないわね」
また、知らない魔女。西の森の魔女だと思っていた魔女は、南の森の魔女だという。なんと、魔女は四人いるらしい。そもそも語り継がれているお伽噺には、いろいろと間違いがあるようだ。
「あんた!北の魔女!あんたのせいでとんでもなく誤解されているじゃない!」
愛らしい金の目が潤む。その魔女が怒りながら指を指した先にいた人物は。
「ええええ?何だっけ」
呪われた伯爵に寄り添う美しい令嬢、ルゥルゥだった。
昔々、世界は深い森に囲まれていた。
一つの大陸と、大小いくつかの島々があり、それ以外は海と森の比率が半々。
森の四方には、それぞれ強力な魔法の使い手が住んでいた。中でも北の森に住む魔法使いは、群を抜いていた。そんな北の森に住む魔法使いはある日、自身の住む森を消失させた。あまりに強大な力故、丸いこの世界において、北からぐるりと半周以上、南の森まで消失させた。森のあった場所は海となり、東と西に森を残すのみとなってしまったと言う。
「私の森をあんたが消し飛ばすから西に住処を移す羽目になったのよ!ホント迷惑!久々に祝福に出てみたら魔女は二人しかいないことになってるなんて!それで私があの西の森の魔女だと思われたなんて!寧ろ私は世界の救世主でしょう!」
むきーっ、と南の魔女が北の魔女を連打している。
そう、ルゥルゥが森を消失させたとき、南の魔女が必死に防御結界を張ったため、世界は滅びずに済んだ。この結界がなかったら、ルゥルゥの魔法が半周ではなく一周したことは間違いない。知らず、世界は南の魔女に救われていたのだ。
「北、の、魔女?ルゥが?」
北の森の魔女と言われたルゥルゥが、ローセントの呟きにハッとし、南の魔女をするりと躱してローセントに慌てて説明をする。
「あ、あの、違うんです。違うんです、ロー様」
体の横で、パタパタと両手を上げ下げしている。
「決して、決して世界を消滅させようとか思った訳ではなくてですねっ」
「え、うん」
あれ。釈明するの、そこ?
「あのあの、ちょっと、寝ぼけてただけなんですっ。夢で、凄く強い天界人と戦っていましてっ」
天界人って何だ。
「こう、夢と現実がこう、ね?あ、結構湧いてきていたんですよ。だから、まとめて消し飛ばしてやろうと、少々威力のある魔法を、ね?」
えへ。と、可愛らしく首を傾げるルゥルゥ。可愛いけれども。
「あ、今はそんなことしませんよっ。若気の至りというか、あ、今もピッチピチの十八で若いですけど」
その言葉に、クールそうな東の魔女がギラリと目を光らせた。
「十八ぃ?ふざけんな!」
会場中の人の肩が跳ねた。
「いいじゃない!愛する人には若く見られたいんだもん!」
「だもん、じゃねえ!サバ読むにも程があるだろ!」
「体の成長は十八で止まったし!だから嘘じゃないし!」
「千年以上サバ読むのは詐欺だろ!二千年か?!」
「二千?!失礼な!千八百くらいだもん!」
ハッとしてルゥルゥはローセントに釈明する。
「ロー様!本当です!まだ二千年は、いっていません!」
「あ、うん」
普通の人間は二百年で何世代分だとなるが、千年単位になると、千八百も二千も誤差に感じる。ああいやいや、年齢よりも、森を消失させたことよりも、魔女だという方が気になるのだが。
「実年齢を秘密にしていてごめんなさいっ。き、キライに、ならないで」
綺麗な目が潤んでいる。すごく可愛い。そして何度も思うが、魔女ということが気になるのだが。
「年齢は、気にならないよ。本当に」
年齢は。秘密、と言うなら年齢ではなく魔女だと言うことではないのか。
「ほーら、愛するロー様は年齢なんて気にしないのよ」
「だったら最初から実年齢公開しろよ!」
「乙女心は複雑なのよ!」
魔女って、こういうものなのだろうか。
*つづく*
およそ二千歳の年齢が気にならないロー様は大物です。
呪われた伯爵の同伴者に始まり、その美貌が明らかにされ、王族が入場すると、数十年に一度しか姿を見せない東の森の魔女が祝福に訪れたのだ。吉兆だと、王太子の御世も安泰だと大喜びする一方。なんと西の森の魔女も、その姿を現わしたのだ。これは何としたことかと、祝福ムードが一変してしまう。
東の森の魔女は、空のように青く透き通った長い髪を靡かせ、涼しげな切れ長の金の瞳をした、真っ白なローブに身を包んだ美しい魔女だった。西の森の魔女は、淡いピンク色の輝く髪を丁寧にハーフアップに纏め、大きく蕩けそうな金の目をした、真っ青なローブを纏ったこれまた美しい魔女だった。
「な、なにを、しに、来たのですか」
王が恐る恐る西の魔女に声をかける。
「え?待って。なんでこんなに怖がられつつ嫌がられているの??」
「西の森の魔女様のお姿を見なくなって、久しいものですから、驚いただけです。決して嫌がっているなど、そのようなことは、ありません」
王太子が慌てて取り繕う。
「左様です左様です。さ、さあ、どうぞ存分に楽しんでいってください。おい、酒だ!酒を振る舞え!西の森の魔女様を精一杯おもてなしするんだ!」
呪いをかけられたら堪らない。けれど好意を持たれても大変だ。大臣たちも必死で西の森の魔女のご機嫌を取り過ぎないように取る。その様子に、西の森の魔女が眉を寄せて首を傾げる。
「え、え、なんで?どういうこと?北の魔女の方がよっぽど人前に姿現わしてなかったのに、なんで私は忘れられてるのよ」
北の森の魔女。
聞いたことのない魔女の存在に、会場中がざわめく。そしてどこに、その魔女がいるというのだろう。
「え、嘘。知らないの?」
東と西の魔女がキョトンとした。
「そもそも私、西じゃないわ。私は南の魔女。そう言えば西の魔女の姿、五百年程見てないわね」
また、知らない魔女。西の森の魔女だと思っていた魔女は、南の森の魔女だという。なんと、魔女は四人いるらしい。そもそも語り継がれているお伽噺には、いろいろと間違いがあるようだ。
「あんた!北の魔女!あんたのせいでとんでもなく誤解されているじゃない!」
愛らしい金の目が潤む。その魔女が怒りながら指を指した先にいた人物は。
「ええええ?何だっけ」
呪われた伯爵に寄り添う美しい令嬢、ルゥルゥだった。
昔々、世界は深い森に囲まれていた。
一つの大陸と、大小いくつかの島々があり、それ以外は海と森の比率が半々。
森の四方には、それぞれ強力な魔法の使い手が住んでいた。中でも北の森に住む魔法使いは、群を抜いていた。そんな北の森に住む魔法使いはある日、自身の住む森を消失させた。あまりに強大な力故、丸いこの世界において、北からぐるりと半周以上、南の森まで消失させた。森のあった場所は海となり、東と西に森を残すのみとなってしまったと言う。
「私の森をあんたが消し飛ばすから西に住処を移す羽目になったのよ!ホント迷惑!久々に祝福に出てみたら魔女は二人しかいないことになってるなんて!それで私があの西の森の魔女だと思われたなんて!寧ろ私は世界の救世主でしょう!」
むきーっ、と南の魔女が北の魔女を連打している。
そう、ルゥルゥが森を消失させたとき、南の魔女が必死に防御結界を張ったため、世界は滅びずに済んだ。この結界がなかったら、ルゥルゥの魔法が半周ではなく一周したことは間違いない。知らず、世界は南の魔女に救われていたのだ。
「北、の、魔女?ルゥが?」
北の森の魔女と言われたルゥルゥが、ローセントの呟きにハッとし、南の魔女をするりと躱してローセントに慌てて説明をする。
「あ、あの、違うんです。違うんです、ロー様」
体の横で、パタパタと両手を上げ下げしている。
「決して、決して世界を消滅させようとか思った訳ではなくてですねっ」
「え、うん」
あれ。釈明するの、そこ?
「あのあの、ちょっと、寝ぼけてただけなんですっ。夢で、凄く強い天界人と戦っていましてっ」
天界人って何だ。
「こう、夢と現実がこう、ね?あ、結構湧いてきていたんですよ。だから、まとめて消し飛ばしてやろうと、少々威力のある魔法を、ね?」
えへ。と、可愛らしく首を傾げるルゥルゥ。可愛いけれども。
「あ、今はそんなことしませんよっ。若気の至りというか、あ、今もピッチピチの十八で若いですけど」
その言葉に、クールそうな東の魔女がギラリと目を光らせた。
「十八ぃ?ふざけんな!」
会場中の人の肩が跳ねた。
「いいじゃない!愛する人には若く見られたいんだもん!」
「だもん、じゃねえ!サバ読むにも程があるだろ!」
「体の成長は十八で止まったし!だから嘘じゃないし!」
「千年以上サバ読むのは詐欺だろ!二千年か?!」
「二千?!失礼な!千八百くらいだもん!」
ハッとしてルゥルゥはローセントに釈明する。
「ロー様!本当です!まだ二千年は、いっていません!」
「あ、うん」
普通の人間は二百年で何世代分だとなるが、千年単位になると、千八百も二千も誤差に感じる。ああいやいや、年齢よりも、森を消失させたことよりも、魔女だという方が気になるのだが。
「実年齢を秘密にしていてごめんなさいっ。き、キライに、ならないで」
綺麗な目が潤んでいる。すごく可愛い。そして何度も思うが、魔女ということが気になるのだが。
「年齢は、気にならないよ。本当に」
年齢は。秘密、と言うなら年齢ではなく魔女だと言うことではないのか。
「ほーら、愛するロー様は年齢なんて気にしないのよ」
「だったら最初から実年齢公開しろよ!」
「乙女心は複雑なのよ!」
魔女って、こういうものなのだろうか。
*つづく*
およそ二千歳の年齢が気にならないロー様は大物です。
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