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平凡透子の非凡な日常 後編
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「キメラと対峙する方が楽ですね」
シールドに守られた世界で生きる人々との交流で、住む世界が違うのだと透子は改めて思った。
守る側と守られる側。お互いの日常は非日常であり、非日常は日常であった。
火の本国での任務が終了し、次の任務地への飛行機が出るのが二日後。飛行機の護衛をしつつ、任務地へ向かう予定だ。
「けれど、制服も似合っていましたよ。戦闘服以外が新鮮で、とても眩しかったです」
世話になった会社に挨拶をして今、四人にセレブ御用達ホテルに連行された透子は、そこのレストランで食事をしている。
爆発と犯人確保とで警察がごった返す中、透子はすべてを電話で依頼主に任せて、さっさと会社を後にしていた。あまりにも淡泊なその姿にも、会社の人々は驚愕していた。
食事をしながら、護衛以外の仕事が新鮮だったのではないかと聞かれ、透子は冒頭の言葉を返した。それにノーマが口説き文句よろしく褒めると、ジーンも負けじと透子に迫る。
「そうだ。私が服を贈ろう。ウエディングドレスなんていいだろう」
「服じゃないし良くもない。だけど、ヴァンタインの言葉も一理あるね。トーコに色々な服を着せてみたいな」
エドガーの言葉に、四人は共通の服を思い浮かべた。メイド服。それもクラシックなタイプのもの。それを着て、お帰りなさいませご主人様、なんて言われたい。膨らむ四人の妄想を破裂させる勢いで、透子が席を立った。四人の体が思い切り跳ねる。エスカレートする妄想がバレたかと、四人がおずおずと透子の顔色を窺うと、違ったようだ。透子は斜め後ろの席の人物へと歩いて行った。
「弁えることを知らない人間が、このレストランを利用するとは思いませんでした」
透子は見知らぬ女にそう言うと、右手を差し出す。
「撮影のデータを消します。貸してください」
女はどうやら盗撮をしていたらしい。ここはセレブ御用達の場所。セレブであっても、セレブ中のセレブである四人に憧れる者は後を絶たない。それ故、度を超す者も現れる。知らぬ存ぜぬで誤魔化そうとする女に、透子は溜め息を吐いた。
「私は護衛です。穏便に済ませようとしているのに、あなたにその気がないのなら仕方がありませんね」
四人のいる世界は、何で足を引っ張られるかわからない世界だ。許可のない撮影など認められるはずがない。況して今はプライベート。どんな噂を立てられるか、想像もつかない。
「あまり、手荒な真似はしたくないんですよ」
透子は女が座るテーブルに手をついた。そのまま腰を屈めて、俯き目を逸らす女を覗き込む。
「私の階級。特Sですよ」
女が驚愕の表情で透子を見た。
護衛には階級が存在する。C級から始まり、B、A、特A、Sと上がり、最上階級が特S。それぞれある程度の権限を有するが、特Sの権限は、Sまでが持つ権限にプラスして、合法。何をしても、どんな結果を招いても、それは、合法である、とする、とんでもない権限だ。“ただし”という但し書きがあるのだが、一般の認識は、“特Sのすることはあらゆるすべてを合法にされる”というものなので、透子はあえてその勘違いを利用する。
「信じられないでしょう。よく言われます」
薄く笑いながら、左鎖骨の少し下に刻まれた特S階級の証を見せる。女が震えながらスマホを渡した。
「良かった。まだ、知らない、と言うようであれば、私もやりたくない手段をとらなければならないところでした」
盗撮動画を消すと、女の手にスマホを乗せた。
「賢明な判断でしたよ。――」
女の耳元で、女の名を呼んだ。女は青ざめ、全身が震えている。
「伊達に特Sを名乗っているのではないですよ。護衛対象の周囲にあるモノの把握は、当然でしょう」
そう言って透子は自身の席へ戻ると、四人の顔が赤くなっていた。
「どうかしましたか」
「盗撮女に薄く笑った顔が、酷薄で格好良かった」
躊躇いなくそう言ったエドガーに、他の三人もブンブンと頷いた。透子は苦笑して食事を再開した。
*つづく*
シールドに守られた世界で生きる人々との交流で、住む世界が違うのだと透子は改めて思った。
守る側と守られる側。お互いの日常は非日常であり、非日常は日常であった。
火の本国での任務が終了し、次の任務地への飛行機が出るのが二日後。飛行機の護衛をしつつ、任務地へ向かう予定だ。
「けれど、制服も似合っていましたよ。戦闘服以外が新鮮で、とても眩しかったです」
世話になった会社に挨拶をして今、四人にセレブ御用達ホテルに連行された透子は、そこのレストランで食事をしている。
爆発と犯人確保とで警察がごった返す中、透子はすべてを電話で依頼主に任せて、さっさと会社を後にしていた。あまりにも淡泊なその姿にも、会社の人々は驚愕していた。
食事をしながら、護衛以外の仕事が新鮮だったのではないかと聞かれ、透子は冒頭の言葉を返した。それにノーマが口説き文句よろしく褒めると、ジーンも負けじと透子に迫る。
「そうだ。私が服を贈ろう。ウエディングドレスなんていいだろう」
「服じゃないし良くもない。だけど、ヴァンタインの言葉も一理あるね。トーコに色々な服を着せてみたいな」
エドガーの言葉に、四人は共通の服を思い浮かべた。メイド服。それもクラシックなタイプのもの。それを着て、お帰りなさいませご主人様、なんて言われたい。膨らむ四人の妄想を破裂させる勢いで、透子が席を立った。四人の体が思い切り跳ねる。エスカレートする妄想がバレたかと、四人がおずおずと透子の顔色を窺うと、違ったようだ。透子は斜め後ろの席の人物へと歩いて行った。
「弁えることを知らない人間が、このレストランを利用するとは思いませんでした」
透子は見知らぬ女にそう言うと、右手を差し出す。
「撮影のデータを消します。貸してください」
女はどうやら盗撮をしていたらしい。ここはセレブ御用達の場所。セレブであっても、セレブ中のセレブである四人に憧れる者は後を絶たない。それ故、度を超す者も現れる。知らぬ存ぜぬで誤魔化そうとする女に、透子は溜め息を吐いた。
「私は護衛です。穏便に済ませようとしているのに、あなたにその気がないのなら仕方がありませんね」
四人のいる世界は、何で足を引っ張られるかわからない世界だ。許可のない撮影など認められるはずがない。況して今はプライベート。どんな噂を立てられるか、想像もつかない。
「あまり、手荒な真似はしたくないんですよ」
透子は女が座るテーブルに手をついた。そのまま腰を屈めて、俯き目を逸らす女を覗き込む。
「私の階級。特Sですよ」
女が驚愕の表情で透子を見た。
護衛には階級が存在する。C級から始まり、B、A、特A、Sと上がり、最上階級が特S。それぞれある程度の権限を有するが、特Sの権限は、Sまでが持つ権限にプラスして、合法。何をしても、どんな結果を招いても、それは、合法である、とする、とんでもない権限だ。“ただし”という但し書きがあるのだが、一般の認識は、“特Sのすることはあらゆるすべてを合法にされる”というものなので、透子はあえてその勘違いを利用する。
「信じられないでしょう。よく言われます」
薄く笑いながら、左鎖骨の少し下に刻まれた特S階級の証を見せる。女が震えながらスマホを渡した。
「良かった。まだ、知らない、と言うようであれば、私もやりたくない手段をとらなければならないところでした」
盗撮動画を消すと、女の手にスマホを乗せた。
「賢明な判断でしたよ。――」
女の耳元で、女の名を呼んだ。女は青ざめ、全身が震えている。
「伊達に特Sを名乗っているのではないですよ。護衛対象の周囲にあるモノの把握は、当然でしょう」
そう言って透子は自身の席へ戻ると、四人の顔が赤くなっていた。
「どうかしましたか」
「盗撮女に薄く笑った顔が、酷薄で格好良かった」
躊躇いなくそう言ったエドガーに、他の三人もブンブンと頷いた。透子は苦笑して食事を再開した。
*つづく*
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