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”人”ではない人たち
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「父上、あいつら、まだしぶとく生きてるんですけど」
綺麗な顔を歪ませた少年が、忌々しそうにそう吐き捨てると、男は醜悪な笑みを浮かべた。
「まあそう言うな。ことは順調に進んでいる。それに使用人たちの給金を払わずに済むようになって、我々が使える金も増えた。微々たるものだがな」
残っていた数名の使用人たちも、執事以外はすべて解雇し、家のことすべてをサーフォニア、領地経営をユーリィと執事の二人に押し付けている男は、兄妹の後見人、亡くなったエルランジェ子爵の弟ヘイノ・カレ・エルランジェ。少年は、ヘイノの三人の息子の内、長男のヘイモだ。余談だが、爵位を継ぐ直系以外は、名と家名の間に何かしらの名が入る。こうして直系かそうではないかを判断している。
さて、亡き子爵が爵位を継いだ時、領地を共に支えようと補佐として離れに弟夫婦を受け入れていた。サボリ癖があり、立場が下の者に横柄な態度をとる弟ヘイノだったため、今後もそれが治らないようなら子爵邸から出さない方がいいのでは、と両親と話し合って補佐とすることを決めていた。結果、指導も教育も実を結ばなかった。サボリ癖は治らないので、補佐として役に立たない。さらには離れ、本邸にかかわらず、使用人への横柄な態度が年々目につくようになってきた。
「ただで使い潰せる使用人ってのもいいけど、あいつらがいると落ち着かないです」
当然のように、ヘイモや他の息子たちも父親を倣った性格をしている。気の弱い母親は何も言えずに、ただ夫であるヘイノの顔色を窺うばかりだ。
「あと一年もせずデビュタントだ。そうしたらおまえがエルランジェの当主だ、ヘイモ」
爵位を継ぐと、その子供に次代の当主権が移る。そしてその子が成人するまでの後見人は、通常現当主の兄弟姉妹、いないようなら親や一番近しい親族が、後見人となる。後見人としての能力に疑いありとなると、複雑にはなるが手続きをすれば血筋に関係なく当主が指名した者に交代することが可能だ。
どんなに言葉を尽くしても、サボリ癖も下の者への態度も改める様子はない。悪化の一途を辿る。そのため、早々に後見人を選定し直している矢先にエルランジェ子爵夫妻が事故で亡くなってしまった。
「そうかもしれませんけど」
ヘイモは自身の輝く金の髪を指に巻き付けるように弄りながら、尚も不満そうに頬を膨らませる。
「今度のデビュタントで、ユーリィの代わりにおまえがユーリィとして当主の座に就けばいいだけだ。市井にわざわざおまえを連れて顔を披露していたんだ。領民はおまえがユーリィだと思っている。あの兄妹のことは気にするな」
本来十六になるのはユーリィ。一つ下のヘイモは、デビュタント出来ない。だが、ヘイモをユーリィとしてデビューさせようというのだ。そうして社交界に、ヘイモをユーリィとして認識させる。血筋は間違いなくエルランジェではあるのだが、それは乗っ取りと同義であった。
「そういえば、僕のデビュタントはどうなるんです?ヘイモ・カレ・エルランジェは。死んだことにするんですか」
ヘイモの言葉に、ヘイノは、ふむ、と顎に手を当て少し考える。
「そうだな。病気療養中として、妹がデビュタントするときにでもまとめてやればいいだろう。死んだことにするのも妹をデビュタントさせんこともさすがにまずいからな」
当主すげ替えの方がよほどまずいのだが、この男たちは目先の欲に囚われすぎていた。
「ユーリィが成人する前に兄上たちが死んだのは、本当に幸運だった」
人の死を“幸運”だと言ってしまえる男の子どもは、だからこそ躊躇いもなく従兄妹の死を願うのだろう。
庇護を必要とする者に、躊躇うことなく残酷な仕打ちをし続けることが出来たのだろう。
*つづく*
綺麗な顔を歪ませた少年が、忌々しそうにそう吐き捨てると、男は醜悪な笑みを浮かべた。
「まあそう言うな。ことは順調に進んでいる。それに使用人たちの給金を払わずに済むようになって、我々が使える金も増えた。微々たるものだがな」
残っていた数名の使用人たちも、執事以外はすべて解雇し、家のことすべてをサーフォニア、領地経営をユーリィと執事の二人に押し付けている男は、兄妹の後見人、亡くなったエルランジェ子爵の弟ヘイノ・カレ・エルランジェ。少年は、ヘイノの三人の息子の内、長男のヘイモだ。余談だが、爵位を継ぐ直系以外は、名と家名の間に何かしらの名が入る。こうして直系かそうではないかを判断している。
さて、亡き子爵が爵位を継いだ時、領地を共に支えようと補佐として離れに弟夫婦を受け入れていた。サボリ癖があり、立場が下の者に横柄な態度をとる弟ヘイノだったため、今後もそれが治らないようなら子爵邸から出さない方がいいのでは、と両親と話し合って補佐とすることを決めていた。結果、指導も教育も実を結ばなかった。サボリ癖は治らないので、補佐として役に立たない。さらには離れ、本邸にかかわらず、使用人への横柄な態度が年々目につくようになってきた。
「ただで使い潰せる使用人ってのもいいけど、あいつらがいると落ち着かないです」
当然のように、ヘイモや他の息子たちも父親を倣った性格をしている。気の弱い母親は何も言えずに、ただ夫であるヘイノの顔色を窺うばかりだ。
「あと一年もせずデビュタントだ。そうしたらおまえがエルランジェの当主だ、ヘイモ」
爵位を継ぐと、その子供に次代の当主権が移る。そしてその子が成人するまでの後見人は、通常現当主の兄弟姉妹、いないようなら親や一番近しい親族が、後見人となる。後見人としての能力に疑いありとなると、複雑にはなるが手続きをすれば血筋に関係なく当主が指名した者に交代することが可能だ。
どんなに言葉を尽くしても、サボリ癖も下の者への態度も改める様子はない。悪化の一途を辿る。そのため、早々に後見人を選定し直している矢先にエルランジェ子爵夫妻が事故で亡くなってしまった。
「そうかもしれませんけど」
ヘイモは自身の輝く金の髪を指に巻き付けるように弄りながら、尚も不満そうに頬を膨らませる。
「今度のデビュタントで、ユーリィの代わりにおまえがユーリィとして当主の座に就けばいいだけだ。市井にわざわざおまえを連れて顔を披露していたんだ。領民はおまえがユーリィだと思っている。あの兄妹のことは気にするな」
本来十六になるのはユーリィ。一つ下のヘイモは、デビュタント出来ない。だが、ヘイモをユーリィとしてデビューさせようというのだ。そうして社交界に、ヘイモをユーリィとして認識させる。血筋は間違いなくエルランジェではあるのだが、それは乗っ取りと同義であった。
「そういえば、僕のデビュタントはどうなるんです?ヘイモ・カレ・エルランジェは。死んだことにするんですか」
ヘイモの言葉に、ヘイノは、ふむ、と顎に手を当て少し考える。
「そうだな。病気療養中として、妹がデビュタントするときにでもまとめてやればいいだろう。死んだことにするのも妹をデビュタントさせんこともさすがにまずいからな」
当主すげ替えの方がよほどまずいのだが、この男たちは目先の欲に囚われすぎていた。
「ユーリィが成人する前に兄上たちが死んだのは、本当に幸運だった」
人の死を“幸運”だと言ってしまえる男の子どもは、だからこそ躊躇いもなく従兄妹の死を願うのだろう。
庇護を必要とする者に、躊躇うことなく残酷な仕打ちをし続けることが出来たのだろう。
*つづく*
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