最恐お兄ちゃん

らがまふぃん

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うつわ

 私はずっと、いや、私だけではないのだろう。私たち一族は、ずっとこの人の手のひらで転がされていたのだろう。



「ご無沙汰しております、お祖父様。エーヴァルト、ただいま留学から戻りました。随分とお痩せになりましたね。お体が?」
 私のお祖父様は、この国の誰もが畏敬の念を抱く方だ。この国がこれほどまでに他国と国力に差がついたのは、ひとえにお祖父様の政策が悉く嵌まった結果だ。
 驚異的な着眼点と発想力で国を牽引してきたお祖父様は、当主の座を父に譲り引退した後も、国王陛下夫妻や王太子夫妻が訪れては、その知識を、知恵を乞われている。
 お祖父様は身内を贔屓しない。使える者は使い、無能とみるや否や、視界にすら入れない。だから、他国で見聞を広げて次代の公爵家の役に立てと留学費用を惜しげもなく出してくださった私には、利用価値があると判断してくれた。あのお祖父様に、少しでも価値があると思われることが誇らしかった。
 そろそろ留学から戻って当主勉強を始めてみるか、と先日父から手紙が届いた。もっと色々な国を見て回りたかったが、気になることが書いてあったため、三カ国を見て回ったところで六年振りに祖国へ帰ることにした。
 久しぶりに見るお祖父様は、だいぶお痩せになっていた。父からの手紙にあった気になることの一つ目は、これだ。
「ああ、体は。よく戻ったね。おまえの父親におまえが戻るよう指示してからそんなに日が経っていないなあ。今はどこに留学していたんだっけ」
 嬉しそうに話すお祖父様に、驚きを隠せない。父からの手紙にあった、二つ目の気になることである少女が原因だろうと思われた。お祖父様がお痩せになったのも、この少女を見つけてからだという。父曰く、デビュタントに必ず出席していた理由が、この少女を探すためだったのだろう、と。その理由など一切不明だが、安心したのか、急激に衰えてきたという。だが、とは、どういう意味だろう。
 それにしても、話し方まで変わるものだろうか。
 驚きを隠せないままお祖父様を思わず見つめていると、突然意味のわからないことを話し始めた。
「生まれた時からずっと見守れるってさあ、最高だよね」
「え?」
 見たこともない、上機嫌なお祖父様。平民のような話し方をしている。情報が処理しきれずに、ただ戸惑いの声が漏れるだけ。
「生まれたての咲穂はさあ、ホォント小さくてね。ふにゃふにゃで、壊れちゃいそうだったんだよ」
 何の話をしているのだろう。サ、ホ?とは?父の言っていた少女のことだろうか。
「ああ、この子は俺が守らなくちゃって。俺が守らなくちゃ、すぐに死んじゃうって。そのくらいか弱い存在でさ」
 お祖父様のご弟妹の話だろうか。いや、お祖父様は家族含む一族に、誰にもこれほど甘い顔を見せたことなどない。そもそも“サホ”という名の者は、愛称含めていない。
「愛してるんだ。愛しくて愛しくて堪らなくてね。誰にも見せたくないし、誰も見て欲しくなくて」
 お祖父様の妻であったお祖母様?それにしてはおかしい。お祖母様はお祖父様と同年だ。“生まれたて”を愛でることなど出来ない。
「昼も夜もなく愛し続けていたんだあ」
 どういう意味だ?内容的に情事を指しているように思えるが、お祖父様が愛人を囲っていたようにも思えないし、お祖母様に対して昼夜問わずにそんなことに溺れていたという話も聞かない。ずっと心に想いを秘めていたという意味だろうか。
「でも、父性本能ってヤツを擽られたのは、初めてだったなあ」
 本当に意味がわからない。何の話をしている?“サホ”の話?父性本能を発揮したのは“サホ”?昼夜問わず愛したのは“サホ”ではない? 
「だけどさ、血の繋がりがあると、やっぱり世間の目ってのがあるでしょ?」
 お祖父様が立ち上がって近付いて来た。
 無意識に、足が一歩、後ろに下がった。



*つづく*
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