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番外編 はじまりの物語
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お兄ちゃんと咲穂たんになる前の、最初の物語です。
*∽*∽*∽*∽*
腹が減った。
こんなクソみてぇな人生を贈ってくれた神に感謝してやるよクソッタレ。
魔力至上主義のこの国で、魔力を持たずに生まれたオレは、八歳で親に捨てられた。八歳で魔法の属性鑑定をするときに、魔力なしと判断された結果だ。
魔力がなきゃ当然魔法なんざ使えねぇ。魔法が使えなきゃ生き残れねぇ森に捨てられたオレは、親に死ねって言われたも同然だろ?魔法が使えたって避けて通る森だもんな。結構有名な魔法使いだった親にとっちゃ、魔力なしが生まれるなんて思ってもみなかっただろうな。
ざまあみろ。
クソッタレな親への反抗心から、絶対生き延びてやるって思ってたけど。
「雑草だって喜んで食ってたんだけどな」
食い物で死んでちゃ世話ねぇから、いろんな物を慎重に食ってた。魔物だって小せぇヤツなら狩れるようになって。腹が膨れる日も時にはあった。
だけど最近小せぇヤツらを見なくなって、腹がちっとも膨れなくなって。
「あんなんがいたら、小せぇのはそら逃げるわな」
食われる側に回るなんてな。左肩から先がなくなった。死に物狂いってやつで逃げたけど。
グルルルルルル…
血の匂い、追ってくるよな、そりゃ。
「どうせ食われんなら、自分で自分の肉喰らって、腹いっぱいになりてぇな」
空腹と失血で動けねぇ。
あー、ホント、クソみてぇな人生。
「骨までキレイに食えよ。残したら呪うからな」
「確かに。どうせ食べるなら何も残すなって思う」
魔物の代わりに、人間の女が静かに現れた。
空腹と失血で意識を失っていたオレが目覚めると、左肩から無くなっている部分に包帯が巻かれていた。ぼんやり天井を見つめていると、女の声がした。
「目が覚めてよかった。お腹空いただろう」
小柄な赤髪の、助けてくれた女だ。
手に持っていた皿を側のテーブルに置くと、女が抱きしめてきた。驚いて突き飛ばしてしまうと、女は少し目を見開いてから、謝ってきた。
「すまない。長いこと独りでいると、人との距離がわからなくなる」
立ち上がりながらそう言った。
「痛みを軽減させる魔法だ。おまえの体は弱り切っているから、なるべく広範囲に触れてじんわりと癒す方が体への負担が少ないんだ」
「お、れ、こそ、ごめん」
女は優しく頭を撫でてくれた。
「治療しても、いいか?」
オレは小さく頷いた。
「助けてくれて、ありがとう」
これが、さほとの出会いだった。
「魔法なしにあの森で二年も生き延びるんだから、大したものだ」
女はササホギと言った。好きに呼ぶといいと言われたから、さほって呼ぶことにした。
「さほは、何でこんなところに一人でいるんだ?」
魔法が使えたって避けられるほどの森だ。だけどさほは、この森で暮らしている。
「この国は、魔力がないと生きづらい国だけどね」
さほは、オレの包帯を替えながら教えてくれた。
「あり過ぎても、よくないようだ」
さほの魔力量が、国一番の魔法師団団長を軽く上回っていたらしい。精鋭部隊と言われている第一魔法師団を、一人で相手取れるほどに。
「魔力暴走を恐れて、ここから出ることを禁じられた」
ホント、クソみてぇな国だ。
さほとの暮らしは、幸せの塊だった。
魔力がなくても、相手が魔法を使ってくるからには対処できるに越したことないからと、魔力のないオレに、いつもさほは魔法陣を教えた。
「魔法陣がわかれば、魔法がわかる。魔法がわかれば、対処がわかる」
魔法を使う際、魔力で魔法陣を描く。
「こうやって魔力を効率よく使うんだよ。そうすれば、少ない魔力でも最上級の魔法を行使できる」
魔法陣のどこにどう魔力を注いでいるか。その陣の描き方一つで、実力までわかるというのだ。
森で魔物を狩りながら、実践も交えて丁寧に、オレに生き残る術を教えてくれた。
幸せな、四年間だった。
「私の魔力、使って」
さほの手が、オレに伸びる。オレはその手を握り締める。
「その体では、ここでは生き抜けない」
左腕は、魔物に食われた。
「魔法、使えるように」
さほに、魔物の対処法を実践で教えてもらっていたけれど。まだ子どものオレでは、片腕に剣一本じゃ限界がある。さほに出会ったきっかけの魔物と同じようなものが現れたら、まだ勝てない。それほどに、ここの魔物は脅威だ。
「さほ、死ぬな、死なないでくれ、さほ」
伸ばされた手を取り、情けなく声が震える。
「魔力譲渡の魔法、きちんと発動するかな」
多すぎる魔力は、体を蝕む。さほが生みだしたその魔法があれば、過剰な魔力をオレが引き受けられる。そうすれば、なんとかさほを繋ぎとめられないだろうか。
「私が最期に出来ること。これで、生きて」
美しい魔法陣。
ゆっくり、さほの魔力がオレに入ってくる。
長い時間をかけて、さほとオレとが混ざり合う。
ひとつに、なる。
そうして、美しい魔法陣は消えた。
「さほ、さほ、ササホギ、ダメだ、逝かないで」
蝕まれた体は限界だったのだ。
声を出す力も残っていないさほを、抱きしめる。
一緒にいた四年で、オレはわかってる。
誰よりも淋しがりだって。
「愛してるよ、さほ」
さほが驚いてる。
「愛してる、ササホギ」
ああ、その笑顔、本当に綺麗だ。
さほ、ひとりにして、ごめんな。
ちょっとだけ、待っててくれ。
魂を。
永遠の輪廻を。
オレが生まれる世界に、さほを生まれ変わらせる。
オレはいつでもさほを守れるように、生まれる体を選べるように。
さほと、必ず一緒にいられるように。
さほが生きていれば、オレと同じように生まれる体を選べるようにできたのに。さほを認識できるものが、さほからもらった魔力しかなくて。これでは、オレにくっついてくることしか出来ない。生まれる時期も選べない。でも、オレを追うように、必ず近くにはいられるから。
魔力なしで、いらない命とされたオレ。
クソみてぇな人生だと思ったけど、さほに出会うためだったと思えば、神に感謝してやる。
そんなオレが、誰もが欲する転生の秘術を生み出せるなんて、想像もできなかっただろ?
生涯をかけたこの術式。さほがオレのために生み出した魔力譲渡の術式とともに、灰にする。
オレの、さほへの愛の形だから。
さほの、オレへの愛の形だから。
他の誰かに、この愛に触れてほしくない。
さほ。
遅くなってごめん。
また会えるね。
*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
たくさんのお気に入り、しおり、いいねをありがとうございます。
また何かの機会にお会いできることを祈って。R7.1/5
*∽*∽*∽*∽*
腹が減った。
こんなクソみてぇな人生を贈ってくれた神に感謝してやるよクソッタレ。
魔力至上主義のこの国で、魔力を持たずに生まれたオレは、八歳で親に捨てられた。八歳で魔法の属性鑑定をするときに、魔力なしと判断された結果だ。
魔力がなきゃ当然魔法なんざ使えねぇ。魔法が使えなきゃ生き残れねぇ森に捨てられたオレは、親に死ねって言われたも同然だろ?魔法が使えたって避けて通る森だもんな。結構有名な魔法使いだった親にとっちゃ、魔力なしが生まれるなんて思ってもみなかっただろうな。
ざまあみろ。
クソッタレな親への反抗心から、絶対生き延びてやるって思ってたけど。
「雑草だって喜んで食ってたんだけどな」
食い物で死んでちゃ世話ねぇから、いろんな物を慎重に食ってた。魔物だって小せぇヤツなら狩れるようになって。腹が膨れる日も時にはあった。
だけど最近小せぇヤツらを見なくなって、腹がちっとも膨れなくなって。
「あんなんがいたら、小せぇのはそら逃げるわな」
食われる側に回るなんてな。左肩から先がなくなった。死に物狂いってやつで逃げたけど。
グルルルルルル…
血の匂い、追ってくるよな、そりゃ。
「どうせ食われんなら、自分で自分の肉喰らって、腹いっぱいになりてぇな」
空腹と失血で動けねぇ。
あー、ホント、クソみてぇな人生。
「骨までキレイに食えよ。残したら呪うからな」
「確かに。どうせ食べるなら何も残すなって思う」
魔物の代わりに、人間の女が静かに現れた。
空腹と失血で意識を失っていたオレが目覚めると、左肩から無くなっている部分に包帯が巻かれていた。ぼんやり天井を見つめていると、女の声がした。
「目が覚めてよかった。お腹空いただろう」
小柄な赤髪の、助けてくれた女だ。
手に持っていた皿を側のテーブルに置くと、女が抱きしめてきた。驚いて突き飛ばしてしまうと、女は少し目を見開いてから、謝ってきた。
「すまない。長いこと独りでいると、人との距離がわからなくなる」
立ち上がりながらそう言った。
「痛みを軽減させる魔法だ。おまえの体は弱り切っているから、なるべく広範囲に触れてじんわりと癒す方が体への負担が少ないんだ」
「お、れ、こそ、ごめん」
女は優しく頭を撫でてくれた。
「治療しても、いいか?」
オレは小さく頷いた。
「助けてくれて、ありがとう」
これが、さほとの出会いだった。
「魔法なしにあの森で二年も生き延びるんだから、大したものだ」
女はササホギと言った。好きに呼ぶといいと言われたから、さほって呼ぶことにした。
「さほは、何でこんなところに一人でいるんだ?」
魔法が使えたって避けられるほどの森だ。だけどさほは、この森で暮らしている。
「この国は、魔力がないと生きづらい国だけどね」
さほは、オレの包帯を替えながら教えてくれた。
「あり過ぎても、よくないようだ」
さほの魔力量が、国一番の魔法師団団長を軽く上回っていたらしい。精鋭部隊と言われている第一魔法師団を、一人で相手取れるほどに。
「魔力暴走を恐れて、ここから出ることを禁じられた」
ホント、クソみてぇな国だ。
さほとの暮らしは、幸せの塊だった。
魔力がなくても、相手が魔法を使ってくるからには対処できるに越したことないからと、魔力のないオレに、いつもさほは魔法陣を教えた。
「魔法陣がわかれば、魔法がわかる。魔法がわかれば、対処がわかる」
魔法を使う際、魔力で魔法陣を描く。
「こうやって魔力を効率よく使うんだよ。そうすれば、少ない魔力でも最上級の魔法を行使できる」
魔法陣のどこにどう魔力を注いでいるか。その陣の描き方一つで、実力までわかるというのだ。
森で魔物を狩りながら、実践も交えて丁寧に、オレに生き残る術を教えてくれた。
幸せな、四年間だった。
「私の魔力、使って」
さほの手が、オレに伸びる。オレはその手を握り締める。
「その体では、ここでは生き抜けない」
左腕は、魔物に食われた。
「魔法、使えるように」
さほに、魔物の対処法を実践で教えてもらっていたけれど。まだ子どものオレでは、片腕に剣一本じゃ限界がある。さほに出会ったきっかけの魔物と同じようなものが現れたら、まだ勝てない。それほどに、ここの魔物は脅威だ。
「さほ、死ぬな、死なないでくれ、さほ」
伸ばされた手を取り、情けなく声が震える。
「魔力譲渡の魔法、きちんと発動するかな」
多すぎる魔力は、体を蝕む。さほが生みだしたその魔法があれば、過剰な魔力をオレが引き受けられる。そうすれば、なんとかさほを繋ぎとめられないだろうか。
「私が最期に出来ること。これで、生きて」
美しい魔法陣。
ゆっくり、さほの魔力がオレに入ってくる。
長い時間をかけて、さほとオレとが混ざり合う。
ひとつに、なる。
そうして、美しい魔法陣は消えた。
「さほ、さほ、ササホギ、ダメだ、逝かないで」
蝕まれた体は限界だったのだ。
声を出す力も残っていないさほを、抱きしめる。
一緒にいた四年で、オレはわかってる。
誰よりも淋しがりだって。
「愛してるよ、さほ」
さほが驚いてる。
「愛してる、ササホギ」
ああ、その笑顔、本当に綺麗だ。
さほ、ひとりにして、ごめんな。
ちょっとだけ、待っててくれ。
魂を。
永遠の輪廻を。
オレが生まれる世界に、さほを生まれ変わらせる。
オレはいつでもさほを守れるように、生まれる体を選べるように。
さほと、必ず一緒にいられるように。
さほが生きていれば、オレと同じように生まれる体を選べるようにできたのに。さほを認識できるものが、さほからもらった魔力しかなくて。これでは、オレにくっついてくることしか出来ない。生まれる時期も選べない。でも、オレを追うように、必ず近くにはいられるから。
魔力なしで、いらない命とされたオレ。
クソみてぇな人生だと思ったけど、さほに出会うためだったと思えば、神に感謝してやる。
そんなオレが、誰もが欲する転生の秘術を生み出せるなんて、想像もできなかっただろ?
生涯をかけたこの術式。さほがオレのために生み出した魔力譲渡の術式とともに、灰にする。
オレの、さほへの愛の形だから。
さほの、オレへの愛の形だから。
他の誰かに、この愛に触れてほしくない。
さほ。
遅くなってごめん。
また会えるね。
*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
たくさんのお気に入り、しおり、いいねをありがとうございます。
また何かの機会にお会いできることを祈って。R7.1/5
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