乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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本編

王太子殿下はいつでもシスコン。

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 神殿に着くと、大神官、いえ大神官様御自らが私達を迎えてくれた。大神官様は、雪のような白銀の髪に透きとおった金の瞳の、何ていうか気品に溢れたおじいさまだ。大神官と呼び捨ててはいけないし、おじいさんではない、おじいさまである。神じいさんより、威厳があるのは間違いない。

「未来視の姫。シュラウス将軍。お待ち申し上げておりました」

 そう言って礼を尽くそうとする大神官様を、私は慌てて制止した。

「おやめ下さい、こんな小娘に礼など……」
「しかし」
「私は、時々未来の一部が視えるだけの、ただの娘です。大神官様に礼を尽くしこそすれ、礼を尽くされる身ではありません」

 こんな……こんな気品と威厳のあるおじいさまに頭を下げられたら、私、どうしていいかわからないわよ。国王陛下より気品があるってどういうことなのかしら。

「姫がそうまで仰せなら――さ、こちらへ。すべて揃ってはおりませぬが、神竜召喚の可能性がある者達を集めておりますれば」

 大神官様は品格に満ちた微笑みを私に向けると、ゆっくりした足取りで神殿の奥に向かい始めた。
 その後をついていこうとしたら、カインがほっとした声で私に耳打ちした。

「大神官様を拝跪させたらどうしようかと思いましたが……姫に感謝致します」

 あの御方は、先代国王陛下の弟君ですからねと呟かれ、私は脳内の人物図に書き込みした。大神官は王族とあったけど、現国王の叔父上だったとは。

「貴い血の濃い御方です。姫、くれぐれも」
「非礼のないように努めます。ですが、私の目的――最優先すべきは、神竜召喚を可能とする方を見つけること」

 ローランに会うには、オリヴィエの魔法知識が必須なんだから。キッと前を見て言った私に、カインは「失礼を申し上げました」と引き下がってくれた。




「――違います」

 私は、神殿の大広間に集められた神官達を、隣室から覗いていた。自分達が「吟味されている」と気づかせない為に、大広間では、高位の神官がお説教や訓戒を述べてくれている。それを、大神官様の魔術で鏡越しのように眺めながら、指し示された神官を「確認」するのだ。

 大神官様は、私が見やすいように適度に神官達をズームアップしてくれる。しかし、オリヴィエの姿は見つからない。私より少し濃い金髪と、榛色の瞳の美形神官は、なかなか見つからない。

「……何? 殿下が?」

 大神官様が、困ったような声で何か話している。「違う」と言った神官に視界が固定されたままなので、私は大神官様のお話が終わるのを待つことにした。

「……姫、申し訳ありませぬが……こちらに、王太子殿下がお越しになる」
「え?」

 どうして? 神竜召喚に、あのシスコン殿下は関係なかったはずだけど。もしかしたら、私が見落としただけ?
 私の疑問符が消えないうちに、部屋の扉が開かれ、リヒト殿下と――げ。シルヴィスも一緒だ。

「アレクシアはここか」
「リヒト殿下。姫は今、国事に関わる大切な務めを――」

 私に向かって真っすぐに進んできたリヒト殿下を遮り、カインが庇ってくれる。よ、よかった、ちょっと怖かったわ。クール美形がガンガン進んでくると、迫力あるのね。

「そこを退け、カイン。私は、アレクシアに」
「リヒト殿下。シュラウス将軍の言葉が聞こえませなんだか?」
「……大叔父上」

 大神官様の叱責に、リヒト殿下はさすがに止まった。後ろで、シルヴィスが溜息をついている。なら、あなたも止めなさいよ、このヤンデレ。

「私は……これをアレクシアに……」

 言い訳するように、リヒト殿下は綺麗な銀細工の箱を見せた。あれは宝飾品を入れる物だから、中身も確実にあるはずだ。

「……神殿で、色恋を?」

 窘めるものから、一気に辛辣になった大神官様の声に、リヒト殿下は首を振る。わかってます、それは。

「エージュに、渡せばよろしいのですか?」
「アレクシア」

 ぱあっと、光を受けたようにリヒト殿下の表情が明るくなった。「光」という意味の名前だけあって、キラキラがよく似合う美貌である。

「そうなのだ、エルウィージュに渡してほしい。私達は母が違うから、私の母の物は駄目だが、祖母上の物ならエルウィージュにも権利がある。だから、これを……」
「わかりました。後ほど、お預かり致します。エージュに間違いなく渡しますし、文を書くようにも勧めましょう」
「本当に!? シルヴィ、エルウィージュが私に文をくれるかもしれない!」

 歓喜に満ちた顔で振り返った先には、銀髪に紫の瞳のヤンデレがつまらなそうな顔――とはいえ、これまた冷ややかな美形さんである――で突っ立っている。大好きなリヒト殿下が、新しくできた妹に夢中なのが面白くないのよね、その設定はわかってるけど気持ちはわからない。

「なら、それをアレクシア姫に渡したら、さっさと戻るぞ。まだ勝負の途中だというのに、突然言い出して」
「ああ、駒将棋はシルヴィの勝ちでいい。アレクシア、できればエルウィージュの様子を」
「リヒト殿下。アレクシア姫は、大切な務めの最中と申し上げたが?」

 うきうきしているリヒト殿下を、大神官様が咎めた。本格的にお説教する気なのか、少し体を動かした、その一瞬。
 魔法陣がズレて、視界もズレて――見えた! オリヴィエ・ステファニアス!

「いらっしゃいました! 大神官様、あの方です!」
「何と!?」
「あの方……ああ、お名前は……」

 頭が痛いという演技で顔を伏せる。さっきのリヒト殿下以上に歓喜の表情になっていそうだから。

「……視えない。でも、あの金の髪と、榛色の瞳の……二十歳を過ぎられたくらいの神官様」

 独り言のように、でもしっかりとカインと大神官様には聞こえる音量を意識した。リヒト殿下とシルヴィスには、聞こえていなくてもいい。

「金の髪に榛色の瞳――オリヴィエかの」

 そうです大神官様!
 内心のうきうきを押し殺したことを確認して、私は恐る恐る顔を上げた。そして、輝石をぎゅっと握り締め、心の声で命じる。オリヴィエが来たら光れ、と。

「――誰ぞ、オリヴィエ・ステファニアスをこれへ。他の者達は、もう散ってよい」

 大神官様は神官見習いらしい人にそう指示すると、私に飲み物を勧めてくれた。

「いえ……まだ、その方を直接拝してからでなくては」

 うっかり気を緩めるわけにはいかない。私の言葉に、大神官様は目を細めて頷いた。

「姫の慎重さを、リヒト殿下も見習っては如何か。シルヴィス、そなたが付いていながら何としたことか」
「大神官様。私は止めたのです。だが、リヒトは言い出したら聞かぬから」

 そこが可愛い!と言わんばかりの口調で、シルヴィスが言い訳した。……こういうのは、腐女子が聞いたら妄想も捗ることでしょうけどねえ……私はNL派ですから。

「シルヴィにとっても、従妹ではないか」
「馬鹿。私はおまえの従兄だけれど、それは母上達が双子の姉妹だからだ。おまえの異腹の妹姫は、私とは血縁はない」
「……少し辿れば、親族ではあるだろう」
「それは否定しない。だが、私の従妹ではない。私のいとこはおまえだけだ」

 ……何、この熱っぽい愛しそうな口調。シルヴィスって、普段からリヒトにこんな喋り方なの? 腐女子ファンの妄想じゃなく、思った以上に溺愛盲愛偏愛激愛してる声音だわ。ミレイに愛してるって言ってたシーンより甘いわよ。

「私の妹だ、シルヴィにも大切にしてほしいんだ」
「わかっている。礼節は守る」

 敬して遠ざけたいということだ。……ミレイ、あんた、どうやってこのヤンデレを誑し込んだの……。攻略できた自分を褒めてあげたい。

「よかったわ。ナルバエス大公令息も、エージュのことは守って下さるのですね」

 私は、軽くジャブを打った。何せ、シルヴィスはエージュ暗殺を企む男だ。ミレイが誰を選ぶにせよ、シルヴィスが危険なことは変わらない。

「シルヴィと呼んで構わない、アレクシア」

 何故、本人ではなくあなたが答えるんですかリヒト殿下。そして、リヒトがそう言うならいいけど?という態度のシルヴィス。嫌です、あなたを愛称で呼ぶのは嫌です。

「畏れ多いことです。シルヴィス様、とお呼びさせていただきますね」

 リヒト殿下の厚意の申し出を蹴ったら、シルヴィスに恨まれる。かといって、シルヴィと呼んだら「それはリヒトだけに許した特権……!」と逆恨みされる。だから、中間を採った。

「私も、エルウィージュをエージュと呼んで構わないだろうか」

 それは本人に訊いて下さい。全力で嫌がられるだろうけどね!

「私が決めることではありません」
「エセルは、エージュと呼んでいた。私も、そう呼びたい」

 あー、はいはい。だからそれはエージュ本人にお願いして下さいねー。

「エセルは、エルウィージュ姫にとっては生まれた時から兄だ。昨日突然兄になったおまえとでは、違うだろう」

 お、シルヴィスがまともなことを言った。その動機が嫉妬からでなければ、評価してあげられるんだけどね。

「アレクシア。君からも口添えしてもらえないか?」

 嫌です。エージュに恨まれたくない。
 どう拒否しようかと思った時。

「オリヴィエ・ステファニアスにございます」

 扉の向こうから恭しい声が響き、大神官様はその声の主に入室を許可した。
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