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本編
王太子妃候補、独走中。
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居づらい。学園の居心地は、最高に最悪だ。
サフィール・ルーチェ学園は、若い貴族達の社交界でもある。王族が通うと、選ばれた生徒達が「御学友」の栄誉を受ける。現在はリヒト殿下の学友がシルヴィス(と、あと二人か三人いるらしい)、エージュの学友が私。
私は、その「御学友」の栄誉――しかもエージュの御学友は私だけだ――に加えて、王太子妃候補の筆頭だった。過去形です。今は、王太子妃候補も、私だけになった。
リースル達は、リヒト殿下の意が私にあると知ってからは、私の取り巻き状態だ。王太子妃の友人となれば、結婚相手の選択肢は広がる。
エージュと一緒の時は、リースル達も遠慮して近づかない。けれど、そうなるとリヒト殿下が私に話しかけることが増えるのだ。殿下は妹を優先しているつもりでしょうけど、周りから見たら、妹をダシに私に話しかけているようにも取れるのよ!
そんな私の、最近の主な話相手は、シルヴィスだったりする。エージュはまた何か考えているらしくて、私には「あなたを困らせたりしないから」と笑うだけだ。私は、エージュの役に立てないのかな……。
「そんなことはない。逆だ」
リヒト殿下の名で利用申請した(躊躇いがなかったので、常習だと確信している)貴賓室で、シルヴィスは珈琲を淹れてくれながら、私の溜息を否定した。私は紅茶派だったんだけど、シルヴィスの淹れる珈琲はおいしい。砂糖もミルクもなしで飲めるくらいにおいしい。今度、ローランにも飲ませてあげたい。
「逆?」
「そう。君がいるから、エルウィージュは何でもする。君の為になることを考え、実行する。君の為にならないことは、思いついても実行しないし、誰かが実行しようとしたら阻止する」
エージュの生きる意欲、源は私だと言うと、シルヴィスは自分のカップに口をつけた。会心の出来らしく、少し微笑む。今日も、あなたの珈琲は間違いなくおいしいですよ。……これも、ブラックコーヒーを飲めなかったリヒト殿下の苦手克服の為にと、習得した技術でしたっけね……あなたの愛は深くて広いわ。前は狭かったのに、最近は私やエージュにも優しい。お願い、デレないで。
「どうして断言できるの?」
悩み相談するうちに、私のシルヴィスへの口調はかなり砕けている。あちらも素を出すようになってきたので、イーヴンではある。
「私にとってのリヒトが、エルウィージュにとっての君だからだ」
何という説得力。血縁は薄いはずなのに、エージュとシルヴィスはよく似ている。
「シルヴィスって、リヒト殿下を愛しちゃってるの?」
私の遠慮ない質問にも、シルヴィスは肩を竦めるだけで怒らない。デレてるからですか。もうどうしようもないし、彼はリヒト殿下を優先するから、別にいいけど。
「愛してはいる。大切な従弟だ。だが、恋情ではない」
公式説明と微妙に違うなあ。いいのよ、取り繕わなくても。私は私に関係しないところでなら、薔薇も百合も両刀も、個人の自由だと思っているもの。
「君とエルウィージュだってそうだろう。お互いを愛しているが、恋ではない」
「そう言われると」
「納得したか?」
「私のエージュへの友情が、友愛スレスレのヤバいものなのかと思うと」
「……時々、君は意味不明のことを言うな」
シルヴィスが小さく笑う。それは、美玲が持っているゲーム知識について語っている時なんだけど、そこまでは言えない。このことを明かしているのは、ローランとエージュだけだ。
「ああ、そういえば。クルムバッハ公爵の処遇が決まった」
「早いのね」
「リヒトを廃嫡する動きにも加担していたからな。大神官様が、二番目に処分すると決めておられた」
ちなみに、最優先で処罰されたのはナルバエス大公パラメデウス。シルヴィスの父上だ。
処分は、大公位をシルヴィスに譲ることと、自邸での軟禁。宰相職は正式に解かれ、現在はアトゥール殿下の就任待ちになっている。
自邸での軟禁になったのは、シルヴィスが監視しやすいようにする為。長年宰相職にあり、また大公家の当主だった彼には、私的な繋がり――裏稼業の方々を含む――があるからだ。遠方に軟禁して、知らない間に策謀されたのではたまらないと、シルヴィスが申し出た。結果、パラメデウスさんは、おはようからおやすみまで、すべてを息子に監視されている。
シルヴィスが見たいと思った時、あちらの意志は関係なく、パラメデウスさんの状況が見え、聞こえるように、映像と漏洩を組み合わせて、監視記録撮影という術が常時発動中だ。これ、魔力はシルヴィスのものだけど、律を編んだのはローラン。よって、誰にも解呪できない。魔力消費は小さく効果は大きい上、絶対に破棄できないという、コスパのよろしい魔法になっている。
そして、同じ監視魔法が、ギルフォード陛下にもかけられた。こちらも、術者はシルヴィス。リヒト殿下に負担をかけたくないとのことです。あなたは本当に従弟が好きですね。
二人にかけた魔法は、「術者がシルヴィス一人」なので、「連携」も使った。ギルフォード陛下とパラメデウスさんを、シルヴィスが「連携」で繋いだことで、双方が通じようとすれば、術者――シルヴィスにバレる仕組みだ。
どこまでも自分の父を信じていないシルヴィスが、ギルフォード陛下とパラメデウスさんの動きを完全に把握し、相互連絡できないようにする魔法はないかとオリヴィエに相談し、レフィアス様が授けて下さった。
「処分は?」
「爵位の剥奪と、家名の断絶だ。アルドンサはヴェルフ尼僧院に入る。クルムバッハ公爵は、ただの「アルブレヒト・クルムバッハ」として裁かれることになる――王太子廃嫡に加担した罪だけでも、終身刑は確定だ」
つまり、アルドンサは還俗できないということだ。貴族御用達の尼僧院なら、お金さえ積めば大抵は還俗可能だけど、ヴェルフ尼僧院――国内で最も戒律に厳しいとされるあの尼僧院じゃ、無理だ。
ヴェルフ尼僧院は、前王朝で直系の王位継承者が絶えかけた時、先に尼僧院に入っていた直系の王女を還俗させてくれという嘆願すら拒否した逸話がある。
当時の尼僧院長は「国が滅んでも、民は滅びぬ。まして、たかが王朝の変更ごとき、何の問題がありましょうや」と強硬に突っぱねた。もちろん、信心深い王女様自身が「尼僧のままがいい! 王位など嫌!」と拒否したからでもある。
その結果、傍系のカイザーリング家が王位を継ぎ、ヴェルスブルク王国は王朝を変えて続いている。
「かなり、厳しい処分ね」
「ギルフォード陛下と、父上を厳しく咎められない分も、クルムバッハ家に加算されてしまったな。申し訳ないとは思う」
殊勝な口調だが、賭けてもいい。絶対「うちの分まで押し付けてサーセンwww」程度の気持ちだ。
「それより、君だ。……どうする?」
「…………」
私は黙って珈琲を飲んだ。シルヴィスの問いかけは、リヒト殿下とのことをどうするか、という質問で。
実際のところ、こうしてシルヴィスとの茶話会イベントが発生している時点で、リヒト殿下のルートに入ってしまっている。ここから殿下のルートを脱するには、バッドEDを迎えるしかない。だけど、そうなったらローランとも会えなくなる。
何せ、リヒト殿下ルートのバッドは、「即位の日、他国の賓客に紛れた暗殺者から殿下を庇い、来世での巡り会いを誓いながら死亡」なのである。ルートに入る前なら、他のバッドもあった。でも、殿下の好感度が最高レベルの場合は、この悲恋EDしかない。
「……君が、リヒトではなく神竜王陛下を好いていることは、わかっている。リヒトもだ」
「……はい」
「その上で、リヒトは君に恋している」
そう言って、シルヴィスは私を見た。でもねえ、リヒト殿下の好意はゲームに沿ったもの……じゃ、ない。エージュの出生のことも、シルハークを「私が」退けることも、ギルフォード陛下を断罪することも、何もかも、「華寵封月」とは違っている。
そのことに今更気づいて、私は心臓が凍った気がした。私自身の選択が、行動が――無意識に、リヒト殿下ルートへと繋がっている。
嫌だ、違う、私が好きなのはローランだもの。リヒト殿下のことは、嫌いじゃないけど、異世界転生をあっさり受け入れるほど好きでもない。この異常事態を受け入れられたのは、ローランを幸せにするという目的があったからだ。
「……想っていない相手からの恋情は、重いか? 君を、苦しめるか? ならばそう言え。そうすれば、リヒトは自分の感情を殺す」
でもそれは、シルヴィスが愛してやまない、明るく闊達で裏表のないリヒト殿下を殺すことだ。
「……させないくせに」
「そうだな。君がそんなことを口にする前に、私は王太子妃決定の公布を出すよ。枢密院の名を使ってね」
私の抗議を簡単に受け止めて、シルヴィスは困惑したように呟いた。
「だが、君の意志も尊重したいと思っている。私の最優先はリヒトだが」
うん、知ってる。知ってるけど、改めて堂々と言われると、ちょっと怖い。
「君に、友情めいたものを感じていることも事実だ」
それは、私にはリヒト殿下への盲愛を隠さなくていいから、ラクなだけではないでしょうか。とはいえ、私もシルヴィスに友情っぽいものを覚えている。
「いっそ、神竜王陛下が君をさらってくれればいいのだが。……亜界では、人は生きられないのだったか」
事実そうなんだけれど、そうじゃなくても――ローランは、私をさらったりしない。そんな愛し方を、彼は知らない。
「リヒトは、君のことは諦めていた。君の気持ちがどなたにあるかはわかっていたからな。ただ、あの一瞬だけ、咄嗟のことで自制ができなかった」
レフィアス様は、それを狙った。リヒト殿下の迷いを、公にする為に。
「王たる者は、惑ってはならない。惑いを持ってはならない。だから、王となる前に、迷いも惑いも、すべて解決しろと――そういうことなのだろうな」
「それなら、私達が迷ってても意味ないじゃない」
「人は一人では王にはなれないのだよ、アレクシア。リヒトに足りないものを補う為に、私がいる」
――そして、できるなら君もいてほしい。
言葉にしなかったシルヴィスの想いは、私の心に重く響いた。
サフィール・ルーチェ学園は、若い貴族達の社交界でもある。王族が通うと、選ばれた生徒達が「御学友」の栄誉を受ける。現在はリヒト殿下の学友がシルヴィス(と、あと二人か三人いるらしい)、エージュの学友が私。
私は、その「御学友」の栄誉――しかもエージュの御学友は私だけだ――に加えて、王太子妃候補の筆頭だった。過去形です。今は、王太子妃候補も、私だけになった。
リースル達は、リヒト殿下の意が私にあると知ってからは、私の取り巻き状態だ。王太子妃の友人となれば、結婚相手の選択肢は広がる。
エージュと一緒の時は、リースル達も遠慮して近づかない。けれど、そうなるとリヒト殿下が私に話しかけることが増えるのだ。殿下は妹を優先しているつもりでしょうけど、周りから見たら、妹をダシに私に話しかけているようにも取れるのよ!
そんな私の、最近の主な話相手は、シルヴィスだったりする。エージュはまた何か考えているらしくて、私には「あなたを困らせたりしないから」と笑うだけだ。私は、エージュの役に立てないのかな……。
「そんなことはない。逆だ」
リヒト殿下の名で利用申請した(躊躇いがなかったので、常習だと確信している)貴賓室で、シルヴィスは珈琲を淹れてくれながら、私の溜息を否定した。私は紅茶派だったんだけど、シルヴィスの淹れる珈琲はおいしい。砂糖もミルクもなしで飲めるくらいにおいしい。今度、ローランにも飲ませてあげたい。
「逆?」
「そう。君がいるから、エルウィージュは何でもする。君の為になることを考え、実行する。君の為にならないことは、思いついても実行しないし、誰かが実行しようとしたら阻止する」
エージュの生きる意欲、源は私だと言うと、シルヴィスは自分のカップに口をつけた。会心の出来らしく、少し微笑む。今日も、あなたの珈琲は間違いなくおいしいですよ。……これも、ブラックコーヒーを飲めなかったリヒト殿下の苦手克服の為にと、習得した技術でしたっけね……あなたの愛は深くて広いわ。前は狭かったのに、最近は私やエージュにも優しい。お願い、デレないで。
「どうして断言できるの?」
悩み相談するうちに、私のシルヴィスへの口調はかなり砕けている。あちらも素を出すようになってきたので、イーヴンではある。
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何という説得力。血縁は薄いはずなのに、エージュとシルヴィスはよく似ている。
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私の遠慮ない質問にも、シルヴィスは肩を竦めるだけで怒らない。デレてるからですか。もうどうしようもないし、彼はリヒト殿下を優先するから、別にいいけど。
「愛してはいる。大切な従弟だ。だが、恋情ではない」
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「君とエルウィージュだってそうだろう。お互いを愛しているが、恋ではない」
「そう言われると」
「納得したか?」
「私のエージュへの友情が、友愛スレスレのヤバいものなのかと思うと」
「……時々、君は意味不明のことを言うな」
シルヴィスが小さく笑う。それは、美玲が持っているゲーム知識について語っている時なんだけど、そこまでは言えない。このことを明かしているのは、ローランとエージュだけだ。
「ああ、そういえば。クルムバッハ公爵の処遇が決まった」
「早いのね」
「リヒトを廃嫡する動きにも加担していたからな。大神官様が、二番目に処分すると決めておられた」
ちなみに、最優先で処罰されたのはナルバエス大公パラメデウス。シルヴィスの父上だ。
処分は、大公位をシルヴィスに譲ることと、自邸での軟禁。宰相職は正式に解かれ、現在はアトゥール殿下の就任待ちになっている。
自邸での軟禁になったのは、シルヴィスが監視しやすいようにする為。長年宰相職にあり、また大公家の当主だった彼には、私的な繋がり――裏稼業の方々を含む――があるからだ。遠方に軟禁して、知らない間に策謀されたのではたまらないと、シルヴィスが申し出た。結果、パラメデウスさんは、おはようからおやすみまで、すべてを息子に監視されている。
シルヴィスが見たいと思った時、あちらの意志は関係なく、パラメデウスさんの状況が見え、聞こえるように、映像と漏洩を組み合わせて、監視記録撮影という術が常時発動中だ。これ、魔力はシルヴィスのものだけど、律を編んだのはローラン。よって、誰にも解呪できない。魔力消費は小さく効果は大きい上、絶対に破棄できないという、コスパのよろしい魔法になっている。
そして、同じ監視魔法が、ギルフォード陛下にもかけられた。こちらも、術者はシルヴィス。リヒト殿下に負担をかけたくないとのことです。あなたは本当に従弟が好きですね。
二人にかけた魔法は、「術者がシルヴィス一人」なので、「連携」も使った。ギルフォード陛下とパラメデウスさんを、シルヴィスが「連携」で繋いだことで、双方が通じようとすれば、術者――シルヴィスにバレる仕組みだ。
どこまでも自分の父を信じていないシルヴィスが、ギルフォード陛下とパラメデウスさんの動きを完全に把握し、相互連絡できないようにする魔法はないかとオリヴィエに相談し、レフィアス様が授けて下さった。
「処分は?」
「爵位の剥奪と、家名の断絶だ。アルドンサはヴェルフ尼僧院に入る。クルムバッハ公爵は、ただの「アルブレヒト・クルムバッハ」として裁かれることになる――王太子廃嫡に加担した罪だけでも、終身刑は確定だ」
つまり、アルドンサは還俗できないということだ。貴族御用達の尼僧院なら、お金さえ積めば大抵は還俗可能だけど、ヴェルフ尼僧院――国内で最も戒律に厳しいとされるあの尼僧院じゃ、無理だ。
ヴェルフ尼僧院は、前王朝で直系の王位継承者が絶えかけた時、先に尼僧院に入っていた直系の王女を還俗させてくれという嘆願すら拒否した逸話がある。
当時の尼僧院長は「国が滅んでも、民は滅びぬ。まして、たかが王朝の変更ごとき、何の問題がありましょうや」と強硬に突っぱねた。もちろん、信心深い王女様自身が「尼僧のままがいい! 王位など嫌!」と拒否したからでもある。
その結果、傍系のカイザーリング家が王位を継ぎ、ヴェルスブルク王国は王朝を変えて続いている。
「かなり、厳しい処分ね」
「ギルフォード陛下と、父上を厳しく咎められない分も、クルムバッハ家に加算されてしまったな。申し訳ないとは思う」
殊勝な口調だが、賭けてもいい。絶対「うちの分まで押し付けてサーセンwww」程度の気持ちだ。
「それより、君だ。……どうする?」
「…………」
私は黙って珈琲を飲んだ。シルヴィスの問いかけは、リヒト殿下とのことをどうするか、という質問で。
実際のところ、こうしてシルヴィスとの茶話会イベントが発生している時点で、リヒト殿下のルートに入ってしまっている。ここから殿下のルートを脱するには、バッドEDを迎えるしかない。だけど、そうなったらローランとも会えなくなる。
何せ、リヒト殿下ルートのバッドは、「即位の日、他国の賓客に紛れた暗殺者から殿下を庇い、来世での巡り会いを誓いながら死亡」なのである。ルートに入る前なら、他のバッドもあった。でも、殿下の好感度が最高レベルの場合は、この悲恋EDしかない。
「……君が、リヒトではなく神竜王陛下を好いていることは、わかっている。リヒトもだ」
「……はい」
「その上で、リヒトは君に恋している」
そう言って、シルヴィスは私を見た。でもねえ、リヒト殿下の好意はゲームに沿ったもの……じゃ、ない。エージュの出生のことも、シルハークを「私が」退けることも、ギルフォード陛下を断罪することも、何もかも、「華寵封月」とは違っている。
そのことに今更気づいて、私は心臓が凍った気がした。私自身の選択が、行動が――無意識に、リヒト殿下ルートへと繋がっている。
嫌だ、違う、私が好きなのはローランだもの。リヒト殿下のことは、嫌いじゃないけど、異世界転生をあっさり受け入れるほど好きでもない。この異常事態を受け入れられたのは、ローランを幸せにするという目的があったからだ。
「……想っていない相手からの恋情は、重いか? 君を、苦しめるか? ならばそう言え。そうすれば、リヒトは自分の感情を殺す」
でもそれは、シルヴィスが愛してやまない、明るく闊達で裏表のないリヒト殿下を殺すことだ。
「……させないくせに」
「そうだな。君がそんなことを口にする前に、私は王太子妃決定の公布を出すよ。枢密院の名を使ってね」
私の抗議を簡単に受け止めて、シルヴィスは困惑したように呟いた。
「だが、君の意志も尊重したいと思っている。私の最優先はリヒトだが」
うん、知ってる。知ってるけど、改めて堂々と言われると、ちょっと怖い。
「君に、友情めいたものを感じていることも事実だ」
それは、私にはリヒト殿下への盲愛を隠さなくていいから、ラクなだけではないでしょうか。とはいえ、私もシルヴィスに友情っぽいものを覚えている。
「いっそ、神竜王陛下が君をさらってくれればいいのだが。……亜界では、人は生きられないのだったか」
事実そうなんだけれど、そうじゃなくても――ローランは、私をさらったりしない。そんな愛し方を、彼は知らない。
「リヒトは、君のことは諦めていた。君の気持ちがどなたにあるかはわかっていたからな。ただ、あの一瞬だけ、咄嗟のことで自制ができなかった」
レフィアス様は、それを狙った。リヒト殿下の迷いを、公にする為に。
「王たる者は、惑ってはならない。惑いを持ってはならない。だから、王となる前に、迷いも惑いも、すべて解決しろと――そういうことなのだろうな」
「それなら、私達が迷ってても意味ないじゃない」
「人は一人では王にはなれないのだよ、アレクシア。リヒトに足りないものを補う為に、私がいる」
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