乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~

王女様に忠告したい。

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 ――誰もいなくなった私室で、闇華はほうっと息を吐いた。
 賑やかなのは嫌いではない。にいさまは陽気だから、いつも禁軍の兵達と模擬試合をしたり、ささを煽っていらした。「闇華も来るか」と訊かれたら、公主の御身をと止める女官を振り切って、平気で兵達と試合った。無論勝った。お追従で負けてくれるのではなく、神竜王の末裔である闇華の速さに、並みの兵では太刀打ちできないのだ。初撃を躱して、ひらりと領巾ひれを揺らしながら、相手の項をツンと突く。それだけでいい。それだけで勝ったし、にいさまは「さすがは俺の妹だ」と喜んでくれた。

「……ちと、体を動かしてみるか」

 独白した後、闇華は苦笑した。リヒトはにいさまに似ているが、兵を叩きのめす女を好むとも思えない。少なくとも、彼が「愛している」エルウィージュは、性格や言動はともかく所作は優雅だし、やや腺病質に見える。もう一人の「愛している」の対象、アレクシアも、闊達だが、武芸は嗜まないだろう。

「……にいさまではなく、リヒト様の妃になるのだものな」

 だから、にいさまが好んでくれた闇華も、リヒトが好まないなら封じる。好んでくれるなら、見せるけれど。

「……聖」

 声に魔力を込めて呼べば、控えの間から聖が入ってきた。

「にいさまは、動かれるか」
「いいえ。此度のことは、ヴェルスブルクのこと。神竜王陛下とアレクシア様がお戻りのことも、と」
「ふふ。にいさまではなく、蓮汎の言いそうなことよな。そう、それでよい。今、下手にこの国に手出ししては、エルウィージュに喰らわれる」
「それは、お伝え致しましょうか?」
「よい、いらぬ。にいさまも蓮汎も、先刻承知であろうよ」

 この国に、今はアレクシアがいる。
 内紛に近い国だと侵略の手を伸ばせば――精霊よりも儚く、戦神よりも苛烈な月光の妖精に喰らわれる。エルウィージュは、アレクシアへの僅かな害意も赦さない。
 それゆえに、闇華は不安になる。
 あの、常軌を逸しているほどの執着ぶりが、余すことなく臣下達――特に、リヒトに反感を持つ輩に知られたら。
 今度は、アレクシアが狙われる。エルウィージュへの牽制として。

「そのこと、エルウィージュはわかっておるのかの……」
「神竜王陛下の召喚者に、手を出す者がおりましょうか?」
「聖。アレクシアを、どういう形であれ手中にすれば、その言葉で以て先代様を操れると、阿呆共は考えるだろうよ」
「……闇華様?」
「例えば、妾の名を使う。アレクシアに、一人で来てくれと使いを出す。誰にも知らせるなと念押ししてな。あれは素直すぎる、先代様にもエルウィージュにも言わずに宮を抜け出そう。そこを捕えればよい。優しい気質ゆえ、どこぞの子供を虐げているように見せかけて、それを止めに来たところを押さえるのもよい。方法など、いくらでもあるわ」

 神竜王の加護も、エルウィージュの過剰なまでの保護も。
 あの姫自身の意志ひとつで、無効になるのだ。そして、あの素直すぎる少女は、バシュラール侯爵とシェイエルン公爵が没落寸前で救いを求めれば、受け入れてしまいかねない。

「……王女殿下に、御忠告なさいますか?」
「妾の言葉を聞き入れてくれようかの。アリーはわたくしが守ります、あなた様に言われるまでもありません、と言われる未来しか思いつかんぞ」
「申し訳ございません。否定できかねます」
「どなたの言葉であれば、エルウィージュは「忠告」を聞いてくれようか」
「闇華様は、どうしてそこまで王女殿下に御忠告なさりたいのですか?」
「未来の義妹じゃ。仲良うなりたい。リヒト様が愛しく想っておいでの妹じゃ。妾も愛しく想いたい」
「……聖の、独自の調べでよろしければ、お一方だけ、心当たりはございます」

 控えめで、出しゃばることのない聖が、闇華の指示なく「何か」を調べていたと言う。そのことに軽く驚いて視線を向けると、聖は深く頭を下げた。

「差し出た真似とは存じておりますが。ここはお国シルハークではございません。闇華様に万一の危険もないようお守りせよと、国王陛下からも直々にお言葉を賜りました。蓮汎様は、「手足であるのもよい。だが、時には指示を待たずに動け」と」
「……後半はちと癪に障るが、にいさまのお気持ちは嬉しい。それで、聖。どなたにお頼みすれば、エルウィージュは妾からの忠告を聞き入れてくれる?」

 闇華の問いに、聖は短く答えた。

「大神官、レフィアス様にございます」
「大神官? あの、えらく神々しい老爺か?」
「はい。王宮、神殿、貴族の令嬢方、すべてに大変人気の高い御方で……「ふぁんくらぶ」なるものがございます。それを統括なさっている「会長」がアレクシア様で、「副会長」が王女殿下です」
「ふぁんくらぶ、とは……?」
「親衛隊のようなものかと。……私も、入会致しました……」
「そなた、年上好みであったのか?」
「あのような御方であれば」

 ぽっと頬を染めた聖は、明らかに「恋する乙女」だ。つい先日まで、にいさまに恋していた闇華にはわかる。これは本気だ。本気で、聖はレフィアスに恋している。……何十歳差だろうか。
 腹心の恋を応援してやりたい気持ちもあるので、闇華は、レフィアスへの面会の申し入れを頼んだ。

「……聖が、あのように弾んだ足取りになるとはのう……」

 いつも足音を立てない聖が、浮かれさざめく心を抑えきれないように、軽やかな足取りで大神殿に向かうのを、闇華は驚きと感嘆で見送った。
 
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