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二章
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「…ノア出てきていいぞ。」
ガイが天井に声をかければ音もなく青年が降りてくる。
「なぜ分かったんですか?」
上手く隠していたはずだ。
アルベルトに出した履歴は完璧だった。
それに、自分は死んだことになっている。
それなのに、この人はガイアス殿下と言った。
「僕を甘く見てもらたら困るな。これでも、国王の右腕はしてないよ。」
アルベルトは今までに見たことがない怪しい目をしていた。
何を考えてるか全くわからない。
ガイは情けなくも怖いと思ってしまった。
ははは、手が震えてる。
情けないな。
「どうして、気づかないふりをしていたんですか?」
この人なら、きっと早くから気づいていたはずだ。
なのに、そんなそぶりは全く見せなかった。
「様子を見ていたのもあるけど。だって君、もうカトレアに捕まっちゃてるからね。何もしない。と言うか何もできないだろう?」
ガイは何も言い返すことができない。
その通りだからだ。
「だからって、君があの子を傷つけないとは限らない。君の意思じゃなくて、君の立場によってね。」
「俺は…捨てたんです。国も家族も」
捨てたじゃなく捨てられたのか。
「ガイアス殿下、それは!」
黙って様子を見ていたノアが口を開く。
「貴方のせいではないです。国王とあの女が……。」
「ノア!黙れ。」
ガイは次の言葉を制止する。
「……口が過ぎました。申し訳ございません。」
ノアは口を閉じ一歩下がる。
しかし、その目はまだ何か、言いたそうにガイを見つめている。
「ガイ。あの子は優し過ぎる。」
「はい。」
知っている。痛いほど思い知ったから。
カトレア様は優し過ぎる。
そして、何かに怯えている。だから、最後まで守る存在でありたかった。
「あの子は、気づかないうちに心の傷を見つけて癒そうとする。自分が傷ついてもだ。だから、あの子はどんなに危険でも大変でもそこに困っている人がいたら助けようとする。お節介で落ち着きがない。全く誰に似たんだろうね。」
アルベルトは苦笑いを浮かべそれでもその瞳は何処までも暖かく愛おしそさに満ちている。
「ガイ、何があったか話してくれるか?場合によってはカトレアの元から姿を消してほしい。意地悪で言っているのではないと君なら分かってくれるだろう。」
ガイは手に爪が食い込むほど握りしめる。
こんな事になってやっと気づくなんてな。
俺はあの人を、主人として見ていたんじゃい。
1人の女性として見ていたんだ。
助けたいと支えたいと思ったのも、主人に誓う忠誠じゃなく、好きな人に誓う愛情だった。
今ならまだ離れられる。
忘れることはできないけど、長い時間をかけて思い出になら…できるはずだ。
ガイはゆっくりと過去の自分の話をしていく。
ガイが天井に声をかければ音もなく青年が降りてくる。
「なぜ分かったんですか?」
上手く隠していたはずだ。
アルベルトに出した履歴は完璧だった。
それに、自分は死んだことになっている。
それなのに、この人はガイアス殿下と言った。
「僕を甘く見てもらたら困るな。これでも、国王の右腕はしてないよ。」
アルベルトは今までに見たことがない怪しい目をしていた。
何を考えてるか全くわからない。
ガイは情けなくも怖いと思ってしまった。
ははは、手が震えてる。
情けないな。
「どうして、気づかないふりをしていたんですか?」
この人なら、きっと早くから気づいていたはずだ。
なのに、そんなそぶりは全く見せなかった。
「様子を見ていたのもあるけど。だって君、もうカトレアに捕まっちゃてるからね。何もしない。と言うか何もできないだろう?」
ガイは何も言い返すことができない。
その通りだからだ。
「だからって、君があの子を傷つけないとは限らない。君の意思じゃなくて、君の立場によってね。」
「俺は…捨てたんです。国も家族も」
捨てたじゃなく捨てられたのか。
「ガイアス殿下、それは!」
黙って様子を見ていたノアが口を開く。
「貴方のせいではないです。国王とあの女が……。」
「ノア!黙れ。」
ガイは次の言葉を制止する。
「……口が過ぎました。申し訳ございません。」
ノアは口を閉じ一歩下がる。
しかし、その目はまだ何か、言いたそうにガイを見つめている。
「ガイ。あの子は優し過ぎる。」
「はい。」
知っている。痛いほど思い知ったから。
カトレア様は優し過ぎる。
そして、何かに怯えている。だから、最後まで守る存在でありたかった。
「あの子は、気づかないうちに心の傷を見つけて癒そうとする。自分が傷ついてもだ。だから、あの子はどんなに危険でも大変でもそこに困っている人がいたら助けようとする。お節介で落ち着きがない。全く誰に似たんだろうね。」
アルベルトは苦笑いを浮かべそれでもその瞳は何処までも暖かく愛おしそさに満ちている。
「ガイ、何があったか話してくれるか?場合によってはカトレアの元から姿を消してほしい。意地悪で言っているのではないと君なら分かってくれるだろう。」
ガイは手に爪が食い込むほど握りしめる。
こんな事になってやっと気づくなんてな。
俺はあの人を、主人として見ていたんじゃい。
1人の女性として見ていたんだ。
助けたいと支えたいと思ったのも、主人に誓う忠誠じゃなく、好きな人に誓う愛情だった。
今ならまだ離れられる。
忘れることはできないけど、長い時間をかけて思い出になら…できるはずだ。
ガイはゆっくりと過去の自分の話をしていく。
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