転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

180話 恐怖の魔獣と、無邪気な冒険心

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 勢いよく甘えるように抱きついてきたシオンをしっかりと受け止めながら、レイニーは転移魔法を発動させた。次の瞬間、二人は闇の世界の広大な大地に降り立った。目の前には、荘厳で威圧感のある魔王城がそびえ立っている。その黒い石造りの城壁は、長い年月を経てもなお圧倒的な存在感を放っていた。

「ここが……魔王城の近くかぁ。」

 レイニーは周囲を見渡しながら呟いた。広がる闇の世界の景色は、どこか不気味でありながらも美しさを感じさせる独特の雰囲気を持っていた。

 一方、シオンはレイニーの隣でにぱぁぁと笑顔を浮かべていた。

「レイニーさまと二人で、お出かけだぁ……」と、瞳を輝かせながら言葉を漏らす。その表情には、レイニーを独占できる喜びが溢れていた。

「そういえば、魔界だか闇の世界に何度か来たけど……探索をしたこともないなぁ。強敵とかいるのかなぁ~」

 レイニーは軽く呟きながら周囲を見渡した。とはいえ、戦いに来たわけではなく、ストレス発散が目的だった。周りを気にせずに魔法を放ち、暴れたいという気持ちが強かった。

 発言通り、このあたりの土地勘がないレイニーは、何となく強そうな気配を感じる方向へと歩き出した。目の前には鬱蒼とした森が広がり、その奥からは不気味な気配が漂っている。

「わっ、確かそちらは……ダメですよぅ!」

 シオンが慌てた様子でレイニーの服を掴み、引っ張った。

「ボクが昔、調子にのって……コレクションとして凶暴な魔獣を飼っていましたが、手に負えなくなって……放った森です。」

 その言葉には、どこか申し訳なさそうな響きが混じっていた。
 

「面白そうな気配がするんだもーん。行くよぅー!」

 レイニーは怯えた感じのシオンを気にせず、服を掴む彼を引きずるようにして森へと足を進めた。その背中からは冒険心と無邪気な興奮が溢れていた。

「ねぇ……シオンくんは、昔の魔王だったんだよねぇ……?」

 レイニーは振り返り、怯えていそうなシオンにニヤニヤした顔を向けながら問いかけた。その視線に、シオンはさらに困惑しながらも答えを口にした。

「……う、うむ、そうだぞぉ……われは、古代から魔王をしていたぞっ。ただ……そいつは、凶暴で言うことを聞かなくて……手に負えなくなったんだってばっ。あぶないよぅ。」

 シオンは一瞬自信を取り戻したかのように堂々と話したものの、魔獣のことを思い出すと途端に表情が曇り、足取りも重くなってしまった。

 その様子を気にする素振りも見せず、レイニーはどんどん森の奥へと進んでいく。鬱蒼とした森の中を進むにつれ、周囲の魔獣から漂う気配が次第に強まっていった。だが、特に気を引いたのは、明らかに異なる気配――圧倒的な存在感を放つ何かが少し先に感じられることだった。

「なんだか……すごそうな気配だなぁ。」

 レイニーは微かに口元を緩めながら呟き、さらに足を進める。その後ろで、シオンは怯えながらも必死に彼の服を掴んでついていく。

「ねぇ、だから……そっちは危ないってばぁ……!」

 シオンの声には焦りが混じり、どこか懇願するような響きがあった。

 その緊張感の中、二人は未知の領域へと近づいていく。何が待っているのか――冒険の先にあるものを知るために、歩みは止まらなかった。

 森の中から、暗黒の世界の守護者ガルムが姿を現した。その巨大な体躯はまるで混沌と恐怖を具現化したような威圧感を放ち、闇の深淵が形を得たかのような存在だった。暗黒の毛皮は光を吸収し、冷たい影を周囲に広げながら、見る者の心に恐怖を植え付けていく。

 その赤い目は燃え立つ灯火のように輝き、見る者を魅了すると同時に魂の奥底へ恐怖を注ぎ込む力を持つ。その光を見つめていると、逃げ場のない絶望がゆっくりと広がっていくかのようだった。口から立ち上る負のオーラは腐敗した闇の世界を象徴し、鋭い牙が堕ちた星の破片のように光を放ちながら死を予感させる。

 その鋼のような硬度を持つ爪は、闇の世界の裂け目を簡単に切り裂くほどの力を示しており、その傷跡は時間の流れすら止めるような強大さを語っていた。首に巻かれた鎖は支配者たちによる封印を象徴し、その錆びと血は数々の犠牲者の歴史を物語っている。

 ガルムの咆哮が響き渡ると、闇の世界全体がその音で震えた。虚空を震わせるその咆哮は命ある者の心を震撼させ、ガルムの威厳がただの魔獣ではなく、闇の世界の恐怖そのものであることを示していた。

「ふーん、きみ……カッコいいねぇ♪ どーしたの? 寂しかったとかぁ?」

 レイニーはその場に立ち止まり、ガルムを不敵な笑みで見つめながら話しかけた。一方、ガルムは敵意や殺意を放っていたが、レイニーの不思議なオーラに興味を示し始めていた。

 レイニーもその違和感を感じ取り、「オーラを消していたはずなんだけどな……それでも興味を持つなんて、面白いやつだな。」と心の中で思いながらガルムの反応を観察していた。

 森の中での緊張感は一層高まり、二人の間には未知なる何かが広がり始める予感が漂っていた。
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