転生したら王族だった

みみっく

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第二章 ‐ 迫害と対立と交流と絆

94話 ドラゴンの襲撃

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「だいじょうぶっ。ね、アシュテリア?」
 レイニーは自信たっぷりの表情で隣にいるアシュテリアに目を向けた。そのニヤリとした笑みに、アシュテリアは視線を逸らした。彼女は以前、寝ぼけながら攻撃を仕掛けた時のことを思い出しているのだろう。

「うん。レイニーくんなら問題ないのです。それくらい簡単に制圧できますし、必要ならば……消し去ることも可能なのです。」
 アシュテリアはわずかに怒りを含んだ声で答え、その視線をダミエンに向けた。「あなた……この状況を見ても、理解できないのですか? バカなのですか? バカなのですね……っ。もぉ、知らないのですっ!」
 彼女の目は怒りに染まるように赤く輝き、口元からは微量のヘルフレイムの炎が漏れ出ていた。過去の出来事を蒸し返されたことで、アシュテリアの苛立ちは明らかだった。

 アシュテリアのヘルフレイムの炎を目にした瞬間、俺はふと外で待つ兵士たちへの注意をすっかり忘れていたことを思い出した。

「まあ、よほどの恐れ知らずか、それとも単なるバカじゃなければ、あのヘルハウンドにちょっかいを出したりすることはないですよね……。撫でようと触れようとしたら、骨までヘルフレイムの炎に焼き尽くされますから。外で待つ兵士たちに、いちおう注意を伝えてくださいねっ。誤ってヘルハウンドを攻撃したら敵だと認識されるかもしれませんし、そんなことになれば……兵士は全滅してしまう可能性がありますしぃ……」
 俺は軽い口調で警告を投げかけたものの、その言葉に潜む現実味を感じ取ったダミエンは、目を見開きながら大慌てで外に向かい、兵士たちを集めて警告を伝えた。

 しばらくして戻ってきたダミエンは、深いため息をつきながら肩を落とし、顔色を悪くした様子で椅子に座り込んだ。その姿は、この村が抱える異常な状況を徐々に理解し始めた証でもあった。

「ん? どうしたんですかぁ……?」
 レイニーは可愛らしく首を傾けながら、隣で寝息を立てるミアの頭を優しく撫でつつ尋ねた。

 ダミエンは眉間にしわを寄せ、少し苛立った様子で答えた。「いや、本当に危ないところでした。その……馬鹿な兵士たちが度胸試しと称して、ヘルハウンドに触れるというゲームを始めていたんです。まったく……」
 ダミエンの声には怒りと焦りが滲んでいた。彼は帰ったら厳罰を与え、徹底的に再教育を行う決意を固めていた。

 その時、セラフィーナが顔色を変えたまま、慌てた様子で近寄ってきた。彼女はそっとレイニーの耳元で小声で告げる。「あ、あの……レイニー様。ヘルフレイムワイバーンからの連絡なのですが、ドラゴンがこちらへ向かっていると。」

 レイニーはセラフィーナの言葉を受けて少し考え込みながら答えた。「あ、うん。なんの用だろうね?もしかして、この辺りにドラゴンの巣でもあるのかなぁ?」
 
 彼は結界の外の様子を確認した。その結果、ドラゴンが明らかにこの村を目指していることがわかった。無秩序の森の上空を荒々しく突き進み、その存在からは敵意がむき出しになっているのが感じ取れた。――あぁ、これって縄張り争いの類か?ドラゴンの気配を察知して怒り出した感じなのかな……

 ミアが俺に寄り掛かり、安心しきった表情でスヤスヤと寝息を立てている。その姿を起こさないようそっとクッションを枕代わりにして、俺は外の様子を確認するため静かに立ち上がった。

 結界の外へと視線を向けると、そこには今まで見たどのドラゴンよりも巨大な姿があった。体躯の影が森の木々を覆い尽くすほどの圧倒的な存在感――その赤く輝く目は、まるで闘争本能そのものが形を成したかのように感じられた。怒りの波動が空気を震わせ、結界の中にいる俺でさえそのオーラと威圧をひしひしと感じるほどだ。

「こわいこわい……そんなに怒らなくても良いのに。」
 俺は思わず胸中で呟いた。
 
 お客さんが来ている以上、派手な魔法を使うわけにはいかない。目の前の状況は厄介だけど、必要以上に怖がらせたり、大ごとになって目立つのは避けたいところだ。最悪、恐れられた挙句に外交を拒絶される覚悟も……まあ、しておくしかないよなぁ。

「はぁ……えいっ! えいっ!」
 レイニーは可愛らしい仕草で魔法を放つ。宙を舞うのは、ボーリングの玉ほどの大きさの魔力弾。狙いを外し、ゆっくりとした弾速で放たれるそれは、「バシュッ!」という音と共に空を切り裂いていく。音こそ派手だが、威嚇のみに留めるつもりだ。

 とはいえ、見た目の威圧感は否めない。無詠唱で放つクーリングタイム無しの魔力弾、しかもその規格外の大きさ――その光景を目にしたダミエンは目を見開き、動きを止めた。戦略司令官として魔術師の技量を熟知している彼にとって、これはあまりに想定外だったのだろう。

 ほんの少し前、ヘルフレイムドラゴンのアシュテリアが「簡単に制圧できる」と言っていた言葉に疑問を抱いていた彼だったが――今、この瞬間、その意味をようやく理解したかのようだった。

 屋敷の外へと出てみると、他の者たちも集まっていた。俺は少し困った表情を浮かべながら彼らを見回し、「あの……ドラゴンと知り合いだったりしない?縄張り争いっぽいけど……やめてくれないかなぁ……どうしよ?」と問いかけた。
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