転生したら王族だった

第二章 ‐ 迫害と対立と交流と絆

１１５話 村の初めての外交＿１

　朝の朝食後、アリシアは大きな書類の束を抱え、自分の部屋と応接室を忙しそうに行ったり来たりしていた。彼女の足取りは急ぎ足で、その真剣な表情からは集中している様子が伺えた。

「なんだか忙しそうだね？」と、呑気な声でアリシアに声をかけた。

　アリシアは立ち止まり、ムスッとした表情でこちらを見つめた。「むぅ……えっと～、誰の代わりに外交をしてると思っているのですかー？」

　その言葉に、つい笑みがこぼれた。アリシアは仲良くなると、こちらの面倒な頼みごとを快く引き受けてくれるため、少し甘えすぎているかもしれない、と反省した。

　アリシアはムスッとしながら、話を続けた。「あのですね、私はグリムファング王国の戦略指揮官の娘なんですけど？　自分の王国の外交官と外交をするって、おかしいと思いませんかぁ？」

「えへへ……でも、自分の王国だから、アリシアが一番詳しいし、適任なんじゃないかなぁ～」と軽い調子で笑顔を返した。

　アリシアは深いため息をつき、少し呆れたように言葉を返した。「はぁ……どうなっても知りませんよ？　お父さまから『厳しい外交官だ』と注意されましたし、それに自分の王国のこととなると、ひいきをしちゃうかもしれませんからね。」

　彼女は呆れた表情を浮かべつつも、その態度にはどこか頼りがいが感じられる。こうして、今日もアリシアの奔走する姿は、村の平和を支える一部となっているのだった。

「アリシアが、俺の村に不利な事をするわけないじゃん～♪」と、軽い調子で声をかけた。だが、ふと疑問がよぎる。

『厳しい外交官ってどういうことだ？　外交するのに厳しいって……なんだかおかしい気がするぞ。グリムファング王国はそんなに魅力的な国なのか？ それとも、強大な軍事力か財力が背景にあるのかな？もしくは、貴重な素材や品物が多いとか？ ……いや、軍事力はそこまで大したことなさそうだけどな。実際、装備を見た限りじゃ、うちの王国の方が質がいい気がするし……。』

　疑問を巡らせている間にも、アリシアは忙しそうに書類を整理していた。

「だと良いですね～。」と、彼女は少し投げやり気味に返事をしながら、再び歩き始めた。その声には若干の疲労感が滲んでいる。

「ああ、それと。」と足を止めて振り返り、「午後からは龍王国の外交官もいらっしゃいますので、そちらの準備もあります。忙しいので、失礼しますね。」と言い残すと、再び慌ただしく応接室の方へ去っていった。

　残された自分は、アリシアの背中を見送りながらぼんやりと思考を巡らせていた。

『アリシアだけだと、人間の娘だし、外交相手から舐められるかもしれないなぁ。他の王国からもこれから外交官が来る可能性もあるし……。ここは、外交が得意そうなルミエールをつけるのがいいか。彼女なら人見知りもしないし、友好的な態度をとれる。それに、ドラゴンだし、何よりウソを見抜く能力を持っているしね。』

　そう考え、ルミエールに相談してみると、彼女は「わかりました。お手伝いしますね」と軽く引き受けてくれた。頼りになる存在だ。

　その後、グリムファング王国の外交官が王国軍の兵に護衛されて到着した。連れの外交官が3人ついているが、どれも悪そうな人相だ。こんな人物たちを外交官にするとは、グリムファング王国の意図が読み取りにくい。

　ルミエールも表情を曇らせながら、小さく眉をひそめる。「ちょっと嫌な感じですね……。」

　到着した偉そうな外交官が、大声で話し始めた。「いやぁ……無秩序の森と聞いて恐れていましたが、思ったより大したことがなくて安心しました。あっははは……」

　完全に無秩序の森を舐めた発言に、場の空気が少し険しくなる。外交官たちの態度からは驕りが見え隠れしていた。

　それを聞いたルミエールはじっと外交官を見つめた。彼女は自身のスキル『真実の眼』を発動し、彼らの内情を探る。そして、静かに小声で呟いた。「わぁ……この人たち、レイニー様が渡した通行証のおかげで最低級の魔物を倒して、調子に乗っているだけですね。」

　その分析に、自分も小さくため息をついた。『あぁ……無秩序の森で、通行証すら理解できない最下級の知能を持つ魔物を倒したことで、自分たちの実力だと勘違いし、無事にたどり着いたから余裕だと思っているのか。まあ……どうでもいいけどさぁ。』

「そうですか。お疲れ様でした。さっそくですが……お話を致しますか？ それとも、少しお休みになられてからにしますか？」アリシアが丁寧に問いかけた。彼女の声には、外交の場にふさわしい落ち着きが感じられる。

　しかし、グリムファング王国の外交官は不満げに呟いた。「……おもてなしは無しですか？」

『ん？……村からお願いして外交をしてもらっているわけじゃないぞ。グリムファング王国が望んで外交官を送り込んできたんだろ。むしろ、この場合だと相手が普通、手みやげを持ってくるんじゃないのか？ 俺たちが完全にナメられてるじゃん……。』

　そんな考えが頭をよぎる中、隣にいたルミエールが小声で呟いた。「あぁ……この人たち、可愛い娘とお酒を飲んで、エッチなことをしたいみたいだよ。サイテーだね。」彼女の顔には嫌悪感が浮かんでいる。

　その言葉に、思わず眉をひそめた。『なんだそれ……。外交官としての品位も何もないじゃないかぁ。』