転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

154話 火球に怯えた兵士

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「ね、ねぇ~。おすすめの宿屋ってないの?」俺は少し遠慮がちに護衛兼案内役の兵士に声を掛けた。

 兵士は俺をちらりと見ると、ぎこちない笑みを浮かべながら答えた。「え? そ、そうですね……」その態度からして、どうやら俺の魔法を目の当たりにしたことで、完全に怯えているようだった。

 それでも兵士はしっかりと案内役を務め、無事に宿屋へと連れて行ってくれた。その途中も、兵士は終始緊張した様子を隠せず、俺を見るたびに小さく目をそらしていた。

 宿屋に着くと、案の定、兵士は遠慮がちにその場を離れようとした。しかし、怯えさせてしまったお詫びも兼ねて、俺は軽く声を掛けた。「せっかくだから、夕食でも一緒にどう? お前も疲れたろ?」

 兵士は驚いたように目を見開き、一瞬言葉に詰まったが、しばらくして小さく頷いた。「は、はい……! ありがとうございます!」その声には緊張と安堵が入り混じっていた。

 夕食の席では、最初こそぎこちなかったものの、話しているうちに兵士の態度も次第に柔らかくなっていった。料理を口に運びながら、彼の故郷や家族の話を聞いたり、俺の旅のエピソードを語ったりしていると、笑い声も漏れるようになり、いつの間にかすっかり打ち解けていた。

「いやぁ、正直あの火球にはビビりましたけど……意外と、楽しい方なんですね!」兵士が笑いながら言うと、俺も思わず苦笑いを返しながら肩をすくめた。

「えぇー!? 意外とってなんだよぅ~。これでも、可愛いって言われてるんだけどぉ。」おどけたようにそう言うと、兵士は一瞬ぎょっとした顔を見せたが、すぐに慌てて手を振りながら答えた。

「意外とは余計でしたね! この後も、しっかりと護衛を務めさせていただきます!」兵士は緊張が解けたのか、笑顔を浮かべながら力強く宣言してくれた。その言葉には、先ほどまでのぎこちなさは消え、自信と安心感がにじんでいた。

「おっ、それなら頼りにしてるよっ♪」俺は軽い調子で答えつつ、夕食を共に楽しむ和やかな時間を過ごした。

 こうして、俺たちは仲良くなり、短い時間の中でも親しみを感じられる関係が築けた。宿屋の明かりが灯り、穏やかな夜が更けていった。

 夜の静けさに、暇を持て余していた俺は護衛の兵士に声を掛けてアリシアの屋敷の場所を聞き出し、案内をお願いしてみた。

「いや、えっと……夜中に女性を訪ねるのは……それに、戦略指揮官のお屋敷ですよ?」護衛の兵士は再び緊張した表情を浮かべ、言葉を詰まらせながら答えた。

 その反応に、俺は肩をすくめながら小さく息をついた。護衛の兵士は知らないだろうけど、戦略指揮官のダミエンとは仲が良いし、アリシアとは共に暮らしている仲でもある。問題ないと思うのだが……。でも、もし拒絶されたらショックだよなぁ。

 護衛は困惑しながらも、なんとか案内を引き受けてくれたようだった。俺が少し急かすと、彼は緊張した様子を隠せないままゆっくりと足を進めていった。静かな夜の道を進む中、月明かりが照らす街並みが静寂の中に溶け込んでいた。

「まぁ、さすがにアリシアなら笑い飛ばしてくれるだろ。それに当主は、ダミエンだろ?」と心の中で呟きながら、屋敷への道のりを楽しむことにした。

――・◇・――・◇・――・◇・――・◇・――・◇・――

 父のダミエンは、久しぶりのアリシアとの再会を心から喜び、リビングで親子水入らずの食事を楽しんでいた。話題は自然と無秩序の森に移り、親子でその地の話に花を咲かせていた。ダミエンは自身の忠誠心から、森とレイニーの村を守る重要性を力説し、アリシアも笑みを浮かべながらそれに応じていた。

 そんな穏やかなひとときの中、執事が静かに現れ、どこか気まずそうな表情でダミエンに声をかけた。「……旦那様、アリシア様への訪問客が……いらしているのですが。」

 ダミエンの眉がピクリと動く。「何を言っているのだ? こんな夜中に訪問客だと? そんな約束があるのか? 女性を夜中に訪ねてくる者だなんて……一体誰だ?」不機嫌そうにアリシアへ視線を向ける。

 アリシアは不満げな顔を見せつつも執事を見つめ、「知りませんけど……誰なの? どんな方なの?」と尋ねた。

 執事は少し言葉を詰まらせながら答える。「金髪の可愛らしい……少年かと。話す感じから……アリシア様ととても仲が宜しい方だと感じましたので。ご報告に参りました。伝言がありまして……その、『アリシア、寂しいから一緒に寝よー♪』とのことです。」執事は怯えるように顔を伏せた。

 その言葉を聞いてアリシアは一瞬呆然としたが、すぐに大きなため息をつきながら、小さく微笑みを浮かべる。「あ、レイニーくんかしら……いえ、レイニーくんですね。」

「……あ、アリシア……お、お前は未婚の女性なのだぞ。だが、まあ……あの方に好かれるのは光栄なことだ。」ダミエンは娘を見つめながら、注意する口調で言ったが、一瞬考え込むような素振りを見せてから言い直した。「失礼のないように振る舞うのだぞ。」 

 しばし沈黙した後、ダミエンは続けて言葉を紡ぐ。「丁重にご案内して……いや、出迎えに出るべきだな。アリシア、一緒に出迎えに行くぞ。」その口調は少し威厳を取り戻し、リーダーとしての責任感を覗かせていた。

 アリシアは父の言葉に一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに口元に笑みを浮かべた。「まあ、父さんらしいですね。じゃあ、一緒に行きましょう。」彼女は楽しげな様子を隠そうとせず、席を立った。

 ダミエンはその様子に少し照れくさそうにしながらも、すぐに姿勢を正し、彼女と共にリビングを後にした。「よし、行くぞ。きちんと迎え入れる準備をしなければ。」 

 父娘はリビングを出て、訪問者に向けた出迎えの準備を整えていった。その姿には、久しぶりの親子の連携とダミエンの頼もしさが感じられた。
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