転生したら王族だった

第三章 ‐ 戦争の影

１５３話 極大の火球

　俺は軽く笑いながら、「大丈夫だってば～♪」と返しつつ、怯える兵士たちに歩み寄った。その動作に兵士たちは後ずさり、さらに恐怖をあらわにしていく。

「ねぇ～。まだ続けるのぉ？ 次はぁ～当たっちゃうかもぉ♪ 武器を向けて……宣戦布告してきたのって、そっちだよね？ 命のやり取りをする覚悟出来たってことだよね。」俺は可愛げな口調で問いかけながら、その場の緊張感をさらに高めた。

　兵士たちは顔を見合わせ、汗を滲ませながら動揺を隠せない様子だった。やがて、偉そうな兵士が震える声で答えた。「……お、俺たちは、よそ者を王国内に入れるなと……命令を遂行しているだけだ！ 好きで戦闘をしているわけじゃない！」

　その言葉が響く中、警鐘がさらに鳴り響き、更に兵士たちが次々と駆けつける。まるで戦争が始まるかのような緊張感が町全体を包み込んでいた。集まった兵士たちも放たれた火球の圧力に圧倒され、動く気配を見せることなく硬直している。

　そのとき、人混みの中から、隊長クラスよりもさらに上の立場と思われる男が姿を現し、アリシアに向かって慌てた声を投げかけた。

「……アリシア様！？ ど、どうされたのですか？」その言葉を聞いた瞬間、周囲の兵士たちは動揺しつつも隊列を整え始めた。どうやら、ようやくアリシアの存在に気づいたようだ。

　アリシアはその場で腕を組みながら、冷ややかな視線を男に向ける。「この状況を見て分からないの？ わたしがここに来たというのに、兵士たちは無礼極まりない対応をしてくるし……まったく、どういう教育を受けているのかしら。」

　その男は慌てた様子で手を上げ、力強く声を響かせた。「警鐘をやめろ！ その御方は正真正銘、我々の上官……戦略指揮官の御息女、アリシア様だぞ！」

　その言葉は周囲の兵士たちに衝撃を与えたようで、一瞬にして場の空気が変わった。警鐘はすぐに鳴り止み、兵士たちは手にしていた武器を一斉に下げた。しかし、彼らの顔色はさらに悪くなり、青ざめた表情でアリシアを恐る恐る見つめている。

「アリシア様だと……？」兵士たちは互いに囁き合いながら、どう対応すべきかを決めかねている様子だった。

　その場を支配していた緊張感が一気に彼女へと集中した。アリシアは落ち着いた表情を保ちながら、腕を組み、冷静な視線を兵士たちに向けた。「ようやく気づいたようね。ずいぶんと手間をかけさせてくれるじゃない。」その言葉には鋭さが込められていた。

　周囲の兵士たちはもはや口を開くことすらできず、身を固めたまま動けない。先ほどまでの威勢はどこにもなく、ただその場に立ち尽くしているだけだった。

　俺はその様子を見ながら小さく肩をすくめ、「まぁ、さすがアリシアだな。」と心の中で軽く呟いた。この場を収めるのは彼女自身の力で十分だったようだ。

　その後、兵士たちは自分たちの非を認め、アリシアに謝罪を申し出た。アリシアは彼らの謝罪を静かに受け入れると、すぐに冷静に口を開いた。

「謝罪は受け入れるわ。でも、これで終わりではないわよ。まずは馬車を用意してちょうだい。それと、この混乱を早急に収める準備を。」その言葉に迷いは一切なく、アリシアの声には自然と威厳が宿っていた。

　兵士たちは慌てて動き出し、アリシアの指示に従いテキパキと馬車や必要な道具を用意し始めた。指揮官の娘としての存在感を存分に発揮したアリシアは、全体の状況を把握しつつ、必要な手配を的確に指示していく。

　周囲が慌ただしく動き回る中、アリシアは腕を組みながら冷静に指示を続けた。「混乱が広がらないように、情報は限られた者にだけ伝えて。他の兵士たちは通常任務に戻りなさい。そして……王国内の人々に余計な不安を与えないように。」

　指示を受けた兵士たちは素早く行動し、事態はアリシアのリードによってあっという間に収束した。用意された馬車がアリシアの元へ引き寄せられると、彼女は満足そうに頷いた。「これで良し。さぁ、レイニーくん、行きましょう。」

　俺はその様子を少し驚きながら見ていたが、「さすがだな……。」と思わず感心した。彼女の行動力と決断力には、いつもながら目を見張るものがあった。

　無事に城壁を通過し、宿泊施設に到着した頃には、アリシアも少し疲れが見えていた。それでも彼女は毅然とした態度を崩さず、俺に向かって口を開いた。

「わたしの屋敷に向かえば良いんでしょ？ 無理をして宿に泊まる必要なんてないわ。」少し強引にそう提案してくる。

　しかし、俺は苦笑いを浮かべながら軽く首を振った。「久しぶりに帰るんだから、俺は宿屋でいいよ。親子でゆっくり話をしたいだろうしぃ～。」肩をすくめながら軽い調子で言葉を続けた。「さっきのことで疲れただろうし、ゆっくり休みなよ。」

　アリシアは一瞬ムッとしたような表情を見せたが、すぐに深い息をついて笑みを浮かべた。「ふぅ……まぁ、そう言うならそうさせてもらうわ。でも、変な場所に泊まらないでよね？」

　俺はその言葉に軽く手を振り、「分かってるって。心配しすぎだよ。」と返す。

　アリシアは「じゃあ、明日の朝に連絡するから。」と言い残し、軽やかに馬車へと乗り込んでいった。その背中には普段通りの自信と優雅さが滲んでいた。

　俺はアリシアが屋敷に向かう馬車を見送りながら、ようやく一息ついた。「さて、こっちはこっちで宿探しだな……。」周囲を見渡しながら、静かな夕暮れの町並みへと歩みを進めた。