転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

152話 アリシアと一緒でも王国に入れない?

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 アリシアは、その言葉を聞いてすぐに目を細め、鋭い視線を兵士に向ける。「あなた誰よ!? 拘束ですって? 戦略指揮官の娘を拘束? どうなっても知らないわよ! ふんっ!」彼女は一向に引く気配を見せず、その場に堂々と立ち続けた。

「そうか。俺たちの任務は、よそ者の王国への侵入を防ぐことだ。悪く思うなよ!」偉そうな兵士が合図を出すと、周囲の兵士たちが一斉に槍や剣を構え、アリシアへと向けた。緊迫した空気が流れる。

「……まったく。」アリシアは眉をひそめ、困ったように小さく息をついた。しかし、戦略指揮官の娘だけあって、武器を向けられても怯える様子はなかった。ただ、面倒なことになったという表情を浮かべる。

 当然、兵士たちが武器に手を掛けた時点で、俺はアリシアにバリアを張っておいた。何かあっても、一撃で倒されることはないように。

「どーすんのー? 戦闘になっちゃいそうだけどー?」呑気に離れた場所からアリシアに声を掛けた。

 アリシアは俺の言葉にちらりと視線を向けながら、冷静に答えた。「紋章入の短刀や紋章の入った物は……その、ここの屋敷に置いてきちゃってるのよ……。お父さまの迎えを待つつもりだったし……。」

 そりゃそうだ。アリシアは本来、勝手に帰ってくる予定はなかった。アリシアは、潜入して村のことを調べるつもりだったのだから、身元を証明するものを持ち込む訳がない。

 兵士たちはバリアに気づいていないのか、武器を構えたままじりじりと距離を詰めてくる。このままでは、強引に拘束されるか、無理にでも戦うことになりそうだった。

 アリシアは軽く息を吐きながら、再び鋭い声を飛ばす。「ここの隊長を呼びなさいっ! いい加減、無礼も甚だしいわよ!」

 しかし、隊長をすんなり呼んでくるほど素直な兵士がいるはずもない。このまま膠着状態が続けば、事態はさらにこじれそうだった。

「レイニーくんなら、殺さないように戦えるんじゃない?」アリシアがニヤッと笑いながら俺を見つめる。「戦いが起きれば、兵士たちが大勢集まってきて……わたしに気づいてくれるかも……。」

「えぇ……俺が戦うの? めーんどー。」俺は大げさに肩をすくめながら答えた。面倒ではあるが、お偉いさんを呼ぶには戦闘くらいしか手段がないらしい。

 そんなやり取りの最中、兵士の隊長格らしき男が前に出て、嘲るような笑みを浮かべながら言い放った。「これだけの王国兵と、交戦をするつもりなのか? バカか? こちらには戦闘の専門の兵士が30人いるんだぞ?」兵士たちはその言葉に自信満々な表情を見せ、俺たちを侮るような目つきで見てくる。

「あーはいはい。アリシアは、下がってて~交代ねぇ。」俺は軽く手を振りながら告げた。

 アリシアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得したように頷き、「まったく……手間をかけさせるんだから。」と小さく呟いて、素直に離れた場所へ移動する。そして大きなため息をつきながら、俺がどう戦うのかをじっと見守り始めた。

「さて、ちまちま倒してても時間の無駄だし……。」俺は可愛くニコッと微笑みながら、手をゆっくりと上空へとかざした。その瞬間、空気が震え、空間が歪み大きめの火球が生み出される。

 ゴォォォー! と轟音を響かせながら、高温の白っぽい炎が渦巻き、兵士たちへ向かって歩み寄っていく。熱波が周囲に広がり、兵士たちは後ずさるように身構えた。

「れ、レイニーくん!? そ、それ、やりすぎぃ!」アリシアの慌てた声が響いた。

 兵士たちは炎の圧力に恐れを抱いたのか、互いに顔を見合わせる。「な、なんだ……!?」「こんな魔法、常識じゃありえねぇ!」と焦りを見せながら武器を構え直していた。

 俺はそんな兵士たちを見ながら、ニコッと可愛く微笑み、首を傾げながら問いかけた。「え? そう? 戦闘のプロの兵士だって言うから~♪ こんな低級の魔法のファイアショットなんか……余裕で防げるでしょぅ……?」

 兵士たちはその言葉に一瞬動揺したが、すぐに慌てたように叫び声をあげる。「そんな馬鹿げた大きさのファイアショットなどありえるか! お前ら……お、応援の要請を!! 早くしろ!」

 町の警鐘が鳴り響き、奥からさらに大勢の兵士たちが駆けつけてくる。しかし、彼らも空に浮かぶ巨大な火球を目にした途端、足を止めてしまう。大型車ほどの大きさの火球が、熱を帯びてゆっくりと渦巻く様子に、誰もが息を呑んでいた。

 俺は楽しげに肩をすくめながら、「ねぇー? 戦うんじゃないのぉ~? えいっ!」と軽く掛け声をかけ、ゆっくりと火球を兵士たちの頭上へと放った。

 ゴォォォー!と異様な低く不気味に轟く轟音を響かせながら、燃え盛る火球は兵士たちの真上を通過していく。その熱波が周囲に広がり、城壁内の木々の天辺から焦げた煙が立ち上った。

 兵士たちは身をかがめながら、驚愕の表情で火球の軌跡を見上げる。誰もが動くことすらできず、その場で硬直してしまっていた。

 アリシアは遠くから腕を組みながら呆れたように見つめていた。「本当にやりすぎないでよ……後始末が面倒なんだから。」
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