転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

157話 セリーナの初めての感情

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「そうだね。俺に合わせる必要もないよ。だから、無理に合わなくても話さなくても良いんじゃない?」セリーナに興味なさそうな言い方をした。

 セリーナは一瞬、息を呑んだ。黄金色の瞳が戸惑いの色を帯び、プラチナブロンドの髪がわずかに揺れる。彼女にとって、自分に興味を示さない者など存在しなかった。いつも周囲は彼女を讃え、彼女の機嫌を取るのが当然のことだったのだ。

「……は?」彼女は思わず声を漏らし、レイニーをじっと見つめる。いつもなら、彼女の美しさと気品に惹かれ、誰もが跪いて賛美の言葉を送る。それなのに、この少年はまるで何の関心もないかのように淡々としている。

 その対応にムスッとするが、レイニーの事が気になる。初めての反応への戸惑いなのか……レイニーへの関心なのか分からずにいた。

 セリーナは腕を組み、むっとした表情を作る。「ふ、ふん! そっちがそう言うなら、こっちだって話したくないわ!」そう言いながらも、彼女の声にはわずかな動揺が混じっていた。

 しかし、レイニーは特に気にする様子もなく肩をすくめ、「じゃあ、そういうことで」とあっさりと返した。その言葉に、セリーナはさらに困惑を深める。王宮の中では常に彼女が中心であり、誰もが彼女に気を遣っていた。なのに、目の前の少年はまるで彼女の存在が特別ではないかのように振る舞っている。

 彼女は無意識のうちに彼をじっと見つめた。「……この私を、放っておくつもりなの?」と、思わず問いかけた。気づかぬうちに、彼女の中で初めての違和感と、ほんの少しの興味が芽生え始めていたのだった。

「俺、忙しいし……気の合わない相手と話をしている暇ないんだよね。周りに可愛くて俺のために一生懸命働いてくれる女の子もいるし。」レイニーが夜空を見上げて思い出すように呟いた。

 セリーナはその言葉に心の奥がざわつくのを感じた。黄金色の瞳が揺れ、プラチナブロンドの髪が月光を受けて微かに輝く。彼女はこれまで、誰かに嫉妬するという感情を抱いたことがなかった。だが、今、胸の中に広がるこのモヤモヤとした感覚が何なのか、彼女自身も理解できずにいた。

「……ふん、そんな子たちなんてどうせ、あなたのことを本当に理解してるわけじゃないでしょう?」セリーナは少し震える声で言い返し、腕を組んでそっぽを向いた。その表情には、わがままな王女らしい強がりと、初めて味わう感情に戸惑う少女らしさが入り混じっていた。

 レイニーはそんな彼女の反応に気づいているのかいないのか、相変わらず淡々とした態度で夜空を見上げたままだった。「まぁ、どうだろうね。でも、俺にとってはそれで十分なんだよ。」

 その言葉に、セリーナの胸の中のモヤモヤはさらに膨れ上がった。彼女は無意識のうちにレイニーをじっと見つめ、何か言い返そうと口を開きかけたが、言葉が出てこない。代わりに、彼女の中で「この少年を独占したい」という初めての感情が静かに芽生え始めていた。

「……あなた、本当にそれでいいの?」セリーナは小さな声で呟いた。その言葉は、彼女自身にも問いかけるような響きを持っていた。彼女の中で、これまでの自分とは違う何かが動き出しているのを感じていた。

 「良いんじゃないの? どうせ俺は明日には、この王国を出るし。」レイニーは、セリーナの方を向き笑顔で言ってきた。

 セリーナはレイニーの言葉に目を見開き、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。焦り、不安、そして恐怖――これまで経験したことのない感情が一気に押し寄せ、彼女の黄金色の瞳が揺れる。彼女はその場に立ち尽くし、何かを言おうと口を開いたが、言葉が出てこない。

「……明日、この国を出るって……本気なの? もう少し滞在を……」彼女は震える声で問いかけた。その声には、普段のわがままな王女らしさではなく、どこか幼い少女のような純粋な感情が滲んでいた。

 レイニーはそんな彼女の様子を見ても特に動じることなく、軽く肩をすくめて微笑んだ。「うん、本気だよ。俺にはやることがあるし、ここに長居する理由もないからね。」

 その言葉に、セリーナの胸の中でモヤモヤとした感情がさらに膨れ上がった。彼女は自分の中で湧き上がる「引き留めたい」という思いを抑えきれず、必死に考えを巡らせた。今のままでは、彼が本当に自分の前からいなくなってしまう――その未来が容易に想像できた。

 せっかく出会えたこの奇跡を逃しても良いの? もう二度と会えないかもしれない。という思いが溢れてきた。

 セリーナは深く息を吸い込み、いつものわがままな態度を少しだけ抑え、慎重に言葉を選んだ。「……だったら、せめて今夜くらい、私と話してくれない? あなたがどんな人なのか、もっと知りたいの。」

 その言葉には、彼女の中で芽生えたばかりの『独占したい』という感情と、初めての素直さが込められていた。彼女の黄金色の瞳は、どこか不安げにレイニーを見つめていた。彼女にとって、この瞬間は自分自身の殻を破る小さな一歩だったのかもしれない。
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