転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

168話 フィオナのお出迎え

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 困惑していた衛兵をジロッと睨むように見つめたフィオナ。透き通ったブルーの瞳に、冷やりとするような鋭さが宿る。「あなた、もしかして私のレイニーくんを捕らえるつもりだったの?」彼女の声は低く、静かだが、その言葉には圧倒的な威厳が込められている。

 衛兵はその言葉に一瞬息を呑み、固まった様子を見せた。周囲の近衛や従者たちも息を飲みながら、彼女の突然の態度に驚いていた。

 普段でもあまり感情を見せることが少なく、冷たい表情をしている。だが今回は、それに加え大切な者を傷つけられそうになり怒りが混ざったような冷たい視線と口調に震えた兵士たち。

「次は、ないから! わかった?」フィオナはさらに鋭い声で言い放つと、ふんっとそっぽを向いて優雅に髪を翻した。その仕草に、幼いながらも王女としての威厳と風格を感じさせるものがあった。

 衛兵はその場に立ち尽くしたまま、額に冷や汗を滲ませながら弱々しく頷いた。「は、はい……申し訳ありませんでした。」

 フィオナはそんな彼らにもう一度冷たい視線を送りつつ、レイニーの手を握り直した。彼を安心させるように、ほんの少しだけ柔らかな笑みを浮かべながら。「さ、レイニーくん。行きましょう。」と、あくまで優雅な態度で言い、歩き出した。

 フィオナと共に応接室へと移動してきた。

 レイニーとフィオナが並んで座るのは、いつもと違う光景だった。普段のフィオナなら、向かいのソファーの隅っこに腰掛け、つまらなそうにそっぽを向いたまま窓の外を眺めているのが常だった。

 だが、今回は違う。彼女はレイニーの隣に座り、さらにその身体をそっと寄せてきた。そして、大きなブルーの瞳でじっとレイニーを見つめる。その瞳には、どこか愛おしさが溢れており、無表情が特徴の彼女にとっては珍しいほどの感情が表れていた。

「……どうしたんだ、今日はやけにおとなしいじゃないか?」レイニーは照れ隠しに軽く冗談を飛ばしながら、肩越しにフィオナを見下ろした。

「別に、いつも通りよ。ただ……一緒にいるだけで、十分楽しいから。」フィオナは少し頬を染めながらそう答えると、さらに少しだけレイニーの方へ寄り添った。

 その様子を見た従者たちは目を見張りながら驚きを隠せない様子で立ち尽くしていたが、誰も声を挟むことはできなかった。応接室には心地よい静寂が広がり、ふたりの特別な空間を優しく包み込むようだった。

「そうなの! レイニーくんに会いに何度も行こうとしたのに、グリムファング王国が封鎖されていて……全然、会いに行けなかったの!」フィオナは少し拗ねたような口調で言いながらも、どこか申し訳なさそうに瞳を伏せた。

「わたし……本当に寂しかったの。だからこうして会えたのが嬉しくて……!」最後の言葉を紡ぎながら、フィオナはじっとレイニーを見つめた。そのブルーの瞳は、申し訳なさと寂しさ、そして今の喜びが入り混じった感情を映し出していた。

 レイニーはその様子を見て少し困ったように笑いながら、「そっか、大変だったんだな。ごめんな、俺も気づかなかった。」と答え、フィオナの頭をそっと撫でた。

 フィオナはその優しさに少しだけ頬を染めながら、嬉しそうに微笑んだ。「もう、これからは封鎖なんてしないでほしいよね! レイニーくんに会えないなんて、耐えられないんだから!」と拗ねつつもどこか甘えるように付け加える。その言葉にレイニーは思わず苦笑いを浮かべたのだった。

「あれ? でも……レイニーくんはどうして? グリムファング王国を通ってきたの?」フィオナは不思議そうに首を軽く傾け、その透き通るブルーの瞳でじっとレイニーを見つめた。「通してくれたの? それとも封鎖が終わったのかしら?」

 その仕草は愛らしさに満ちていて、幼いながらも知的好奇心を感じさせるものだった。フィオナの瞳には、純粋な疑問と少しの期待が混ざり合っているのが見て取れた。

 レイニーは彼女の問いかけに少し困ったような表情を浮かべながら、「いや、それが……なんとか迂回して来たんだ。封鎖はまだ終わってないと思うけど。」と答えた。彼は申し訳なさそうに頭を掻きながら続けた。「直接通るのは無理だったけど、回り道したおかげでこうして会えたよ。」

 フィオナはその言葉に驚いたように目を見開き、次いで満足げな笑顔を浮かべた。「そうだったのね! やっぱりレイニーくんはすごいわ。」と軽く頬を染めながら微笑む。その様子を見てレイニーは少し照れながらも、彼女の反応に安心したのだった。

「グリムファング王国のセリーナ王女に頼んで、フィーの通行許可を取れないかお願いしてみようかな?」と考えながら、レイニーは腕を組んで悩んだ。

 しかし、すぐに次の思考が頭をよぎる。「いや、セリーナは……ヤキモチを妬く気がするし、ムリかなぁ?」レイニーは小さなため息をつきながら、目線を床へと落とした。セリーナ王女が自分にどれほど好意的かを知っているだけに、この提案はどこか危険な気がする。

 それにグリムファングは好戦的な王国だしなぁ……フィオナの王国とは隣国というだけの関係だし。うちの王国とも同じような関係だ。そんな状況の中、フィオナ王女だけを通せとなると……誰が交渉した? フィオナとグリムファング王国との関係は? いろいろな疑問が沸き起こり……調べられることになりそう。しかも各王国規模で……調べると「冒険者風の少年で、その名はレイニーと名乗っていた。」……あぁ、完全にバレるね。父親さえ交流がなさそうな王国と交渉していたとなると……マズいよねぇ。やっぱ。
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