転生したら王族だった

みみっく

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第三章 ‐ 戦争の影

172話 フィオナの魔法の練習の日々

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 護衛たちも周囲を警戒しながら、フィオナを守るべく近くに陣取り、次の行動に備える構えを見せていた。林の奥から響く音が徐々に近づいてくる中、レイニーは冷静にその気配を探り、いざという時に備える準備を整えていた。

 林の中から現れた巨体の魔物。その禍々しい姿が護衛たちを怯えさせ、場の緊張が一気に高まった。その様子を冷静に見つめていたレイニーは、ふっと軽く息をつきながら前に進み出る。

「俺がやるよ。フィーは見てて。」短く告げると、レイニーは無言で手をかざし、魔力を瞬時に集中させた。その手のひらに輝き始めた魔力弾は次第に圧縮され、力を帯びた小さな光球となった。

 鋭い視線を魔物に向けると同時に、レイニーは魔力弾を真っ直ぐ放った。その弾は見事に魔物の頭部を捉え、衝撃音と共に巨体が後方へ吹き飛ばされる。「ドスンッ!」という音と共に地面が激しく揺れた。

 護衛たちはその瞬間、息を飲みながら驚きの表情を浮かべた。レイニーの冷静さと正確な魔法の腕前は、彼らにとって予想外のものだったに違いない。

 フィオナはその様子をじっと見つめた後、満面の笑みを浮かべながら近寄り、「レイニーくん、すごいじゃない!」と無邪気に称賛した。その瞳には尊敬と嬉しさが宿り、彼女の声はその気持ちを表していた。

「俺もフィーが来ない間に魔法の練習をしてたんだぁ。ふふーんっ♪ 褒めても良いんだぞぉー!」レイニーは自信たっぷりに胸を張り、少し得意げな表情を浮かべながらフィオナの真似をしてみせた。その仕草はどこか茶目っ気があり、軽い冗談のような調子だった。

 フィオナはその言葉を聞いて一瞬ポカンとした表情を浮かべたものの、すぐにぷっと吹き出し、「なにそれ! わたしの真似? ちょっと似てるけど、全然負けないんだから!」と言い返しながら笑顔を見せた。

「おっ、本気出しちゃう? じゃあ次は俺がもっとすごい魔法を見せてやるぅっ!」とレイニーが挑発するような口調で続けると、フィオナは目を輝かせながら腕を組み、「いいわよ! どっちがすごいか勝負しましょ!」と負けず嫌いな様子で応じた。

 二人のやり取りを見ていた護衛たちは、その和やかな雰囲気に触れ、少し緊張が解けたようにほっとした表情を浮かべていた。しかし、その中で低い声で囁き合う護衛や近衛たちの話が耳に届く。


「おい! 今の魔法、見たか!? あれは、完全に無詠唱だったぞ!?」

「そうだ、魔物が姿を現した……瞬間に放っていたよな。しかもだ、命中精度も相当高かった! 瞬時に放ち、命中精度も高い……」

「いや、ただの無詠唱どころか……放つ瞬間に彼のオーラが一気に変わったんだ。背筋がゾワッと感じたぞ!」

「わかる。あれは……底知れない魔力を感じた……あんな若さで、あり得るのか?」


 護衛たちは言葉を交わしながら、その驚愕を隠せない様子だった。そして一人が、ふとポツリと口にする。「これは……フィオナ様が惹かれるわけだなぁ。なんだか妙に納得しちまったよ。」

 その言葉に周囲の護衛たちは一瞬黙り、次いで小さく頷き合った。視線を二人へ戻すと、フィオナとレイニーは楽しそうに笑い合っている。まるでその姿が、王国の未来にどれほどの光をもたらすのかを予感させるかのような光景だった。

 その後、遅れて姿を現したのは、年老いた見るからに魔術師風の男性だった。威厳を漂わせたその姿に、衛兵たちはすぐに敬礼をし、緊張した面持ちで設営された拠点へと案内を始めた。彼の立ち振る舞いは偉そうにも見え、その背後には魔術師団と思われる部下たちが数人控えている。そして少し離れた場所には、彼らを護衛する小隊が待機していた。

 その魔術師は拠点へ歩を進めながら、深々とした声で呟いた。「姫様が魔法を披露されると聞いておれば、わしに一言声を掛けていただければお供をしたものを……。アドバイスのひとつやふたつ、差し上げられたのだがなぁ。」彼は少し眉をひそめながら、どこか不満げに振る舞った。
 
 フィオナはかつて魔法の基礎を学んだものの、王族としての忙しい日々の中で魔法の基礎を早々に習得し終えていた。魔法よりも大切な王女としての礼儀作法や王族の教養、そしてお茶会などの社交的な場での振る舞いに追われる日々が続いていた。女性は、魔法よりも礼儀作法。武術よりコミュニケーションというのが一般的で、後回しにせざるを得なかったのだ。

 しかし、ある日レイニーが魔法に興味があることを知ったフィオナは、その言葉をきっかけに再び魔法の勉強を始める決意をした。彼ともっと楽しい時間を共有するため、そして魔法の話題で彼と盛り上がれるようになりたいという思いが彼女を突き動かした。

「レイニーくんが好きなものなら、わたしだってもっと知りたい!」と心の中で呟き、フィオナは空いた時間を使いひそかに魔法の練習に励むようになった。もし魔法の練習をしていることが周囲に知られたら、他の礼儀作法のレッスンがさらに増やされてしまうかもしれない。そんな懸念から、彼女は独学という道を選んだ。

 魔法の練習は決して簡単なものではなかったが、フィオナの努力と情熱は揺るぐことがなかった。誰にも知られることなく、ひたむきに練習を重ねた結果、ついに彼女自身が胸を張って誇れる成果を得ることができたのだ。
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