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開演
五年半前 萌黄の館にて : 忠義
しおりを挟む殿からお琴に、書簡が届いた。
城の者が動いても、殿の女漁りは止まらなかった。
入れ換えた女の使用人にもあらかた手をつけた殿はそれでも飽きたらず、女を探し続けた。
新しい女がいない。
城に出入りする女が減ったからだ。
なぜか。
誰も自分の身内を城に連れてこなくなったから。
だから女が来ない。
…それならば、命じればいい。
女に命じればいい。
城に来い、と。
そう思い至った殿は、城に来ていた商人や城に仕える使用人の男たちの家を調べあげた。
そして女がいれば書簡を送った。
城に来て顔を見せるように。
来ないのであれば罰を、と。
そんなわけの分からぬ内容であっても、殿の命令であることには変わりない。
仕方なく、家は身内の女を城へ送る。
殿が顔を見る。
気に入らぬものはそのまま家に返される。
だが…少しでも気に入れば、そのまま床へ連れていかれる。
もちろん、苦言を呈した側近もいた。
その者たちは残らずお役御免となった。
誰も彼も…私も。
己の家が一番大切。
誰も何も言えなくなった。
そもそも殿が目を付けているのは身分が下の者たち。
側近たちの中には由緒正しき家の者もいるため、さすがにそこまで手を伸ばしては不味いと思っているのかもしれない。
民が犠牲になるのは忍びないが、殿が飽きるまで耐えるしかないのかもしれない。
そう思っていた矢先の、書簡。
持ってきたお鈴の顔は青ざめ、震えていた。
この国の者は皆知っている。
殿からの書簡の意味を。
それがまさか、私の妻の元へも届くとは…
どうしてこんなことに。
殿は、直属の家臣の家には送っていないのではなかったのか。
これは、私のもとだけに届いているのか。
どうなっているのか。
混乱した頭で、とりあえずお琴を呼ぶようにお鈴に伝える。
そしてこれからどうするかを考えようとしたとき、お鈴がお琴を渡すつもりかと私に訊ねた。
そんなわけがない。
そう答えようとするも、お鈴は怒りで前が見えていないようだった。
その騒ぎを聞き付けてお琴がやってきた。
お琴は何が何やら分からぬ顔をしていたが、お鈴を静めた。
かと思えば、二人でお互いを庇いあって自分に罰を、と言う。
「お鈴、すまない。
これを持ってきたお前が一番不安だったろうに…
だが、安心してほしい。
お琴は、私の妻だ。」
「だ、旦那様…」
頭を下げた私を見て二人とも呆気に取られている。
今のうちに話を進める。
「お琴、殿から書簡が届いた。
…お前宛だ。」
ひゅっ、とお琴が息を吸った。
だんだんと顔が青ざめる。
「…お鈴は、お前を城には連れていかせぬと、お前を守ろうとしたのだ。
主人を守ろうとした家臣に罰を与えるようなことはせぬ。」
そう伝えた瞬間、
「旦那様、申し訳ございまぬ!!」
お鈴が両手をついてひれ伏した。
「よい。
私が先に、これは断ると言えばすんだ。
それよりも…今後も末永く、お琴に仕えてやってくれ。
私が守れぬときは、お前がお琴を守ってやってくれ。」
「もちろんでございます…!
ありがとうございます!
ありがとうございます…」
そう、私もお鈴も、お琴を殿に渡すつもりなど微塵もない。
それならばどうするか。
それを、考えねばならない。
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