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第十章
Ⅲ
しおりを挟む「獅音さん?座ってください。」
「うん…」
言われた通り、ソファーに向かう。
部屋に入ってからソファーまでこんなに遠かったっけ。
奏ちゃんの家は別に久しぶりでもないけれど。
「獅音さん、大丈夫ですか?
体調悪いですか?」
腰かけた僕の足元にしゃがみこんで奏ちゃんが顔を覗き込んでくる。
「ううん…」
「温かいもの飲みますか?」
「奏ちゃん、僕のこと好きなの?」
二人の質問がぶつかる。
申し訳ないけど、奏ちゃんの質問には答えない。
君が僕を好きと言ったことが本当なのかどうか。
それを先に教えて。
…本当だと、言って。
「…好きです。」
…いざ、こうなると、実感が湧かない。
「…本当に?」
「はい。」
「…そっかぁ…」
…そうなのかぁ。
奏ちゃん、僕のこと、好きなのかぁ…。
好きになって、くれたのか…。
僕に、向けられている。
君の好意が。
君の心が、僕のものに。
「っ、わぁ!」
奏ちゃんの腕を引く。
そのまま、強く抱き締める。
「し、獅音さん」
「…そっかぁ。」
ぐっと目頭が熱くなる。
「…泣いてるんですか?」
「泣いてるよ。」
正直に答える。
「こっち見てください。」
「やだ。かっこわるいから。」
こんな返答こそ、子供っぽくて格好悪い。
「…獅音さんも泣くんですね。」
「奏ちゃんが泣かせてるんだよ。」
そんな、拗ねたようなことも、初めて言った。
「…ごめんなさい。」
二人の間の張りつめた空気が徐々にほぐれていく。
「…めちゃくちゃ安心した。
僕たち、別れなくていいの?」
「別れたくないです。」
「そっか…」
別れたくないと、思ってくれている。
「獅音さん、話をしましょう。」
「…うん。」
顔を上げて奏ちゃんの顔を見る。
奏ちゃんが僕だけを、見つめている。
「昨日は何が嫌だったの?」
まずは昨日のことから。
今までもこれからも、君の嫌がることはしたくないから。
「…嫌だったんじゃなくて、
…獅音さん、私に無理してるんじゃないかって言ったじゃないですか…」
「…うん。」
「自分の「獅音さんのことを知りたい」って気持ちを、疑われて辛かったんです。
でも…それは私が獅音さんに対して、してたことだから…」
彼女が握りしめた自分の手を見つめながら話を続ける。
「それに、好きな相手に何かしたいって気持ちがうまく伝わらなくてもどかしかった。
受け取って貰えないって感じて…
でもそれも…獅音さんもずっとそうだったんじゃないかって…」
彼女は思い詰めた顔で話を続けているが、僕は「好きな相手、は僕なんだよなぁ」なんて、浮かれたことを考えていた。
でもそんなふわふわした考えは
「…ごめんなさい。」
彼女が苦しそうにこぼした言葉を聞いて、何処か彼方へ飛んでいった。
「ごめんなさい。
大事にしてくれていたのに、獅音さんを大事に出来なくて…
今更と思われるかもしれないですけど…好きです。」
彼女の瞳から涙が流れ始める。
「っ、…好き、です。
好きです……獅音さん。…」
あぁ、あの時のようだ。
君が、僕の目を見て、愛していると、泣いている。
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