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第一話 押入れの戦い
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今日から、このアパートの部屋の主となった公一は、引っ越したばかりの部屋で荷物整理に追われていた。
荷物といっても数個の段ボールだけで、後は自分を育て上げてくれた師匠の薫陶だけだったが、この春から一人暮らしを始める公一には十分すぎる物だった。
公一は袖をまくり上げていたスエットを元にもどし、軍手を外してジーンズのポケットに押し込んだ。
「よし、後はこの段ボール箱を適当に突っ込んで終わりにするかな」
段ボールを片づける為に片膝をつき押入れの引手に手を掛けた。
「それにしてもカビ臭い部屋だよなあ。日当たりも良いし湿気ている訳でもないのに、後で窓を開けて空気も入れ替えなきゃな」
愚痴を言いながら立てつけの悪いフスマを無理やり開けた。とたんにカビとホコリの匂いに襲われる羽目になってしまった。
「げほ、げほ。うあぁ、酷いなあ、初日からこれかあ」
公一は咳き込みながら、目の前の湿った埃とカビの匂いを手を振って追い払った。
気を取り直して、押し入れを覗き込んだ公一の目に飛び込んで来たものは、ダークブロンドの髪をした幼稚園児程度の大きさの人形だった。
公一の体は自分の心臓の動きと合わせる様に勢い良く跳ね上がる。
自分の慌てぶりに思わず舌打ちしてぼやいた。
「あーあ参ったあ、いくら捨て場所に困るからって、これは無いよな」
[うん、危ない気配は無しと、呪いの人形とか動き回る奴だとシャレにならないよ」
右の手首につけている数珠を左手で押さえ手首に痛が無いかを確かめた。
改めて確かめて見ると、こちら側を向いた格好で、膝を抱きかかえて座る人形が置かれていた。耳を隠す様に伸びたダークブロンドの短い髪が印象的だった。
「子供のマネキン? アンティークドール? 前に住んで居た人の特別な趣味の人形だったら嫌だなあ」
公一は人形を引っ張り出そうと伸ばした手をそっと引っ込こめた。
「これをさわるの相当な度胸が居るなあ汚いし、取りあえず不動産屋に文句いっておくか」
「それにしても良くできてるなあ。汚れているけど皮膚の質感なんて本物みたいだ」
人形はうつむいた状態で表情は判らない。
そしてもう一度よく見ようとして、押入れに頭を突っ込んだ。
「どんな顔してるのかな、この手の人形はリアルすぎて怖いんだよな」
その時、人形がブロンドの髪を揺らしながらゆっくりと頭をもたげ、顔を公一に向けニッコリと微笑んだ。
「おおおおおい、本物じゃないか、なんでこんなとこに子供がいるんだよ」
公一は絞り出すように声を出したが震えているせいで言葉になっていない。驚いて後ろに跳び退ろうとした瞬間、少女の手が公一の左腕をひっつかんだ。
とても子供とは思えない腕力で引っ張られ、逆に引きずり込まれそうになる。
腰が抜け全く動けない公一に少女は笑顔を息が掛かるぐらい近づけて話しかけてきた。少女が話している言葉は英語やフランス語、ましてや日本語ではない言語に公一は頭を左右激しく振り怒鳴りつけた。
「何を言っているのかさっぱりわからん。とにかく離せってば、嫌がってるのは判るだろう」
少女は黄色に近い瞳をぱちくりと瞬かせ、自分の指にはめていた指輪の一つを公一の鼻先に突き付けた。そして左手首をつかんで指輪を薬指に強引にはめようとした。
「ちょっと、やめろ何すんだ、おい」
振り払おうとして手を振り回そうとするが、子供とは思えない力で捕まれているせいでビクともしない。
「痛いって言っているだろうが。くっそ、なんだこいつの馬鹿力は」
罵ってみるが聞く耳を持ってくれず、とうとう指輪は公一の指にはめ込まれてしまった。そして公一の手をがっちりと掴んだまま、好奇心に輝く目をして話しかけてきた。
「おい、お前、私の言ってることがわかるか?」
「さっきから痛いって言ってるだろうが」
少女は声えを立てて笑い、続けた。
「やった、お前の言ってる事わかるぞ。名前は何だ? 無ければ付けてやる」
「えーと何がいいかな……」
「おい勝手に付けんな。お前どっから入って来たんだ。お父さんか、お母さんは何処だ」
捕まれた手の痛みで子供相手でも言葉使いが乱暴になっている。
「ん……」
しゃくった顎の先には輪郭が揺らぐ穴がぽっかりと口を開けて浮かんでいる。
「お前絶対に人間じゃないな。金髪の座敷わらしなんて聞いたことないぞ、離せ、離せってば」
「驚かそうと思って隠れてた。どうだ驚いたか。人形のふりしてたんだ、びっくりしたか?」
そう言って四つん這になった公一を穴に引っ張り込もうとする。
「だから待てって、お願いだから」
「痛かったか。よーし、よし」
「よーし、よし。じゃねー、とにかく離してくれ」
その時、隣の部屋の住人がウルサイとばかり壁を叩く音が響いた。
公一は体を起こし、音の聞こえた壁に向かって思い切り息を吸い叫んだ。
「た、たす……たす」
ここまで声を出して目の前にいる少女を改めて見た。誰が見ても少女、麻に似た布で作られた袋に穴を開けた様な服を着た、ダークブロンドの髪と金色の目をした薄汚れた少女。
「いかん俺が人さらいに思われる」
少女は四つん這いになって全力で踏ん張る公一の首根っこを子犬か子猫でも捕まえる様に押さえて鼻息も荒くゆさぶった。
「こら、言うこと聞いてこっちに来い」
子供は基本弱者には手加減はしてくれない。
「いたたた」
その時、玄関の呼び鈴と扉を激しく叩く音と怒鳴り声が聞こえる。
公一は思わず返事をしようとして踏ん張っていた力を抜いた瞬間、頭をつかまれて穴の中に乱暴に叩き込まれた。続いて少女が穴に飛び込みながら叫ぶ。
「フラー、やったー」の声が部屋に響いた。
その後、不審に思った隣人の通報で駆け付けた警官が踏み込んだ部屋には、荷物だけが残さているだけだった。
荷物といっても数個の段ボールだけで、後は自分を育て上げてくれた師匠の薫陶だけだったが、この春から一人暮らしを始める公一には十分すぎる物だった。
公一は袖をまくり上げていたスエットを元にもどし、軍手を外してジーンズのポケットに押し込んだ。
「よし、後はこの段ボール箱を適当に突っ込んで終わりにするかな」
段ボールを片づける為に片膝をつき押入れの引手に手を掛けた。
「それにしてもカビ臭い部屋だよなあ。日当たりも良いし湿気ている訳でもないのに、後で窓を開けて空気も入れ替えなきゃな」
愚痴を言いながら立てつけの悪いフスマを無理やり開けた。とたんにカビとホコリの匂いに襲われる羽目になってしまった。
「げほ、げほ。うあぁ、酷いなあ、初日からこれかあ」
公一は咳き込みながら、目の前の湿った埃とカビの匂いを手を振って追い払った。
気を取り直して、押し入れを覗き込んだ公一の目に飛び込んで来たものは、ダークブロンドの髪をした幼稚園児程度の大きさの人形だった。
公一の体は自分の心臓の動きと合わせる様に勢い良く跳ね上がる。
自分の慌てぶりに思わず舌打ちしてぼやいた。
「あーあ参ったあ、いくら捨て場所に困るからって、これは無いよな」
[うん、危ない気配は無しと、呪いの人形とか動き回る奴だとシャレにならないよ」
右の手首につけている数珠を左手で押さえ手首に痛が無いかを確かめた。
改めて確かめて見ると、こちら側を向いた格好で、膝を抱きかかえて座る人形が置かれていた。耳を隠す様に伸びたダークブロンドの短い髪が印象的だった。
「子供のマネキン? アンティークドール? 前に住んで居た人の特別な趣味の人形だったら嫌だなあ」
公一は人形を引っ張り出そうと伸ばした手をそっと引っ込こめた。
「これをさわるの相当な度胸が居るなあ汚いし、取りあえず不動産屋に文句いっておくか」
「それにしても良くできてるなあ。汚れているけど皮膚の質感なんて本物みたいだ」
人形はうつむいた状態で表情は判らない。
そしてもう一度よく見ようとして、押入れに頭を突っ込んだ。
「どんな顔してるのかな、この手の人形はリアルすぎて怖いんだよな」
その時、人形がブロンドの髪を揺らしながらゆっくりと頭をもたげ、顔を公一に向けニッコリと微笑んだ。
「おおおおおい、本物じゃないか、なんでこんなとこに子供がいるんだよ」
公一は絞り出すように声を出したが震えているせいで言葉になっていない。驚いて後ろに跳び退ろうとした瞬間、少女の手が公一の左腕をひっつかんだ。
とても子供とは思えない腕力で引っ張られ、逆に引きずり込まれそうになる。
腰が抜け全く動けない公一に少女は笑顔を息が掛かるぐらい近づけて話しかけてきた。少女が話している言葉は英語やフランス語、ましてや日本語ではない言語に公一は頭を左右激しく振り怒鳴りつけた。
「何を言っているのかさっぱりわからん。とにかく離せってば、嫌がってるのは判るだろう」
少女は黄色に近い瞳をぱちくりと瞬かせ、自分の指にはめていた指輪の一つを公一の鼻先に突き付けた。そして左手首をつかんで指輪を薬指に強引にはめようとした。
「ちょっと、やめろ何すんだ、おい」
振り払おうとして手を振り回そうとするが、子供とは思えない力で捕まれているせいでビクともしない。
「痛いって言っているだろうが。くっそ、なんだこいつの馬鹿力は」
罵ってみるが聞く耳を持ってくれず、とうとう指輪は公一の指にはめ込まれてしまった。そして公一の手をがっちりと掴んだまま、好奇心に輝く目をして話しかけてきた。
「おい、お前、私の言ってることがわかるか?」
「さっきから痛いって言ってるだろうが」
少女は声えを立てて笑い、続けた。
「やった、お前の言ってる事わかるぞ。名前は何だ? 無ければ付けてやる」
「えーと何がいいかな……」
「おい勝手に付けんな。お前どっから入って来たんだ。お父さんか、お母さんは何処だ」
捕まれた手の痛みで子供相手でも言葉使いが乱暴になっている。
「ん……」
しゃくった顎の先には輪郭が揺らぐ穴がぽっかりと口を開けて浮かんでいる。
「お前絶対に人間じゃないな。金髪の座敷わらしなんて聞いたことないぞ、離せ、離せってば」
「驚かそうと思って隠れてた。どうだ驚いたか。人形のふりしてたんだ、びっくりしたか?」
そう言って四つん這になった公一を穴に引っ張り込もうとする。
「だから待てって、お願いだから」
「痛かったか。よーし、よし」
「よーし、よし。じゃねー、とにかく離してくれ」
その時、隣の部屋の住人がウルサイとばかり壁を叩く音が響いた。
公一は体を起こし、音の聞こえた壁に向かって思い切り息を吸い叫んだ。
「た、たす……たす」
ここまで声を出して目の前にいる少女を改めて見た。誰が見ても少女、麻に似た布で作られた袋に穴を開けた様な服を着た、ダークブロンドの髪と金色の目をした薄汚れた少女。
「いかん俺が人さらいに思われる」
少女は四つん這いになって全力で踏ん張る公一の首根っこを子犬か子猫でも捕まえる様に押さえて鼻息も荒くゆさぶった。
「こら、言うこと聞いてこっちに来い」
子供は基本弱者には手加減はしてくれない。
「いたたた」
その時、玄関の呼び鈴と扉を激しく叩く音と怒鳴り声が聞こえる。
公一は思わず返事をしようとして踏ん張っていた力を抜いた瞬間、頭をつかまれて穴の中に乱暴に叩き込まれた。続いて少女が穴に飛び込みながら叫ぶ。
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